青春リストその4『ドキドキのメッセージ送信』
都会の喧騒を見下ろす、湊会の隠れ家。
俺はネクタイを緩め、ソファに深く腰を下ろしていた。机の上には、部下たちがかき集めた不動千鶴の資料が散らばっている。
「……若、本日の接触、お見事でした」
控えていた幹部の男が、恭しく頭を下げる。
「甘いな。あの女は一筋縄じゃいかない。……護衛をわざと退かせ、俺を誘い込み、さらに個人の回線を繋いできやがった。あれは完全に、俺を交渉のテーブルではなく、自分のシマに引きずり込むための布索だ」
冷徹に告げる俺の声に、部下たちが息を呑む。
そうだ。俺は湊会の若頭。数多の抗争をくぐり抜けてきた俺が、女子高生ひとりに怯えるはずがない。
ただ、彼女の背後にある『不動組』の真意が読めないだけだ。
その時、机の上のスマホが「ピコン」と軽快な音を立てた。
画面に浮かんだのは、ピンク色のうさぎアイコン。
『今日はありがとう! もう、家に着いたかな? (๑˃̵ᴗ˂̵)』
……室内の空気が凍りついた。
部下の一人が、震える声で呟く。
「家に着いたか……だと? すでに若の隠れ家を特定しているという、不動からの『チェックメイト』の合図ですか……っ!?」
俺は無言でスマホを睨みつける。
無防備な顔文字。そして「家に着いたか」という安否確認。
プロの暗殺者や潜入員にとって、もっとも恐ろしい言葉だ。それは『お前の居場所は常に捕捉している。いつでも刺せる』という、不動組からの明確な脅迫に他ならない。
(……返信を誤れば、この拠点が今夜中にも灰になる。不動千鶴、なんて底知れない女だ)
俺は若頭としての冷徹な判断を下し、指を動かした。
『ああ。問題ない。明日もよろしくな』
――「お前の手口は読んでいる。明日の学校で決着をつけよう」
俺は返信を送り終えると、短く部下に命じた。
「……今夜は全員、一睡もするな。不動の動きを24時間監視しろ」
お風呂上がり。私はベッドの上で足をバタつかせながら、スマホを抱きしめていた。
返ってきた湊くんからのメッセージを、何度も何度も読み返す。
「『明日もよろしくな』……だって! キャーッ!!」
私はピンク色のノートを広げ、今日四つ目のハナマルを書き込んだ。
『青春リスト・その4:下校後にメッセージを送り、ドキドキのラリーを楽しむ』
湊くん、文章は短くてクールだけど、最後を「な」で結ぶところに親愛の情を感じるわ!
「問題ない」なんて、私に変な心配をさせないように気遣ってくれてるのね。なんて不器用で、頼もしい人。
「ふふ。明日も、リストの続き……頑張っちゃおうかな」
私は、実家の書斎からこっそり持ってきた『美味しいお茶の淹れ方』を読みながら、幸せな眠りについた。




