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76 大黒天

【登場人物】

 中臣鎌足(カマ様)

人間に転生した天魔の神『天狐(あまつきつね)』東国の獣神であり人間体でも魔物を圧倒できる身体能力を持つ。


 額田姫王(ぬかたのひめみこ)・鏡王女

中大兄皇子の元妻であり、神の歌「言霊」を使う宮廷歌人。

琵琶湖の龍王女の転生体である。


 葛城皇子(中大兄皇子)

女性と見まごう白く美しい外観に凶悪で残酷な内面を持ち合わせる。

額田姫王や倭姫王の夫であり魔族を率いる魔王でもある。


 チビコマチ(小野小町)

額田姫王に歌を学ぶため飛鳥時代に連れて来られた平安時代の少女。

巫女舞風の装束を身にまとい「言霊」を使う。


 厳 (ゴン)

春日の森で「鬼神の塚」を守る片目の野守。

なぜかチビコマチのお供をしている


 鈴鹿御前(倭姫王)

天照大神の依代であり第六天魔王の一人。

なぜか高位天魔を人間に転生させて飛鳥の都に集結させている。

ちゃっかり自分も皇女に転生した。だがまだ子供である。


 小狐丸

黒い戦闘魔獣。

魔物を斬る『神刀』を鍛える刀工でもある。


 お玉(玉藻)

百済王妃に化けた九本尻尾の妖狐の少女。

幻覚を操り、人間を魔物化させる能力を持つ。

 隠形鬼(おんぎょうき)の赤い紐に悟空はグルグル巻きにされ地面に転がる。

 悟空の瞳が輝き、青い巨猿に変身するが青猿は「ぐあっ!」と叫び声を上げてもがいた。

 赤い紐が食い込んで巨大化できないようだ。


「ほほほ、ムダじゃ、この(いましめ)からは逃れられぬわえ〜」

 赤い鬼、隠形鬼(おんぎょうき)はケラケラと笑うと紐状に伸ばした十本の指で悟空をさらに締め付ける。

 やがて悟空は抵抗を止め、力を抜くと静かに目を閉じた。


「おや、あきらめたのかえ、つまらないのう」


『……正念に『空』を観ずれば、無益の苦は(まぬが)れるべし。南無観世音!』

 悟空の身体がスッ…と透き通ると、その身体が数体に分身した。

 悟空の集団が一斉に隠形鬼(おんぎょうき)飛びかかって来る。


「なにっ!」

さすがの四鬼神たちも驚いた。


 身外身(しんがいしん) の術

自分を『空』にする事で、この世界の境界を超える。小野忠明が修羅界で使ったのと同じ分身技である。

 悟空は『空』の心法を使って並行宇宙(パラレルワールド)の自分たちを呼び寄せたのだ。


「ああっ!風鬼(ふうき)っ!」

青い猿に襲いかかられた隠形鬼(おんぎょうき)風鬼(ふうき)に助けを求める。

 風鬼(ふうき)は竜巻を起こして青い猿たちを吹き飛ばした。


 だが巨猿たちは突風に巻かれながら巨大化して竜巻を破り、如意棒を伸ばして上空の風鬼(ふうき)を打ち払った。


「ジッとしておれ」

 水鬼(すいき)が水流を起こして巨猿たちを水に包み込む。巨猿たちは身体を水で包まれ呼吸ができず、もがいていたが、如意棒を伸ばして水鬼(すいき)に叩き込む。

 金鬼(きんき)が如意棒を素手で防ぎ払った。


 巨猿たちはお互いの棒をつかみ合い、ぶつかり合って水を弾き飛ばすと、今度は金鬼(きんき)の巨体めがけて凄まじいスピードで飛びかかって来る。


「ぬう!」

 金鬼(きんき)は巨大化して金棒を振り回し、つかんでは投げ飛ばし踏み付けるが、青い巨猿たちは次々と襲いかかって来た。

 不死身の金鬼(きんき)とはいえ巨猿の集団に打ち込まれては分が悪い。


 さすがの水鬼(すいき)も焦った。

「むう!まさかこれほどの強敵とは。しかたない合身じゃ!」


 水鬼(すいき)風鬼(ふうき)隠形鬼(おんぎょうき)金鬼(きんき)の身体に飛び込むと金鬼(きんき)の姿はさらに巨大に白く変わり、頭側(とうそく)から二本の巨大な角が伸び、顔も牛に変わり、山よりも高く黒雲の空にそびえ立った。

