13話 指名依頼と遠方への旅
「ちょうど出来ることならあなたに仕事をお願いしたいと思っていたんスよ! 報酬は指名料をうんと弾むっスから、どうかお願いしまっス!」
「おやおや……」
「そこまで期待を掛けられちゃうとしかたないわね。私に任せなさい!」
「ちょっと待て、詳細も確認しないまま考えなしに依頼を受けるな。暴走馬か君は……」
※
《いや草》
《即決www》
《あまりにも迷いがなさすぎる》
《なんかクセ強そうなんきたな》
《コミュ力は高いみたいやけどほのかにワイらと同類の臭いがするわ》
ギルドでの冒険者登録が住んだヒカリは、早速なにか手頃な仕事をこなしてやろうと今受けられる依頼の書類に目を通していたのだが、突然ギルド内に現れた謎の男が彼女に妙に興奮した様子で絡んできたことで、その光景を見ていたほとんどの人間がなにかおかしな展開になってきたのを感じていた。
とにかく一旦ギルド内の応接室のような部屋を使い、依頼をしたいというその男と相談をすることになった。
「さて、まずアンタが何者かってところから教えてくれ」
「あ、まずそこからっスよね! いきなり失礼しましたっス! 俺はエラヴロ・ワルキューバって言うっス!西三番街の魔石加工店で働いてまっス! 今日は皆さんに折り入って頼みたい仕事があるっス!」
「焦らなくていいわよ。どうしても助けが必要なくらい困ってるなら私が手を貸してあげるわ!」
エラヴロと名乗る男はヒカリたちより一回り年上といった程度の若者のようであり、直情的な印象のあるはっきりとした物言いや積極性から、かなり陽気で行動力のある好ましい青年であると彼女は認識したようだった。
「その前に聞きたい。指名依頼ということだがなぜ彼女を?つい先ほど傭兵になったばかりの新人だが」
「そんなの昨日の大活躍を見たからに決まってるじゃないスか! 光り輝きながら空を飛び悪しき魔獣を討ち倒す女戦士! 今はもう街中光姫様の噂で持ちきりっスよ! そんな彼女なら俺の依頼を必ず達成してくれると踏んでの指名というわけっス!」
「……ねぇ、傭兵を指名しての依頼って普通なの?」
「個人からの依頼の場合はほとんどないことかな。依頼元の人物はギルドに依頼を出して自分が支払うための内容に見合った報酬を設定するんだけど、客側から特定の傭兵を指名する場合、その階級に応じて追加で傭兵側に支払う料金が掛かってしまうんだ。だからこういった個人からの指名依頼っていうのは滅多にないことのはずなんだけどね……」
※
《へーー》
《まあ昨日のを見てたんなら強いのは保証されてるしおかしくはないね》
《強いやつなら誰でもよくてヒカリちゃんが美人だから下心で指名したんじゃない?》
《そんな理由で割高の依頼料払うのか…》
《やっぱリソースの使い方が俺らと同じじゃねぇか》
エラヴロは彼女に頼みたい仕事の内容よりも随分と彼女自身の存在に夢中になっているようだった。
ただ気に入っているからでは片付けられなさそうなほどには興奮しているようだったが、恋は盲目という言葉があるように、心を射止められた相手に無我夢中で向かっていくという人間の在り方は、地球の人々にとって十分理解できるものだった。
「はぁ……まあいい、とりあえず彼女はまだ傭兵の仕事に不慣れだ。内容にもよるが、その仕事には俺も同行しようと思っているが構わないか?」
「えっ!?そりゃ頼もしいっスけど……ヘイルダムさんって一流でしたよね? そっちの分まで払える金はないんスけど……」
「心配するな、そこまで金に困ってはいない。緊急の事態にでもならなければ手は出さないようにするし、そちらにも一切追加料金等は要求しない。これならいいか?」
「そういうことなら俺に文句はないっス! ぜひともよろしくお願いしまっス!」
アダムのまるで保護者のような対応のおかげで円滑に話がまとまり、ようやく本題となる依頼の内容を聞く段階となった。
「それで、あなたは私に何をしてほしいのかしら?」
「やることは単純っスね! 俺のことをアーユグラまで連れて行っていただきたいんスよ!」
