episode13
曲のクライマックス。
ベース音が心臓の鼓動のように速くなり、赤いストロボが私たちの輪郭を断片的に闇へ焼き付けていく。
「――さあ、全部壊して」
マコのウィスパーボイスが、張り詰めた糸を断ち切る合図だった。
それを皮切りに、ランがすべてを焼き尽くすようなハイトーンのフェイクを響かせ、サエのノイズがそれに絡みつく。レイカのステップがステージを鋭く切り裂き、アカリがカメラレンズを舐めるような視線を送る。
そして私が、最も重く、最も冷酷な言葉でトラックの最後を締めくくる。
「System Shutdown」
ドォォォォン……。
最後の一音と共に、ステージの全照明が完全にブラックアウトした。
数秒の、永遠にも似た静寂。
そして。
「うおおおおおおおおおおっ!!!」
新国立劇場の分厚い壁が軋むほどの、爆発的な大歓声。
先ほどのLuminaの時に起きた感動の拍手とは全く質の違う、腹の底から湧き上がるような、理性を失った熱狂の咆哮だった。
格式高い審査員たちでさえ、圧倒的な暴力とも言えるパフォーマンスを前に、呆然と口を開け、あるいは無意識に立ち上がって拍手を送っていた。
照明が再び灯った時、私たちは誰一人として笑顔を見せず、ただ荒い息を吐きながら、焼け野原になった客席を冷たく見下ろしていた。
「……ふふっ、最高の眺めね」
ランが汗を拭いながら、小さく呟いた。
番組はそのまま、運命の結果発表へと移った。
ステージ上に、大賞候補のアーティストたちが横一列に並ぶ。
私たちのすぐ隣には、顔面を蒼白にさせ、震える手を必死に握りしめているLuminaの五人がいた。優花は、もはや真っ直ぐ前を見ることすらできていない。
「それでは、今年のジャパン・ミュージック・アワード、栄えある大賞の発表です」
司会者の声が響き、ドラムロールが鳴り響く。
会場中が息を呑み、日本中の数千万人がテレビ画面を凝視する、数秒間。
「……今年の音楽界を席巻した、新たなる怪物たち。大賞は――『GlitcH』の皆さんです!!」
金の紙吹雪が、爆発音と共にステージに舞い散る。
会場から割れんばかりの歓声と悲鳴が入り混じった声が上がった。
その瞬間、隣でLuminaの優花が、ついに張り詰めていた糸が切れたように泣き崩れた。他のメンバーたちも、現実を受け入れられずに顔を覆っている。
絶対王者の城が、完全に崩落した瞬間だった。
司会者に促され、私たちはステージの中央へと進み出た。
重厚なクリスタルで作られた、大賞のトロフィー。
私がそれを無造作に片手で受け取ると、マイクが向けられた。
「おめでとうございます! デビューからわずか半年、音楽界の頂点に立った今、どんなお気持ちですか!」
私は、泣き崩れるLuminaや、手のひらを返したように拍手を送る大人たち、そしてカメラの向こうの数千万人を見渡した。
「……気持ち? そうね」
私はマイクを引き寄せ、三十年分の人生の執念と、NILとしてのプライド、そしてGlitcHのリーダーとしてのエゴをすべて込めて、低く嗤った。
「システムは完全に書き換えられたわ。綺麗で無難な嘘の時代は、今日で終わり」
会場が水を打ったように静まり返る。
「私たちがGlitcH。……あなたたちはもう、私たちの猛毒なしじゃ生きられない体になっているわ。せいぜい、これからも私たちの泥沼で踊り狂いなさい」
カメラに向けて、ランが不敵に笑い、アカリが舌を出し、サエが欠伸をし、レイカが誇り高く顎を上げ、マコが強く前を見据えた。
放送事故スレスレの、最悪で最高の受賞スピーチ。
しかし、数秒後には、それに呼応するように、会場から地鳴りのような歓声が湧き起こった。
こうして、私たちGlitcHは、誰にも媚びず、誰のルールにも従わないまま、日本のエンターテインメントの頂点という王座を強奪したのだ。




