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33話 VS『エイペックス・クラーケン』

 

「な、なななっ……! なにが起きてるんですか!? 何の前触れもなくあんなに大きな生物……いえ、魔獣が現れるなんて……!」


 アダムたちのいる船の上でネヘディヤが困惑と恐怖の入り混じった声をあげる。

 突如として海中から姿を現した超巨大な魔獣の姿は、一キロ以上と十分に距離があるというのにその威容を目の前にあるかのように感じさせてくるほどだった。


「ふむ。一見緊急事態って感じだけども……ネヘディヤさん。あそこにいる魚ってボクたちが釣りにきたサメってことでいいのかな?」

「え? ええ、と……そうですね……ここから見てわかる限りの身体的な特徴からしても、おそらくアレがファレワルナミヒゲザメで間違いはないかと……あんなに大きいとは知りませんでしたが……」

「だったら話は簡単だな! あのバカでかいタコヤロウをさっさとぶっ倒してあのサメを持って帰りゃいい! 何日掛かるかわからねぇと思ってたのがずいぶん楽な仕事になったな!」


 ごく普通の反応として狼狽(うろた)えるネヘディヤと対称的に、マストの裏に隠れて震えているイズナを除いた一行には焦りも恐怖もないようだった。


「ランドロック。例の装備を」

「おうよ! 足以外はドボンだから気をつけな!」


 アダムが合図をすることでランドロックが荷物からまた別の道具を取り出す。

 それはかなり厚底になっているブーツのような足甲であり、彼はそれを装着して船のコベリに乗って海面に飛び降りていった。

 すると彼の身体は水の中に沈むことなく、ランドロックが作った魔道具の機能によって水面に平然と浮かび上がっていた。


「加勢してくる。アトリエルは不測の事態に備えて待機してくれ」

「はいはい。海に入るのは苦手だから早めに済ませちゃってね」


時走躍(ストライド)!」


 アダムは船上の人々に見送られながら、加速魔術によって目にも止まらぬ速度で海の上を走っていった。






サメ(それ)は私たちの獲物よ!」



 ヒカリが巨大ザメを捕まえる大蛇腕(だいじゃわん)へ向けて腕を振り抜いて魔術の光弾を数発放つ!

 それに対し(タコ)魔獣はもう一本の大蛇腕を滑り込ませて受け止めた!

 命中した光弾は小さくない爆発と衝撃を起こしたが、大蛇腕に目立った損傷はないようだ。



「頑丈! もっと収束して一点突破でいきましょうか!」

 ※

 《無傷マ?》

 《そのデカさで硬いのはダメでしょ》

 《やり過ぎると巻き込んでサメが駄目になるぞ》



 ヒカリは蛸魔獣の頑強な身体を貫くため、手に持った魔弓を使ってより強力な攻撃を撃ち放ってやろうと準備を始める。

 しかしその最中に彼女の真下の水面が突然爆ぜて新たな大蛇腕が飛び出してきた!



『ジャァァァァァァァァ!!』


「ムッ……!」



 その大蛇腕は打ち上げられた飛沫(しぶき)よりも速く到達しヒカリを喰らい吞もうと鋭い牙の門を開く!

 一瞬だけ反応が遅れた彼女は勢いよく閉じられる大蛇腕の口の中へ完全に幽閉された……。



「ワケないでしょうが」


 ––––––––白菱(しらびし)流忍法・海鏡囃子(かいきょうばやし)の術––––––––



 ワケもなく健在!


 ヒカリは間抜けにも空気を食べようとしている大蛇腕のさらに上方からその様を眺めている!

 彼女は水面に反射する光と蜃気楼を組み合わせて作り出す忍幻術によって位置を誤認させることで()()()()()()()()()()のだ!