 山嶺より高い白い巨体は天空の地獄の炎に赤く照らされている。

まさに白牛の魔神体の姿だ。


 あまりの巨体に悟空たちも攻撃の手が止まる。

四鬼神(シキガミ)の白い魔神体は手にした槍を一振りする。

槍の光跡から火炎が吹き出し、炎の波は悟空たちを炎に包んで、手前の山ごと吹き飛ばした。

 山頂付近に居た中臣の神官や犬飼いたちの頭上を炎の波が(なめ)て落石が飛ぶ。

 佐伯子麻呂(さえきのこまろ)も枯れ木の上から転げ落ちた。


「あれが魔王か?」紀朝雄(きのともお)中臣御食子(なかとみのみけこ)を担ぎながら岩陰に隠れる。

「カマどの…」


「心配は無用じゃよ朝雄(ともお)どの」

 重症を負っている中臣御食子(なかとみのみけこ)は意外なほどしっかりとした声で語ってきた。


「息子は…カマタリは戻ってくる。アヤツは神の子じゃからな」


「はい」紀朝雄(きのともお)はうなずいた。



 黄昏の水辺。

カマタリと額田姫王(ぬかたのひめみこ)たちは裸のまま肌を寄せ合いながら波が打ち寄せる水辺に立っていた。

 赤黒い空に透明な水が果てしなく広がっている。

「ここは?」額田姫王(ぬかたのひめみこ)はカマタリの胸の中に頬を寄せてつぶやく。


根之堅洲國(ねのかたすくに)黄泉国(よもつ)国の入り口さ」


黄泉国(よもつ)国…」

 ここが死後の世界と知り額田姫王(ぬかたのひめみこ)は表情をこわばらせる。


「すまん、君まで巻き込んじゃったな」

「いいの、あなたと一緒に…」

 額田姫王(ぬかたのひめみこ)はカマタリの胸に顔をうずめた。

 二人は身体を重ねながら透明な水の奥に沈んで行く。

額田姫王(ぬかたのひめみこ)はしがみつくように手足をからめる。

「やっと…やっとあなたと…」


「………この神聖な(みそぎ)の地で何をやっておるのじゃお前たちは」

 二人の目の前にイヒカ姫が現れる。


「うわっ!でたっ!」


「早よ水から上がらぬか!バカものめ」


 イヒカ姫に()られながら二人は抱き合ったまま水から上がる。

 空を見上げると先ほどまで静かだった赤黒い空が、渦を巻くように流れている。

「何ですか?ありゃ」


「見よ」

 イヒカ姫は深々と頭を下げながら遠方の大地を指差す。

 その()す先には数本の巨大な山の様な影がゆっくりのび上がってくるのが見えた。

いや、数本の影は下で一つになっている。


「あれは…手ですか!」


 数本の巨大な影は五本の指であり、その下にさらに巨大な腕が見える。さらにその遥か彼方にもう一つの手が見える。あまりにも巨大!デカ過ぎる。

 まるで地獄の主が地の底から()い出ようとしている様だ。


「大黒天、(かしこ)くもこの世界の王にあらせられる」


「大黒天…根之堅洲國(ねのかたすくに)の王!」

額田姫王(ぬかたのひめみこ)が身を固くする感触が伝わってきた。


「キミ、知ってるの?」


根之堅洲國(ねのかたすくに)の王は素戔鳴(スサノオ)(みこと)よ!」


「えええ!あれが!」

 まるで悪夢の様な巨大な影。あれが根之堅洲國(ねのかたすくに)の王、素戔鳴(スサノオ)(みこと)……

 思い出した!

以前、一度だけ小野篁(おのたかむら)たちに連れられて根之堅洲國(ねのかたすくに)の奥の世界を見た事がある。

 あれがスサノオだったのか!


