23話 VS『虐殺隊長ガルムボーグ』
「あーあー! はッきり言ッて拍子抜けもいいとこだぜー!! まあおれ様が相手だという絶望的な条件を加味するとしても? 人=間ッてのァちョいとひ弱ッちすぎる気がしないでもないんじャないのォ〜〜〜〜〜〜!!??」
※
《うわぁ…》
《うぜぇwww》
《どうすんのこれ》
《煽りカスがよぉ》
幾つもの触腕をうねらせて小躍りしながら挑発をしてくる異形の存在ガルムボーグ。
その目の前で、ヒカリは傷だらけで血に塗れた体をなんとか律して戦える姿勢を保ち続ける。
アーユグラの街にいる友人やそこに住む人々を守るため、そしてこの戦いを見守る同郷の観測者たちへこれ以上の不甲斐ない姿を見せないため。
そしてそれら全ての人類を救うという己の覚悟を貫き通すため、決して倒れることも屈することもしないという強い意志を表すように、彼女は既に出血の止まった傷痕を捨て置いて動き始める。
「暴れるんじャなーーーい!! その柔らかで貧弱な体を粉微塵に消し飛ばさないよう手加減するのはとッても繊細で難しい作業なんだじョーーーーー!! ヴァルカノン・シザース!!」
ガルムボーグもヒカリの行動を待っていたかのように再び攻撃を始める。
幾つもの鉤爪の生えた触腕を振り回し、三日月状の魔力の刃を無数に打ち出してきた。
四方八方へと飛んでいくその刃群を回避・迎撃しながらなんとかガルムボーグへと近づこうとするが、弾幕があまりにも暑すぎて接近するための隙間を見つけることができなかった。
「ちョこまか飛びうざすぎィ!! おめェさんの弱点はもう理解ッてるんだヨゥ!!」
「……くッ!」
少しして痺れを切らしたのかどうか、ガルムボーグは唐突にヒカリのいない方向へ魔力の光線を放つ。
彼女はすぐにそれがアーユグラの街がある場所へ向けたものだということに気付く。
そして背後に作り出した魔法陣からロケットのように炎を噴射して一気に加速し、光線の前に陣取って前方へ二つの魔法陣を重ねて作り出した。
「煌燠千条波!!」
莫大な魔力が収束し、七色の光線が螺旋状に回転しながら放たれる。
それはガルムボーグの光線と正面からぶつかり合い、先の山を吹き飛ばした魔力塊の爆発にも負けないほどの衝撃と轟音を空に走らせた。
まるで魔力を介して相撲を取るかのような力比べの様相を呈する撃ち合いだが、その周囲に散っていた無数の魔力刃の軌道が突然一斉に変わった。
「もちろん発射後操作できるもんネーーーーー!!」
「な……!?」
※
《!!?》
《うわ》
《ずっっっる》
《よけろ!()》
全方位から迫り来る魔力刃群には人間一人がすり抜けられるような隙間はなく、回避することは不可能なように思えた。
アーユグラへの攻撃を抑えるための光線の撃ち合いで精一杯の彼女には、魔術を使っての迎撃なども難しいようだった。
なにかこの場を切り抜ける方法はないかと高速で思考を巡らせるも、無情なほど一瞬で過ぎ去っていく束の間の後、ヒカリは刃群の牢獄の中に消えてしまった。
「ファーッヒャッヒャッヒャッヒャッ!! これでいッちョあがりィ!! 肉体が消し飛ばないよう力加減をするのにャあちョいと一苦労だッたが、ようやく欠損なしで捕まえられそうだぜ〜〜〜〜〜!!」
※
《うわあああ》
《え、どうなったの》
《おお、やるじゃない》
魔力刃同士の衝突や途切れた二つの光線による爆発で視界が塞がれる。
ヒカリの体が無数の包囲攻撃によって呑み込まれていった光景を目にした視聴者たちは、これまでに圧倒的な力を見せてきた彼女でもさすがに生存は絶望的かと思ってしまった。
「––––それはどうかしら?」
––––––––白菱流忍法・百景幻身の術––––––––
「なにィ!?」
だが突如としてガルムボーグの背後で破裂音と共にモクモクと煙が立ち上り、その中から傷の塞がり始めた五体を満足に持ち合わせた様子のヒカリが現れた。
それは彼女が地球にいた頃、武術を教わっていた師匠の内の一人から伝授された忍術の技だった。
この事態は予想していなかったのか、驚愕の声をあげるガルムボーグが振り返る前に彼女は動き出す。
