第196話 鋳掛屋、再び
ただ、肉が食べられるのはありがたい。処理が上手いからか、獣臭さはない。肉の味から猪の肉だろう。筋もちゃんと取られてて噛み易い。これで卵があるならトンカツを作りたいものだ。
たくさんいただいたら早々に寝るとする。ボクとジージーが。でも、朝方に起きてハラーシと交代しましたよ。武器屋には昼過ぎに行こうと思っているからさ。
朝も美味しいものを出してくれ、しっかりといただいた。
「すまない。近所のヤツに話したらうちも頼むって集まって来てるんだ。構わないかい?」
「構わないですよ。ここでも鋳掛をする者っていないんですか?」
「いないこともないんだが、何日も前からお願いせんとやってくれんのだ。そう儲かる商売でもないしな」
ここでもそうなんだ。まあ、江戸時代でもそう儲ける商売じゃなかったみたいだしな。成り手がいないんだろうよ。
「ただ、お金もらうよ。ボクらもお金がなくて困っているからさ。あ、宿の鍋とかはタダでやるから」
「ああ、タダでやってもらおうとは思わんさ。鍋の穴なら千ロクシェくらいもらっても文句は言われんはずだ」
千、ね~。五百で食事一回だと考えると、確かにそんな値段でやろうと思うヤツはなかなか現れないだろうな~。
「わかりました。そのくらいにしておきますよ」
町に溶け込むならそのくらいから始めるのがいいだろう。調達場所を分散させるのは鉄則だ。ここに溶け込めれば船を寄越すことも出来るだろうよ。
宿の中庭的なところに向かうと、近所のおばちゃんたちが鍋や包丁なんかを持って集まっていた。
「ボクはレイ。海を渡って来た鍛冶士だよ。剣を打つのが本業だね」
おばちゃんたちからの質問を浴びながらも鍋を打つ手は止めたりはしない。こちらの鍋は薄く、あまりいい鉄を使ってない。気を緩めると皿に穴を開けそうになるんでな。
「クズ鉄があるならボクが持っている裁縫針と交換するよ。望むならハサミや糸外し、クリップなんかもあるよ」
下着を作ってもらうために裁縫道具を作った。これが意外と需要があることを知った。グランダルクの町で作ったら結構な数が売れて、工房でも作り出したものだ。
打つ手を止めて、裁縫道具を出しておばちゃんたちに見せた。
「大事に使えばひ孫の代まで使えるものだよ。このハサミなら革でも切れる。クリップはかなり重宝するものだね」
グランダルクの町でもっとも売れたのがクリップだ。あと、洗濯バサミ。あのバネのところはマリュードさんがやっと作れるものだ。ボクは超余裕でずが。
「さすがにハサミはいい鉄を使っているから一万ロクシェだね。クリップは一つ百ルクシュ。洗濯バサミは一つ二百ロクシェだ」
さて。ここでも売れるかな?




