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『リスタート・センター:30歳の私が、謎のモニターと共に頂点を目指すまで』  作者: 真白しろ
1章 人生リスタート

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13/49

episode13

「……Fチーム。あなたたち、一体何をしたの?」

七瀬みやびの問いかけに、私は息を整え、マイクを口元に寄せた。

「何も特別なことはしていません。ただ、私たち『Fチーム』の言語に、この曲を翻訳しただけです」

「翻訳……?」

「はい。完璧な光(Aチーム)には、完璧な影で対抗するしかない。私たちは自分たちの不器用さや、拭いきれないアンニュイな空気を隠すのをやめました。それを『ノイズ』として曲に組み込んだんです」

私の言葉に、これまで沈黙を保っていた鮫島プロデューサーが、マイクのスイッチを入れた。

「……信じられん。原曲のキラキラしたポップスが、まるで……そう、タチの悪い『インターネット・ウイルス』にでも感染したかのような仕上がりだった」

鮫島は手元の資料と私たちを交互に見比べながら、興奮を隠しきれない声で続けた。

「サエ、と言ったか。君の高音は完全に規格外だ。既存のアイドルソングの枠組みを破壊する、あのバグったような響き……。そしてレイカ、君の正確なベースラインがなければ、この曲はただの崩壊で終わっていた。君がこの『異端のシステム』を支える土台だった」

「っ……!」

レイカの肩が大きく跳ねた。

ただの「問題児チームの道連れ」ではなく、自分の実力がこの奇跡的なステージの『かなめ』として正当に評価されたのだ。彼女の瞳に、初めて確かな自信の光が宿るのがわかった。

「そしてマコ。あのたった一言のウィスパーボイス。あれがサビ前の空気を一気に支配した。震える声すらも計算だったとしたら、恐ろしい表現力だ」

マコは信じられないものを見るように目を丸くし、ポロポロと涙をこぼしながら何度も深くお辞儀をしている。

「だが……何より恐ろしいのは」

七瀬みやびが、鋭い視線を私に突き刺した。

「この猛獣たちを、たった数日で一つの『作品』としてまとめ上げた存在。……ミオ、あなたね。あなたのあの冷ややかな低音が、チーム全体の接着剤になっていた。自分が前に出るのではなく、メンバーの異常な個性を最大化するための『プロデュース』。……17歳の少女が思いつくような計算じゃないわ」

図星を突かれ、私は内心で冷や汗をかいた。

さすがはトップアイドル。私の「30歳の中間管理職的マネジメント」を、見事に言語化してのけた。


[ システム通知 ]

[ 審査員からの評価:Aランク(特例) ]

[ 『異端のカリスマ』の称号を獲得しました ]


「……評価を発表するわ」

七瀬みやびが、全候補生に向けて宣言した。

「ダンス、ボーカルの基礎的な技術力、そしてアイドルとしての完成度。これは文句なしに、ラン率いる『Aチーム』がトップよ。審査員票は彼らに入れます」

その言葉に、Aチームのメンバーたちが安堵の表情を浮かべる。ランも小さく息を吐き、微かに胸を張った。

しかし、七瀬みやびの言葉はそこで終わらなかった。

「ただし。このオーディションは、視聴者の『チア(応援)』で決まる。……今回のステージ、ネットの視聴者がどちらに熱狂するかと言われれば。私は、Fチームのあの『劇薬』のようなパフォーマンスに賭けるわ」

スタジオの空気が凍りついた。

完璧なAチームと、バグのようなFチームが、実質的に「同格」として扱われた瞬間だった。

ランの表情がサッと険しくなる。彼女の視線が、Aチームのセンターから、真っ直ぐにミオへと向けられた。

その隣のチームにいるアカリも、爪を噛みながら「……あんなの、どうやってファン層を奪えばいいのよ」と忌々しそうに私たちを睨みつけている。


[ 空間スキャン:ライバルたちの動向 ]

ランからの『明確な敵対心』を検知。

アカリからの『警戒レベル』がMAXに到達しました。


「……終わったぁ……」

審査発表が終わり、カメラの回っていない舞台袖に下がった瞬間。

サエが電池の切れたおもちゃのように、その場にへたり込んだ。

「あー、もう無理。眠い。ミオお姉さん、私もう帰って寝ていい?」

「ダメに決まってるでしょ。これから結果発表の収録があるんだから」

私がサエの腕を引っ張って立たせようとしていると、レイカがツンと顎を上げて近づいてきた。

しかし、その目元は少しだけ赤い。

「……ふん。まあ、私の完璧なベースラインのおかげで、あなたたちの粗が隠れたってことね。感謝しなさいよ」

強がっているが、その声は嬉しさで震えていた。私は思わず、30歳の母性を発揮して彼女の頭をポンポンと撫でてしまった。

「なっ……!? ちょっと、気安く触らないでよ!」

「はいはい、お疲れ様、レイカ。本当に助かったわ」

「うわああああん! ミオちゃぁぁん!」

そこにマコが弾丸のように突っ込んできて、私の腰に泣きつきながらしがみついた。

「私、初めて褒められました……! アイドル目指してて、よかったぁ……!」

「ちょ、マコ、鼻水! 衣装につくから!」

泣き喚くマコ、顔を真っ赤にして怒るレイカ、立ったまま寝ようとするサエ。

相変わらずの猛獣動物園だが、私の視界の端で光るシステム画面は、確かな「絆」を証明していた。


[ Fチーム チームワーク値:100 / 100(完全同期) ]


その夜、放送された『グループバトル編』は、ネットの海に特大のバズを引き起こした。

前回の私の「単独の異物感」とは違い、今回はチーム全体で一つの強烈な「ネットサブカルチャー」の世界観を構築したのだ。

SNSでは、Aチームの完璧さを讃える声と、Fチームの「バグ(ノイズ)のような中毒性」に狂わされる声が、激しく衝突していた。

@saori_oshikatsu

『ちょっと待って、Fチームやばい。ミオちゃんがリーダーになった途端、落ちこぼれチームが「最高の退廃芸術」になったんだけど。あのサエって子の声、完全にインターネットの深淵。マコの囁きで息止まった。これだからオーディション番組は辞められない!! チア全ツッパします!!!!』

私は自室のベッドでその書き込みを見つめながら、静かに笑った。

これでようやく、スタートラインだ。


[ 第2章:グループバトル編 クリア ]

[ 現在の順位:15位(↑ 急上昇) ]


[ 次期クエスト予告 ]

『ポジション評価:己の武器を一つだけ選び、頂点を獲れ』

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