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90 竜宮城

【登場人物】

 中臣鎌足(カマ様)

人間に転生した天魔の神『天狐(あまつきつね)』

獣神であり、魔王大権現でもある。


 額田姫王(ぬかたのひめみこ)・鏡姫

中大兄皇子の元妻であり、神の歌「言霊」を使う宮廷歌人。琵琶湖の龍王女の転生体である。


 藤原チカタ(中臣真人:定慧)

カマタリと額田姫王の養子。

厩戸王の転生者であり天魔王でもある。


 葛城皇子(中大兄皇子)

女性と見まごう白く美しい外観に凶悪で残酷な内面を持ち合わせる。

額田姫王や倭姫王の夫であり魔王でもある。


 チビコマチ(小野小町)

額田姫王に歌を学ぶため飛鳥時代に連れて来られた平安時代の少女。

巫女舞風の装束を身にまとい「言霊」を使う。


 厳 (ゴン)

春日の「鬼神の塚」を守る片目の野守。

新陰流の達人であり、左眼の「鬼神の鏡」で時空を越える能力を持つ。

なぜかチビコマチのお供をしている


 鈴鹿御前(倭姫王)

第六天魔王、天照大神

ちゃっかり自分も皇女に転生した。だがまだ子供である。


 小狐丸

黒い戦闘魔獣。

魔物を斬る『神刀』を鍛える刀工でもある。


 お玉(玉藻)

百済王妃に化けた九本尻尾の妖狐の少女。

幻覚を操り、人間を魔物化させる能力を持つ。

「皆さまおそろいですね」

 突然の声に振り向くと、岩場の小さな泉の中から青く美しい女神が湧き上がってきた。

その女神は髪の毛まで青く、下半身は人魚のような水晶の鱗が輝き、水中に伸びている。


「龍神よっ!」

 額田姫王(ぬかたのひめみこ)の声に小狐丸や小野篁がいっせいに飛び開いて身構える。


「ホホ、怖がらないで。私はあなた方を竜宮城へご招待に来たのよ」

 美しい女神は澄んだ声でゆるやかに微笑むと両手を広げて敵意が無い事を示す。

 キラキラと光りが伸び広がると薄衣(うすぎぬ)をまとった人間体の女性の姿に変わった。


 イヒカ姫が一同を手で制する。

「姫神よ、彼方(あなた)は何者か?」


「私はハリ。クマラの妻です」


 その名に気づいた様に小野篁(おのたかむら)が語り出す。

「クマラ…ハリ…頗梨采女(はりさいじょ)…ヤマタノオロチ倶魔羅天王(くまらてんのう)の妻です」


「ヤマタノオロチの妻じゃと?!」

 イヒカ姫の驚嘆の声に一同が身構えた。


 女神ハリは微笑(ほほえ)んでうなずいた。

「さすがですね小野篁(おのたかむら)。日本一(ひのもといち)の大学者と呼ばれるだけはあります」


 どうやら頗梨采女(はりさいじょ)は、未来から来た小野篁(おのたかむら)たちの事を知っている様だ。


 (この女神は未来を知っているのか…)

 小野篁(おのたかむら)は少し考えるそぶりを見せる。

「頗梨采女(はりさいじょ)とは仮の名で、その実態は素戔鳴尊(スサノオのミコト)の娘、オオヤツヒメ様ですね」


 大日如来が不動明王に変わるように、神仏はその働きにより姿や名前も変わる。頗梨采女(はりさいじょ)という名も、女神の容姿も仮の姿だろう。

 もちろん推測で探りを入れて見ただけだが、学者でもある小野篁(おのたかむら)は頗梨采女(はりさいじょ)の素性をオオヤツヒメと見抜いている。


「オオヤツ姫様じゃと?」

 イヒカ姫は神代(かみよ)の記憶をたどる。

オオヤツ姫は遥か神世の昔に種を蒔(ま)き森を作った女神と聞く。それほど高位の神霊が、なぜヤマタノオロチの妻を名乗るのか?


