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青春リストその14『委員会決めで、ふたりきり』

新学期が始まって数日後のホームルーム。


 担任の先生が黒板に『委員会決め』と大きく板書した瞬間、クラスの空気はどんよりと重くなった。


「えー、誰もいないか? 特に『図書委員』は、放課後の蔵書整理もあって少し帰りが遅くなるんだが……」

 みんな、面倒な仕事を押し付けられまいと息を潜めている。


 しかし、私にとってはこれ以上ない大チャンスだった。


 ピンク色のノートの『青春リスト』には、一番星のマーク付きでこう書き記してある。


『気になる男の子と一緒に委員に立候補し、夕暮れの図書室でふたりきりの時間を過ごす』


(――キタ! 少女漫画の王道ロケーション、夕暮れの図書室! 埃っぽい本の匂い、差し込む夕日、そして手が触れ合う瞬間……!)


 私は胸の高鳴りを抑え、スッと姿勢を正して、お淑やかに右手を挙げた。


「先生。私、図書委員をやらせていただきます」

「おっ、不動さん! 助かるよ。本来は男女一名ずつなんだが……誰か、不動さんと一緒にやってくれる男子はいないか?」


 私は可憐な笑みを浮かべ、隣の席に座る彼を見つめた。

「湊くん。もしよければ……私と一緒にやっていただけないかしら?」


 教室中の視線が、一斉に湊くんへと集まる。

(湊くん、きっと驚いてるわよね。でも、一緒に放課後を過ごせる口実ができて、少しは喜んでくれてるかしら……?)





 ――死刑宣告だ。

 俺は、隣で小首を傾げて微笑む千鶴を見つめながら、表情筋を必死に鋼鉄の意志で固定していた。しかし、制服の下の背筋には冷たい汗が滝のように流れている。


 『図書委員』。放課後、人気のない密室で、この物理法則を無視したバケモノと二人きりになるという地獄のミッション。


(……断れるわけがない。もしここで『嫌だ』なんて言おうものなら、帰り道に俺の身体はスクラップのように折り畳まれて、東京湾に沈められる!)


 俺は湊会の若頭という立派な肩書きを持っているが、その実態は「シノギが得意なだけのインテリ」だ。喧嘩の腕前なんて、その辺の一般高校生以下。戦闘力は文字通り「5」しかない。

 先日のコンクリート壁粉砕事件を思い出すだけで、胃袋がキリキリと縮み上がる。

 ならば、生存ルートは一つ。


 『彼女に一切の物理的作業をさせないこと』である。

「……構いません。俺がやります」


 俺は静かに立ち上がり、冷徹な低音で教壇に向かって宣言した。


「ほ、本当か湊くん! じゃあ二人に――」

「ただし」

 俺はあくまで淡々と、若頭としての絶対的な余裕を装って告げた。


「蔵書の整理、システムの管理、日誌の記入…の全ては俺が構築し、処理します。不動さんは……カウンターの椅子に座って、貸し出しの受付だけをしてくれればいい」


 ――お願いだから、重い本棚や脚立に絶対に触らないでくれ!! 力加減を間違えて図書室ごと倒壊させられたら俺が死ぬ!!


 心の中では土下座で懇願しながらも、俺はクールなインテリの顔を微塵も崩さず、彼女を見下ろした。





(……えっ?)

 私は、涼しい顔で言い放った湊くんを見て、胸がキュンと締め付けられた。


 図書委員の仕事は大変だ。重い本を運んだり、高い脚立に登って整理をしたり。


 湊くんは、か弱い女の子である私にそんな重労働をさせまいと、スマートにすべての仕事を引き受けると言ってくれたのだ。


(なんて……なんて男らしくて、頼もしい人なの!)

 私は感動で潤みそうになる瞳を隠すように、そっと両手で頬を包み込んだ。


「湊くん……ありがとう。でも、私にも少しはお手伝いさせてね?」

「……いや。俺の構築したシステムにノイズが入るのは好まない。君は大人しく座っていてくれ」


 私が手伝うと言うと、湊くんは少し目を伏せ、クールな声でピシャリと断った。

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