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『リスタート・センター:30歳の私が、謎のモニターと共に頂点を目指すまで』  作者: 真白しろ
2章 GlitcH始動

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38/49

episode9

【 開演:ERROR CODE 000 】

ドォォォォン、という爆発音がアリーナの空気を震わせた。

円形ステージの中央から、血のような赤いレーザーが放射状に放たれ、二万人の観客の頭上を薙ぎ払う。

一曲目は、私たちの名刺代わりであるデビュー曲『ERASURE』。

通常のステージなら、センターが正面を向いて歌い出しを飾る。しかし、この円形闘技場コロッセオに正面はない。

イントロが鳴り響いた瞬間、六人はそれぞれ違う方向を向き、二万人を六等分するように睨みつけた。

最初に動いたのはランだった。

彼女は自分の持ち場である方角の観客に向かって、圧倒的な跳躍とステップを叩きつける。

「キャアアアアッ!」

ランの正面にいる数千人が、その神々しいまでの光に一瞬で魂を抜かれ、悲鳴を上げる。

しかし、ランがその数千人を支配した直後、彼女の背後――別の方角で、サエがマイクスタンドを蹴り倒しながら、呪詛のようなノイズのハミングを空間に放り込んだ。

「……ッ!」

ランの光に魅了されていた観客たちが、背筋を凍らせてサエの方へと視線を奪われる。

その視線の移動を計算していたかのように、アカリがステージの縁ギリギリまで駆け寄り、観客の鼻先で舌を出して最狂の笑顔を振りまいた。

「私だけを見てくださいねぇっ!」

アカリの叫びに、今度は彼女の方角の観客が熱狂の渦に巻き込まれる。

視界が、音が、感情が、三百六十度から乱れ飛ぶ。観客は、どこを見ればいいのかわからない。誰を見ても、その人間が圧倒的なエゴで視線を強奪しに来るのだ。

息をつく暇もない、極上のパニック。

「レイカ! 行くわよ!」

私が叫ぶと、レイカは完璧な姿勢のまま、ステージの中央へ滑り込むように移動した。

エゴがぶつかり合う混沌としたステージの上で、レイカの正確無比なダンスだけが、重力の中心のように全体のバランスを辛うじて繋ぎ止めている。

彼女が作った『静』の空間。その一瞬の隙間を縫って、マコが飛び出してきた。

極度の緊張で震えていたはずのマコ。

しかし、彼女は今、二万人の視線が交差するステージの中央で、両手でマイクを握りしめ、かつてないほど鋭い瞳で客席を見据えていた。

曲のブレイク。完全に音が止まる一秒間。

マコが、その静寂のど真ん中に、氷のように冷たく、けれど燃えるようなウィスパーボイスを落とした。

「……壊して」

ゾワッ、と。

アリーナ中の二万人の肌に、一斉に鳥肌が立つのがわかった。

ウサギのように怯えていた少女が、怪物たちに食らいつくために放った、乾坤一擲の一撃。

ランの光でも、アカリの狂気でもない。泥臭く足掻く凡人の放った一言が、この瞬間、間違いなくアリーナ全体を完全に支配したのだ。

「ハハッ……!」

私はマイクを握りしめながら、歓喜の笑みを漏らした。

最高じゃない。

天才も、凡人も関係ない。ただ自分の存在を刻みつけるためだけに、相手の首を狙って爪を立てる。

これが、私の求めていた『GlitcH』の完成形だ。

私は地を這うような重低音のラップで再びビートを呼び覚まし、全員のフォーメーションを意図的に崩しにかかる。

決まった振り付けなんて、もはや意味をなさない。

ランが私のラップにハイトーンで殴り込みをかけ、アカリがその隙間を縫ってカメラにウインクを飛ばす。

熱気で酸素が薄くなっていく。

汗が目に入り、喉の奥から血の味がせり上がってくる。

それでも、誰一人として足を止める者はいない。

二万人の観客は、ペンライトを振ることも、名前を叫ぶことも忘れ、ただこの美しくも凄惨な共食いの儀式に釘付けになっていた。

曲の終盤。

私たちは円形ステージの外周ギリギリに立ち、観客を見下ろすようにして最後の一音を叩きつけた。

暗転。

数秒の完全な静寂の後、アリーナの底が抜けたかのような、凄まじい大歓声が爆発した。

「うおおおおおおおおおおお!!!」

「ミオォォッ!」

「ラン様ァァァッ!」

地響きのような歓声の中、再び照明が点灯する。

私たちは肩で激しく息をしながら、誰一人として笑わず、ただ冷たく観客を見下ろしていた。

「……まだ一曲目よ、お前たち」

私は荒い息のままマイクを通さずに呟き、メンバーたちを一瞥した。

ランは汗に濡れた顔で不敵に笑い、アカリはさらに獲物を求めるように目を細めている。

サエは退屈そうに首を鳴らし、レイカは乱れた髪を優雅に整え、マコは震える手でマイクを握り直した。

「休ませてあげる気なんてないから。……最後まで、私の泥沼で踊り狂いなさい」

私の言葉を合図に、休む間もなく二曲目のイントロがアリーナに轟いた。

伝説となる狂気の二時間は、まだ始まったばかりだった。

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