7話 ストーカー
俺を犯罪者呼ばわりするこいつ、確か名前は内田智治だったはず。顔が小刻みに震えることから、相当怒っていると見て取れる。
「なんのことだ?」
とりあえず俺がそう言うと、内田はいっそう語気を強めていった。
「お前、昨日美結ちゃんの家入ってただろ!!」
「それがどうした?」
「しらばっくれてんじゃねえよ!お前、美結ちゃんに何した!!」
こいつ、何を言ってるんだ?美結の彼氏、ということはあり得ないだろう。
「何もしてねえよ。仮にも何かあったとして、お前になんの関係があるんだ?」
「美結ちゃんは、僕が守らなきゃダメなんだ。お前みたいな男が、あの美結ちゃんに近づけるわけないだろう」
ドクン
心臓が一回強くはねて、脳裏に夕陽が浮かんだ。二度と思い出したくない過去が、俺を侵食した。あの時も、一方的に濡れ衣を着せられていた。拳に力が入るのを感じた。俺はなんとか落ち着こうと、ゆっくりと呼吸をした。
周りのクラスメイトは、完全に面白がって見ていた。おそらく俺が知らなかっただけで、内田はヤバいやつという共通認識はすでにクラスにあったのだろう。
「そもそも、なんで俺が美結の家に入ったことを知ってるんだ?」
「ぼぼぼ、僕は、美結ちゃんのこと、毎日欠かさず遠くから見守ってあげてるんだ」
「じゃあなんでそんな疑ってるのに、昨日俺が家に入った時、助けに来なかったんだ?」
俺がそういうと、内田は黙り込んでしまった。今にも泣き出しそうな表情で、必死に頭を使っているといった様子だ。俺は目立つのは苦手だ。どうにかしてこの状況を早く沈めたかった。
「いいぞ内田、かっこいいぞお」
いかにも陽キャそうな声のヤジが聞こえた。
俺は腹をたてながらも、冷静さを保った。そして陽キャの言葉に活気づけられたのか、内田は早口で捲し立てた。
「僕には美結ちゃんを守る義務があるんだ。絶対にもうお前なんかに近づかせない。覚悟しとけよ!!」
こういう頭がちょっとファンタジーな人とは、どうやって接したらいいんだ?なんか少し、美結が男性を苦手と言っていた理由がわかった気がした。人からモテるというのは、いい意味でも悪い意味でも、いろんな人を寄せ付けるのだろう。
「美結は、お前なんかに守られる必要はない。あいつがどうするかは、あいつ自身が決めることだ」
「だ、黙れ。美結ちゃんが来たら、直接聞いてやる」
「美結なら今日、熱で来ないぞ」
「な、なんで知ってる?」
「朝俺に連絡が来てたんだ」
「はっ、美結ちゃんの、連絡先」
限界が来たロボットのように、内田は目の前で固まった。
「席に戻ってくれないか?お前ともう話すことはない」
俺がそう言って睨みつけると、内田は大人しく席に戻っていた。辺りを見渡すと、くすくすと小声で話す生徒の姿が多く見えた。内田はというと、強い恨みを孕んだ視線をこちらに向けていた。
朝からえらい目にあったな。こんな危ない奴が同じ教室にいたなんてな。ていうか、こんなやつにつけられていた美結が気の毒でならなかった。
一旦は落ち着いたものの、野放しにはできないな。あのタイプは絶対にまた揉め事を起こす。
その日、俺は全然授業に集中できなかった。と言うのも、定期的に内田の視線を感じたからだ。ふとした時に内田の方を見ると、必ずこちらを見ていた。
俺、この後刺されたりしないよな?
放課後、何もなく帰ることができた。電車の中でスマホを見ると、美結から二件のメッセージが来ていた。
美結 熱下がったよ。明日には行けそうかな。
今日学校どうだった?
海晴 美結のせいで犯罪者呼ばわりされました。
美結 え?笑
今日起きたこと、ちゃんと話すべきだろうか。もしかしたら、怖がらせてしまうかもしれない。
いやでも、身の安全のためにも伝えておくべきだな。
俺は今日起きたことを、簡単に説明した。
美結 じゃあ私、ずっとストーカーされてたってこと!?
海晴 そうだ。
美結 この私に気づかれないで尾行をするなんて。もう学校行くの怖いよお
海晴 そんなに心配しなくていいよ。
美結 どうして?
海晴 だって、今度から俺と登下校するんだろ?
俺がそう送ると、次の返信までしばらく時間が経った。
ありがと
そう一言だけ、送られていた。
読んでくださりありがとうございます。




