亀と竜宮城
大きい......でかい......。
これ本物なの?
作り物なんじゃないの。
今、私の目の前には、立ったら私の胸辺りまで届きそうな大きさの亀がいます。
「あ~いたいた。ちょっと目を離した隙に、もう。意外と早く動くんだね。」
旦那様が連れてきたようですね。
こんな大きな亀、どこから連れてきたんだか。
「これにね、ミヨちゃんを乗せてあげるんだよ。」
確かにミヨちゃんぐらいなら乗っても大丈夫そうだけど、ゆっくり過ぎてつまらないんじゃないかしら。
「絶対楽しいよ。竜宮城へ行くんだからさ。」
竜宮城ですか。
初めて聞くお城ですわね。
私が知らないということは、この近くではないですわね。
亀で遠距離はきつくないですか。
近くでもどうかと思いますけど。
《不思議の国》ヤポナの亀は馬のように駆けるとか言いませんよね。
「まっさか~、そんな亀、聞いたことないよ。」
ああ、良かった。
駿馬の如く走る亀とか、甲虫の如く甲羅が割れて羽が出てきて空を飛ぶとか言わなくて。
「海まで馬車で行って、そこから竜宮城に行くんだよ。」
ああ、船を使うのですか。
そういえば、昨日シュテンさんの船が入港してましたわね。
で、亀はどこで乗るのでしょう。
「何で亀がいるのに船に乗るのさ。ミヨちゃんは亀に乗って竜宮城に行くんだよ。」
いやいや逆でしょうが。
何で船があるのに亀に乗るのよ。
さも当たり前のようにドヤ顔で言ってますが、おかしいでしょうが、色々と。
そのお城までどれ程の距離か知りませんけど、亀じゃなかなか着かないわよ。
しかも小さいミヨちゃんを一人で行かせる気ですか?
「仕方ないじゃん、亀は一人乗りだもの。」
知るか~、亀が何人乗りなんて考えたことなかったわよ。
海を渡るには船!
これ常識ですわ。
「海、渡んないよ。潜るんだもの。だからね、船じゃ無理なんだよ。潜水艦とか言うのが最近できたらしいけど、まだ売ってないからねぇ。」
潜る?
海に?
亀に乗って?
なんでそんな馬鹿なことを考えたんです?
「ミヨちゃん家のご先祖様がね、昔、亀に乗って竜宮城に行ったんだって。それでミヨちゃんも行きたいって言うから、大きい亀を探してあげる約束をしたんだよ。海まで連れていってあげるのはお隣のよしみでサービスね。」
ご先祖様ってそれいつの話ですの?
確かにオランシアでも先祖がドラゴンを倒しただの、先祖がエルフから宝石を貰っただの言う方たちがいましたけど、あれは所謂箔付けですわよね。
子孫たちですら、自慢話ではあっても本気で思ってるわけではありませんよ。
それ実行したらミヨちゃんどうなるのよ。
息出来ませんわよ。
さすがに呆れるより腹が立ってきましたわ。
そこへお隣のウラシマさん家の奥様とミヨちゃんがやって来ました。
「まあ!オサオサガメじゃないの!本当にいたのね。これなら行けるわね。」
おいおい、奥様まで何言ってんの~。
行けるわけないでしょうが。
ご先祖様が乗った亀もオサオサガメだったそうですが、そもそもの話が絶対嘘だから。
あり得ませんから。
ミヨちゃんは嬉しそうに亀の背に乗って「練習」とか言ってますが、子供の夢を壊さないと言っても限度がありますわよ。
騒いでいたからか、招き猫のメグミちゃんまで来て、ミヨちゃんと一緒に乗ってます。
お前も行くのか、行きたいのか。
さっきからニャーゴニャーゴとうるさいなと思っていたら、カルタを持ち出してきました。
ん、何か言いたいことでもあるのかしら。
カルタをぶちまけて、トントントン。
「こ、い、つ、む、り。」
おお、初めてメグミちゃんと意見が一致したかも。
「なんでよ。同じ亀だよ。」
「ま、た、こ、と、も。」
へえ、こんなに大きいのにまだ子どもだったんですか。
「け、い、け、ん、ふ、そ、く。」
そういう問題か?
「り、ゆ、う、く、う、し、よ、う、の、は、し、よ、し、ら、な、い。」
「致命的!」
海中のお城の場所なんてだれが亀に教えるのよ。
経験積んだら分かるようになるのか。
場所がわかったら竜宮城へ行けるのか、亀で!
「む、ち、な、お、ん、な、は、ひ、つ、こ、ん、て、な。」
「メグミちゃん、女の子がそんな言葉使っちゃダメだよ。」
注意するとこそこじゃないわよ。
「残念ねぇ、案内できるようになるころに乗れるのはミヨの子どもか孫かしらね。」
奥様、壮大な計画ですわね。
とりあえずミヨちゃんが無事ならいいですわ。
その頃には皆さん忘れてるでしょうし、ミヨちゃんは分別ついてるでしょうよ。
「あ、ま、い。」
「さ、く、や、し、つ、こ、い。」
「そ、こ、も、す、き。」
......悪趣味。
浦島太郎が乗った亀は、《オサガメ》だと言われているそうです。