背後の魔法陣からより強烈な推進炎を一息に噴射させることで瞬時に爆発的な加速を得て、異形の外骨格から露出した内側の赤黒い甲殻の部分を狙って両腕による掌底を突き出した。
––––––––瞬勁・爆迫––––––––
「モギャャッ!!?」
本来はただ最速の動きで相手に打ち込むことを目的としており、その威力は最小限に抑えられる技。
だが爆発的な推進力によって前方に押し出される体の勢い、技の起こりから最後までがほんの一瞬に過ぎないが故に、掌から力を伝えるタイミングが命となる瞬勁の呼吸が自然と噛み合うことにヒカリは無意識のうちに気づいていた。
だからこそ互いに門外である忍術から繋いでの速攻という無茶も初見でやり遂げられたのだろう。
「オ……オぐゲあ……ゴんご……ッッッ!!」
※
《おお!!》
《なんだいまの!?》
《いったあああ》
《技の種類いくつあんのよ》
その発勁の一撃は人間で言う後頭部に当たる部位へまともにヒットする。
間違いなく如何なる生物も致命傷となって然るべき痛打であり、どれほど強固な外殻を有していようともそれを無視して内部へ直接伝わる力の波動は、着打点の直線上に存在するガルムボーグの重要な臓器を確実に破壊した。
「ォォォォォ………………なんつッて▽」
はずだった。
「……ッ!!」
「なんということでしョ〜う!! 依然として無傷! まッたくもッて効いてないんだなこれが〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
※
《は?》
《ええええ!!》
《なんじゃそりゃ》
ガルムボーグは見た目はもちろん態度や声色すら全く堪えた様子もなくまた小躍りをしている。
見る限り赤黒い外殻にはもちろん傷一つない。
内部にはダメージが通っており痩せ我慢の演技であるという可能性は考えたが、それはあくまでもこちら側に都合のいい希望的観測に過ぎないとすぐに思考から排除した。
ガルムボーグ瞬勁によってダメージを負わされたという、一抹の希望を打ち砕くような演出によってヒカリの精神的な屈服を誘っているのかもしれない。
「なんでどんな攻撃をしてもこれッぽッちだって効果がないのか知りたいかい?? ファヒャッ!! これからペットとして末長く一緒に生きていくことになるんだし特別に教えてあげちャう!」
「…………」
「おれ様が闇の父から授かった能力は『究極衰弱』!! コイツは物理的・能力的に関わらずおれ様が受けるありとあらゆるダメージを、なんと99パーセントも減退させてしまうのだァーーーーーーー!!」
「っ……!!」
「ファーーーッヒャッヒャッヒャァ!! ただでさえ三万光年は離れている力の差が? まさかそこからさらに百倍も遠ざかッているとは夢にも思ッていなかッたようだなァ〜〜〜〜〜〜〜〜???」
※
《はー??》
《うそやん》
《インチキじゃねぇか!》
ヒカリがまるで自身に太刀打ちできていないという事実に上機嫌になっているせいか、自分から何をしても無傷のままになる理由を説明し始める。
しかしそのカラクリがタネも仕掛けもない純粋なそういう能力であると明かされた事実。
それは彼女の戦いを観測する者たちにとって、まるでゲームをしている最中に不自然な挙動を見せる他のプレイヤーと遭遇した時に似た、道理を軽視する無法者に理不尽を押し付けられる不快感を味わっていた。
「……預言者さん。アイツって侵略者の中だと実力的にどれぐらいの位置付けにいるかって知ってたりするかしら」
※
《預言者:そうだな。ガルムボーグは能力だけなら一見無敵だが、強力な特異性を持つのは侵略者の大半に共通する要素だ。その点で奴を見ると、魔術は見た目の派手さばかりが先行し、接近戦では格下にも遅れをとるほど地力が低く、君のような存在に秘められた絶大な潜在能力を予感するような勘の鋭さもない。はっきり言わせてもらえば、究極衰弱も込みで中堅あたりが限界といったところかな》
《草》
《これマジ?》
《能力の最強感の割にボロクソに言われすぎで草》
《コントかな?》