「これでも純日本式忍号(にんごう)検定一級持ってんの。こんな子供騙しに引っかかると思わないでちょうだい!」

 ※

 《なにいまの!?》

 《また幻術ですか!?》

 《まさかのガチ忍者だったwww》

 《実物初めて見たわ現代忍者》

 《さすがは天嬢殿、技の冴えがキレておりますな》


 それは大昔から国内外問わず有名で”日本の神秘”とも称される職業。

 現代では資格化し独自の忍術を発展させた様々な流派が世界各国に分布している中、完全な源流(オリジン)であり古来から続く純然たる諜報・暗殺技術を継承する流派こそがこの純日本式忍号資格なのだ。


 そんな正真正銘の忍であることを示す資格を持っていること、そしてその名に恥じぬ忍術を披露して見せたヒカリに視聴者たちは大興奮の様相だった。


「(にしてもコイツ見かけによらず速いわね……しかも海にいた時の気配から察するに水中なら倍は速くなると見た。海に住む魔獣の中でもかなり上位の個体ってことなんでしょうね)」


 そんな中でヒカリ自身は蛸魔獣を分析する。

 この魔獣は本体と大蛇腕の双方の動きがその大きさに対して物理的に少し無理がある思えるレベルの速度で動けるようだ。地球での常識に囚われているようではどれほどの実力者であっても初手で命を喰らわれかねないと言える。

 ヒカリとしても速度自体には対応可能なものの、この魔獣がタコであろうことから察せられる足の数から考えて、その猛攻を凌ぎながらこの巨体に致命傷を与えるほどの一撃を繰り出すというのはさすがの彼女でも少しばかり骨の折れる話だった。


「(まあ水の中に引っ込む気配はないし、わざわざ向こうの土俵に付き合ってやる理由もないわね。ちょっと面倒だけど、()()なら問題なく狩れるでしょ)」


 一方の蛸魔獣は確実に捉え喰らってやったはずの獲物の感触がないことに戸惑っていた。

 だがすぐに再びその姿を見つけて攻撃を仕掛けようと、また新たな大蛇腕を水面を這うように走らせているとなにか小さなものが一瞬にしてそのそばを通り過ぎる。

 するとまた一瞬で大蛇腕の至る所に決して浅くない斬傷が無数に刻まれていく!



Huw(ひゅ〜)! なかなか鮮やかじゃないの。速さだけなら私が見てきた中でもダントツね」

「それはどうも」

 ※

 《おおお》

 《つえー!!!》

 《パイセンはやすぎww》



 そして蛸魔獣が突然の激痛に怯んでいる間に、ヒカリがまとめて回収しておいた海賊たちの塊にアダムが飛び移ってきた。


「ヒカリ、君はあのサメの確保を優先してくれ。俺が注意を引く。仕留めるのはその後だ」

「了解。さっさと終わらせましょうか!」


 短く言葉を交わして目標を確立させ互いに自分のすべきことに集中する。


 ヒカリは海賊たちの塊を自分たちの船の近くに放り投げ、海賊船に食らい付く巨大ザメに食らいつく大蛇腕の方へ飛んでいった。

 アダムは再び前方に飛び込み、ヒカリの方へと動こうとする大蛇腕を優先的に攻撃し蛸魔獣を倒す全ての準備が整うまで気を引き続けようと走り始めた。



「先ずはその獲物(サメ)……離しなさい!!」



 右足に眩く光る程に強力な電撃を纏い飛翔する灰色の女海賊。

 目標へとミサイルの如く突っ込んでいく中で他の大蛇腕がそれを襲おうとするが、加速した世界を独り走るアダムによって反応も許さず斬傷の数を際限なく増やしていった!



「セェイッ!!」


 そして砲弾のような勢いで狙いの大蛇腕に接近した彼女は、横回転の振り向きざまに(かかと)落としのような高さから蹴りを打ち込んだ!



 ––––––––ハイソバット・SPD(スパークデス)!!––––––––


『––––––––!!』



 大蛇腕を覆う堅牢な鱗が強力な蹴り技によって砕かれ、そこから濁流のように電撃が流れ込む!


 これまで受けたことがないほどの衝撃と電流のショックによってその大蛇腕は巨大ザメを捕まえる口の力を緩めた。

 ヒカリは直ぐさま水流の(かせ)によって巨大ザメをソレが食らいつく海賊船ごと(さら)ってしまった。



「それいつまで噛み付いてんのよ? ま、とりあえず身動きを封じたまま()()()に置いとけばあとはトリィがなんとかするでしょ」

 ※

 《はっっっや》

 《いい蹴り打つねぇ》

 《俺が教えた技やんやっぱイカすわ》

 《今のは某無差別混合格闘技ユーラシア覇者の得意技ですねぇ》

 《そんなもん投げるな》


 彼女は捕らえた水の枷が消えないように維持しながら、巨大ザメを自分たちが乗っていた帆船がある近くに放り投げてしまった。

 そうすると気を取り直してここからは本格的に蛸魔獣を討伐しようとそちらに向き直るが……。


 その瞬間彼女の目の前には、まるで列車が全速力で向かってくるかのような圧力を持った水塊弾(すいかいだん)が迫っていた!



