青春リストその7『か弱い乙女のアピール』
午後の授業は、グラウンドでの合同体育。種目は『体力測定(ソフトボール投げ)』だ。
青空の下、私は体育着の裾を少しだけ直しながら、自分の順番を待っていた。
もちろん、鞄の中のピンク色のノートには、この時間のための完璧なミッションが刻まれている。
『青春リスト・その7:運動が苦手なフリをして「えいっ」と可愛く投げ、男の子に「ドジだな」と笑ってもらう』
これだ。完璧なヒロインムーブ。
お父様の「お遊戯(※手榴弾の精密投擲訓練)」のおかげで、私の肩はそこそこ強い方だ。だからこそ、今日は極限まで力を抜き、可憐な女子高生を演じきらなければならない。
「次、不動さん。ラインに入って」
先生に呼ばれ、私はソフトボールを手にして投擲ラインに立った。
遠くから、湊くんがこちらを見ているのがわかる。
(よし。湊くんに、私の『か弱さ』をアピールする絶好のチャンス!)
私はゆっくりと腕を振りかぶった。
頭の中で、無意識のうちに弾道計算が始まってしまう。
(いけないいけない! 今回は可愛く、初速を極限まで殺して、フワッとした山なりの軌道を描くのよ!)
私は全身の筋繊維に「出力1パーセント」の制限をかけ、手首のスナップだけで、ボールをふんわりと押し出すようにリリースした。
「えいっ♡」
可愛らしい声を出せた、と思った直後だった。
――ドバァァンッ!!
グラウンドに、空気を引き裂くような爆発音が響き渡った。
私の手から離れたボールは、摩擦でうっすらと白煙を引きながら、一瞬にして点となり、遥か彼方の空の彼方へと消え去っていった。
「……あっ」
しまった。出力を1パーセントまで絞ったせいで、逆に全身の運動連鎖が極限まで最適化され、無駄のないエネルギー伝達がボールに全て乗ってしまったのだ。
(や、やだなぁもう。ちょっと飛びすぎちゃったかも。……でも、「えいっ」って可愛く言えたし、セーフよね!)
私はペロッと舌を出し、照れ隠しに頭をコツンと叩いた。
――今、ソニックブームが鳴らなかったか?
俺はグラウンドの端で、絶望のあまり膝から崩れ落ちそうになっていた。
体力測定のソフトボール投げ。不動千鶴が投擲ラインに立った時、俺は嫌な予感しかしなかった。
だが、彼女は「運動が苦手なフリ」でもするかのように、ゆっくりと、か弱く腕を振りかぶったのだ。
その瞬間、俺のプロとしての目が、彼女の異常な身体操作を捉えた。
(……足底から膝、股関節、体幹、肩甲骨へと、一切のロスなくエネルギーが伝播していく。中国武術の『発勁』すら凌駕する、完全な体重移動……!)
そして彼女が可愛らしい声を上げた瞬間。
大砲を撃ったかのような破裂音と共に、ボールが視界から消失した。
音速を超えたのだ。
ソフトボールほどの質量と空気抵抗を持つ物体が音速(マッハ1、約 340 m/s)を突破するには、常軌を逸した初速が必要になる。
もしあれが対人用の投擲術だとしたら? 石ころ一つを持たせるだけで、彼女は周囲数百メートルを制圧する歩くスナイパーライフルと化す。
(俺は……あんな攻城兵器を相手に、潜入任務をしているというのか……!?)
彼女がペロッと舌を出して「てへっ」という顔を作っている。
俺の目にはそれが、『お前の頭を消し飛ばすなんて、これくらい容易いんだぞ』という、無言の脅しにしか見えなかった。