「そうだ、あれが我が夫だ」

 突然の女性の声に振り返る。見回したが誰も居ない。


「もっと下だ」

 女性の声がする方へ視線を下ろすと輝く銀髪をフワリと宙に浮かべた少女が居た。


「あっ!倭姫王(やまとひめのおおきみ)


 あわてて額田姫王(ぬかたのひめみこ)は飛び降り、二人とも全裸のまま河原にひざまずいた。

 その横にイヒカ姫も座ってひれ伏す。


「スサノオめ、草薙の剣の力で現世(うつしよ)()い登るつもりのようだな」


 倭姫王(やまとひめのおおきみ)は光る髪をフワリと宙に浮かべながら巨大な影を見上げた。


「姫さま、素戔鳴(スサノオ)(みこと)は地上に向かってるんですか?」


「そうだ。そして地上から天空の穴を通って『(ハハ)の国』に向かうつもりなのだろう」


(ハハ)の国…素戔鳴(スサノオ)(みこと)が地獄へ?何のために?」


「スサノオの気性は(ハハ)によく似ている。だからスサノオを(ハハ)に合わせてはならぬのだ」


「母親に似ているから………あ!」

 額田姫王(ぬかたのひめみこ)が思わず声を上げた。

 イヒカ姫がうなずいた。

「地獄に居るイザナミの(みこと)は、イザナギの(みこと)の子を皆殺しするのじゃ…」


「なんだって!」


(ハハ)の怨念に感応してしまう、アレはそういう子なのだ」

 倭姫王(やまとひめのおおきみ)は静かに目を閉じた。


 イザナギの子を…人類を抹殺する神!

 黄泉国の女王イザナミの子、スサノオ。

あれが真の魔王の正体なのか!


「しかしスサノオの(みこと)が魔王なら、それでは中大兄皇子さまは?」


「あれは草薙の剣を使うために、スサノオの分霊(ワケミタマ)を与えた者の霊だ」

 倭姫王(やまとひめのおおきみ)は巨大な影を見つめたまま答えた。


「草薙の剣を使う者…?」


「この世に一人だけ草薙の剣を使いこなせる人間の事だよ」


「え?あの八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の剣を人間が使いこなすなんてできるんですか!」


「あっ…」額田姫王(ぬかたのひめみこ)が目を見開く。


「ヤマトタケルの(みこと)…」


「なんだって!」


 イヒカ姫がうなずく。

「ヤマトタケルを現世(うつしよ)に蘇らせたのは、(おそ)れ多くも大黒天、スサノオの(みこと)にあらせられる」


「じゃあヤマトタケルの(みこと)を使って中大兄皇子を操っていたのは…スサノオの(みこと)。そうか、それで山背大兄皇子は中大兄皇子を救えと言ったのか!」


「だとすると中大兄皇子様をお救いすれば、あの地獄の口が閉じるんじゃない?」


「お救いするって?どうやってさ?」


「草薙の剣を破壊しろ」


 倭姫王(やまとひめのおおきみ)は少し空を見上げる様にいう。


「草薙の剣を破壊?そんな事できるんですか?」


「そのために天界から最強の神を人間に転生させたのだ」


「最強の神!どこに?」


 カマタリの声に倭姫王(やまとひめのおおきみ)額田姫王(ぬかたのひめみこ)とイヒカ姫が一斉にカマタリの顔を見た。


「へ?」


「お前だ」


「えええ!俺?」


「そうよ!山背大兄皇子様も軽大王(かるのおおきみ)も、あなたが中大兄皇子様をお救いすると言っておられたわ」


「え?そんな事……いや言ってたなそういえば」



 〜 76 大黒天 〜完

  【年表】

◼ 653年。第二次遣唐使。道昭とチカタ(定恵)入唐

◼ 654年孝徳天皇崩御(654年 - 10月)

◼ 655年 1月、寶皇女が即位(斉明天皇)

◼ 656年 斉明天皇、後飛鳥岡本宮へ遷る。

◼ 656年 後飛鳥岡本宮火災

◼ 656年 葛城山に龍が現れる。


 (=φωφ=)あとがき。

というワケで真の魔王。スサノオ(大黒天)の登場ですね。アマテラス(鈴鹿御前=倭姫)の弟であり夫でもある。

八岐大蛇を退治した英雄でもあり、世界を破壊する神でもあり

そしてアマテラスが「隠れる」原因となった神でもあります。


 >大黒天

日本神話では大国主の事ですが、この作品の場合、大黒天とはマハーカラ。

死をつかさどり、時空を超え、宇宙を破壊する神の事を意味します。


 > 白い牛の魔神体

モデルは西遊記の牛魔王ですが。

今回は聖牛ナンディンを擬人化したものです。大自在天神(シヴァ神)が乗ってる牛ですね。

第六天魔王を乗せる牛です。

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