24話 反撃の花火と究極の力
「ファーーーーーッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャア!! おれ様に傷一つ付けられないか弱い命が一体なァにを後悔させるッて……ぉ……? おオ?? う、ギギョ……ッ!!?」
※
《ん?》
《うわ》
《なんかの発作か?》
自分自身への信頼に満ちた啖呵を切るヒカリに心底可笑しいといった様子で笑い飛ばすガルムボーグ。
いつでも踏み潰せる小粒が張れる精一杯の虚勢とでも思っているようだったが、異形は不意に自らの体内に何らかの異変を感じて動きを止める。
その異変は次第に大きくなっていき、異形は体を震わせながらその原因を探ろうとするが、急激に膨らんできた圧迫感が、体内を押し潰そうとしているかのような激痛を伴い始めたことでその程度のことを考えている余裕すらなくなってしまった。
「もガァァッ……!! ゴおッ! ぶジジジジジジジジジ…………!! なァ、なニをし、ジたアアアあアアアアアあア……!!??」
「あら、それが私の仕業だって気付く程度の頭はあるのね。教えてあげる、魔力が使い手の意思次第でどんな物質にも変化するものなのは当然知ってると思うけど、私はあなたの体内に直接送り込んだ魔力を鋼鉄として現出させたのよ。今あなたの頑丈な殻の中では、無尽蔵に増え続ける異物が内側にある臓腑を、同時に外側にある骨の部分を押し潰そうとしているって状態なわけ」
※
《!?》
《うえええ》
《えっっっぐ》
《なるほどねー》
《いやどういうこと?》
《グロい能力をグロい発想で上回るな》
ヒカリの言葉通り今異形の身体の中ではそこに潜り込んだ彼女の魔力が、自己増殖を繰り返しながら具現化したブロック状の鉄粒がその量を今もなお増やし続けていた。
「ギゴごごゴ……ッ!! な、何ゼだ! そんナこトヲする隙ハ無かッタはず……! まッ、マさか……おレの身体に触ッタ、あの一瞬デ……!?」
「その通り、あなたは体に魔術的な防護を施してあったんでしょうけど、私が瞬勁を打ち込んだあの瞬間、密接状態にあった手のひらから魔力を浸透させるって方法ならそれを掻い潜るのはそう難しくなかったわ」
「ば、バけ物がァァァ……!! ブヅッッッ……!!! だガ無駄だァ……! 究キョぐ、スい弱ガある限リィィィ……!! おれハむで、無てギだァァァァァァァァァァ!!!」
ガルムボーグは自身の臓器を圧し潰そうとする体内の鉄粒を自分への攻撃と強引に解釈。
ソレから受けるダメージを究極衰弱によって抑えながらなんとか限界が来る前に元凶であるヒカリを始末してしまおうとする。
しかしたった数秒で爆発的に増幅する体内の圧迫感と激痛に意識を持っていかれ、異形は既にまともに攻撃をすることすらできない状態に陥っていた。
「やめておきなさい……その能力で減退できるものは肉体が受けるダメージの程度だけ。一度防げば消えるただの攻撃とは違って今あなたの体内では、”待っていても消えない実体”が質量を増し続け飽和状態を突破しようとしている。増殖が終わることはない以上どれだけ耐えようと時間の無駄だし、防ぐことができるダメージがたった99%じゃどんなに頑張っても物理的に必ず限界が来る。むしろ外殻が壊れないほど苦痛を受ける時間は長くなるわよ」
「おヴオ、ゔ……オヴオヴオヴ……ッ!! コんッナコ、とがァァァァァ……!!」
※
《えげつねえ》
《ざまぁwww》
《ちょっとかわいそうになってきた》
《澄ました顔してやってることサイコすぎん?》
《直接攻撃じゃなく物理法則上の不可能を押し付けることで鉄壁の守りを突破か、やっぱさすがだね》
《相手の硬さを利用してより苦しめるようにしてるとこは悪趣味だけどな…》
ヒカリは不可攻略の砦と思われていたガルムボーグの防御を、誰も予想していなかった方法であっという間に打ち破ってしまった。
徐々に堅牢なはずのその外殻がギシギシと強い圧力を掛けられる音と共に膨らみ始める様を見た者の反応は、素直な関心、異形への同情、ヒカリの手腕への畏怖などと様々だった。
少しの間処刑台へ登る罪人を見るかのように静かに目を向けていた彼女は、ついに異形の体が限界を迎えようとしてることを察していた。
