episode8
放送日当日の夜。
私は自室のベッドに腰掛け、暗い部屋の中でテレビのモニターが放つ光をじっと見つめていた。
画面の中では、『NEXT GATE』第1話のクライマックス――実技審査の様子が流れている。
蘭の圧倒的なパフォーマンスが「完全無欠のエース」として華々しく編集されていた後、ついに私の出番が映し出された。
「……なるほど。そういう編集にするわけね」
私は腕を組み、プロデューサー目線で画面の自分を分析した。
テレビの中の私は、見事に「異端児」として描かれていた。他の候補生たちがキラキラと若さをアピールする中、ただ一人、重苦しいベース音に合わせて静かに立ち尽くしている。
息切れし、ステップが遅れ、体がふらつく様子も、隠されることなく放送されていた。
しかし、サビの転調とともに私がカメラを射抜いた瞬間――画面に一瞬、ノイズのような演出(グリッチ効果)が入り、私の「絶望と執念」が入り混じった表情がドアップで抜かれたのだ。
審査員席の七瀬みやびが息を呑むカットが挿入され、テロップにはデカデカと『未完の異物。彼女が見つめる先にあるものは――』という煽り文句が踊っていた。
「悪目立ちの極みね。でも、爪痕は残せた」
ふと、視界の端でシステム画面がピコンと鳴った。
[ リアルタイム・エゴサーチ機能を起動します ]
[ 現在のハッシュタグ:#NEXTGATE #神崎澪 ]
[ トレンド分析:賛否両論(炎上率45%) ]
空中に展開されたモニターに、SNSのタイムラインが滝のように流れていく。
案の定、私のパフォーマンスに対する書き込みは、真っ二つに割れていた。
【 否定的な意見(アンチ・困惑) 】
@idol_otaku_A
『神崎澪、ダンス下手すぎん? スタミナ無さすぎて見てられないw これでB評価とか審査員の目節穴かよ #NEXTGATE』
@kura_kura_99
『一人だけ空気重すぎて草。アイドルに求めてるのはキラキラなんだが。なんで17歳でこんな人生疲れ切った顔してんの?』
@ran_oshimen
『白鳥蘭ちゃんの直後にこれ見せられるのキツい。ただの放送事故でしょ。雰囲気だけで実力伴ってない子はすぐ落ちるよ』
@kirakira_pop
『表情管理っていうか、ただ睨んでるだけじゃん。可愛げがなさすぎて推せないかなー。私はあかりちゃんに投票する!』
【 肯定的な意見(熱狂・沼落ち) 】
@subcal_girl
『神崎澪ちゃん、なんか他の子と全然違う……このアンニュイな感じ、たまらん。システムのエラーみたいな異物感があって最高』
@deep_night_owl
『ダンスの技術とかそういう次元じゃない。あの最後の視線、画面越しなのに心臓掴まれた。何あの哀愁……本当に17歳? 人生何回目?』
@noise_glitch_00
『みんなが元気いっぱい!ってやってる中で、一人だけバグみたいなノイズ放ってて目が離せない。完全に劇薬。こういう子に狂わされたい』
@saori_oshikatsu
『神崎澪。見つけた。私の絶対。お布施先が決まりました。絶対デビューさせるからね。』
[ システム通知 ]
[ パッシブスキル『賛否両論(炎上予備軍)』を獲得しました ]
効果:アンチの数に比例して、熱狂的なファンの「応援ポイント」にボーナス倍率がかかります。
「……上出来じゃない」
批判的なコメントを見ても、私の心は1ミリも傷つかなかった。
前世で、誰にも見向きもされず、エゴサーチをしても自分の名前すら引っかからなかった「完全なる無風状態」の恐ろしさを、私は骨の髄まで知っている。
「下手くそ」「可愛くない」「異物」。
大いに結構。無関心より、悪意の方がよっぽどマシだ。
好きの反対は嫌いじゃない、無関心。30歳の大人にとって、アンチは「自分に時間を割いてくれている貴重なエンゲージメント」に過ぎない。
それに、私のあのアンニュイでバグのような異質さに惹かれてくれた少数精鋭のファン(サオリを含む)が、すでに熱狂の兆しを見せている。
「批判はこれから、実力で黙らせていけばいいだけのこと」
私はベッドから立ち上がり、軽くストレッチを始めた。
放送が終われば、明日からは最初の合宿、そして「グループ評価」のミッションが始まるはずだ。
[ クエスト更新 ]
[ 次のミッション:『グループバトルでリーダーシップ(?)を発揮せよ』 ]




