episode16
巨大なスタジオに組まれた、ピラミッド型のセット。
頂点に向かって階段が伸び、1位から60位までの椅子が冷たくライトアップされている。
いよいよ、『NEXT GATE』最初の生存者発表――第1回順位発表式が始まった。
「……第28位、マコ」
「ひぐっ、うわあああん! ありがとうございますぅぅ!」
名前を呼ばれたマコは、メイクが崩れるのも構わずに号泣し、私とレイカに抱きついてから階段を登っていった。
続くレイカは12位。彼女のプライドを満たすには少し物足りない順位だったようだが、「まあ、最初はこれくらいで許してあげるわ」とツンとすまして席についた。
そして、あの圧倒的なボーカルを見せつけたサエは、なんと一気に5位(デビュー圏内)にランクイン。「椅子、ふかふかで眠い……」と、上位の席でも相変わらずマイペースを貫いていた。
(よし。Fチームは全員、生存確定ね)
私は小さく息を吐いた。
そして、発表はついに最上位――「トップ3」へと差し掛かる。
「第3位。……圧倒的な愛嬌と計算し尽くされたカメラアピールで、視聴者を魅了しました。夢乃アカリ」
「ありがとうございますっ! 皆さんの応援のおかげです!」
アカリは両手で顔を覆い、完璧な「嬉し泣き」の表情を作ってカメラにお辞儀をした。
しかし、私の視界のシステム画面は、彼女の本当の精神状態を無情にも暴き出していた。
> [ ターゲット:アカリ ]
> [ 表情管理:100%(完璧) ]
> [ 裏ステータス『嫉妬』『屈辱』が急上昇中 ]
> [ 解析:1位になれなかったこと、そして「誰」に負けたのかに対する強烈なストレスを検知 ]
>
アカリが3位の椅子に座る。
つまり、残る1位と2位の席を争うのは、絶対的エースのランと……。
「それでは、栄えある第1位候補、2名の名前をスクリーンに映し出します」
鮫島プロデューサーの重々しい声と共に、巨大モニターが切り替わる。
そこに大写しになったのは、涼しい顔で正面を見据えるランと――無表情で静かに佇む、私の顔だった。
「……嘘でしょ。あの『Fチーム』のミオが、1位候補……!?」
「バグみたいなパフォーマンスだったのに……ネットの票、どうなってんの!?」
スタジオの候補生たちが一斉にざわめき、私に視線を突き刺す。
当然の反応だ。王道を突き進むランと、インターネットの深淵から這い上がってきたような異端の私。光と影の頂上決戦。
「……結果を発表する」
ドラムロールが鳴り響き、モニターにデカデカと順位が表示された。
第1位:白鳥 ラン(1,250,400票)
第2位:神崎 ミオ(1,180,900票)
「第1位は、白鳥ラン! そして第2位、神崎ミオ! 驚異的な追い上げでしたが、一歩及びませんでした!」
(……完璧な順位ね)
私は内心でガッツポーズをした。
ここで1位になってしまえば、「追われる側」としての強烈なプレッシャーとアンチの標的になる。ネットのオタクたちが一番熱狂するのは、「圧倒的な女王の首を狙う、底知れないダークホース(2位)」という構図なのだ。30歳の社会人経験が弾き出した理想的なポジションである。
私はゆっくりと立ち上がり、ピラミッドの階段を登り始めた。
3位の席に座るアカリの前を通り過ぎようとした瞬間、彼女がマイクに入らないほどの小声で、ふわりと笑いかけてきた。
「……おめでとうございます、ミオちゃん。奇抜な『ポエム』のパフォーマンス、面白かったですよ」
声は甘いが、目は全く笑っていない。
「でも、スパイスって最初は新鮮でも、毎日食べてたら飽きられちゃうんですよね。いつまでも『ゲテモノ枠』が通用するとは思わないでくださいね?」
あからさまな牽制。
10代の女の子特有の、陰湿で鋭いマウント。普通ならここで怯むか、怒って言い返してしまうだろう。
しかし、私の中身は職場の修羅場をくぐり抜けてきた30歳だ。
私は歩みを止めず、アカリを見下ろしたまま、ふっと口角を上げた。
「忠告ありがとう、アカリちゃん。でもね、スパイスって一度その『刺激』を知っちゃうと……普通の甘いだけの味じゃ、もう物足りなくなっちゃうのよ」
「……っ」
アカリの完璧な笑顔が、一瞬だけピクリと引きつった。
> [ システム通知 ]
> [ アカリからの『警戒レベル』が限界突破しました ]
>
私はそのまま彼女の横を通り抜け、第2位の席――最上段の、ランのすぐ隣へと辿り着いた。
ランは腕を組み、私を真っ直ぐに見据えていた。
最初に出会った時の「有象無象を見る目」ではない。明確な「脅威」を認識した、鋭い捕食者の目だ。
「……ミオ」
ランが、静かに口を開く。
「グループバトルまでは、ただの目障りなバグ(異物)だと思ってた。でも、今は違う。あなたは、私のステージを汚す『敵』よ」
「光栄ね、絶対的エースにそんな風に言ってもらえるなんて」
「……次で、完全に潰してあげる。あなたみたいな邪道が、私の隣に立つなんて許さない」
その剥き出しの闘争心に、私の背筋がゾクッと粟立った。
これだ。前世で私がどれだけ手を伸ばしても、決して触れることすら許されなかった、トップアイドルたちのヒリヒリするような世界。
私は、2位の椅子に優雅に腰を下ろし、隣のランに向かって、30歳の余裕をたっぷりと含んだ微笑みを向けた。
「潰せるものなら、潰してみなさいな。……でも、足元には気をつけて。私の『毒』は、もうあなたのファンにも回り始めてるみたいだから」
ピラミッドの頂点で、ランとアカリ、そして私の視線が激しく火花を散らす。
この瞬間、私は『余り物チームのリーダー』から、『NEXT GATE』をかき回す最大の台風の目へと、完全に昇格を果たしたのだ。




