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79 天浮橋(あめのうきはし)

【登場人物】

 中臣鎌足(カマ様)

人間に転生した天魔の神『天狐(あまつきつね)』東国の獣神であり人間体でも魔物を圧倒できる身体能力を持つ。


 額田姫王(ぬかたのひめみこ)・鏡王女

中大兄皇子の元妻であり、神の歌「言霊」を使う宮廷歌人。

琵琶湖の龍王女の転生体である。


 葛城皇子(中大兄皇子)

女性と見まごう白く美しい外観に凶悪で残酷な内面を持ち合わせる。

額田姫王や倭姫王の夫であり魔族を率いる魔王でもある。


 チビコマチ(小野小町)

額田姫王に歌を学ぶため飛鳥時代に連れて来られた平安時代の少女。

巫女舞風の装束を身にまとい「言霊」を使う。


 厳 (ゴン)

春日の森で「鬼神の塚」を守る片目の野守。

なぜかチビコマチのお供をしている


 鈴鹿御前(倭姫王)

天照大神の依代であり第六天魔王の一人。

なぜか高位天魔を人間に転生させて飛鳥の都に集結させている。

ちゃっかり自分も皇女に転生した。だがまだ子供である。


 小狐丸

黒い戦闘魔獣。

魔物を斬る『神刀』を鍛える刀工でもある。


 お玉(玉藻)

百済王妃に化けた九本尻尾の妖狐の少女。

幻覚を操り、人間を魔物化させる能力を持つ。

  天宮(あまつみや)

多武嶺(たむのみね)の山頂に建てられた八角ピラミッド型の道教寺院である。


 天宮(あまつみや)の内部。

石室(いしむろ)の薄暗い天井を、白い薄衣(うすぎぬ)をまとった裸の女たちが笑顔で走り回っている。

 いや、石室(いしむろ)の内部に細い蜘蛛(クモ)の糸が張り巡らされ、女たちの衣装もその糸で織られたものだ。

 女たちはケラケラと悪夢のような笑い声を天宮(あまつみや)に響かせる。

女たちは腹から糸を巻き出し、たちまち額田姫王(ぬかたのひめみこ)が破壊した壁の穴を塞いでしまった。


  「絡新婦(じょろうぐも)

古代の妖怪、土蜘蛛(ツチグモ)の霊が転生した魔女である。

ヘソから糸を出し、口から火を吹く。

 西遊記では玄奘(げんじょう)三蔵を誘惑する美女として登場する。


 土蜘蛛(ツチグモ)は女性を首領とし、山野に石窟(いわむろ)を築いたと言われる。

つまりこの天宮(あまつみや)の石室はまさに彼女たちが造った土蜘蛛(ツチグモ)の巣なのだ。


 金毛九尾の巨大キツネに変身したタマモが天井の女たちに怒鳴る。

「降りて来い!こんにゃろ!」


 先ほどの額田姫王(ぬかたのひめみこ)の攻撃によって絡新婦(じょろうぐも)の半数は吹き飛ばされたのだが、額田姫王(ぬかたのひめみこ)は外に居た(ワン)を見つけるなり

「見つけたわよ!高志才智(こしのさいち)っ!左大臣密室殺人事件の真犯人として逮捕よっ!!」

 …と、全裸のまま飛び出して行ってしまった。

 なので残りの蜘蛛女の魔女4匹をタマモが一人で相手をする事になったのだ。

 迷惑な話である。


 絡新婦(じょろうぐも)たちはいつの間にか石室(いしむろ)の内部を撚糸(ねんし)の網で取り囲み、驚くほど素早く部屋中を動き回り修復する。


「コンの〜!…うえっ!」

 ベタベタの粘った糸がからみつく。

タマモは大妖怪とはいえ小狐丸のような戦闘魔獣タイプではない。

 工作員として敵国の王室に入り込み、敵国の家臣たちをゾンビ兵士化させて自分の手足として働かせ、自分は気楽な贅沢三昧(ぜいたくさんまい)で国家を内部から崩壊させるという、国民にとっては迷惑な戦術を得意としていた。


 さしずめハニートラップ・エンジョイ勢と言ったところか。

幾多(いくた)の大国がタマモの遊びによって滅亡していった。

 美女、淫声(いんせい)を進めて

    これを惑わし

 乱臣(らんしん)(やしない)

