88 八王子神
【登場人物】
中臣鎌足(カマ様)
人間に転生した天魔の神『天狐』
獣神であり、魔王大権現でもある。
額田姫王・鏡姫
中大兄皇子の元妻であり、神の歌「言霊」を使う宮廷歌人。琵琶湖の龍王女の転生体である。
藤原チカタ(中臣真人:定慧)
カマタリと額田姫王の養子。
厩戸王の転生者であり天魔王でもある。
葛城皇子(中大兄皇子)
女性と見まごう白く美しい外観に凶悪で残酷な内面を持ち合わせる。
額田姫王や倭姫王の夫であり魔王でもある。
チビコマチ(小野小町)
額田姫王に歌を学ぶため飛鳥時代に連れて来られた平安時代の少女。
巫女舞風の装束を身にまとい「言霊」を使う。
厳 (ゴン)
春日の「鬼神の塚」を守る片目の野守。
新陰流の達人であり、左眼の「鬼神の鏡」で時空を越える能力を持つ。
なぜかチビコマチのお供をしている
鈴鹿御前(倭姫王)
第六天魔王、天照大神
ちゃっかり自分も皇女に転生した。だがまだ子供である。
小狐丸
黒い戦闘魔獣。
魔物を斬る『神刀』を鍛える刀工でもある。
お玉(玉藻)
百済王妃に化けた九本尻尾の妖狐の少女。
幻覚を操り、人間を魔物化させる能力を持つ。
金の鎧の魔人は赤い炎の髪をなびかせてパンと空中に跳ね上がったのが見える。
「飛んだ!」
まさかもう一人のヤマタノオロチの人間転生体が居ようとは、しかも自由に空まで飛べる。
一同に緊張が走った。
金の魔人が空中からこちらに近づくに連れて全身に重低音が響き始める。
耳を塞いでも身体の奥まで響いてくる。
超低周波音だ。
猫娘たちが身悶えして地を転がりはじめた。
「超音波で飛行しているのか!」
小野篁が低くうなる。
何種類もの超音波の指向を変えて、攻撃や飛行に使い分けているようだ。
恐るべき怪物である。
金の魔人は空中からフワリと着地した。
魔人の頭から左右にヤギのような黒く大きなツノを生やし、手には草薙の剣の形をした戟を持っている。
その姿は武将の様に威風堂々(いふうどうどう)とした佇まいだ。
金の魔人はまるで人間など眼中に無いように篁たちには目もくれず紺色の魔人に向かってスタスタと歩き出した。
紺色の魔人はヨロヨロと起き上がりながら上目遣いに金の魔人を見上げる。
「ラゴ!テメェ何しに来やがった!」
「キサマを助けにきたのだよサイハ」
ラゴと呼ばれた金の魔人は静かに両手を広げて紺色の魔人に近づこうとしたが、サイハと呼ばれた紺色の魔人はあわてて飛び退く。
「俺に近づくな!」紺色の魔人サイハが金色の目をむいて剣を左右に振り回し斬り付ける。
金の魔人ラゴはそれを戟のような大剣で片手で受け止めた。
「ギン!」という激しい金属音が響くとその衝撃で大樹が薙ぎ倒され岩が崩れた。「草薙の剣」同士の斬り合いである。大地がそれに耐えられないのだ。
だが、これは脱出のチャンスでもある。
小野篁は額田姫王とゴンに目線で合図する。
三人はうなずくと一斉に別々の地獄の井戸に飛び込んだ。
さて吉野の滝。
カマタリと黒いヤマタノオロチはまだ飲んでいた。
「少し腹が減ってきたな」と言いつつ黒い男は酒を飲む。持って来たツマミを二人で食い尽くしてしまったようだ。
「よし!まかせろ」と、酔った勢いでカマタリは滝壺に飛び降りた。
「何をしてる?」
「まぁ見てな」
カマタリは水面に雷を打ち込むと滝壺からアマゴやマスなど大小の魚が数十匹も浮かんできた。
「ほう、やはり貴様も神通力を使えたのか」
黒いヤマタノオロチは素直に感心する。
「まあな、これでもオイラは最強神らしいぜ。何が最強なのか俺にも分からんけどさ」
「やはりキサマは最強神だったのか…おっと!」
カマタリは手づかみで魚を捕まえてヤマタノオロチの方へ投げる。
ヤマタノオロチはさっそく魚を丸呑みしてしまった。
「おいおい待て待て!こいつは焼いて食うんだよ」
「魚は丸呑みした方がうまいだろ」
「分かってねえな、こっちの魚には塩、こっちは味噌を塗って山椒、さらにこう酒を塗ってだな」