「アーユグラ? っていうと、連合の首都だったわよね」
「うん、ドゥナダスからだと馬車で四日以上かかる距離になるけど、つまり依頼の内容は首都までの護送ということでいいのかな?」
「だいたいそんな感じっスね!」
※
《ほう》
《護衛すればいいのね》
《往復8日は長いな…》
《内容は普通っぽいけど》
《なんでわざわざヒカリちゃんに頼むんや》
《こーれワンチャン狙ってます》
《お義父さんコイツです》
《↑お前も誰やww》
視聴者たちのような邪推ではないものの、ヒカリたちも多少エラヴロの真意を図りかねていた。
初めから実力が保証されているアダムやアトリエルなどに仕事を頼まないこと、今のところ考えられるその理由としては、傭兵としての階級が高い2人へ依頼する場合に掛かる資金が足りず、ちょうど同程度の実力があると思われる新人傭兵を指名することで、できるだけ出費を抑えようとしているのではないかとヒカリたちは予測していた。
「これは帰りの護衛も含めた依頼ということでいいのよね?」
「そうっスね! その日のうちに帰りの馬車に乗るつもりっス!」
「ふぅん。一応聞くんだけど、アーユグラには何をしに行くのかしら?」
「あー、いや……なんというか、それはっスねぇ……」
「なによ、急に歯切れが悪いわね。笑ったりしないから教えてちょうだい?」
首都へ向かう目的を聞かれた途端どこかバツが悪い様子で口籠もるエラヴロ。
ヒカリたちは彼がよからぬことを企んでいるような気配はしないものの、大手を振って自慢できるような俗っぽい理由なのかとヒカリは察し始めていた。
「じ、実は……“メリャンコラ”様がアーユグラに訪れるって噂を聞きまして、どうしても会いに行きたいんスよ!」
「……ふむ」
「へぇ、彼女が?」
「それ誰? 有名な人なの?」
「知らないんスか!? メピオス島出身現在37歳の世界を股にかける“踊る歌姫”と讃えられる超がいくつも付くぐらいの人気者っスよ!」
※
《なるほろ》
《オタク特有の早口》
《アイドルってこと?》
《37はキツくね?》
《俺はイケるけど?》
《なんか対抗心湧くかも!》
《昨日の夜ヒカリが読んでた本によるとこの世界の人間は平均寿命150前後らしい。だから3・40代は全然若い》
《マジか異世界ギャップ》
《つまりアーユグラで訪問ライブってこと?》
《まあ確かにドルオタなら死んでも行くよな》
メリャンコラという人物は並大抵のことでは得られないほどの名声を持っているらしい、エラヴロの語り口調と表情の高揚っぷりを見ているだけでそれがよくわかるようだった。
そしてヒカリはこれによって、彼がアーユグラに向かうまでの護衛役として自分を指名したことに、まだ自分たちに明かしていない真の理由があるのではと直感したようだった。
「なるほどねぇ、そりゃあそんなにすごい人の歌は直接聴きに行きたいわよね」
「そうなんスよ! やっぱり光姫様ならわかってくれると思ってたっス!」
「うんうん。それでメリャンコラに会うために私を連れていく必要があるってことかしら」
「そうなんスよ! いやぁさすが光姫様! そんなことまでわかっ、ちゃう、なんて……?」
「興奮してたおかげでずいぶん初歩的なやつに引っかかったわね」
※
《なんか草》
《どゆこと?》
《ヒカリちゃんを推しに会うためのダシにしようとしてるってことじゃね》
《なるほどシベリア送りだ》
《おいおいおいおい頭が高いじゃないの》
これは話術と言えるほどのものではなく、ヒカリの鋭い勘に任せた当てずっぽうのようなものだったのだが、エラヴロはドンピシャといった具合に言い当てられてしまったために誤魔化す暇もなくなったようだった。
「で、具体的になんで私を指名したのか、教えてくれるかしら?」
「は、はいっス……まあ、なんと言いますか……俺みたいな普通の男じゃメリャンコラ様と直接会って話すなんて夢のまた夢って感じなんスけど……同じくらいメチャ美人な光姫様を連れ立っていけば、もしかしたら目を付けてもらえる可能性もあるかなぁ、なんて……」
※
《いや草》
