85 緊急事態なのじゃ!
【登場人物】
中臣鎌足(カマ様)
人間に転生した天魔の神『天狐』東国の田舎の獣神であり、魔王大権現でもある。
額田姫王・鏡姫
中大兄皇子の元妻であり、神の歌「言霊」を使う宮廷歌人。
琵琶湖の龍王女の転生体である。
藤原チカタ(中臣真人:定慧)
カマタリと額田姫王の養子。
厩戸王の転生者であり天魔王でもある。
葛城皇子(中大兄皇子)
女性と見まごう白く美しい外観に凶悪で残酷な内面を持ち合わせる。
額田姫王や倭姫王の夫であり魔王でもある。
チビコマチ(小野小町)
額田姫王に歌を学ぶため飛鳥時代に連れて来られた平安時代の少女。
巫女舞風の装束を身にまとい「言霊」を使う。
厳 (ゴン)
春日の森で「鬼神の塚」を守る片目の野守。
なぜかチビコマチのお供をしている
鈴鹿御前(倭姫王)
第六天魔王、天照大神
なぜか高位天魔を人間に転生させて飛鳥の都に集結させている。
ちゃっかり自分も皇女に転生した。だがまだ子供である。
小狐丸
黒い戦闘魔獣。
魔物を斬る『神刀』を鍛える刀工でもある。
お玉(玉藻)
百済王妃に化けた九本尻尾の妖狐の少女。
幻覚を操り、人間を魔物化させる能力を持つ。
「中大兄皇子が山階(山科)の山奥に消えたらしいとか言われてますな、カマの兄貴」
中臣の金が酒の肴をかじりながらいう。
カマタリは酒を吹いて咽た。
「どど、どうしてそれを!」
「ん?いや、そのようなバカバカしいウワサ話が朝廷内でまことしやかに囁やかれておりますが」
カマタリの大げさな反応に金の方が驚いた顔をしている。
(いや、まんざらデタラメでも無いんだよな…)
もっとも中大兄皇子が飛ばされたのは山科ではなく宇宙の果てで、やった犯人はカマタリたちなのだが、カマタリは他人事のように酒をあおった。
飛鳥。中臣の屋敷。
殯の間はカマタリたちはここに居る予定だが、その間に多武嶺 の墳墓の用意やら、遠方からの訪問客やら、浪速京から来る商人や軍人、外交部門の官吏たちとの相談がある。
古代の殯の様子だが、
倭国伝には、親賓、屍について歌舞し、妻子兄弟は白布を以て服を製す。と言われる。
白衣を着て歌い踊る…はて?これはひょっとして宴会だろうか?いや、たぶん宴会だろう。そう、宴会に違いあるまい。
というワケで今夜も巫女たちが舞い、神官たちは琴を弾き、笛太鼓を叩く。
額田姫王とチビコマチは、この時とばかりに歌い踊る。
もっとも肉類は食えないのが少し不満そうだ。
「ところで金さん。中大兄皇子さまが居なくなってからの寶姫(斉明天皇)様の様子はどうなんだい?」
「最近は有馬皇子さまが、大王の御前によくお見えになっておられるとか」
「は?有馬皇子さまが?寶姫さまの所へ?」
有馬皇子は先帝の軽大王(孝徳天皇)の皇子だ。もちろん彼も皇位継承者でもある。
以前は義母である間人皇女に入れ込んでしまっていた坊やだったが、多武嶺で変わり果ててしまった間人皇女の姿を見て逃げ出してそれっきりだったが、まだ飛鳥に居たのか。
飛鳥に近づくとちょっと危険だなとカマタリも感じる。
「有馬皇子には早いとこ浪速京に戻ってもらわねばな」
「カマの大兄、そんなに急いで戻らずとも」
「浪速では中皇命が待っておられるからな」
まさか寶姫たちに命を狙われるかもしれないからとも言えない。
「え?間人皇女さまが?あの方は中大兄皇子様の…」
金は言葉を濁した。まさか先帝の皇后を、兄の傀儡だとも言えまい。
「浪速にはまだ先帝の軽大王の皇后さまも息子の有馬皇子もおられる。立派な都じゃねぇか」
「もう宮城は飛鳥の岡本宮ですよ」
「それでいい。政治は今まで通り飛鳥の王権が行う。だが民間の経済や海外交易は浪速の王権で」
「そんな!」
「軽大王の時代からそうじゃないか、それをまた続けるだけさ」
「しかし民間の経済って何です?」
「唐では銭で経済を動かしてると聞く。俺たちも、この日本の銭を鋳造するのさ」
「それって何か役に立つんですか?」
中臣の金は、名前は金だが、まだ貨幣経済というものを理解できない。
「孫子の言う『貴売すれば百姓財竭』だよ。
物価をコントロールできなければ国民生活も軍事力も成り立たない。言い換えればコントロールできれば国力を合理的に増強できる」
「どうやって?」
「コストを計算して銭や米の流通量を国が増減させる」
「そんなに上手くいくのかね?」
「調(税)や商売で集めた金で、国内外から人を雇うのさ。たとえば今使っているあの運河を利用して浪速から物品を飛鳥に送る。飛鳥からは人を浪速に送る。そうすりゃウィンウィンだろ?」
「う〜ん…」金は考え込んだ。
「孫子の七計だよ。この先、国土が整備され民が豊かになれば、経済も軍事も盛んになる。そうなればいずれ難波がこの国の中心になる」
中臣の金は顔を曇らせた。
「カマのアニキ、それでは国家を二分する事にはならないか?」
「まぁ天下二分の計だな」
「そんな事をしたら中大兄皇子さまが…」
「その中大兄皇子さまだって、山階に消えて久しいのだろ?」
「ええ、行方不明です」
「ならば有馬皇子が成人するまで、皇后さまであられる中皇命と母親の小足媛さまが政を継ぐしか無いだろ?」
「!…」
中臣の金は身震いした。
本気なのだろうか?
