episode9
キャラクター名をこのepisodeから全てカタカナ表記にします。
合宿所の広い体育館。
100人から絞り込まれた60人の候補生たちが、固唾を飲んで整列していた。
「これより、最初のミッション『グループバトル』のチーム分けを行う!」
鮫島プロデューサーの非情な声がマイクを通して響き渡る。
ルールは残酷なほどシンプルで、まさに王道だった。一次審査の上位者から順にリーダーとなり、自分の好きなメンバーを指名してチームを作っていくというものだ。
当然、トップの成績を収めたランは、上位陣だけを的確に引き抜き、ダンスもボーカルも隙のない「アベンジャーズ」のようなチームを早々に作り上げた。
一方のアカリは、全員をビジュアル特化で揃えつつも、自分が一番目立つように「自分より少しだけ背の低い子」や「大人しい子」を計算高く集めている。
そして、一次審査の評価がBランクと振るわず、かといって目立つスキルもない私は、誰からも名前を呼ばれることなく、最後までポツンと残された。
「……以上で指名は終了。残った4名は、自動的に『Fチーム』として課題曲に取り組んでもらう」
私は小さくため息をつき、自分と同じ「余り物」として集められたメンバーを見渡した。そして、思わず頭を抱えたくなった。
サエ。
体育館の床にジャージ姿で寝転がり、すでに半分夢の世界へ旅立っている。「眠い……帰りたい……」と呟きながら、全くやる気がない。
レイカ。
誰からも選ばれなかったという事実でプライドをズタズタにされ、「あり得ないわ! なんで私がこんな底辺チームに……っ!」と顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいる。
マコ。
一次審査の成績が最下位だった、気弱な15歳。レイカのヒステリーと周囲の空気に完全に呑まれ、ウサギのようにガタガタと震えながら泣きそうになっている。
(……終わってる。見事なまでに、協調性のカケラもないスリーカードね)
前世で、クセの強い上司や全く働かない後輩に挟まれて胃薬を噛み砕いていた日々がフラッシュバックする。
しかし、絶望に浸る間もなく、私の視界でシステム画面が赤く警告音を鳴らした。
[ 警告:Fチームの『チームワーク値』が 0 / 100 を下回りました(現在:マイナス15) ]
[ 緊急クエスト発生:『猛獣使いのリーダー』 ]
達成条件: この崩壊寸前のチームのリーダーに就任し、課題曲を完成させろ。
報酬: パーティー全員の全ステータス+10、スキル『カリスマ(微)』
失敗ペナルティ: 連帯責任による全員即時脱落
「……は? 連帯責任!?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
このままじゃ、一次審査でようやく見つけたチャンスが、この問題児たちのせいで一瞬にして吹き飛んでしまう。
「……ちょっと、あなたたち。聞いてるの!?」
レイカの甲高い声が、私の思考を遮った。
「誰がリーダーをやるのよ! 私は絶対に嫌よ、こんなチームの責任なんて持ちたくないわ!」
「えっ、あ、わ、私も、そんなの無理です……!」
マコが首を横に激しく振り、サエに至っては「すぅ……」と完全に寝息を立て始めた。
私は、スッと息を吸い込んだ。
30歳の理性が囁く。「ここで逃げたら、またあの冴えない事務員生活に逆戻りだ」と。
それに、この扱いにくい猛獣たちを乗りこなせば、番組的にこれ以上ない最高の「撮れ高」になる。
「……私がやるわ」
私は、体育館の冷たい床から立ち上がり、3人を見下ろした。
「私が、このFチームのリーダーをやる」
レイカが「はぁ?」という顔で私を睨みつける。
「あなた、正気? このチームで勝てると思ってるの? 相手はランのチームよ!?」
「勝つわよ」
私は、かつて職場で炎上プロジェクトを火消しした時と同じ、絶対に揺るがない、低いトーンの声を出した。
「サエ、起きなさい。レイカ、喚く暇があるならストレッチして。マコ、泣くのはすべての本番が終わってからにしなさい」
[ スキル発動:お局様の威圧(30歳の貫禄) ]
[ 対象:チームメンバー全員 ―― 一時的に反抗心を強制ミュートします ]
ピタリ、と。
レイカのヒステリーが止まった。
マコの涙が引っ込んだ。
サエが、薄く目を開けて私を見上げた。
「……ミオお姉さん、なんか今、すっごく怖い」
サエがポツリと漏らした言葉に、私はニッコリと、大人の余裕(という名の作り笑い)を浮かべてみせた。
「さあ、地獄の特訓の始まりよ。……誰一人、落とさせないから覚悟しなさい」