「ヌ、ごおォォォ……!! ゆ、ルざんんゥ……!! デめェェェェェ……ゼッだイ、ぶッコ、ろジてや、ァァァァァァァァァァァ…………!! ブッぶぷブぶプぶぶぶブぶ––––––––ップ、ぎィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィぃ!!!」
究極衰弱によって99%もの負担を軽減しながらも体内で際限なく増え続ける質量を完全に押し留めることができずに、みるみると膨れ上がりやがて外殻の耐久力臨界点に達することを知らせるかのようにガルムボーグの声は苦悶の色を強めていく。
そうして最後の瞬間、ヒカリが異形へと手をかざして鉄粒の増殖を爆発的に加速させることで、ついにガルムボーグはその生き様に相応しい惨めな断末魔をあげながら粉々に爆散してしまった。
四方に弾け飛ぶ骨や殻の破片と共に膨大な鉄粒が溢れ出して地上へと流れ落ちていく。
そんな異形の残骸が先ほどまで存在した場所から微かな光が立ち昇っていくのを見て、ヒカリはようやく溜飲が下がったというように鼻を鳴らした。
「あなた達の神とやらに、地獄でよろしく言っておきなさい」
※
《うおおおお!!》
《かっけーー》
《ものっそい鉄出てきて草》
《薄汚え花火だ》
《あんなのが体の中にあったんか…》
《ガルムボーグ、いいやつだったよ(ではない)》
*
「ゴッハゴッハハハァーーー!! どうしたどうしたァ!? 威勢の割にさッきから俺さまの外殻にかすり傷一つ付けられてねえじャねェか! そろそろいい加減にくたばッちまいなァ!!」
「ええ加減にせえっちゅうんは、こっちのセリフじゃ!!」
ヒカリの戦いが決着しようという頃、地上ではアダムとカレスデルフの傭兵であるオウガの二人が、もう一人の虐殺隊長であるバロンダルクと未だに激闘を繰り広げていた。
「無駄にタフな屑と無駄に避ける屑の虫ケラコンビネーションがよォ!! 仲間が援軍に来るまでの時間稼ぎッてんなら無駄だぜ!! てめェらと戦やァ分かる! この俺さまに勝てる虫ケラはこの世界にいねェ!! 鬱陶しさだけは褒めてやッてもいいがなァァァ!!」
「くっ……!」
怪力自慢のオウガは正面から異形へとぶつかっていき、加速魔術によって目にも止まらぬ勢いで駆け回るアダムが隙をつき、目や首などの急所を攻撃するも効果が認められないまま同じような攻防が繰り返されるという構図が続いていた。
しかし二人は唯一アダムが持つ勝ち筋を確実に通すため、今はこのままでいいと痺れを切らさぬよう意識を張り詰めて戦い続けている。
「喰らえ!! ギロチン・サベージ!!」
バロンダルクは自身が操る液体金属を幾つもの鋭利な刃状に変形させ、それを鞭のようにして身体を高速回転し振り回す。
急激に伸縮し体積を変える断頭刃による数百メートル四方に及ぶ殺戮の大回転。
周囲の木々や岩石、大地そのものを斬削しながらもその勢いを止めないきりきり舞いに、アダムは加速しながら剣による受け流しと併せて回避し、オウガは両手の金棒を盾にしてじっと耐えることで被害を浅い切り傷ができる程度に抑えられたようだった。
「ゴッハゴッハゴッハ!! マジで無駄に頑丈な虫ケラだぜ!! よゥし! 次は体ん中に俺さまの触液を入り込ませて、てめェの内臓をズタズタの挽肉にしてやるよ!!」
その一連の攻撃が全力のものだったかは定かではないが、己の猛攻を受けて未だに目の前の動物が生存していることが嬉しいのか愉快なのか、バロンダルクはどこか興が乗ってきたという様子でオウガへと向かっていく。
それにオウガ自身は本気で迎え撃つつもりで構えているが、本命は己の存在感の陰に潜むように決定打を狙い続けていたもう一人にあった。
彼と異形が次の瞬間には衝突するという間際に、バロンダルクの背中へ剣の鋒が突き付けられた。
「撃神剣––––––––」
「あァ? てめェもしつけェなァ! 何度やろうが完全に無意味だッてまだ理解できねェのか……」
「––––––––点閃!!」
彼らが戦いを続けることによってまたその魔術を使うための概念が辺りに蓄積したことで、アダムは再びそれらを己の剣に集めて破壊力を持つ魔力そのものに変換していく。