カマタリは飛鳥朝の政務を真っ向から否定しているように見える。
もしこれを中大兄皇子に眼をつけられたら…
ー その晩 ー
ふと目を覚ます。灯りも消えて月の光だけが青く冴えていた。
だいぶ飲みまくったせいか、いつの間にか座ったまま寝てしまっていたようだ。
見れば庭先の薦の上にまで舞い手の女たちや、琴を弾いていた神楽の神官たちがゴロ寝している。
カマタリにかぶさるように舞子の少女がもたれ掛かって眠っていた。
歳の頃はまだ十代半ばだろうか、髪は黒く肌も光っている。
「やれやれ寝かせてやろうか」と、そっと肩を抱くと、温かく柔らかい軽い身体の感触が伝わって来る。
「う…」少女の感触に酔いが覚めて理性が飛んだ。
背後から肩を抱いたまま手を衣の奥に滑り込ませると、まだ小さな乳房に小さな突起が手のひらに当たった。
しばらく手のひらで乳房を転がした後、さらに下に手を伸ばす。下腹の肉の先をたどると指先が陰毛に触れる。
カマタリがさらに指先を奥に差し入れようとした瞬間、ハッ!と殺気を感じて振り向く。
すぐ背後に額田姫王の青く光る目がニラミつけていた。
「ギャッ!」とカマタリは飛び退いたが、彼女にガッチリ襟をつかまれ引きずられながら庭先に建てられた神社のお宮のような殯の宮に連れ込まれ、バタリ!と扉を閉められた。
御食子の柩の前にカマタリは正座させられている。
「キミ!いい歳してナニやってんのよ!」
「すいません」
「しょうがないわね、全く」
そう言うと額田姫王はカマタリの前にチョコんと座った。
「は?…?」
「私が代わってあげるから、続きをやりなさい」
「やって欲しいなら素直に言えばいいのに…」と言いつつ背後から肩を抱き寄せていきなり胸を揉み、白衣の裾を腰の上までまくり上げた。白い下半身が丸出しになる。
「ちょっ!な…」
と振り向いた顔の口に口を付けてふさいで舌をからめ、手は胸と下半身を同時にまさぐる。
額田姫王は「ウッ!」と声を出し抵抗したが、しばらくするとビクリと彼女の身体が弓形に反ると、両手はダラリと下ろされ、溶けるように脱力した。手馴れたものである。
密かに間人皇女から特訓を受けていたので、彼女の弱点は研究済みだ。
カマタリは膝立ちになると、今度は彼女を四つん這いにさせた。
めくれた裾から尻が丸出しになっている。
「ちょっと…やめ」
カマタリは後ろから腰を近づけた。
「ワガママ言ったバツですよ鏡さん」
カマタリは指を差し入れると額田姫王が「ヒッ!」と身を伏せる。
カマタリはさらに腰を突き込むと額田姫王は「ああっ!」と大きく口を開いて歌うような声を上げた。
その歌声に誘われるように二人の腰が動く。
「ああっ!あっ!……あ?」
その時二人の目の前に、いきなり紫の光が現れて地獄の井戸が開き、中から傷だらけのイヒカ姫が現れた。
「ちょうどいい、二人ともここに居たか!緊急事態じゃ」
「へ?」イヒカ姫の言葉にカマタリの腰の動きが止まる。
「ヤマタノオロチが転生してしまったのじゃ」
さらにまた紫の光と共に地獄の井戸が開き、今度は小野篁と猫娘軍団がゾロゾロと出て来て膝を着く。
「カマ様、ヤマタノオロチが根之堅洲國より現世に現れる予兆があります。なにとぞ御出陣のご用意を」
さらにチビコマチとゴンが出て来た。
「キャッ!カマ様たちエッチですう」
チビコマチとゴンは顔をおおいつつ指の間から見ている。
たちまち小さな殯の宮は人でいっぱいになった。
「う〜んヤマタノオロチねえ」
カマタリは腕を組んで考え込む。
額田姫王は四つん這いで口を開けたまま呆然としていた。
〜 85 緊急事態なのじゃ! 〜完
【年表】
◼ 653年。第二次遣唐使。道昭とチカタ(定恵)入唐
◼ 654年孝徳天皇崩御(654年 - 10月)
◼ 655年 1月、寶皇女が即位(斉明天皇)
◼ 656年 斉明天皇、後飛鳥岡本宮へ遷る。
◼ 656年 後飛鳥岡本宮火災
◼ 656年 葛城山に龍が現れる。
(=φωφ=)あとがき。
> 孫子 貴売、百姓財竭
軍事費をダラダラと上げ続けると物価が上昇し、民衆が貧しくなるって感じでしょうか。
だからさっさと決着を付けろと。兵は拙速ですね。
> 中大兄皇子
天智天皇は山階郷などで行方不明になったという都市伝説が平安時代に書かれてます。
天智天皇の陵墓は山科にあるみたいですが。