《やっぱダシじゃねぇか!》
《ふざけんな吊るせ吊るせ!》
《気持ちはわかるが身の程を知れい》
《肝の太さだけは尊敬できるかもしれん》
「……」
「あはは……まあ下心って言っちゃえばそれまでだけど、どうするヒカリちゃん?もし気が変わったなら受けなくても……」
「いいえ、今さら決めたことを変えたりしないわ。それに私がすっごく美しいからそう考えたんでしょう? まあ当然だししかたないわよね! なんならメリャンコラに会うのも手伝ってあげるわよ!」
「ま、マジっスか!? すげぇ、やっぱり俺の見立て通り心まで聖女のようっス! この恩は忘れないっス!」
「まったく……お人好しと言うべきか……」
「ふふ、かもしれないね。でもこの美徳と同時に簡単には騙されない目利きも持ってる。よほど親御さんの育て方が素晴らしいんだろうね」
※
《それな》
《現代ではありえんぐらい光属性、ヒカリだけに》
《氷属性の能力者がいるな》
《実際誰がどう育てたらこんないい子に育つんや》
《日本人はだいたい察しついてると思うけどあんまメディア露出はしないからどういう人間かはわからん》
《一応娘がいきなり異世界行っても推定誘拐犯の可能性あるやつと冷静に話つける程度には肝据わってます》
《↑この親にしてこの子ありだなw》
アダムが心配半分に呆れてしまうほど器が広いらしいヒカリの振る舞いは、しかし両親から教わっているのだろう物事の真偽を見極める教養も持ち合わせているおかげか、その行く末を不安を煽るような空気を感じさせない地盤の固さを思わせるものだった。
そうしてエラヴロの依頼を引き受けることとなったヒカリたちは、ドゥナダスから首都であるアーユグラまでの遠出の準備をするために一旦拠点へ戻っていった。
*
「……エラヴロ、ですか……?」
「ええ。イズナ、もしかして知り合いだったかしら?」
「い、いえ……それよりも、メリャンコラかぁ……私、ドゥナダスから出たことがないから、あの人の歌って聴いたことないな……」
「気になるなら一緒に来る?」
「え? いや、でも……ヒカリさんの護衛の仕事に着いて行くのは邪魔になっちゃうし……」
「邪魔だなんて思うわけないでしょ。私はイズナと一緒に歌を聴きたいわ、あなたがよかったら来てくれないかしら?」
「んん……じゃあ、行こうかな」
※
《てぇてぇ》
《ヒカイズ来てますねぇ!》
《豚どもは家畜小屋に帰れw》
《こんな世界だとやっぱ一つの街で一生を終えるとか普通なんだろうな》
《いつ魔獣に襲われるかもわからん環境だとなおさらだな ドゥナダスはまだマシなぐらいだろ》
ナツィラに戻ってイズナに事の経緯を話していると、メリャンコラの存在へそれなりに大きく興味を示しているようだったため、ヒカリはイズナに遠慮させるつもりが全くないとでも言わんばかりに強く誘い込んだ。
ヒカリはイズナがまだ幼い身で早く他人へ気を遣うことを覚えてしまったせいか年少として上の者にわがままを言うことができずにいることを見抜き、相手がそう望んでいるため都合よく願いを叶えられたという体裁を作ることで、イズナ自身が気に病むこともない話の付け方を選んだのだった。
「これから八日間寂しくなるけど、ヒカリちゃんたちはちゃんと楽しんでくるんだよ」
「残念ね。トリィは一緒に行けないの?」
「ボクまでいなくなると、ドゥナダスで昨日みたいな不測の事態に対応できる傭兵がいなくなっちゃうからね。まあこっちのことは気にしなくて大丈夫。気長に待ってることにするよ」
※
《ノア:一応言っとくとタブレットで写真とか動画も撮れるぞ》
《え》
《いやできるんかい》
《サンキューノアきゅん》
《それを早く言わんかーい!》
「あぁ、その手があったわね! トリィ! 帰って来たらメリャンコラの歌う姿、あなたにも見せてあげるわね!」
「おや、そんなこともできるのかい? 君の世界の道具は便利だねぇ。それじゃあ期待して待っていようかな」
そんな話をしながら旅の準備を進めるヒカリたちは、その後すぐに街を出発するためエラヴロと合流しに出掛けていった。




