青春リストその11『友人たちと屋上で昼食』
幻の焼きそばパンを無事に手に入れた私たちは、学校で一番高い場所――『屋上』へと向かった。
青空の下、風に吹かれながらお昼を食べる。これぞ青春の王道ロケーションだ。
しかし、重い鉄扉を開けた先には、先客がいた。
シャツを着崩し、髪を派手な色に染めた上級生の男子が三人、ベンチを占領して柄の悪い笑い声を上げている。
(あ、不良の先輩たちだわ! 少女漫画によくある『ちょっと怖い人たちに絡まれるイベント』の気配……!)
私は胸をときめかせながら、勇気を出して一歩前に出た。
「あの、先輩方。少しだけ、その場所をお借りしてもよろしいでしょうか?」
私が礼儀正しく微笑みかけると、金髪の先輩が「あぁ?」と鋭く睨んできた。
「なんだテメェ、一年坊が屋上に来てんじゃねーよ。ここは俺たちの場所だぜ?」
(シマ……? まあ、不良言葉って響きがワイルドで素敵!)
私は少しでも先輩方の機嫌を損ねないよう、横にあった錆びた鉄柵にそっと手を添え、優しく言った。
「そう怒らないでくださいな。せっかくのいいお天気ですし……誰かが怪我をするようなことになったら、悲しいですから」
――メキッ、バキィッ。
言葉の途中で、私が体重をかけた鉄柵のパイプが、なぜか飴細工のようにひしゃげて潰れてしまった。
「えっ?」
私が驚いて手を離すと、先輩たちはなぜか顔面を土気色に変え、ガタガタと震え出した。
「ひっ……!? あ、あねさん、失礼しやしたァッ!!」
三人は直角にお辞儀をすると、猛ダッシュで屋上から逃げ去っていった。
(ええっ、どうしたのかしら? さすが先輩、後輩に場所を譲ってくれるなんて、見た目によらず紳士なのね!)
「よっしゃ、席空いた! ちづるん、ナイス交渉術〜!」
玲奈ちゃんが呑気にベンチに座り、私は湊くんを手招きした。
「湊くんも、早く早く!」
――鮮やかすぎる。血を流さずして、この学校の屋上を完全に制圧しやがった。
俺は冷や汗でシャツを濡らしながら、千鶴の背中を見つめていた。
屋上を根城にする不良どもを前にして、彼女は一切の動揺を見せなかった。それどころか、極道特有の『丁寧すぎる敬語』で相手の逃げ道を塞ぎにかかったのだ。
『誰かが怪我をするようなことになったら、悲しいですから』
その言葉とともに、彼女は直径5センチはある鉄パイプを、片手の握力だけで軽々と握り潰した。
(……『今すぐ立ち去らなければ、お前たちの首の骨をこうするぞ』という、純度100%の殺害予告……!)
不良どもが彼女を「姐さん」と呼び、命からがら逃げ出したのも当然だ。
生物としての格が違う。彼女は、笑顔のまま呼吸をするように『暴力』をチラつかせ、圧倒的な力の差で縄張りを奪い取ったのだ。
「湊くんも、早く早く!」
無邪気に手を振る千鶴。
ベンチに座った彼女は、買ってきた焼きそばパンを袋から取り出し、「玲奈ちゃん、半分こしましょ」と両手でパンを割った。
――スゥッ。
パンは、まるで日本刀で両断されたかのように、パンくず一つ落とすことなく、完璧に美しい直線で真っ二つに分断されていた。
(素手で、パンの繊維を一切潰さずに切断しただと……!? どれほどの指の力と、神速の引き裂きを行えばあんな断面になるんだ!)
「はい、玲奈ちゃん。ぴったり半分よ」
「マジ!? ちづるん、包丁で切ったみたい! いただきまーす!」
はしゃぐ玲奈の横で、俺は自分の焼きそばパンを両手でしっかりと握りしめた。
一階の購買部、そして屋上。
不動千鶴は、たった数時間でこの学校の主要な領土を全て掌握した。
俺の潜入任務は、すでに彼女の掌の上で転がされているだけなのかもしれない。