「オオヤツヒメ様、貴女もまたヤマタノオロチなのでしょうか?」

 小野篁(おのたかむら)は少し間合いを詰めた。


「ヤマタノオロチ…」

 チビコマチがおびえた表情で息を呑むと、オオヤツヒメは少し悲しげに顔を曇らせた。


「オオヤツヒメ様ほどの神が、なぜ倶魔羅天王(クマラてんのう)の妻を名乗るのですか?」


 小野篁(おのたかむら)は尚もオオヤツ姫に問いかけるが、オオヤツ姫はその問いには答えずにヒラリと体を返し、手をかざした。

すると周囲に光が広がり空間に黒い口を開けた。

「クマラはあなた方にお会いしたいそうですわ」

 やはりこの女神も地獄の井戸を自由に使えるようだ。


 小野篁(おのたかむら)は少し警戒の色を見せながらイヒカ姫に話を振る。

「イヒカ姫さま、カマタリ様をお呼びにならないと」

「ふむ…そうじゃな」

 イヒカ姫は山上を見上げ地獄の井戸を開いたが、額田姫王(ぬかたのひめみこ)に止められる。

「ダメですっ!あの人を竜宮城なんかに連れて行ったら!」


「なっ?なんでじゃ」さすがにイヒカ姫も驚いている。


「あの人が竜宮城に行ったらきっと『この城の防備は〜』とか『この城には采女(うねめ)は何人居るのかな〜』とか言ってアホ丸出しで百年ぐらい住み着くに決まってますわっ!」

 額田姫王(ぬかたのひめみこ)の鋭い女のカンに一同は「あ…」と言って納得した。


  竜宮城

 地獄の井戸を抜けると巨大な洞窟の中に出た。地底でありながら天井には無数の星のような明かりがキラメキ、周囲を大量の幽鬼の魂魄(こんぱく)がボウっと光りながら大蛇のように空中を漂っている。