《なんか一気に三下に見えてきたんだけどw》
あまりにも無法と言う他ない強力すぎる能力。
一部には絶望感すら漂い始めたというところにヒカリがふと尋ねた事への預言者の返答は、瓶の中の濁り水を丸ごと入れ替えるかのような一息の勢いでそんな澱んだ空気感を払拭してしまった。
「なるほどね……あなたから見ても、今の私なら十分勝てるって読みで間違いないのね?」
※
《預言者:君の仕込みを思えばそれを疑う必要はないだろう?》
ヒカリはその時点で彼女の狙いを唯一見抜いているらしい預言者の言葉に笑みを深める。
あとはその仕掛けを実行に移すだけなのだが、彼女は今も目の前で状況を察知することもできないまま大笑いを続けるガルムボーグを眺めている。
それは通常の人間であれば身に余ると言えるほどの自信と自己愛から来る誇りが、この度し難く醜い怪物の、彼女の故郷やそこに生きる愛する人々、そして彼女が必ず救うと決意したこの新たな世界に破滅をもたらす絶対悪の使者へ、力だけではなく心にまで刻み込まれるほど完膚のないほどの敗北を突きつけるのだと命じるが故の待ちだった。
そんな傲慢すら超えた天上からの視点に気付くこともなく、ガルムボーグはようやく再びヒカリへ視線を向け、そこでようやくある違和感を覚えた。
「ん、んンンンンンンンンンンん??? おやおやおやおやおやァ?? なんだかさッきから無数の妙な気配がすると思ッたらァ?? ちョッと前に観測た変わり種共と同じ臭いがするじャないかァ〜〜〜〜〜!!」
「…………」
異形はその違和感の正体を絡まった糸を解くように記憶の中で探しているようだった。
ヒカリは突然奇妙なことを言い出した異形に内心で訝しむが、感じていることを表情に出して無駄に相手を悦ばせる必要もないとおくびにも出さないようにしている。
「ンーーーーー、それがおめェさんのそばにあるッてことはだ……なるほどォォォ……おめェさん、さてはあッち側から来たんだなァァァァァ……?」
「さっきからなんの話をしてるのかしら」
「それなら益々殺さずに捕まえなきャいけねェなァ……そッちの世界に行く方法を得る手掛かりになるかもしれねェ。ファヒャヒャ! 王からとびきりの褒美が出るかもしんねェなァ……こいつァ思わぬ収穫ッてやつなんじャねェの!?!?」
※
《なんて?》
《ちょっとなに言ってるかわからない》
《主語を付けろ主語を会話下手か》
《これもしかして俺らが見つかったんじゃね?》
《撮影バレまじか最悪裁判になっちゃうよ》
《↑バケモンの世界に弁護士いるのか?》
《預言者:どうやら集まる人々の意志が少し大きくなりすぎて、ある程度魔術的な感知能力が優れた存在にはこの配信の存在が察知される可能性があるようだな。これは私も初めての経験だ》
《はえー》
《冷静に分析しとる場合かー!!》
《まあ預言者が焦ってないなら今すぐに危ないってことはないでしょ》
まともに会話をするつもりもないらしいガルムボーグはなにか一人で勝手に納得しているようだった。
ヒカリは表面上は理解できず戸惑っているように見せかけているが、その実この異形が一体何に気付き何を企んでいるのかについてあらかた察しがついていた。
「(こいつ、地球のことを知っている……? それどころかこいつら侵略者は地球側の世界へ侵攻する方法を模索していて、私がその鍵になると当たりをつけた……きっかけはおそらくこの配信のコメントを映す画面でしょうね。コレから存在を感知したことで前々から狙っていた地球への侵略に利用しようとしてるってとこかしら))
頭の中で自分にわかる範囲で状況を整理し、想定できる限りでは自身さえ陥落しなければ地球が攻め込まれるといったことは、少なくとも今や直ぐのことに実現するようなことはないと確信できた。
ならば彼女にもう怖いものはない。
なぜなら二つの世界を滅ぼそうとする侵略者たちをそうなる前に自分が一人残らず蹴散らしてしまえばよいと脳筋もいいとこの結論に至ったからだった。
「ま、私に勝てなきゃ全部ご破産よね。今から土台無理な皮算用だって理解させてあげるわ!」