    これを迷わす。

戦わずして敵を滅ぼす。

武韜「文伐篇」の戦術である。


 それに目をつけたのが魔王中大兄皇子である。


「コンニャロ!…ギャっ!」

絡新婦(じょろうぐも)がタマモの獣身体を糸で絡め始める。

 タマモは暴れ回ってようやく糸から逃げ出したが酒の池に落下して水しぶきを上げる。


「ぶはっ!」っと酒の池から顔を出すが、そこに蜘蛛女(クモおんな)たちが火を吹きかけながら細身の毒剣で刺しはじめた。

「痛い!痛いっ!」

 魔獣体のタマモが悲鳴を上げてもがいた。

そこを狙って蜘蛛女(クモおんな)たちが毒剣で飛びかかる。


「ナメんな!」

 タマモが黄色のガス状の息を吹き出し、蜘蛛女(クモおんな)に浴びせた。

女たちはバタバタと床に落ちはじめた。

 岩室の内部に硫黄のようなガスが充満する。


  ミトコンドリア置換。

 人間に幻覚を見せ不死身のゾンビ魔人に作り変える。その悪魔の毒ガスを高濃度で蜘蛛女(クモおんな)に吹き付けたのだ。

 いやガスではない。

人体に「共生」し、活動に不可欠な生物ミトコンドリア変異体の微粒子である。

 タマモの使役するゾンビ魔人たちは人間のミトコンドリアを入れ替え、人体の機能を極端(きょくたん)に活性化させ不死身の魔人体にする事ができる。

 だが、それを体内攻撃に使えば人体機能がDNAレベルから狂わされ全身の細胞が暴走し死に至る。


 蜘蛛女(クモおんな)たちは癌細胞の暴走により全身がボコボコに膨れ上がり、狂った肉塊(にくかい)のように手足をバタバタとうごめかせる。

 タマモは床でのたうち回る蜘蛛女(クモおんな)たちを一匹ずつ切り裂き、肉が弾けた。


 タマモが蜘蛛女(クモおんな)と戦っているその奥で間人皇女(はしひとのひめみこ)は草薙の剣を(にら)み付け、その手前に倒れているゴンを助け起こした。


 間人皇女(はしひとのひめみこ)はゴンを胸元に抱き寄せ、乳房をゴンの口に押し当てる。

  『(おも)乳汁(ちしる)

 死んだ大己貴命(オオナムチ)を蘇らせるため、(ハマグリ)の女神ウムギ姫のが使ったと言われる蘇生魔法(そせいまほう)である。

 その体質ゆえかタマモの毒ガスも間人皇女(はしひとのひめみこ)には効かないのだ。


「目を覚ましなさい、あなたがこの世界を救うのよ」

 間人皇女(はしひとのひめみこ)の声に呼ばれ、ゴンがうっすらと目を開けた。


「ひぇ〜まさかワタイの毒霧にも平気な人間がいるとはね!」

 なるほど、タマモを護衛に置いたのはこのためだったのか。

魔獣体のタマモは感心するように間人皇女(はしひとのひめみこ)たちを見た。



  黒雲が晴れた。

青空には真っ赤な地獄の口がポカっと開いていた。

だがその赤い炎の口はゆっくりと閉じようとしている。


「ふ〜ん岩戸隠れか、させはしないよ」

 中大兄皇子が少女のように小首をかしげながら合図をすると、首を切り落とされた牛魔王の白い胴体が真っ直ぐ天空に伸びる。

牛魔王は赤く開いた地獄の口に手を掛けると、両手の剛力で空間をこじ開け始めた。


 その姿は緑の山々から青空に開いた赤い口に向かって一本の白い筋が伸びているように見える。

 まるで地上と空を結ぶ道のようだ。


  『天浮橋(あめのうきはし)

天上界と地上界をつなぐ橋と言われる。

イザナミとイザナギは、この天浮橋(あめのうきはし)を伝わって天上界より降りて来た。

 天地創造と破壊の神、天魔王の乗り物は白い牛だという。

つまり白い牛の魔神は天地の天魔王をつなぐ存在だと言える。


 岩陰から見える光景に中臣御食子(なかとみのみけこ)は「天の岩戸が開かれる…」とつぶやく。

 中つ(おみ)の神官たちは中臣御食子(なかとみのみけこ)の放った言葉を聞きどよめいた。

「岩戸開き…」


 この場合は天地の魔界がつながってしまう事を意味する。

神官たちが空を見上げる。


 その時、巨大な黒い影が多武嶺(たむのみね)の山嶺をよぎった。

 山より巨大な影!

神官や犬飼たちがどよめく。


 地の底から巨大な黒い影が持ち上がり、天に伸びて行く。

 やがてそれは巨大な腕となり、天浮橋(あめのうきはし)の白い紐をつかんだ。


 大黒天。

幽世大神(かくりよのおおかみ)と呼ばれる出雲の大神である。

 あの巨大な牛魔王ですら大黒天にかかっては、ただのロープに見える。


 大黒天の腕はゆっくりと白い紐をたぐりながらゆっくりと(はい)登って行こうとする。

「あれが…天魔王。もしあれが天界に(はい)上がったら…」

 紀朝雄(きのともお)がつぶやいた。


 中臣御食子(なかとみのみけこ)がフッと息をついだ。

「イザナミの(みこと)黄泉帰(よみかえ)られる」


「なんですって!」

 イザナミはイザナギの子孫、つまり人類を滅ぼす。

世界の破滅である。


 その時、赤い光が青空をよぎった。

赤い龍が空を駆け、牛魔王の白い胴体に噛み付いた。

 蛇毒気神(ダドクケノカミ)である。

龍の上には唐人の服を着た少年が乗っている。


「あれは…」

 血まみれのまま地面に伏した(ワン)が目線を空に向ける。


「チカタ…たのむぞ、我が孫よ」

 中臣御食子(なかとみのみけこ)がうっすらと目を閉じる。


御食子(みけこ)さま!」

 中つ臣の神官たちが泣きながら御食子(みけこ)を取り囲んだ。


「まだ死んでおらんわ!」

 元気な怒鳴り声が響く。

やはり中臣御食子(なかとみのみけこ)、意外としぶとかった。


 〜 79 天浮橋(あめのうきはし) 〜完


  【年表】

◼ 653年。第二次遣唐使。道昭とチカタ(定恵)入唐

◼ 654年孝徳天皇崩御(654年 - 10月)

◼ 655年 1月、寶皇女が即位(斉明天皇)

◼ 656年 斉明天皇、後飛鳥岡本宮へ遷る。

◼ 656年 後飛鳥岡本宮火災

◼ 656年 葛城山に龍が現れる。


 (=φωφ=)あとがき。

 > 葛城山の龍

上には漢人が乗っていたと言われます。


 > ミトコンドリア置換

古代史の話なのですが、何書いてるんでしょうね。

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