表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『リスタート・センター:30歳の私が、謎のモニターと共に頂点を目指すまで』  作者: 真白しろ
2章 GlitcH始動

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/49

episode14

年が明け、私たちは事務所が用意した都内の超高級タワーマンションの最上階、ペントハウスへと住まいを移していた。

眼下には、まるで電子基板のように光り輝く東京の夜景が広がっている。

ジャパン・ミュージック・アワードでの圧倒的な勝利。それは、私たちGlitcHに「富」と「権力」という、生々しい果実をもたらした。

「ふふふっ、見てくださいよぉこれ! ハイブランドから届いた新作のバッグとコスメの山! 毎日が誕生日みたいですっ」

アカリが、リビングの巨大な大理石テーブルに積み上げられたプレゼントの箱に埋もれながら、恍惚とした表情で笑い声を上げている。

「ちょっとマコ、紅茶のおかわり。……って、あんた何やってるのよ」

高級なティーカップを傾けていたレイカが、呆れたような声を出す。

視線の先では、マコが数百万円はするであろうペルシャ絨毯の上で、這いつくばって粘着カーペットクリーナーを懸命にかけていた。

「だ、だって……こんな広いお部屋、落ち着かなくて……掃除でもしてないと心臓がバクバクしちゃうんですぅ……」

「貧乏性が染み付きすぎよ。私たちはもう、この国の頂点に立つセレブなのよ? 少しは優雅に振る舞いなさい」

サエはといえば、イタリア製の最高級ソファを完全に自分のベッドとして占領し、すでにスヤスヤと寝息を立てていた。

かつての合宿所でのひもじい生活から一変、絵に描いたような成功者の光景。

しかし、窓際で夜景を見下ろしているランの横顔は、ひどく退屈そうだった。

「……つまらないわ」

ランが、冷たい窓ガラスに指を這わせながら呟く。

「頂点からの景色なんて、こんなものなの? 国内の音楽番組も、雑誌の表紙も、全部私たちがジャックした。Luminaのファンだった連中も、今じゃ手のひらを返して私たちに熱狂してる。……張り合いがないわ」

「ランちゃんの言う通りね」

私はタブレットから顔を上げ、冷めたコーヒーを飲み干した。

「システムを破壊するのは楽しかったけれど、一度壊してしまえば、あとはただの焼け野原。周りの大人たちも、今や私たちに媚びへつらうだけのイエスマンばかり。このまま国内で『偉大なトップアイドル』として君臨し続けるなんて、退屈で反吐が出るわ」

ちょうどその時、リビングの重厚な扉が開いた。

「やあ、GlitcHの皆。くつろいでいるかな?」

満面の笑みを浮かべて入ってきたのは、鮫島プロデューサーだった。かつてのしかめっ面はどこへやら、今では私たちのご機嫌を伺うのに必死だ。

「ミオ、NILとしての君宛てに、また国内のトップアーティストたちから楽曲提供の依頼が殺到しているぞ。それに、全国ドームツアーの企画書も上がってきた。スポンサーはどこも桁違いの金額を提示してきている!」

鮫島が意気揚々と差し出してきた分厚い企画書の束を、私は一切受け取らずに冷たく見下ろした。

「……全部、シュレッダーにかけておいて」

「えっ?」

鮫島の笑顔が固まる。

「言ったはずよ、私たちは予定調和を終わらせたって。ドームツアー? 他のアーティストのプロデュース? そんな既存の『成功のレール』をなぞるために、ここまで来たわけじゃないわ」

私は自分のタブレットを操作し、リビングの巨大モニターに一つの映像を映し出した。

それは、英語や様々な言語のコメントが滝のように流れる、海外の巨大なストリーミング配信のアーカイブ映像だった。

熱狂的なDJが煽り、何十万人というオンラインの観客が熱狂している、デジタル空間上の音楽フェスティバル。

「独立系デジタルマーケットプレイス『ネオン・ギルド』のコネクションを使って、海外のアンダーグラウンド界隈の情報を集めていたの。……鮫島さん、このフェスを知ってる?」

「こ、これは……『サイバー・ノヴァ・フェスティバル』じゃないか。世界中の気鋭のクリエイターやアーティストが集まる、北米最大規模のオンライン・ミュージック・フェス……まさか」

「そのまさかよ。日本のちっぽけなアイドル業界の頂点なんて、ただの通過点」

私はモニターに映る熱狂の渦を指差した。

「次は、世界をバグらせに行くわ」

その言葉に、ランの瞳に再び強烈な光が宿った。アカリが面白そうに身を乗り出し、レイカが優雅な笑みを浮かべる。マコは掃除の手を止めて固まり、サエが薄く目を開けた。

「……サイバー・ノヴァのメインステージ。そこに、GlitcHとして殴り込みをかける。日本の可愛いだけのアイドル文化を鼻で笑っている海外の連中に、私たちの最悪の毒を浴びせてやるのよ」

鮫島は頭を抱え込んだ。

「む、無茶苦茶だ……! 国内の基盤を固める前に海外進出だなんて! しかも相手は、言葉も文化も違う、エンタメの本場の人間たちだぞ!」

「だからこそ、食い殺し甲斐があるんじゃない」

私は立ち上がり、メンバーたちを見回した。

「国内の温い玉座にふんぞり返っている暇はないわ。さあ怪物たち、準備はいい? 次の標的は、世界の常識よ」

「ふん、当然ね。私の光が世界基準だってことを、思い知らせてあげるわ」

ランが傲慢に笑う。

「あはっ! 世界中の人たちを狂わせちゃうなんて、ワクワクしますっ!」

「世界が相手でも、私のステップは一ミリもブレないわよ」

「ヒィィ……え、英語のレッスンからですかぁ!?」

「……お姉さん、もっとすごい音、作って」

六人の異端児たちの矛先は、ついに海を越えた。

日本を沈めた最凶のウイルスが、世界規模のパンデミックを引き起こすための、新たな叛逆の幕開けだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