「くッ……!」



 ヒカリは面食らいつつも優れた反射神経によって咄嗟に回避行動を取り紙一重で(かわ)すことができた。

 彼女より非常に大きい水塊弾は空を切る矢のような速度で通り過ぎていき、それは大蛇腕の口腔から放たれているようだ。

 蛸魔獣の本体も、痛みからか獲物を奪われたからか、離れていても容易に伝わってくるほどの怒りを滲ませており、ヒカリを対等以上の力を持つ大敵と認識したようだった。



「やってくれるじゃない。やっとお互い本気で()れるってわけね!!」


『––––––––––––––––!!!』



 蛸魔獣は水上に現した八本の大蛇腕に魔力を集中させていく。

 本体から大蛇腕の先端へ赤い光が伝わっていき、それらは一斉に赤い水塊弾を放ち始めた!

 その水塊には膨大な魔力が込められており、おそらく触れるだけで殺傷力のある何かしらの効力があるのだろうと推測できた。

 そんな大凶弾が八つの砲台からプロ野球選手の投擲をも凌ぐ速度で放たれる中、空中ではヒカリが、水面ではアダムが再び突撃を始めた!






「ヒカリちゃんったら随分派手にやるねぇ。ボクは嫌いじゃないけど」

「あ……あれほど強い方々だとは……皆さん本当に至高(メレフ)ではないのですか……?」

「うーん。至高(メレフ)への昇格は()()()()危険な依頼を受けていけば可能なんだけど……ボクにとってもアダムにとっても、そこまで頑張ってなりたいものでもないかなってね」


 周囲の海面に大勢の海賊たちが浮かぶ船の上で、アトリエルは蛸魔獣と戦うヒカリたちの勇姿を見物していた。

 彼女がヒカリが戦うところをしっかりと目撃するのは初めてだったが、アダムたちから聞いていた情報や今それを見たことによる感想としては、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。と考えていた。


「(元々魔法のない世界からやってきたっていうの、未だに信じきれてないんだよねぇ……アレは才能があるとかでは片付けられない気がする。単なる強さとか魔術に長けてるとかじゃなくて、身体に魔力が()()()()()()()とでも言うような感じなのかな……)」


 この疑問の答えはおそらく預言者ならば何かは知っているのだろう。そしておそらくヒカリ自身が真摯(しんし)に知ることを望めばその情報を明かすのだろう。

 そうすることで彼女にまつわる重大な秘密が明かされることは容易に想像がつく。


 しかし彼女はそれをヒカリに明かさせようという行動の選択肢を直ぐに切り捨てた。

 アトリエルは自分の知的好奇心がとても強いことは十分自覚している。

 それが他人の繊細な部分に向けられた結果も想像に難くはない。

 順序を無視して分不相応な知識を得ようとする者は歴史上でも大抵は痛い目を見ているものであり、わざわざ自分までその仲間入りをしようとするほど彼女も は向こう見ずではないのだった。


「おいトリィ! それよりどうだ俺の()()はよ!」

「ああ、うん。悪くないと思うよ……というかとても強力だねコレ。特に貫通力と弾道の自由度が優れてるみたいだ」


 そう思考に(ふけ)っていたアトリエルはランドロックに声を掛けられて我に返る。

 (おもむろ)に見やるのは彼女が片手に持っていた武器。その身長に迫るほど大きな長弓らしき外観の魔弓だった。

 ランドロックが作り持ってきた魔弓は二つあったのだ。


 それは握りと同じ位置にある弦の二つの部分に円筒状の機構が取り付けられており、矢を(つが)えて放つというより、同じ動作をするだけの異なる道具であるかのような印象を受けるものだった。


「魔石加工店から大金払ってわざわざ()()()()を買ってきてな。手元の仕掛けに組み込んである。そこに魔力を溜め込んで発射時一挙にいくつもの魔術が飛び出すのさ!」


 その説明を聞きながらアトリエルが目を向ける先、船の近くにはヒカリに放り投げられたファレワルナミヒゲザメが浮かんでおり、その岩のような頭部には綺麗に風穴が開いていた。