しかしソレと彼が行っていた今までの”秘剣”との違いは、変換した魔力の集まる場所だった。
今までは剣そのものに魔力を纏わせる形で斬撃を繰り出していたが、今度は剣身ではなく鋒へ一纏めに浮かび上がらせる形で、本来は光線を放つ遠距離攻撃として使うという想定をしていたそれを、彼は鋒を突きつけた異形の体内に集めていた。
ここまで密着していればどんなに分厚い鎧の向こう側にも彼の魔術で実体のない概念なら集めることは容易。
闇雲に攻撃していてもその圧倒的な防御力を持つ外殻を突破することはできない、ならばと考案した彼の奇策は、なんの因果かほぼ変わらぬ時に別の異形を倒した仲間と同じ発想だということは彼には知る由もなかった。
「あ? なんだ……ッぐが!? こッこれァ……! 俺の体の中に妙な魔力が集まっていく!? 何しやがる気だてめェェェ!!」
既に攻撃アダムの狙いを僅かながら察知したバロンダルクは、液体金属の触腕で己の体を包んで守りながら振り向きざまに背後を薙ぎ払う。
しかし既に魔術を完成させていたアダムはすぐさま跳び退り、異形の体内に存在する大量の魔力を解放する。
「むゥがァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!?」
これは本来ならばレーザーのように一直線に撃ち放つ技だったのだが、今回は集めて変換した魔力を制御することなくあえて暴発させることで、バロンダルクの柔な内臓は正にズタズタの挽肉へと変えていった。
長い首の先にある複眼から漏れる光がその威力を物語っている。
その決定的な隙を見逃すことなく飛び込んできたオウガは、両手の金棒を大きく振りかぶって液体金属の防御が緩んだ小さな箇所へ渾身の一撃を叩き込んだ。
「巨鼓!!」
規格外の身体能力に研ぎ澄まされた戦闘技術、そして最高効率で全身の筋力を強化する魔術の合わせ技によって無双の領域に達したオウガの超激打。
さすがにバロンダルクの外殻を砕くとまではいかなかったが、間違いなくアダムの魔術によって致命的なダメージを負った内臓に多大な追撃となっているだろう。
そして異形の体はバットに打たれたホームランボールのように吹き飛んでいった。
「一丁上がり……っちゅうとこか」
「内臓器官が生命維持に不可欠なものも含めてほぼ完全に損傷しているだろう。どんなに強くとも死は免れない……はずだが」
二人の心中にはこれで仕留められていればいいが、という半分願望だと分かっている期待がほんの少し存在していたが、ソレが飛んでいった先の遠方から暴風の如く叩き付けられる魔力の増大を見れば、そう簡単に終わる戦いではないのだといやでも実感せざるを得なかった。
『––––あァ〜あァ〜、痛ッてェなァおい! わかッたわかッた、お遊びはもう終わりだ……そんなに死にてェッてんならよォォォ……そろそろ本気でぶッ潰してやるぜェェェェェ!!!』
その姿が見えない程度には離れた場所に飛んでいったはずだというのに、むしろより大きくなったようにバロンダルクの声が辺りに響き渡った。
一体何をするつもりかと身構える二人を嘲笑うかのように、次の瞬間から目に入った異形の行動、というよりは異形の身に起きた現象に、彼らは驚愕の瞠目を取り繕うこともできなかった。
「な……これは……!」
「……こら、思うたより骨が折れそうやなぁ……」
若いアダムはともかく、長年数え切れないほどの修羅場を押し通ってきたオウガでさえ背筋を一滴の冷や汗が伝うほどの脅威。
それは彼らが立っている場所を太陽の光を遮り影で覆い尽くし、その場にもう一つの山が現れたのかと思うほどの重さと重厚感を感じさせるほど巨大になったバロンダルクの姿だった。
『ゴッハゴッハゴッハーーー!! さァ驚いたかァ!? 腰を抜かすなよ!! これが俺さまの極限魔法! 『究極膨張』だ!!!』
*
そして同じ頃、アーユグラの中央広場にいるイズナたちは、そこに広がる光景、街の地下から現れた魔獣の群れへ勇ましくも挑みかかっていった傭兵たちが無惨に喰い殺されている光景に呆然と己が目を疑っていた。




