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『リスタート・センター:30歳の私が、謎のモニターと共に頂点を目指すまで』  作者: 真白しろ
1章 人生リスタート

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10/49

episode10

割り当てられたFチームの練習室は、地下の窓もない、一番狭くてカビ臭い部屋だった。

パイプ椅子に荷物を放り投げた途端、レイカが腕を組み、ツンとそっぽを向いた。

「私、勝手にやらせてもらうから。あなたたちみたいな素人と一緒に練習してたら、私のリズムまで狂っちゃうわ」

レイカの言い分もわからないではない。彼女のステータスは『オールB+』。このポンコツチームの中では頭一つ抜けている。自分の足枷になるような連中とは関わりたくない、というプライドの表れだ。

だが、私の視界に映るレイカのステータス画面は、別の真実を告げていた。


[ ターゲット:レイカ ]

[ 現在のステータス:強がり(大) / チームワーク:5 ]

[ 警告:プレッシャーにより、実力の60%しか発揮できない状態です ]


(なるほど。失敗して親の期待を裏切るのが怖くて、防衛線を張ってるのね。……ほんと、新入社員のテンプレみたいな子)

私は小さくため息をつき、スピーカーに向かおうとするレイカの肩をポンと叩いた。

「レイカ。一人で完璧に踊れたとして、チーム全体がバラバラだったら、審査員はどう評価すると思う?」

「え……それは、私が一番目立って……」

「『協調性がなく、悪目立ちしている独りよがりなパフォーマンス』って書かれて終わりよ。ここはグループバトル。チームを引っ張る力がない子は、容赦無く減点されるわ」

レイカがビクッと肩を震わせる。図星を突かれたのだ。

私はすかさず、彼女のプライドをくすぐる「大人の交渉術」に切り替えた。

「だから、レイカにはこのチームの『センター兼お手本』をお願いしたいの。あなたの綺麗なダンスに、私たちが必死に食らいついていく構図を作るのよ。そうすれば、審査員は『あの子が底辺チームを引っ張っている』って、あなたを高く評価するはずでしょ?」

「っ……!」

レイカの瞳が揺れた。

『自分が責任を被る』のではなく、『自分がチームを率いるヒロインになる』という大義名分。

「……そ、そこまで言うなら、手本くらいは見せてあげてもいいわよ。あ、あくまで私が勝ち上がるためなんだからね!」

顔を真っ赤にしてそっぽを向くレイカ。

チョロい。30歳の社会人経験からすれば、この手のタイプは役割さえ与えれば一番真面目に働くのだ。


[ システム通知 ]

[ レイカの『反抗心』が低下しました。チームワーク値が微増(+10) ]


「はい、ワン、ツー、スリー……そこ! 遅れてるわよ!」

レイカの厳しい号令のもと、練習が始まった。

しかし、問題はすぐに起きた。

「ひっ、ご、ごめんなさい……!」

ドンッ、と派手な音を立てて、マコが床に転んだ。

開始からわずか30分。彼女はすでに5回も同じステップで足をもつれさせ、転倒している。

「ちょっと! なんでこんな簡単なターンができないのよ! 足引っ張らないでって言ったじゃない!」

レイカのヒステリックな声が響く。

マコは床に座り込んだまま、ポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。

「うっ、ぐすっ……ごめんなさい、頭ではわかってるのに、体が動かなくて……私、やっぱりアイドルなんて無理なんだ……」

泣き崩れる15歳の少女。レイカは苛立ちで頭を抱え、サエは部屋の隅で「うるさいなぁ……」と耳を塞いでいる。

チーム崩壊の危機。だが、私は静かにマコのそばにしゃがみ込んだ。


[ ターゲット:マコ ]

ダンス:15 / メンタル:5(崩壊寸前)

[ 解析:基礎筋力不足と、空間把握能力の欠如が原因です ]


「……マコ。泣かなくていいわ。できないのは当たり前よ」

私はマコの背中を優しく撫でた。

前世の私が、どれだけ泣きながら鏡の前で絶望したか。彼女の「頭ではわかっているのに動かない」という悔しさは、痛いほどよくわかるのだ。

「いい? アイドルのダンスはね、最初から『全身』で踊ろうとしなくていいの。マコは真面目だから、レイカの手本を全部一気に真似しようとして、パニックになってるだけよ」

私はマコの手を引き、ゆっくりと立ち上がらせた。

「鏡は見ないで。私の足元だけを見て」

私は、レイカのような華麗なステップではなく、システムが弾き出した『最も効率的な体重移動』だけを、スローモーションのようにやってみせた。

「右足に体重を乗せる。その時、左の腰はそのまま。……はい、やってみて」

「み、右足に……こう、ですか?」

「そう、上手。次は、そのまま胸の向きだけを変える。腕はまだ振らなくていいから」

「あ……」

パーツごとに分解し、徹底的に論理だけで教え込む。

感覚やセンスで踊れる天才レイカやランには絶対にできない、「才能がない人間のための、泥臭いマニュアル指導」だ。

何度も何度も、地味な反復練習を繰り返す。

1時間後。ついにマコは、先ほどまで転んでいたターンを、ぎこちないながらも転ばずに回りきった。

「できた……! 私、回れました……!」

マコの顔に、涙と汗に塗れた満面の笑みがパッと咲いた。

その瞬間、私の視界でシステムがファンファーレを鳴らした。


[ システム通知 ]

[ マコの『信頼度』がMAXになりました ]

[ チームワーク値が大幅に上昇(+30) ]

[ Fチームの総合パフォーマンスが『形になり始めた』状態へ移行 ]


「ふん、まあ……さっきよりはマシになったじゃない」

腕を組んで見ていたレイカが、少しだけホッとしたように顔を背ける。

部屋の隅からは、いつの間にか起きていたサエが「お姉さん、教えるのうまいね。マジックみたい」と、珍しく興味深そうにこちらを見つめていた。

「よし。ステップの基礎は入ったわね。次はボーカルよ」

私は立ち上がり、パンッと手を叩いた。

猛獣ばかりのFチームが、初めて一つにまとまり始めた瞬間だった。

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