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78 イザナミの眼

【登場人物】

 中臣鎌足(カマ様)

人間に転生した天魔の神『天狐(あまつきつね)』東国の獣神であり人間体でも魔物を圧倒できる身体能力を持つ。


 額田姫王(ぬかたのひめみこ)・鏡王女

中大兄皇子の元妻であり、神の歌「言霊」を使う宮廷歌人。

琵琶湖の龍王女の転生体である。


 葛城皇子(中大兄皇子)

女性と見まごう白く美しい外観に凶悪で残酷な内面を持ち合わせる。

額田姫王や倭姫王の夫であり魔族を率いる魔王でもある。


 チビコマチ(小野小町)

額田姫王に歌を学ぶため飛鳥時代に連れて来られた平安時代の少女。

巫女舞風の装束を身にまとい「言霊」を使う。


 厳 (ゴン)

春日の森で「鬼神の塚」を守る片目の野守。

なぜかチビコマチのお供をしている


 鈴鹿御前(倭姫王)

天照大神の依代であり第六天魔王の一人。

なぜか高位天魔を人間に転生させて飛鳥の都に集結させている。

ちゃっかり自分も皇女に転生した。だがまだ子供である。


 小狐丸

黒い戦闘魔獣。

魔物を斬る『神刀』を鍛える刀工でもある。


 お玉(玉藻)

百済王妃に化けた九本尻尾の妖狐の少女。

幻覚を操り、人間を魔物化させる能力を持つ。

 切り飛ばしたはずの牛魔王の腕がモコモコと再生され、たちまち元の姿に回復する。

 白い巨体が平然と山々の上にそびえ立つ。


「ウソだろ!おい」

 カマタリの剣は天魔を斬れる。中大兄皇子ですらカマタリの太刀を受けて無事ではなかった。

だがこの白い牛魔王は違う。隠形鬼(おんぎょうき)の不定形生物態の不死身の能力を持っているのだ。


 牛魔王が赤い炎をまとった槍を振り向けると槍の先から赤い炎の光線が走った。

「あぶねえ!」

 小狐丸はヒラリと赤い光線をかわした。

近くをかすめただけで身が焼ける様に痛い。

 炎の光線は手前の山を削り、はるか彼方の河内の海を貫いて爆発した。

海上から水蒸気の爆炎が巻き上がり、青い海から真っ白いキノコ雲が空高く伸び上がって行く。

 恐ろしい威力である。


「しまった!」


  カグツチの炎

この広大な日本の国土、大八洲国(おおやしまのくに)を産んだイザナミはカグツチの炎は焼き殺してしまった。まさに大神をも殺す炎なのだ。


「なんてパワーだ!あれが直撃したら大和国が消し飛んじまう!」


「神をも焼き殺す炎だ。当たるでないぞ!」


「んなムチャな!」

 イヒカ姫のムチャな指示が飛ぶがその通りではある。

たとえ無敵の天魔将軍であろうとあの光線が直撃したら一瞬でこの現世(うつしよ)から消え去ってしまうだろう。


 小狐丸は金色の翼を広げ山嶺(さんれい)()うように低く迂回(うかい)して牛魔王の足元に潜り込む。

「フツノミタマ!」

 カマタリの意思に額田姫王(ぬかたのひめみこ)の銀の剣が共鳴し、光り輝く剣が長く伸びて牛魔王の巨大な足を薙ぎ払えば白い巨体が山々の上に倒れる。


 牛魔王は倒れたまま小狐丸を追って槍を振るった。

赤い炎の光線が山々の頂を焼き削り、巨大な炎が巻き上がり爆炎とともに崩れた。


「ダメだ小狐丸!このままじゃ日本(ヤマト)が燃えちまう!空に昇れ!」


「ま、待て!上空には黄泉国(よもつくに)が口を開いておるぞ!」


 見上げれば渦巻く黒雲の中に赤い炎の口が開いているのが見える。

 小狐丸は金色の翼をひるがえして空から引き返す。そこへめがけて牛魔王は白い腕を伸ばして来た。白い指が巨大な大蛇の様にウネリながら小狐丸へ襲いかかる。

 小狐丸が身体をヒネり回転すると全身から数本の神剣が飛び出し、牛魔王の白い指を切り飛ばした。


 牛魔王は今度は白い胴体を上空まで伸ばし、カグツチの槍をグルグルと振り回してくる。

空一面に赤い光の筋が円を描き小狐丸を襲う。

 とても避けきれない。


「フツノミタマ!」

 カマタリは銀色に伸ばした光の剣でカグツチの炎を切り裂き、返す太刀で牛魔王の腕を斬り飛ばした。

 槍を取る牛魔王の腕が落ちる。

だがすぐ新しい腕が生えて槍を拾い、牛魔王は復活してしまう。


「ダメだ!キリがねえ!」


 小狐丸は旋回しながら間合いを取る。

カマタリが叫んだ。

「槍だ!あの槍をブッ壊すしか無え!」


「どうやってよ?」額田姫王(ぬかたのひめみこ)が声を掛ける。


「真上だ!上から攻撃する。あいつが槍を振り上げた時を狙う。それしか手は無え!」 


 イヒカ姫があわてて叫んだ。

「ダメじゃ!真上はイザナミの(ミコト)黄泉国(よもつくに)が口を開いておる!あそこに一歩でも踏み込んでしまうとイザナミの(ミコト)(さら)われ地獄に飲み込まれてしまうであろうぞ!」