カマタリは鎌で木の枝を削って魚を刺して焚き火で炙りはじめた。
「ほう」黒いヤマタノオロチは興味深そうに見ている。
火で炙られた魚の脂がジュウと音を立ててはじけはじめる。
「この匂いは…」
黒い男が思わず手を出すが、カマタリに手を叩かれる。
「あ・わ・て・る・なって」
黒い男はジッと正座して魚が焼けるのを待った。
「よし!もういいぞ」
「おお!」と、ヤマタノオロチは魚にかぶりついた。
「ところであんた名前は何て言うんだい」
「俺は魔王だ」黒いヤマタノオロチは口をモゴモゴさせながら答える。
「んなふざけた名前あるかい」
「アッチの世界ではそう呼ばれているからな。俺は親父に似ているかららしい」
「へえ俺が知ってる魔王とはずいぶん違うんだな」
「他にも魔王が居るのか?お前は魔王を知っているのか?」
「ああ居るぜ、中大兄皇子って言うおっかない人でな、ありゃ魔王だ、間違いない!」
さすがの黒いヤマタノオロチも手が止まる。
「そんな恐ろしい魔王とは、どこに居るんだ?」
「たぶん宇宙の果てだ」
「宇宙の魔王か!」
「いや、ちょっと違うな…あ!そういやこの俺だって息子のチカタから魔王の権現って言われてるんだぜ、俺も宇宙大魔王だな!」
「魔王の権現とはどういう意味だ?」
「知らん。あ!それ焼けたぞ」
「おお!イカン、焼き過ぎだ」
黒い男は魚にかじり付いた。
「落ち着いて食えって!」
この二人、まだ飲む気らしい。
吉野の山頂。
イヒカ姫と黒い魔獣の小狐丸の前に小野篁たちが集まっている。
イヒカ姫はクッション代わりに小狐丸に寄りかかり話を聞いている。
「ふむ、その魔人どもはお互いの名をサイハとラゴと呼んだのじゃな?」
「ははっ」白い軍服の若者、小野篁がイヒカ姫の御前に折敷いてかしこまる。
「おそらくラゴとは羅睺星 の事、サイハもまた破壊の星、歳破神の意味と思われます」
「なぜヤマタノオロチどもは星の名を語るのかや?」
「おそらくは切り落とされたヤマタノオロチの首に、黄泉国でそれぞれ神格が与えられたのだろうと考えられます」
「魔王の子か…」
「はい、根之堅洲國の王にあらせられるスサノオの尊が名を与えて、黄泉国より蘇らせたもうた霊であるかと」
「うむ…黒いヤマタノオロチならば妾も根之堅洲國ですでに出会った」
「イヒカ姫さまも!」
チビコマチが驚く。
「おそらく黒いヤマタノオロチとは「大将軍、魔王」でございましょう。金星の神格を持つ最も凶悪な龍です」
小野篁が眉をしかめる。
「魔王か…やはりな、妾では手も足も出ない恐るべき魔人じゃ」
イヒカ姫が手も足も出ない。
ヤマタノオロチのあまりの強大さに一同が沈黙した。
「して篁よ、ラゴとは如何なる星か?」
「羅睺星とは『蝕』の星にございます」
「何じゃそれは?星では無いのか?」
「太陽を飲み日食を起こす魔物です。その実体は九頭の蛇と言われます」
「九頭の蛇…」
「また歳破神サイハは太陰神クマラと二面の姿を持つ神と言われます」
「それはどういう事じゃ?」
「つまりさらにもう一人…いえヤマタノオロチは全部で八人の魔人に転生したと考えられます」
「何じゃと!八人も!」
「ははっ
太歳神ソウコウ 大将軍マオウ
太陰神クマラ 歳破神サイハ
歳刑神トクダツ 歳殺神ジシン
羅睺星ラゴ 計都星ケイト
以上、八王子神にございます」
〜 88八王子神 〜完
【年表】
◼ 653年。第二次遣唐使。道昭とチカタ(定恵)入唐
◼ 654年孝徳天皇崩御(654年 - 10月)
◼ 655年 1月、寶皇女が即位(斉明天皇)
◼ 656年 斉明天皇、後飛鳥岡本宮へ遷る。
◼ 656年 後飛鳥岡本宮火災
◼ 656年 葛城山に龍が現れる。
(=φωφ=)あとがき。
>八王子
東京の八王子の語源は、牛頭天王の八人の王子からですね。
蛇毒気神天王(豹尾神、彗星の神)は女性として祀られる事もあるとか。
> 歳破神サイハ
いや、そこは良侍天王なのですが、まぁいいや。




