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『リスタート・センター:30歳の私が、謎のモニターと共に頂点を目指すまで』  作者: 真白しろ
2章 GlitcH始動

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episode12

【 最終決戦の夜 ―― ジャパン・ミュージック・アワード 】

12月31日。

日本中の視線が集中する、国民的音楽祭の生放送当日。

会場となる新国立劇場は、異様な熱気と、どこかヒリヒリとした緊張感に包まれていた。

今年の大賞ノミネートは実質的な一騎打ちだと言われていた。

二年連続の絶対王者、光の象徴「Lumina」。

そして、デビューからわずか半年で業界の常識をすべて破壊し尽くした最悪のウイルス、「GlitcH」。

「……すごい空気ですねぇ。スタッフさんたち、私たちと目を合わせようともしませんよぉ」

アカリが廊下を歩きながら、クスクスと喉を鳴らした。

無理もない。

テレビ局の重役や、歴史ある音楽祭の審査員たちにとって、お行儀の悪い私たちは「排除すべき異物」だ。今日この場所は、大半の大人たちがLuminaの勝利を祈っている、完全なる敵地だった。

「敵が多いほど燃えるわ。私たちのパフォーマンスを見せつけられた後、あの偉そうな大人たちがどんな絶望した顔をするのか、今から楽しみで仕方ないもの」

ランが冷たい笑みを浮かべ、ヒールを高く鳴らして歩く。

控室に到着すると、私は持ち込んだノートパソコンを開き、最終的な音源のチェックに入った。

今日のために、私はNILとして書き下ろした新曲を用意していた。

タイトルは『FATAL ERROR(致命的エラー)』。

Luminaが作り上げるであろう「完璧で美しい世界」を、根底からバグらせ、完全に機能停止に追い込むための最凶のトラックだ。

「マコ、顔色が悪いわよ。また吐きそうなの?」

レイカが、隣で青ざめているマコに冷たいスポーツドリンクを押し付けた。

「だ、だって……大賞ですよ? 日本中の人が見てるんですよ? もし私のせいでミスしたらって思ったら、足の震えが止まらなくて……っ」

「馬鹿ね。今さらミスの一つや二つで崩れるような、ヤワなグループじゃないでしょ私たちは」

レイカは優雅に足を組み、マコの背中をバンバンと乱暴に叩いた。

「あんたのその震える声が必要だから、ミオはあんたをそのポジションに置いたの。自分の役割だけを全うしなさい」

「……はいっ!」

「お姉さん、準備できた」

ソファで丸くなっていたサエが、むくりと起き上がって私の服の袖を引いた。その目はいつも通り眠そうだが、奥底には確実に、最高の音を鳴らすための飢えが潜んでいる。

「ええ。全員、準備はいいわね」

私はパソコンを閉じ、メンバーたちを見回した。

「今日、私たちは日本の音楽史の『正解』を上書きする。予定調和のシンデレラストーリーは、今年で完全に終わりよ。私たちの猛毒で、この国のエンターテインメントを次の次元へ引きずり込むわよ」

全員が、無言で深く頷いた。

番組が中盤に差し掛かり、いよいよ大賞候補のパフォーマンスが始まる時間がやってきた。

先攻はLumina。

ステージへと向かう彼女たちと、出番を待つ私たちが、薄暗い廊下で交差した。

「……ランちゃん」

Luminaのセンター、優花が立ち止まり、ランを見つめた。

その顔には、メガ・ソニック・アリーナの時のような余裕は微塵もなかった。プレッシャーと恐怖、そして「絶対に負けられない」という重圧で、今にも押し潰されそうな、悲痛な表情だった。

「私たち、絶対に負けない。……正しいアイドルが誰なのか、証明してみせる」

震える声で絞り出した優花の言葉に、ランは立ち止まり、ふっと冷酷に笑った。

「正しいアイドル? ……馬鹿みたい」

「え……」

「正しさなんて、他人が決めたただの窮屈な箱じゃない。そんなものに縋っている時点で、あなたはもう私に勝てないのよ、優花」

ランの放った絶対的な強者の言葉に、優花は息を呑み、逃げるようにステージへと向かっていった。

そして、Luminaのパフォーマンスが始まった。

モニターに映し出される彼女たちのステージは、確かに『最高傑作』だった。五人の一糸乱れぬダンス、希望に満ちた歌詞、誰もが微笑んでしまうような輝き。

会場は温かい拍手と感動に包まれ、審査員たちも満足げに頷いている。

「……フン、相変わらず無難なステージね」

レイカが鼻で笑うが、私は首を振った。

「いいえ、あれはあれで完成されているわ。彼女たちも必死よ。……でも、だからこそ食い殺し甲斐があるってものよ」

Luminaのパフォーマンスが終わり、割れんばかりの拍手が鳴り響く中。

いよいよ、私たちの出番が告げられた。

「続いては、今年最大の旋風を巻き起こした異端の六人。GlitcHの皆さんです!」

私たちは、光の余韻が残るステージへと、六つの黒い影として足を踏み入れた。

会場の空気は、戸惑いと緊張に支配されていた。

先ほどまでの温かい感動を、私たちがどう壊しに来るのか。恐れと期待が入り混じった無数の視線が、私たちに突き刺さる。

私はマイクを握り、ゆっくりと客席を見渡した。

そして、不敵な笑みを浮かべて、たった一言だけ告げた。

「――システムダウンのお時間よ」

その瞬間、会場のすべての照明が落ち、真っ赤な警告灯のようなストロボが激しく点滅し始めた。

重厚なベースドロップ。

新曲『FATAL ERROR』の幕開けだ。

ランが先陣を切り、Luminaが残した「綺麗な空気」を暴力的なステップで一瞬にして蹴り散らす。

アカリがカメラに接近し、テレビの前の視聴者全員の心臓を鷲掴みにするような狂気のウインクを放つ。

サエの深淵からのノイズが響き、レイカが完璧な陣形で場を支配し、マコが悲鳴のようなウィスパーボイスで観客の脳を揺さぶる。

私は、三十年分の人生の執念をすべて声に乗せ、地を這うようなラップで会場を完全に「私たちの泥沼」へと引きずり込んだ。

もう、誰もLuminaの残した光など覚えていない。

会場にいるすべての人間が、テレビを見ている数千万人が、この六人の怪物が織りなす圧倒的な『エラー』に感染し、熱狂の渦に飲み込まれていた。

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