81 魔王大権現
【登場人物】
中臣鎌足(カマ様)
人間に転生した天魔の神『天狐』東国の獣神であり人間体でも魔物を圧倒できる身体能力を持つ。
額田姫王・鏡王女
中大兄皇子の元妻であり、神の歌「言霊」を使う宮廷歌人。
琵琶湖の龍王女の転生体である。
葛城皇子(中大兄皇子)
女性と見まごう白く美しい外観に凶悪で残酷な内面を持ち合わせる。
額田姫王や倭姫王の夫であり魔族を率いる魔王でもある。
チビコマチ(小野小町)
額田姫王に歌を学ぶため飛鳥時代に連れて来られた平安時代の少女。
巫女舞風の装束を身にまとい「言霊」を使う。
厳 (ゴン)
春日の森で「鬼神の塚」を守る片目の野守。
なぜかチビコマチのお供をしている
鈴鹿御前(倭姫王)
天照大神の依代であり第六天魔王の一人。
なぜか高位天魔を人間に転生させて飛鳥の都に集結させている。
ちゃっかり自分も皇女に転生した。だがまだ子供である。
小狐丸
黒い戦闘魔獣。
魔物を斬る『神刀』を鍛える刀工でもある。
お玉(玉藻)
百済王妃に化けた九本尻尾の妖狐の少女。
幻覚を操り、人間を魔物化させる能力を持つ。
地獄の井戸の光を宿した黒い剣が、カマタリの手元からゆっくり消えて行く。
「助かったぜコマチちゃん」
ふと眼下の山頂を見ると中大兄皇子がこちらに向かって白い顔を傾けて微笑んでいるのが見える。
「まだ…か…」
まだ終わりではない。
山々の奥から、山よりさらに巨大な黒い影が、ゆっくりと地上に頭を持ち上げ、上半身を這出してきた。
「地上に出るつもりか!」
「なんとかせい!」
イヒカ姫が焦った声を上げる。
「なんとかと言われましても」
「どうするのよ!」
額田姫王も声を上げる。
「どうする…って言われましても」
もうコマチの黒い有無一剣は消えてしまった。
いや仮に残っていたとしてもはたしてあの影を切れるのか?
あの黒い影こそ地獄そのものに見える。
その時、真正面の空間に、いきなり地獄の井戸が開き、中から剣を振りかぶった中大兄皇子が飛び出して来る。
「なぬっ?!」
皇子は「やあ」と微笑むと、超高速でフツノミタマノ剣を叩き込んで来た。
「うわあああっ!」
バシっ!と凄まじい破裂音とともにカマタリは小狐丸の上から吹き飛ばされた。
全力で受けたつもりだったが、すさまじい剣圧を受け、そのま下界の岩壁に叩きつけられ、紙クズのように地上に落下する。
すでにカマタリの変身は解除され、鎧が消えていた。
人間体に戻ったカマタリは額田姫王に支えられてようやく起き上がる。
「しまった!分断されたか!」
イヒカ姫と小狐丸はあわてて旋回してカマタリを追う。
「ダメじゃ!間に合わぬ!」
空中に浮かんでいた中大兄皇子は微笑むと、上空から片手で剣を振り下ろす。
「終わりだよ」
だがその瞬間、赤い龍が横から中大兄皇子に体当たりをした。
皇子の動きが止まる。
「ん?」
中大兄皇子は巨大な龍の体当たりにびくともせず、目線を龍の頭上に居るチカタに向けた。
チカタは臆する事なく中大兄皇子に向かって金剛杵の剣を向けた。
「阿耨多羅三藐三菩提、阿耨多羅三藐三菩提、阿耨多羅三藐三菩提!」
赤い龍が巨大な口を開く。
口から透明な白い珠が飛び出し、中大兄皇子にぶつかった。
「裏切り者め…」
中大兄皇子は赤い龍に向かってつぶやくと、皇子は珠の勢いのまま、はるか彼方の空に飛ばされて消えた。
「父上!母上!」
赤い龍の頭上に座っていたチカタが飛び降り走って来る。
「チカタくん!」
「チカタ!やっぱりママを助けに来てくれたのね!」
「誰がママやねん!」
カマタリたちがお約束のボケツッコミをかましてる間にチカタは右腕の金剛杵で空に種字を斬る。
「地・水・火・風・空!」
巨大な赤い龍、蛇毒気神はグルグルとカマタリたちの周りを螺旋状に周回し始めた。
赤い龍はいつの間にか小さく変わってチカタの金剛杵の剣に巻きついた。
剣が燃えて赤く光る。
『倶利伽羅剣!』
倶利伽羅剣、それは龍が巻き付いた不動明王の剣である。
剣に巻き付いていた赤い龍が口を開けると透明な赤い珠が現れ、赤い龍は珠をくわえたままカマタリの口の中にスルリ飛び込んでしまう。
思わず龍を呑んでしまった。
その瞬間、目の前にドン!と宇宙が広がった。
無限の暗闇に星々が輝いていた。
「なんだこりゃ!急に夜になったぞ?」
「あら、きれいじゃない。歌でも詠みたいわ」
どうやら額田姫王も一体化しているようだ。
「夜ではありません、宇宙空間、空のはるか上の星の世界です」
どこからかチカタの声が響いてきた。
「空の上?」
「空間の概念を超えて巨大化したのです、父上」