 陰風(いんぷう)。

美しく舞う光に見えるが、これは魂だけになった餓鬼の群れである。

この幽鬼に触れれば神ですら喰われてしまうだろう。

まさに岩場に囲まれ、さらに不死身の幽鬼が守護する鉄壁の城砦(じょうさい)である。


 その奇妙な美しさにチビコマチが見とれる。

「キレイですねぇ姫王(ひめみこ)さまぁ」

「そうね、でもせめてあの幽鬼の群れが鯛やヒラメの舞い踊りなら歌にもできるんだけどね」

 額田姫王(ぬかたのひめみこ)は沈着冷静にこの風景を歌にしようとしていたが、カマタリが居ないので「何やっとるねん!」というツッコミは無い。


 小野篁(おのたかむら)は冷静に分析をする。

「わずかに潮の香りがします。海が近いですね」

「さすが小野篁(おのたかむら)ですね。そうよ」


「オオヤツ姫様は紀の国(木の国)の女神とお聞きします、するとここも紀の国とお見受けしましたが?」

 オオヤツヒメは答えずに城の中へ案内する。

中にはクマラの眷属と思われる兵士や采女(うねめ)の美女が居並んでいた。


「まあ、やっぱり!置いて来て良かったわ!」なぜか額田姫王(ぬかたのひめみこ)がプンプンしてすこぶる機嫌が悪い。


 宮殿の奥から紫水晶の鎧に黄色い髪の武将が現れる。


「土星神、倶魔羅天王(クマラてんのう)。スサノオの尊の第三王子、太古の龍王の一柱です」小野篁(おのたかむら)とコマチとゴンは片膝を着く。


「お初にお目にかかりますわ土星神の龍王陛下」額田姫王(ぬかたのひめみこ)は宮廷式の挨拶をする。


 倶魔羅天王(クマラてんのう)は静かに微笑んだ。

「鏡姫。琵琶湖の龍王女と聞いたな」

意外にも穏やかな人物に見える。


「鏡王の娘で、今は人間となり額田王(ぬかたおう)と名乗ります」


「そしてあなたが吉野の姫神、イヒカであるな」


イヒカ姫は古代のあいさつだろうか。胸に片手をあててうなずいた。


「お伺いいたします陛下」小野篁(おのたかむら)が横からにじり出る。


「申せ」

 クマラは小野篁(おのたかむら)の方を向いた。


「一つは我らをお呼びいただいた理由、もう一つは魔人ヤマタノオロチの復活についてです」


「目的は同じだよ小野篁(おのたかむら)」


「同じ目的?」


「我はヤマタノオロチと戦わねばならないからだ」


ヤマタノオロチがヤマタノオロチと戦う?これには小野篁(おのたかむら)も驚いた。


「それはなぜでしょうか?」


「この現世(うつしよ)の法を護(まも)るためだ」

 まさかヤマタノオロチが法を護(まも)るために戦うと…意外な言葉にさすがの小野篁(おのたかむら)も絶句した。


「ケイト、いや蛇毒気神(ダドクケノカミ)からは何も聞かなかったかな」


「蛇毒気神(ダドクケノカミ)…」

 あの赤い巨龍の少女も、やはりヤマタノオロチの魔人体であり龍王の一柱だったのか。


「蛇毒気神(ダドクケノカミ)様もまた我々をお救いくださいました。いったい何故なのでしょう?」


「厩戸王の教えだ」


「聖徳太子の?!」

驚いた事にすでにヤマタノオロチの内の幾柱(いくはしら)の神は聖徳太子の教えに帰依していたのだ。


「厩戸王は人間のぶんざいでありながら一人で我らを教化しに来たのだ、そしてケイトのみその教えを理解し、自ずから変わった。我らはその姿をこの目で見たのだ」

 オオヤツ姫もうなずいた。

 どうやらこのヤマタノオロチたちは蛇毒気神(ダドクケノカミ)に感化されて仏法に目覚めたようだ。


「厩戸王はいずこにおられますか?」


「今は仮の姿となってお前たちと共におる。中臣のチカタとしてな」

 やはりチカタは聖徳太子の生まれ変わりであったか。

しかし今は仮の姿とは…?まだ疑問はあるが今は後回しだ。


「お聞きしたい事がございます」


「わかっているよ小野篁(おのたかむら)」

 クマラは椅子にもたれて笑った。

「お前たちを助けてやる」


 でき過ぎた話ではある。

だが蛇毒気神(ダドクケノカミ)が居る以上、この話は嘘ではあるまい。

 小野篁(おのたかむら)はイヒカ姫に向かってうなずいた。

イヒカ姫もうなずくとクマラに返答する。


「お申し出に感謝する。倶魔羅天王(クマラてんのう)」


  またまた吉野の山奥

「あの二人」はまだ飲んでいた。


「もう酒も無くなったからウチに来るか?」


「おお、人間どもの家か!見てみたいぞ」


「しかし、そんな恰好(かっこう)で帰ったら家の連中が逃げ出すな。どこかで着替えるか」


「それなら人間に化けてやる」

 黒い魔王は軽々と巨大な草薙の剣を振ると、海人(アマ)族の黒い衣装の姿に変わった。

 黒く短いボロ服に、全身に入れ墨。

背中に巨大な草薙の剣を背負い、白髪から黒いツノがのぞいている。

 ヤマタノオロチよりはマシだが、これでは山の鬼神しか見えない。


「ん、頭の黒いツノがまだ少し残っているな…まぁいいか」と、カマタリは気にせず帰る準備を始めた。

 いいのだろうか?


 〜 90 竜宮城 〜完

  【年表】

◼ 653年。第二次遣唐使。道昭とチカタ(定恵)入唐

◼ 654年孝徳天皇崩御(654年 - 10月)

◼ 655年 1月、寶皇女が即位(斉明天皇)

◼ 656年 斉明天皇、後飛鳥岡本宮へ遷る。

◼ 656年 後飛鳥岡本宮火災

◼ 656年 葛城山に龍が現れる。


 (=φωφ=)あとがき。

七人目のヤマタノオロチの首。クマラ天王と頗梨采女(はりさいじょ)ですね。

まだ敵か味方かは分かりませんが。


  > オオヤツ姫は種を蒔き森を作る

素戔鳴は「船や家屋の材料に使うように」と全身の毛から樹木を作り、息子や娘たちに植えさせました。

アゴヒゲが杉に、胸毛がヒノキに、眉毛はクスノキに、尻毛はマキに……尻毛?!

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