第七章
「名前を言ってもらえますか?」
「名前……月読という」
「住所は?」
「じゅうしょ?」
「住んでいるところ」
「ああ……黄泉の国だ」
「歳は?」
「歳……歳は分からぬ」
「ねえ、真面目に答えてよ。何? 僕が若いからって馬鹿にしてんの? これでも刑事なんだけど。そのコスプレは何なの。そういうイベントの帰り? それに、その髪は地毛? 長いよね。サラサラでいいなあ。で、本名は?」
「私は真面目に答えている。名は月読だ。それと、こすぷれ、いべんと、じげ、とは何だ?」
先ほどから、城の一室で私と向かい合っている男は、ひどく情けない顔をしている。
私は聞かれたことに真面目に答えている。それにもかかわらず、男は何度も同じことを尋ねては、私の答えにいちいち落胆するのだ。
「はぁぁ……。もう、とりあえずいいや。じゃあ事件のことね。質問するから答えて。まず、あの場所に何でいたの?」
「猿田彦を追いかけていたが、見失った。横に延びる道の奥から怒鳴り声が聞こえてきたので、近づいた」
「もう一人の大男は、猿田彦っていうの? ふうん。それで、一人で近づいたの?」
「そうだ」
「その後はどうしたの?」
「男は怒っており、女は怯えながらも子どもを背後に庇っていた。男は足を怪我したと言ったが、話をしているうちに治ったようなので、女と子どもに帰ってよいと言った」
「何? あんた、医者か何か? 外から見ただけで、怪我をしてないって分かったの?」
「いしゃというものは知らないが、男は両の足を地につけ、時折、足踏みをしたり、足を強く地面へ打ちつけたりしていた。それでも苦痛に顔を歪めることはなかった」
「ああ、なるほどね。それで?」
「私が女と子どもの方を見ていたら、女が『危ない』と叫んだ。振り返ると、私の右腕の辺りに棒が叩きつけられた」
「うんうん。それなんだけどね。何で、鉄パイプであんたの腕を殴った相手が、まるで自分の腕を鉄パイプで思いきり殴られたみたいに、右腕の骨を砕かれてるの? 状況的に逆でしょうよ。あんたが殴ったんじゃないの?」
「いや、私は何もしていない。だが、私を傷つけようとすれば、傷つけようとした者が傷つく」
「うーん……何だよ、それ。早口言葉かよ」
目の前の若い男が、頭を抱えてしまった。
どうにも私の話が伝わらない。
「猿田彦が、因果応報の短縮版だと説明していた。これも伝わらなかったが……。それより、あの女と子どもは無事か?」
「あ、ああ……ごめん。他の人のことはここでは話せないけど、大丈夫だよ」
「そうか。それならばよかった」
「あんた、いい人そうだから言うけどさ。人の心配より、自分の心配をした方がいいよ。向こうから手を出したとはいえ、相手はかなりひどい怪我をしてる。正当防衛の範囲を超えちゃってるからね」
「私は手を出してはいない」
「じゃあ、何で相手の腕があんなことになってんの。あんたがやったんじゃないの?」
「あれは、言うなれば、あの男が自分でやったのだ。私は立っていただけだ」
「そんなわけあるかーい!」
私は困っていた。
ここでも話が通じない。私が話したことを、一つも信じてもらえない。
その時、扉を叩く音がした。
開いた扉から初老の男が顔を覗かせ、私の向かいに座る若い男を手招きした。
「ちょっといいか?」
「え? どうしたんすか、藤田さん」
若い男はそう言って席を立つと、「少し待ってて」と私に告げ、部屋を出ていった。