「確かにすごい爆発力だね。強いて言うならしっかり撃つのに少し時間が掛かるのが気にはなるけど、元々前線に出ないボクには問題ないかな。これはボクが使わせてもらっても? 作成に使った費用は帰ったら払うよ」

「おまえから金を受け取るってのも妙な気分だが、今回はかなりの出費になったからな。一応貰っとくぜ」


 ヒカリとアダムが共に戦っているからか、彼女らは多少気の抜けた穏やかな様子で言葉を交わしていた。



「……っ気を付けて!」



 しかし海にいるベルの忠告によってすぐに警戒を始める。

 次の瞬間には目の前の海面が弾け飛び、そこには紛れもなく長い体を唸らせて船を見下ろす大蛇腕が存在した。


「なっ、なんであれがこっちに……!?」

「……なるほど。思ったより賢いみたいだね……」


 遠く離れた場所で戦っているはずの蛸魔獣の一部がどうしてこんなところまでやってきたのか。

 そのカラクリに気付いたのはアトリエルとベルの二人だけ。

 蛸魔獣はヒカリたちと戦いながらも少しづつ移動し続けて、大蛇腕がこの船に届く距離––––もっとも未だ数百メートルは離れている程度––––にまで体を近づけて来たのだ。

 これを理解できる者は、戦闘によく慣れ()の戦いをよく観察していた者だけだろう。



『––––––––!!』


「来るぞぉ!!」

「……ッ!」



 とうとう大蛇腕がその大口を開けて船に食らいつこうと迫ってくる!


 アトリエルは魔弓の攻撃は間に合わないと判断し、手をかざして何らかの魔術を使おうとするが、その前に海面から何かが飛び出した!



「ハッ!!」


 ––––––––水槍(すいそう)流・潮噛(しおがみ)!––––––––



 潮風の如き勢いでベルデリーリアが飛翔する!


 彼女は水流をまるで獣の牙のような形で伴わせた槍を大蛇腕の目元に突き込んだ!


 その衝撃と負傷に大蛇腕は大きく怯んで水中に引っ込んでいく。

 ベルはそこで着水するかと思われたが、背中の魚体に生えた羽根を広げて水面の上を飛び続けていた。



「ベル! た、助かった……」

「へぇ、本当に飛べるんだねぇ」

「あの嬢ちゃん、船下警護(ナルースル)なだけあってなかなか腕が立つじゃねぇか!」



 引っ込んだ大蛇腕は己に傷を付けた下手人を追って海中から襲いかかるが、ベルは海上を自在に飛び回って避け続け時に反撃して翻弄していく!


 少しの攻防の後、痺れを切らしたのか大蛇腕は本体の元へ戻っていく。

 それと入れ替わるように船の上にはヒカリが降り立ってきた。


「ふん……それ良さそうね。借りるわよ」

「あー、うん。気を付けてね」


 彼女はアトリエルが持つ魔弓に興味を示し、取り替えようとでも言うかのように手に持っていた小さい魔弓を差し出してくる。

 アトリエルが少々戸惑いつつも戸惑いつつも交換に応じると、彼女は長弓を取って空へと飛び上がっていく。


 対する蛸魔獣は周りに集めた大蛇腕へと先程以上に魔力を溜め込み、勝負を決めるための攻撃を繰り出そうとしているのが察せられた。


「ふゥーーー……」


 ヒカリは深く呼吸をしながら弓を構える。

 その姿は先ほどまでの勇猛で少し荒々しいようなものではなく、心・技・体……研ぎ澄ました刀のように鋭く完璧な調和が保たれた、美しいとすら言える集中状態だと見る者が見ればそう評しただろう。


 彼女の持つ弓へと魔力が注がれていく。

 刻まれた魔術理論に従って擬似的な砲台と化した(やじり)が輝きを放つ。

 そこに連なる筒に入った空石に魔力が充填されていく。

 さらに彼女のすぐ前方に大きな魔法陣を作り出し、その中央に莫大な魔力の塊を形成していった。


「……まさか、魔弓そのものとは別に()()()()()()()()()を……! なるほどねぇ。アレは常人には真似できないな」

「……例のサメは既に仕留めていたか」

「やあお疲れ。どうやらこれで決まるみたいだよ」

「そのようだな」

 ※

 《なんかすごそう》

 《結構強引に取ってくの草》

 《一撃で殺せるんか?》

 《パイセンいつの間にww》

 《あれ、ヒカリちゃん弓でも入るんだ》


 皆が彼女の姿を見上げる中、蛸魔獣は大蛇腕に溜めた魔力を解き放ち、まるで真紅に輝く宝石のような水塊弾を八つ放って来た!


