5話 修羅場
なんの音だ?何か物でも落としたの?だけど、それにしては音が硬く大きい気がした。そしてその音以降は、奇妙なほど静かだった。
「大丈夫か?」
ドア越しに声をかけたが、反応はなかった。かなり大きな声で呼びかけた。
聞こえていないということはないと思うが…..。
何か、嫌な予感がする。
俺は念のためインターホンを鳴らした。しかししばらく経っても、静寂が破られることはなかった。俺は少し悩んだ。別れる寸前の美結は、息切れしていたように思えた。
俺はドアに手をかけた。どうやら鍵は閉められていないようだ。ドアの隙間から中を少し見ると、うつ伏せで倒れている美結の姿が見えた。
息が止まった。
俺は急いで駆け寄り、美結の身体を起こして声をかけた。
「大丈夫か?」
「んー」
喉の奥から、微かな声が聞こえた。苦しそうな表情で、目は閉じたままだった。顔が赤かったので、おでこに手を当ててみた。
熱いな。
「ベッ、ド」
もったりとした声で、美結はそう言った。俺はとりあえず美結を背負い、ベッドを探した。か細い呼吸が、耳をかすめた。簡単な受け答えはできるものの、美結は半分眠っているといった様子だった。
誰かの家に入ったの、久々だな。
美結の家はアパートで、そこまで広いわけではなかった。全体的に簡素で、あまり生活感が感じられなかった。
MIYU
そう書かれた、小さな黒板のようなものがぶら下がっているドアを見つけた。俺は部屋に入って、美結をベッドに横たえた。美結の部屋には、動物、人、アニメのキャラクターなど、様々な種類の絵が飾られていた。
俺は美結に布団をかけ、静かに部屋を出た。
もう、できることはないよな。あとはご家族の人に任せよう。そう思って帰ろうとしたが、さっきの美結の苦しそうな表情が脳裏に浮かんだ。
氷枕くらいは置いていった方がいいか。この状況なら、冷凍庫を物色してもバチは当たらないだろう。冷凍庫はすぐに見つかった。俺はなるべく音を立てないように氷枕をベッドまで運んだ。そして美結の頭を優しく持ち上げ、氷枕を置いた。美結は完全に眠っているようだ。静かな部屋で、美結の寝息だけが聞こえた。
よし、今度こそ帰ろう。自分が運んだことを、美結に知られたくはなかった。俺は部屋を出て、玄関を目指した。人の家というのは、その広さに関係なく迷路のように感じられた。
少し、疲れたな。まあでも、今度こそ本当に一息つける。今日は一日の中に、いろいろなことが起きすぎた。家に帰ったらゆっくり休もう。そんなことを考えながら、ドアに手をかけた。
ガチャ
ドアが、入った時よりもずっと軽かった。
そしてその理由は、すぐにわかった。ドアの向こう側からも、開けられていたのだ。
「…….」
「…….」
読んでくださりありがとうございます。プライベートが多忙化したため、少し投稿頻度が下がるかもしれません。ごめんなさい。