「マジかよ!」
キョロキョロと見回すと、ふと自分の腕が青くなっているのが目に付いた。
あわてて全身を見ると身体全てが青く変わっていた。
「何だこりゃ!」
「光より早く拡大しているので光が偏位して青く見えているだけです」
「そのような物理法則を飛鳥時代に言われても意味わかんないんだけど?」
カマタリも時間概念を越えてしまっているため言ってる事がメチャクチャになっていた。
「魔王の権現です。父上は今、宇宙と一体化したのです」
「宇宙と一体化?ありえないだろそれ」
「なってるじゃない!ねえチカタ」
「はい、なってます」
「…………そうだよね…」
「父上、足元に『あのお方』がおられるのを感じませんか?」
「あのお方?」
ふと意識を足元に移すと足元には山々が広がり、そこに小さな黒い点が動いているのが見える。
「父上、『あのお方』をそっと地下に押し戻してさしあげてください」
「『あのお方』??地下に押し戻すの?こう?」
カマタリはヒョイと虚空に脚を持ち上げるとズドン!と黒い点を地下の奥まで貫き落とした。
あの巨大な黒い影は地上から消えてしまっていた。
地下深くまで踏み抜いたはずだが、地上には跡は残っていない。
異次元の踏み込みだったようだ。
「あああ!父上…」
「へ?なに?」
「あら?今の黒い影ってひょっとして」
「バカ者め…」
地上では人間体に戻ったイヒカ姫が頭を抱えていた。
多武嶺の山頂。
血まみれの王は、白いピラミッドのような天宮の前に倒れたまま、空を見上げてうめいた。
「今のは…まさか…魔王」
あの巨大な大黒天を、さらに巨大な透明な足のようなものが地下に押し返したように見える。
だがそれは巨大過ぎて何も見えない。
何も感じない。
まるで虚空が虚空を踏んだような感覚だ。
(あれは中臣鎌足だ…いや、だがカマタリにあのような力は絶対無いはずだ、なぜだ?)
そう。あれは明らかに魔王の力だ、しかも自分たちが魔王だと推測していた中大兄皇子や大黒天よりはるかに強大な…何なんだ!あれは。
王は必死に考えるが、答えは見つからない。
「バカな…この私が理解できないなど…バカな…」王はうごめくように頭脳を働かせ地に目線を落とした。
「老師」
突然に声を掛けられて王があわてて振り返る。
チカタが悟空を伴って、王の前に現れた。
悟空は膝を着いて王をヒョイとつかみ上げると肩にかついだ。
「お前…」
王が驚いた表情で悟空を見る。
悟空は視線も合わせず答えた。
「俺はアンタなんて放っておけばっていいって言ったんだけど、命の恩人だから連れて来いってお師匠が言うからさ」
「師匠…だと?」
「お師匠は三蔵法師さまだ」
「三蔵法師…」
チカタと悟空たちは王と沙を連れて地獄の井戸に消えた。
赤い龍が人間体に変わった。
赤い海人族の衣装を着ており、短い裾からスラリと長い手足が伸び、全身には大蛇の紋様のような入れ墨が入っている。黒く長いストレートな髪と長いまつ毛に輝く眼。
とんでもない美女だった。
「おおお!」
露出度が高いちょっとエッチな服装にカマタリは目を奪われるが、額田姫王にバン!と背中を叩かれて激痛にうずくまった。
「畏くも根之堅洲國王女の御前である!」
イヒカ姫が赤い龍女に向かって跪づく。
あわてて額田姫王も、それに倣う。
「根之堅洲國の王女さまって?」
「バカね!スサノオの尊の王女様よ!」
「えええ!スサノオ…っていててててて!」スサノオの娘と聞いて、あわててカマタリもひれ伏した。
「ムリせずとも良い…」
か細い声でスサノオの娘が声を掛ける。
「え〜と…蛇毒気神さま…でしたよね」
「ちがう…」
か細い声でスサノオの娘が答えた。
「私の名は…ヒルコ…」
〜 81魔王大権現 〜完
【年表】
◼ 653年。第二次遣唐使。道昭とチカタ(定恵)入唐
◼ 654年孝徳天皇崩御(654年 - 10月)
◼ 655年 1月、寶皇女が即位(斉明天皇)
◼ 656年 斉明天皇、後飛鳥岡本宮へ遷る。
◼ 656年 後飛鳥岡本宮火災
◼ 656年 葛城山に龍が現れる。
(=φωφ=)あとがき。
>珠が現れ宇宙と一体化
八歳の龍女は三千世界の一空に心が入り満ちた珠をブッダに捧げたと言われます。
つまり宇宙全体と同等の質量兵器ですね。
これを宮本武蔵は天地満々と言いました。
> 八歳の龍女
龍王の娘で日本では善如龍王と呼ばれ信仰されてます。
空海の雨乞いの祈祷7日目に祭壇の上に五尺の蛇が現れ、頭には五寸の金の蛇を載せて現れ、やがて雨が潤したとか。
> 阿耨多羅三藐三菩提
インドの山奥で修行するさいに唱えたのでしょうね。