 弾丸のような速度で迫るそれを前に、ヒカリの方もまた弦を引いていた指を解き放ち、二つの筒がぶつかり合い弓に刻まれた理論が一気に機能し始めた!


 鉄砲が弾けるように鏃から光線が放たれ、前方の魔法陣に集められた魔力の塊に突き刺さる。

 そこでまた多くの理論によって補強された魔術が一気に爆発し、より大きく海のように青い光線となって撃ち放たれた!



 ––––––––煌燠(こうおう)矢術(やじゅつ)八岐辰波(やまたたつなみ)––––––––



 八つの龍の様な首を持つその魔術は、本当に獲物を喰らおうと襲いかかる餓獣(がじゅう)が如く海の上を突き進む!


 瞬く間に出逢った紅き凶弾と猛き蒼龍。

 互いに八つの面を同時に突き合わせ、いやにあっさりと龍が弾丸を食い破り、四散する赤水を捨て置いて勢いを衰えずにいる。

 ヒカリはそれを見届けると同時に再び弓を構え始める。


「おお! 打ち勝ったぞ!」

「確実に終わったな……」

「圧倒的って感じだねぇ」

 ※

 《つええw》

 《弓が強いんじゃなくて?》

 《魔術ってのは毎回綺麗やなあ》


 八匹の龍が間もなく標的へと食らいつこうかというところで、それらは蛸魔獣そのものではなくその八本の触腕である大蛇腕の口の中へと飛び込んでいった!



『––––––––––––!!』



 瞬間大蛇腕の頭部は光に呑まれながら爆裂してしまった!


 蛸魔獣が苦しみ悶える中光が収まることはなく。大蛇腕の体内を通って(さかのぼ)るように八つの光線が進み続けているようだった。

 せめてもの抵抗と言わんばかりに、蛸魔獣は在らん限りの魔力を振り絞って自らの頭部から赤水の激流をヒカリへ向けて一直線に放出してきた!


 しかし既に彼女は第二射の準備を整えており、迫り来る激流へ真っ向から魔術の矢を撃ち込んだ!



 ––––––––煌燠矢術・蒼穹花爪(そうきゅうかそう)––––––––



 花びらが開くような光から一筋の光矢(こうや)が飛び出し、それは目の前まで迫っていた赤水の激流をただの水鉄砲かのように弾き飛ばしながら真っ直ぐ飛び続け、やがて蛸魔獣の表皮を破りその心臓へと突き刺さった!



『––––––––––––––––––––!!!』



 そして八本の腕を食い破ってきた龍の矢も本体へと到達し、九つの魔術が同じ場所で同時に炸裂した!


 蛸魔獣の断末魔を掻き消すようにその身体は内側から溢れる光の濁流にさらわれていき、その全てが消し飛ばされるほどの巨大な爆発が起こる。

 力と獲物を世界へと誇示するかのように光の柱が立ち登り、海は動転し天は(おのの)く。

 しばらくして光と衝撃が収まった頃には、巨大な魔獣が存在した海面にはその跡形のカケラも残されてはいなかった。


 その光景を目撃することとなった人々は、そのあまりの所業にうまく言葉が出てこないようだった。


「こ、これは本当に……人のやったことなのですか……?」

「うぅん、これはさすがに予想外だなぁ……彼女って最初からここまで出来たのかい?」

「……技術面はともかく、魔力総量と出力は初めの頃からあまり変化はないようだが」

「ヒカリのやつ俺さまの魔弓となかなか相性がいいみてぇだな! おもしれぇ使い方しやがる!」


 そうして戦いを終えたヒカリは甲板へと降りてくる。

 その時には既に彼女の纏う雰囲気は普段の陽気なそれに戻っているようだった。


「さてと! これでやっと元の仕事に戻れるわけだけど……ずいぶん荷物が増えたわね」


 彼女たちは船の周りに浮かぶ巨大ザメや海賊たちの姿を見て、その対応に困る内心を表すように深く息を吐いた。

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