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河童の妙薬と男心

「旦那様、モモヤマ商店が少々ややこしいことを。」


 カキノウチ家の裏番頭こと手代頭のハンゾーさんが、なにやら困った情報を持ってきました。


「契約上は文句も言えないでしょうが、付き合いとしては些か微妙ですな。」


 ハンゾーさんは苦々しげ。


 なんでも昨日からモモヤマ商店で、とても良く効く傷薬が売り出されたそうなんで す。


 傷薬は多々ありますが、カキノウチ家の支店であり親戚筋でもあるヒジカタ家の〈イシダサンヤク〉が効果抜群ということで有名です。


 それに対抗するかのような薬の販売と言うことで。


 いや、良く効く薬が増えるのは良いことなとなんですのよ。


 ただ、その薬と言うのが、カキノウチ家が独占契約しているキュウリ栽培農家の河童衆が作ってるんだそうで。


 〈河童の妙薬〉と言って、もともと知られてはいたんだそうですが、基本的に仲間内だけで作り使っていたのだとか。


 それがなぜいきなり世間に出たのか、しかも繋がりのあるカキノウチ家からではなく。


 これは単純な話ではないだろうと、皆が面倒だなという顔に。


 ハンゾーさんはとっても情報通で、どこの誰がどうしたというプライベートなことから、今何が流行っているのかといったことまで、幅広く多くのことを知ってます。


 なぜそんなに詳しいのと聞いたら、

「世の中知らない方が幸せなこともあるんですよ。」と。


 ちょっと怖い......。


 でも、とっても頼りになるんですのよ。


 そのハンゾーさんが調べたところによると。


 モモヤマ家は名前にちなんで桃園を持っているのですが、その桃園を格安で河童衆のタロウさんに譲る契約をし、その見返りが〈河童の妙薬〉の売買契約なんですって。


 ただ、タロウさんが仲間に相談なく勝手に契約しちゃったそうで、皆で協力して作っている薬なのにどういうことだと、河童衆でも問題になってるということで。


 そりゃそうよね、タロウさんだけのものではないものね。


 どうしてこんなことになったのかしらね。


 一度、話を聞いてみなければと、旦那様とヒジカタ家からはトシゾーさんが河童衆の里に行くことに。


 あの里は山の中腹にあって行くのが大変なので今回私はお留守番と思っていたら、なぜか私も行くことに。


 なんで?


「僕たちは夫婦だよ。夫婦は一心同体。離れたら死んじゃうよ!」


 いやいや、あなた、飲みに行くとき私をおいていくじゃないですか。


「酔っぱらって襲ったりしたら大変だから......。」


 なんかはっきりせず、ゴニョゴニョと。


 夫婦なのに襲うもなにも。


 むしろ他の人襲う方が大変ですが。


「そりゃ、おめえ、女房にゃ見せられねぇことするからじゃねえかよ。」


 ニヤニヤと聞き捨てならないことをトシゾーさんが言ってますが。


「ちょっ、トシゾー!紛らわしいこと言わないでよ!違うよ。やましいことは何もしてないよ!」


 怪しい......。

 すっごく怪しい。


「こいつ、酔っぱらったら誰にでもキスしようとするんだぜ。俺も何回ひどい目に遭ったことか。」


 ええ~、そんな趣味が。


「違うよ、男にだけするんじゃないよ。男女関係なくだよ。あっ、しまっ......。」


 ほぉ~。

 じと~。


 いささか不機嫌になりながらも、えっちらおっちら、なんとか河童衆の里に着きました。


 以前、倒れてるところを助けたヨキチさんが迎えてくれて、長の所へ案内してくれました。


「今回は若が迷惑かけてすまないな。」


 勝手なことをしたタロウさんは長の息子さんだそうです。

 今回のことは長も知らなかったとか。


「おお、ようこそようこそ。すみませんなぁ、本来ならば私どもの方がお伺いすべきところなのに。ちょっとバタバタしてましてな。」


 なんでも騒動のもとのタロウさんがいなくなっちゃって探していたのだとか。


「それは大変。どこにいったか目処はついてるのですか?」


「はい、おかげさまで。おたくの手代頭さんが見つけてくださいました。いま、迎えに行っているところです。」


 さすがハンゾーさん、やりますね。


 タロウさんが帰ってくるまで、旦那様とヨキチさんはキュウリの出来具合を、トシゾーさんと長は薬の話をしています。


 その横で私は、河童衆特製キュウリゼリーを堪能しております。


 暑い日に涼しげな色合いと、さっぱりした味がたまりませんわ。


 そうこうしているうちに、タロウさんが数人の人に引きずられるようにして帰ってきました。


「こんのバカ息子!一体どういうつもりでぇ!」


 おおっと、いきなり一喝。


 ヨキチさんが、憔悴した顔のタロウさんの頭の皿に水を入れながら、


「長、落ち着いてくださいな。若にも理由がおありのようですから。」


 泣いてしゃくりあげながら、タロウさんが話すには。


 キュウリのサンドイッチを作ろうと、パン屋へサンドイッチ用のパンを買いに行ったところ、そのお店の子に一目惚れ。


 何とか勇気を出して話しをするようになって得た情報の一つに彼女の一番好きな食べ物が桃。


 でも桃って大きくて美味しいものはなかなかの値段なのですよ。


 でもあげるなら良いものあげたい男心。


 見栄もあってついつい桃園をプレゼントするって言っちゃったんだと。


 どんな見栄よ。

 見栄張りすぎでしょうが。


 そんなに大量、もらう方も困るんじゃないかしら。

 まさに、ありがた迷惑じゃないかしら。

 桃食べ放題は羨ましいけど。


「じゃあ、アンジェリークには柿園をあげるよ。」


 桃が羨ましいって言ったんですが。

 果樹園がほしいわけじゃなくて。


 しかもカキノウチだから柿って......。


 ってか、いらない。

 お世話大変そうだし、そんなに食べられないわ。


 甘酸っぱいというか、呆れたというか、こんな理由に皆も怒るに怒れず、かといって放っておくわけにもいかず。


「効き目の高い薬が世間に出るのはいいことさね。うちの売り上げったって、もともと大量生産できる薬じゃねえからしれてるしよ、河童衆も同じだろう。互いにそれが商売のメインじゃねえしな。利益奪い合うってほどでもないさね。筋さえ通してくれりゃかまやしねえよ。」


 変な裏があったわけではないとわかり、トシゾーさんも構わないと言うことで、結局桃園は河童衆全体の財産、管理とし、販売はカキノウチ家が独占契約でと言うことに。


 もちろん彼女にあげる分は別でね。


「女を物でつろうなんざ男じゃねぇ。男は心意気だぜ。」


 トシゾーさんがなんか言ってる......。


「男の恋愛道」とかなんとか。


 いつの間にか、トシゾーさんのまわりにはタロウさんを始め、年頃の男の人達が集まって聞き入ってるし。


 メモまでとってるし。


 ってか、何で旦那様まで必死で聞いているのよ!


 結局、家にたどり着いたのは夜遅くになりました。


 キュウリのゼリー食べ過ぎましたわ。



いたずらした河童が許してもらう代わりに《妙薬》を渡す話から。

《石田散薬》も河童明神から作り方を教わったとも言われているようですが、ここでは別物ということにしてます。



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