 渦巻く黒雲の中央には赤い口が開いており、炎の舌がフレアの様に空を()め回していた。

「クソっ…」


 カマタリたちは空を見上げる。

ふとその時、地獄の赤い口の奥に巨大な黒い人影が動いているのが見えた。

「あれは…人間?」


 乱れた長い髪が黒い炎のようにうねる。

黒い影は目玉を開いてギロリとこちらを向いた。

 まるで地獄の奥からジッとこちらを見ているかのように、輝くような美しい黒い瞳が、目線をこちらに向けている。

 わずかに炎に照らされた顔は恐ろしくも美しい輪郭が見える。


「あのお姿は…まさか!伊邪那美命(イザナミのミコト)!」

 イヒカ姫が恐怖の叫び声を上げた。


 真っ赤に燃えた異世界の奥で、巨大な美しい女性の影がジッとこちらを見ている。

 神が「えをとめ(美しい女性)」と呼んだ輝く瞳。

間違いない!地獄の神イザナミがこちらを狙っているのだ!

 その美しい瞳に見つめられるとカマタリも背筋が凍った。


「い…いかん!スサノオの(ミコト)に呼ばれてイザナミの(ミコト)が目をお覚ましになられたのじゃ!あそこに近づいてはならぬ!」

 イヒカ姫の震える振動が足元から伝わって来た。

カマタリはギュッと足を踏み()める。


「それでも上に行きます!行くぞ小狐丸!牛魔王の真上だ!」

「わかっている。邪馬台(ヤマト)の戦士よ」

「そうよ!やっちゃえ!やっちゃえ!」

「お前らはバカ者だ!」

 イヒカ姫の怒鳴り声も(むな)しく、小狐丸は金色の翼を広げ、上空の地獄の口めがけて一直線に駆け上る。

 牛魔王も白い体を長く伸ばして小狐丸を追いかけて来た。

巨大なカグツチの槍が赤い炎の光を穂先(ほさき)に集めて、すぐ背後にまで迫って来る。

 もしあれが近くを(かす)めるだけで、一瞬にしてこの現世(うつしよ)から消えてしまうであろう。


 見上げれば目の前いっぱいに真っ赤な地獄の炎が広がり、身を焦がす。

 その奥ではイザナミの巨大な影がカマタリたちを目線でジッと追いかけている。


「あの目は我らを狙っておるぞ!上と下で挟み討ちにするつもりじゃ!」

 イヒカ姫が叫ぶが、カマタリは深く身を沈め、小狐丸は一直線に巨大な黒い影めがけて飛ぶ。


 その時、イザナミと目が合った。


 長く乱れた髪は焼けてちぢれ、整った顔はケロイドで焼けただれていた。

巨大な黒い瞳がキラキラと輝き目の前に迫る。

 フッと地獄の口から黒く焼けただれた巨大な手が伸びてカマタリの目前にいっぱいに広がる。

 イザナミの手がカマタリたちをつかまえようとしているのだ!


 巨大なイザナミの爪が迫る。

小狐丸はとっさに金色の翼をたたんで身をひねり、その爪を(かわ)して落下した。


 落下して来る小狐丸を見て牛魔王はカグツチの槍を突き込んで来る。


「フツノミタマ!」

 カマタリが太刀を振り抜くと牛魔王の巨大な白い首が飛んだ。


 小狐丸が地獄の井戸に消えると、目標を見失ったカグツチの槍はそのまま牛魔王の手でイザナミの指先に突き刺さった。


「ギャアアア!」


 イザナミの悲鳴に天空が震え、地獄の大音響が日本全土(オオヤシマ)に響き渡る。

その叫び声により黒雲は吹き飛び、山が崩れ、鳥が地面に落下した。

 多武嶺(たむのみね)上空に居た小狐丸も石ころのように吹き飛ばされ、山腹にぶつかり、(ふもと)の森へと落下した。 


 黒雲が消えた空には青空が戻り、地獄の口がゆっくり閉じ始めていく。


 〜 イザナミの眼 〜完

  【年表】

◼ 653年。第二次遣唐使。道昭とチカタ(定恵)入唐

◼ 654年孝徳天皇崩御(654年 - 10月)

◼ 655年 1月、寶皇女が即位(斉明天皇)

◼ 656年 斉明天皇、後飛鳥岡本宮へ遷る。

◼ 656年 後飛鳥岡本宮火災

◼ 656年 葛城山に龍が現れる。


 (=φωφ=)あとがき。

 > イザナミと目が合う。

まぐわい(目合)の語源となる目ですね。

きっと超絶美人だったのでしょうね。

カグツチの炎で死んだ後、イザナギは死後の世界にまで追いかけて行き、スサノオは泣き明かしました。

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