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『リスタート・センター:30歳の私が、謎のモニターと共に頂点を目指すまで』  作者: 真白しろ
2章 GlitcH始動

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34/49

episode5

生放送の翌日。

テレビ局の苦情窓口には「不気味だ」「子供が泣いた」という抗議の電話が殺到したらしい。

しかし同時に、私たちの『ERASURE』は各種音楽配信チャートの1位を完全にジャックし、MVの再生回数は桁違いのスピードで跳ね上がっていた。

「……お前たちという奴は。テレビ局の偉いさんたちがどれだけ激怒したか、わかっているのか」

週明けの月曜日。

事務所の会議室に呼び出された私たちを前に、鮫島プロデューサーが胃薬を水で流し込みながら深くため息をついた。

「あら、でも視聴率は最高記録を叩き出したんでしょう?」

レイカが優雅に足を組みながら、ふふっと笑う。

「悪目立ちしただけだ。お茶の間の反感を買って、このまま干される可能性だってあったんだぞ。……だが」

鮫島はそこで言葉を区切り、机の上に分厚い企画書を投げ出した。

「お前たちのその『悪名』を利用したいという、悪趣味なイベンターが山ほど湧いてきているのも事実だ。……来月開催される、国内最大の屋内音楽フェス『メガ・ソニック・アリーナ』。お前たちの出演が決まった」

その言葉に、マコが「ふぇっ!?」と変な声を上げた。

「メガソニって……あの、国内のトップアーティストしか出られない、夢のフェスですか!? デビューしたばかりの私たちが!?」

「ああ。話題性だけでねじ込まれた特例中の特例だ」

鮫島が渋い顔で頷く。

「やったぁ! また何万人もの人たちの前で、私が一番可愛いところを見せつけられますねっ!」

アカリが無邪気に喜ぶが、私は企画書のタイムテーブルのページをめくり、ある一点で指を止めた。

「……鮫島さん。これ、ただの抜擢じゃないわね。明らかに『悪意』が混ざってる」

私が指差したタイムテーブル。

私たちGlitcHの出演順は、なんとフェスの最終日、大トリの『直前』に設定されていたのだ。

そして、その大トリを飾るグループの名前を見て、隣にいたランの空気が一瞬にして氷のように冷え上がった。

【 大トリ: Luminaルミナ

「……ルミナ」

ランが、憎悪とも歓喜ともつかない、低い声でその名を呟く。

ルミナ。

それは現在の日本のアイドル界において、頂点に君臨する5人組の絶対的トップグループ。

誰もが認める清廉潔白なビジュアル、笑顔、そしてスキャンダル一つない完璧な優等生たち。私たちが『闇』や『バグ』であるなら、彼女たちは業界が作り上げた最も美しい『正解の光』だった。

「事務所もフェスの運営も、お前たちのその生意気な態度に腹を据えかねている。だから、最高の舞台を用意してやった上で、業界のトップであるルミナと直接比較させて、お前たちの『異端』がいかにちっぽけなものか、世間に分からせようという腹積もりだ」

鮫島が残酷な現実を突きつける。

要するに、これは公開処刑だ。泥に塗れた反逆者たちを、本物の王女たちの前に引きずり出し、観客の目の前で格の違いを見せつけて叩き潰す。

「……上等じゃない」

ランが、唇の端を歪めて笑った。

「ルミナ。あの、操り人形みたいに同じ笑顔しか作れない退屈な女たち。昔、あそこのセンターに『ランちゃんも私たちと一緒に笑おうよ』って誘われた時、反吐が出そうになったのを思い出したわ」

「ランちゃん、知り合いなんですか?」

マコがおずおずと尋ねると、ランは冷たく言い放った。

「ただの同級生よ。私は自分の光だけで頂点に立つ。あんな、お互いの傷を舐め合うような生ぬるいグループの踏み台にされるなんて、絶対に御免だわ」

私は企画書を閉じ、鮫島プロデューサーを真っ直ぐに見据えた。

「状況は理解したわ。フェスの運営には、出演を快諾したと伝えておいて」

「ミオ。相手はデビュー5年目の絶対王者だぞ。今のお前たちの勢いでも、五万人のルミナファンの前では、ただの『悪役』として消化されて終わるぞ」

「悪役で結構よ」

私は立ち上がり、メンバーたちを見回した。

「ルミナが業界の『正解』なら、私たちはそれをぶっ壊す『ウイルス』。五万人のルミナファンが手首につけているペンライトの光、私たちが全部黒く塗りつぶしてあげる」

サエが「……お姉さんのそういう悪い顔、好き」と呟いてあくびをし、アカリが「ふふっ、ルミナのファン、全員私の虜にしちゃいましょう」と舌を出した。

「マコ、レイカ。震えてる暇はないわよ。ルミナの完璧なフォーメーションに、私たちのノイズを真っ向からぶつけるんだから。今まで以上に地獄のレッスンになるわ」

「わ、わかってますっ! 私、もう逃げませんから!」

「当然よ! 九条院のプライドにかけて、あんな量産型のアイドルに負けるわけないじゃない!」

全員の意思は固まった。

「鮫島さん。フェスの演出は、すべて私がプロデュースする。もちろん、文句はないわよね?」

私が凄むと、鮫島は頭を抱えながら「……もう好きにしろ。ただし、事故だけは起こすなよ」とだけ言って、会議室を出て行った。

フェス本番まで、残り一ヶ月。

相手は、業界の総力を結集して作られた完璧な城。

しかし、どんなに強固なシステム(城)であろうと、必ずバグは存在する。

私は自分のタブレットを開き、NILとして培ってきたすべての技術と発想を総動員して、ルミナという絶対王者を食い殺すための『最悪のセットリストと演出』の構築を始めた。

光が強ければ強いほど、闇は濃くなる。

ならば、ルミナという最大の光の直前で、私たちがドームを完全な『暗闇』に落としてやればいい。

「さあ、王座簒奪の準備よ、怪物たち」

私の号令とともに、GlitcHの新たな戦いが幕を開けた。

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