6話 尋問
目の前には、女性が立っていた。美結によく似た顔立ちをしていたが、少し大人っぽかった。おそらく美結の姉といったところだろう。
「こ、こんにちは」
俺はそう言って、その場を立ち去ろうとした。しかし、そんなことが許されるはずがなかった。外に出ようとする俺の肩は、ガッチリと掴まれていた。
「こんにちは」
彼女はニコリと笑いながら挨拶を返してきた。その穏やかそうな表情と裏腹に、肩にかかる力はどんどんと増していった。
やばい、殺される。
そう思わせるほどの、気迫があった。
「お話、しましょうか」
「はい」
俺に選択の余地はなかった。目の前にいる女性は明らかに美結の家族だ。そして多分靴から美結が家の中にすでにいることを確認したのだろう。よくわからない男が家から出てきたら、心配して当然だ。
俺は強引に家の中に戻され、リビングの椅子に座らされた。
「とりあえず、事情を聞きましょう」
俺は、今日起きたこと全てを話した。一緒に帰る流れになったこと、美結に熱があること、やむを得ずベッドに運んだこと。
全てを話した後も、疑いの眼差しは消えなかった。無罪なのに尋問をされる容疑者の気持ちは、きっとこれと似たものだろう。できればアクリル板が欲しかったところだ。
「じゃあ美結は、今病気で部屋で寝込んでいると?」
「そうです」
「じゃあ、ちょっと美結の部屋に行ってくれないかしら?」
「俺がですか?」
俺は少し戸惑った。俺に美結の部屋に行かせるのは、彼女からしたらなんの意味があるんだ?もっと言えば、彼女からしたら逆にリスクがあるようにも思えた。
「美結の目が覚めるまで、いてあげて」
決して信頼から頼まれてるわけではないのは、一目瞭然だった。きっと彼女は、俺を試そうとしているのだろう。まあ、疑われるのも当然か。
美結の部屋の前まで来て、俺は自分に言い聞かせた。
これが、今度こそ最後の入室だ。
俺は慎重に扉を開けて、美結の横に座った。さっきよりは楽そうな表情をしていた。ていうかこれ、美結が全然起きなかったらどうするんだ?
なんとも言えない沈黙が、30分ほど続いた。痺れを切らして、一度部屋から出ようと立ち上がったその時だった。
「海晴、くん?」
美結がふわふわした声で、そう言った。
「大丈夫か?」
「ちょっとクラクラするう。どうしてここにいるのー?」
「倒れてたから、運んだんだ」
「そうなんだあ。ありがとうねえ」
美結はゆっくりそう言うと、穏やかな笑みを浮かべた。
「私、いっぱい助けてもらっちゃった」
「それはいいから、今日はゆっくり休め」
「はーい。ありがとううー」
不意にも、俺は嬉しかった。ありがとうという言葉、いつもなら聞きたくない言葉のはずだった。
美結は再び瞼を閉じていた。俺が部屋を出ようとすると、服を掴まれた。か弱い力だったが、しっかりと指先でつままれていた。
「連絡先、交換しよ」
「……..え?」
思わず聞き返してしまった。
俺は一瞬ためらったが、結局スマホを出した。
そして今度こそ、部屋を後にした。名残惜しいというわけじゃないが、なぜかもう少しそこにいたかった気がした。
「疑ってしまったこと、謝らせてください。まさか美結が、男の子と帰ってるなんて思えなくて……。ごめんなさい」
ドアのすぐ後ろには、彼女がいた。
「いいんですよ。心配されて当然です」
「私の名前は雪。美結の姉だ。両親が仕事の都合で遠くにいてな、美結とは二人暮らしをしているんだ。美結、結構君のことを信用しているみたいだ。美結が男の子と帰ってくるなんて、初めてだからな。どうか仲良くしてやってくれ」
「まあ、できる限り」
その後、軽く挨拶をして、俺は家を出た。こんなに長い一日は久しぶりだった。状況が特殊すぎて、自分が女嫌いだと言うことを少し忘れていた。
はあ
俺はため息をついた。この先、どうなるんだろうか。このままいけば、これから美結と一緒に登下校をし、席もしばらく隣だ。
もう一回だけ、人を信じてみるか?
一瞬そう考えて、俺は頭を振った。まだ判断するにはあまりに早い。
家についてベッドでスマホを確認すると、美結から一件のメッセージが来ていた。
よろしく!
俺はよろしくとだけ返して、スマホを閉じた。あまりに疲れていたため、すぐに寝てしまった。
次の日の朝、俺はいつも通り学校に向かった。美結はまだ回復しきらず、休むそうだ。昨日色々あった分、今日は穏やかに学校生活を送ろう。
そんな俺の試みは、学校に着くやいなや打ち砕かれた。
「おい犯罪者!!」
同じクラスの男子が、俺にそう言ってきた。そいつは興奮した様子で、顔にかなりの力が入っていた。
勘弁してくれよ。
俺はそう思いながら、仕方なく男の方に顔を向けた。
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