↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちょ、月読命さん。スウェット上下で何してますの?  作者: もちむぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/40

第三十九章

氷川神社の岩山で、緊急の神議りが開かれた。


 集まった神々を前に、素戔嗚は高天原で起きたことを話した。


 天照大神に成り代わっていたイザナミのこと。


 国を生み直すため、天と地を黄泉へ沈めようとしていたこと。


 そして、黄泉を統べる月読が、それを認めなかったこと。


「この国は、沈まねぇ」


 素戔嗚が告げると、部屋のあちこちで声が上がった。


 安堵する者もいれば、黙って俯く者もいた。


 素戔嗚は、その顔を一柱ずつ見た。


「だが、人間に愛想が尽きたお前たちに、無理やりここへ残れとは言わねぇ。地を離れ、高天原へ行く。それも一つの選び方だ」


 神々は互いの顔を見た。


 やがて、一柱が立ち上がった。それに続く者もいた。


 素戔嗚は引き止めなかった。


「天照には、俺から話を通しておく」


 地を離れると決めた神々は、一礼して部屋を出ていった。


 その背を見送ったあと、素戔嗚は残った神々へ向き直った。


「ここに残るからといって、人間を好きになれとは言わねぇ。俺だって、まだ好きにはなれない奴がいる」


 幾柱かが顔を上げた。


「神のすることは、すべてが是だ。だが、何をしたところで、あとに何も残らねぇわけじゃない」


 素戔嗚は一度言葉を切った。


「己のしたことで、誰かを失うこともある。その時に残る思いまで、是の一言で消せるわけじゃねぇ。それだけは、覚えておいてくれ」


 神々は黙って聞いていた。


 素戔嗚も、それ以上は言わなかった。


 神議りが終わり、部屋の外へ出ると、境内には柔らかな光が差していた。


 素戔嗚は石段を下りかけて、銀杏の幼木へ目を留めた。


 まだ細い幹に、小さな葉が幾枚もついている。


 そのそばまで歩き、腰を屈めた。


「爺さん」


 幼木は静かに立っていた。


「あの、しょっぴんぐもーるとかいうところの姉ちゃんが、あんたに礼を言ってたぞ」


 素戔嗚は葉の一枚へ指を寄せた。


「ありがとうございます、ってさ」


 少し笑って、念を押す。


「ちゃんと伝えたからな!」


 風は吹いていなかった。


 それでも幼木は葉を揺らし、心地よさそうに細い枝を動かした。


「おう。元気に育てよ」


 素戔嗚が立ち上がると、境内へ参拝客が入ってきた。


 母親と、その隣を歩く子どもだった。


 素戔嗚は二人を見て、口元を緩めた。


 母子が拝殿の前へ来るより先に、賽銭箱の裏へ回り込む。


 硬貨の落ちる音がした。


 続いて、がらんがらんと鈴が鳴った。


 母子は二度頭を下げ、手を打ち、静かに祈りを捧げた。


 素戔嗚は声色を変え、賽銭箱の裏から告げた。


「次に来る時は、ぷりんを所望す~」


 一瞬、辺りが静かになった。


 すぐに小さな足音が近づいてきた。


 子どもが賽銭箱の裏を覗き込み、声を上げる。


「素戔嗚!!」


 素戔嗚はしゃがんだまま、顔をしかめた。


「佑~。見つけんの早すぎだわ」


「何してんの、そんなところで!」


「神様っぽくしてたんだよ」


 佑は笑った。


 少し離れたところで、神田が驚いたまま固まっていた。


 素戔嗚は賽銭箱の裏から立ち上がり、片手を上げた。


「おう。久しぶり」


「……素戔嗚さん」


 神田はその姿を確かめるように見つめた。


 やがて、ゆっくりと顔がほころぶ。


「ここに、いらしたんですね」


「ここは俺のところだろうが」


 佑が素戔嗚の袖を引いた。


「素戔嗚、プリン食べたいの?」


「ちげ~わ。なんか、あいつが食べたがってる気がしただけだ」


「月読さん?」


 素戔嗚は答えず、少しだけ空を見上げた。


 それから佑へ目を戻す。


「まあ、持ってきたら俺が預かってやるよ」


「素戔嗚が食べちゃうんじゃないの?」


「お前、神様を疑うのかよ」


 佑の笑い声が境内に響いた。


 神田も、その隣で笑っていた。


 銀杏の幼木が、小さな葉を揺らした。


 今日も、この境内は清々しい氣で満たされている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。