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『リスタート・センター:30歳の私が、謎のモニターと共に頂点を目指すまで』  作者: 真白しろ
1章 人生リスタート

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7/49

episode7

「1番から5番の方、審査室へ!」

スタッフの無機質な声に促され、私は重い扉を押し開けた。

スタジオの奥に置かれた長机。そこには、数人の審査員が座っていた。前世で私を冷酷な目で見下ろした音楽プロデューサーの鮫島、そして……。

(……あ。本物だ)

特別審査員席には、現役トップアイドルグループのセンター、七瀬みやびが座っていた。画面越しに何度も見た、完璧な笑顔。でも、今の彼女の目は、100人の少女たちの夢を値踏みする、冷徹なプロの目だった。


[ システム通知 ]

[ 特別審査員:七瀬 みやび をスキャンしました ]

ビジュアル:98 / ボーカル:95 / 表現力:100(カンスト)

[ 警告:彼女の『完璧な美意識』が、審査室全体に強力なデバフを散布しています。緊張により全候補生のパフォーマンス値が15%低下中 ]


(100……!? バケモノね……)

周囲の候補生たちが緊張で青ざめる中、私の『メンタル:99』だけが、そのプレッシャーを弾き返していた。

「1番、神崎澪です。よろしくお願いします」

私は、あえて一番低い、落ち着いた声で挨拶した。

「……神崎さん。あなたが選んだ課題曲、間違えていないかしら?」

七瀬みやびが、資料を指先でトントンと叩きながら、眉を顰めた。

「これは、激しいガールクラッシュ系のダンスナンバーよね。あなたの今の『ダンス:50』という数値では、フルで踊るなんて自殺行為よ。……それとも、ただの自信過剰?」

システムは他人のステータスだけでなく、審査員から見た私の『評価』も可視化していた。


[ 審査員評価:Dランク(無謀な選曲) ]


「……いいえ、七瀬さん。私は、この曲で戦います」

私は蘭にやったように、顎を引いて審査員たちを射抜いた。

この17歳の瑞々しい体は、まだ蘭のような完璧なステップを踏むことはできない。でも、30歳まで這いつくばって生きてきた私の魂は、蘭よりも多くの『痛み』と『執念』を知っている。

「若さ」や「可愛さ」では勝てない。なら、「人生」で勝負するまでだ。

「……興味深いわね。鮫島さん、音楽を」

七瀬みやびが不敵に笑った。

♪〜 重厚なベース音と共に、曲が始まった。

前世の私が、何度も何度も挫折し、そのたびに聴いては涙を流した、傷ついた女性の再生を歌う曲。

最初のイントロ。私はあえて、ダンスの動きを極限まで省いた。


[ システム通知 ]

[ スキル発動:30歳の諦念デスペア ]

[ ビジュアルに『人生の重み』を付加します ]


私は、ただそこに立っているだけで、何かに深く傷つき、すべてを諦めた女性の空気を纏った。

目の奥を、虚無で満たす。唇を微かに震わせる。汗の一滴さえも、過去の涙のように見せる。

(……え?)

審査員席の七瀬みやびの目が、微かに見開かれた。

他の候補生たちが必死に体を動かして「元気さ」をアピールする中、私はただ立ち尽くし、その存在感だけで、スタジオの空気を自分の「孤独」で染め上げた。

そして、サビ。爆発するような転調。


[ 警告:17歳の体力が限界に達しています。ダンスのピッチが20%低下中 ]


腕が、足が、自分の重さに耐えきれずに悲鳴をあげる。ステップは粗くなり、重心はブレた。

普通なら、ここで審査員の評価はガタ落ちになる。

(……でも、私は知ってる。完璧なダンスが、人の心を動かすとは限らないってことを!)

私は、ブレる体を、あえてそのままにした。

完璧に踊ろうとするのではなく、「ボロボロになりながらも、それでも立ち上がろうとする」曲の主人公の姿を、今の私の「動かない体」で表現したのだ。

息を切らし、髪を振り乱し、汗を飛び散らせる。

そのボロボロの姿が、かえって曲の説得力を増していた。

そして、最後のキメポーズ。


[ スキル発動:カメラ目線の極意(初級) ]

[ 対象:全審査員 ―― ロックオン完了 ]


私は、酸いも甘いも噛み分けた大人の女性にしかできない、「すべてを見透かしたような、冷ややかな、それでいて情熱を宿した視線」を、七瀬みやびに、そして鲛島へと、強烈にぶつけた。

「――っ」

審査員席に、静寂が訪れた。

鮫島はペンを止めたまま、口を呆然と開けている。

七瀬みやびは、自分の完璧な美意識が、目の前のボロボロで未熟な少女(私)の「存在感」によって、強引にこじ開けられたことに、戸惑い、そして……微かに興奮していた。


[ システム通知 ]

[ 審査員評価:Bランク ↑ ]

[ 七瀬 みやび からの『驚愕』を獲得しました ]

[ 鮫島プロデューサー からの『興味』を獲得しました ]


「……パフォーマンス、終了しました。ありがとうございました」

私は、震える足で、完璧な一礼をした。

30歳の精神メンタルが、17歳のスペックを完全に凌駕した、瞬間だった。

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