8話 上 中
次の日の朝、若干俺は緊張していた。今日から、美結と一緒に登下校をするのか。美結の家はちょうど駅と学校の間にあるので、そういう意味では不都合はなかった。待ち合わせの時間はすでに伝えており、美結も体調は回復したそうだ。
電車を降り、俺は学校へと向かった。美結はすでに玄関前で待っており、こちらに気づくと小さく手を振った。美結の家までの数十メートルが、少し長く感じた。誰かを待たせる時間ほどもどかしい時間はなかった。
「おはよ!」
美結は元気よく俺に挨拶をしてきた。
「おはよう。体調はもういいのか?」
「おかげさまでめっちゃ元気だよお」
「それはよかった」
一昨日一緒に帰った時のような気まずさは、不思議と感じなかった。
「学校は通り過ぎないようにな」
俺が軽く冗談を言うと、美結はむすっとした顔になった。
「そんなバカじゃないもん!」
美結は少し早歩きになった。
「ごめんって」
美結は、「もう!」と言いたげな表情を浮かべていた。
「罰として、学校に着いたら私に数学の課題を写させなさい」
「ごめん、俺もやってない」
「仲間がいると、それはそれで心強い」
美結は胸を張って、得意げな顔をしていた。
他愛のない会話をしていると、学校に着いた。廊下に着くと、あることに気がついた。
あれ、めっちゃ見られてね?
まあ、当然と言えば当然か。普段あまり人と関わらない俺の耳に入るほど、美結は可愛いで有名である。しかも男嫌いとしても知られている。
美結の方もそれに気がついたのか、若干恥ずかしそうにしていた。
「なんか、目立つね」
「学校では、少し距離取るか?」
「それは、やだ」
「そうか」
教室に入ると、周りの視線は一層強くなった。まあ、このさき慣れるとは思うが、目立つのは俺も少し恥ずかしかった。
なんとなく、内田の方に視線を向けた。予想通りこちらを見ていたが、俺と目が合うとすぐに逸らした。
あいつ、何もしでかさなきゃいいが…..。
席に着いても、まだクラスメイトからの若干の視線を感じた。
「今からでも、間に合うかな?」
美結は真っ白な数学のプリントを、賞状のように掲げていた。
「美結、人生は諦めが肝心だよ」
「め、名言だ。胸に刻む」
「課題やりたくないだけだろ」
美結は誤魔化すように笑っていた。なんだろうか、この顔をもう少しだけ見ていたい気がした。
運が悪いことに、1時間目の授業は数学だった。俺と美結と、その他少数の課題を怠った生徒は、しっかりと怒られてしまった。
「放課後に提出するまで帰らないように」
幾度となく、このセリフを言ってきたのだろう。数学教師の低くて無機質な声は、何よりも無慈悲に聞こえる。
そして結構怒られていたにも関わらず、美結は授業初っ端から爆睡していた。机に突っ伏しており、隠す気はゼロといった感じだ。この胆力、こいつはただものではないのかもしれない。
そんな呑気な美結とは裏腹に、俺は不安だった。数学の教師が美結にブチギレるんじゃないかと。
幸いにも、杞憂に終わった。単純に気づかれなかったのか、それとももう諦められているのかはわからない。
一通り授業が終わって、放課後になった。授業中の美結はと言えば、寝てるか、小声で俺に話しかけてくるかのどっちかだった。まあ、ほとんど寝てたけどね。
美結は帰る支度をせっせとして、俺に言った。
「よし、帰ろう!」
学校が終わった喜びが、美結の全身から溢れ出ていた。
「美結、課題」
「わ、忘れてた」
美結の声色は、この世の終わりを体感しているようだった。
「やるぞ」
「はい」
美結は渋々といった感じで、席に戻った。
俺たちは解く場所を分担して、互いの答えを写した。もし教師になんか言われたら、協力してやったと言えばいいだろう。意外にも美結は、基本的な問題は解けていた。俺たちは課題を提出し、やっと自由な身になった。
「今日はいっぱい頑張ったあ。体が糖分を求めてます」
「甘いもの、好きなのか?」
美結は目輝かせて、無言で激しく頷いた。
「帰りにコンビニでも寄ろうかな。海晴くんもくる?」
美結は俺の返事を待つよに、こちらを見ていた。
美結に釣られたのか、俺も甘いものが食べたくなっていた。
「行こうかな」
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