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73 天空の胎(ハラ)

【登場人物】

 中臣鎌足(カマ様)

人間に転生した天魔の神『天狐(あまつきつね)』東国の獣神であり人間体でも魔物を圧倒できる身体能力を持つ。


 額田姫王(ぬかたのひめみこ)・鏡王女

中大兄皇子の元妻であり、神の歌「言霊」を使う宮廷歌人。

琵琶湖の龍王女の転生体である。


 葛城皇子(中大兄皇子)

女性と見まごう白く美しい外観に凶悪で残酷な内面を持ち合わせら魔族を率いる魔王。

額田姫王や倭姫王の夫でもある。


 チビコマチ(小野小町)

額田姫王に歌を学ぶため父の小野篁に飛鳥時代に連れて来られた平安時代の少女。

巫女舞風の装束を身にまとい「言霊」を使う。


 厳 (ゴン)

春日の森で「鬼神の塚」を守る片目の野守。

なぜかチビコマチのお供をしている


 鈴鹿御前(倭姫王)

天照大神の依代であり第六天魔王の一人。

なぜか高位天魔を人間に転生させて飛鳥の都に集結させている。

ちゃっかり自分も皇女に転生した。だがまだ子供である。


 小狐丸

黒い戦闘魔獣。

魔物を斬る『神刀』を鍛える刀工でもある。


 お玉(玉藻)

百済王妃に化けた九本尻尾の妖狐の少女。

幻覚を操り、人間を魔物化させる能力を持つ。

 多武嶺(たむのみね)の上空には黒雲が(うず)を巻き、雷鳴が岡本の仮宮(かりのみや)まで響いて来た。

女帝、寶皇女(たからひめ)は密かに噛締(かみし)めるように微笑んだ。


「草薙の剣が(よみ)がえったか」

 大海皇子(おおあまのみこ)はなぜか雷鳴とは反対方向。遥か西方の葛城山(かつらぎやま)に目を移す。

 そこに老道士が背後から寄って来た。

大海皇子(おおあまのみこ)は振り向きもせずに老道士に言葉を掛ける。


張果(ちょうか)か」


 張果(ちょうか)と呼ばれた老道士が(おどけ)たように深々と礼をする。

「いよいよでございますな」

「ああ」

 大海皇子(おおあまのみこ)は背を向けたままうなずいた。

「あの龍は魔王と共に滅びる。私が『天皇』となるための地ならしだ。お前たち神仙どもにも働いてもらわねばな」


御意(ぎょい)

 張果(ちょうか)老人は少しおどけた調子で礼をしながらニヤリと笑って立ち去った。


「ふん、神仙のくせに、この俺に(さく)(ろう)する気か、バカどもめ」

 大海皇子(おおあまのみこ)は全てを見通しているかのように吐き捨て遠方を見上げた。


 その多武嶺(たむのみね)の尾根では。

 深沙大王(じんじゃだいおう)の腹部に居た少女の(シャ)が、カマタリの首に手をかける。

「キサマ…コロス…」

 赤い瞳をギラつかせ、赤い唇から牙がのぞく。

「ぐっ…」

 カマタリは首を引き(あげ)られて身体が宙に浮く。

(シャ)の指が食い込み、首の骨がきしんだ。

カマタリは抵抗しようとするが、(シャ)の左手に腹を貫通されているため抵抗する力が出せない。


 その時、黒い魔獣が、影のように(シャ)に襲いかかった。

とっさに避けたはずの(シャ)の腹から血が噴き出る。早い!

 黒い魔獣の全身には刃が跳ね上がっていた。

「小狐丸!」

 地面に倒れたカマタリが黒い魔獣を見上げた。


「オノレ…!」

 (シャ)が牙を()いたその瞬間、背後から紀朝雄(きのともお)(シャ)の首を切り飛ばした。

 神や悪魔にすら気配を察知されない。紀朝雄(きのともお)の恐るべき特技、いや修練の賜物(たまもの)であろう。


 (シャ)の首が空中を飛んだ。だがそれを長く白い腕がキャッチし、(シャ)は自分の首を脇に抱える。

 その背後にある深沙大王(じんじゃだいおう)の黒い肉塊の首に掛けられていた九個の髑髏(ドクロ)が立ち上がり、骸骨(ガイコツ)の魔人となった。


 小狐丸が骸骨(ガイコツ)魔人を蹴散(けち)らそうと飛びかかるが、(シャ)は背後から「キャアアア!」と高周波音を浴びせる。

 さすがの小狐丸も吹き飛び、岸壁に叩きつけられた。


 骸骨(ガイコツ)魔人の集団が黒い煙をまといながらこちらに走って来る。

 カマタリは鎌を投げようとしたが、手から落ちる。

「くそッ!」


  「(ころも)の関!」

 白い空気の壁が骸骨(ガイコツ)魔人たちを吹き飛ばした。

「カマ様あ!」

白い舞い装束の千早(ちはや)をなびかせ、チビコマチとゴンが風のように走って来た。


「コマチちゃん!ゴンちゃん!」


「カマ様、地獄が開こうとしております」

 白い軍服を着た長髪の青年がカマタリに一礼する。

 地獄の官吏、小野篁(おのたかむら)である。


「地獄が?」


「この多武嶺(たむのみね)は大和の常世(とこよ)への入り口です。彼らはここに異界の口を開け、それを地獄と(つな)げてしまう(さく)なのでしょう」


「なんだって!そんな事したら」


「大和は地獄に変わります」

(たかむら)はカードのような呪符(じゅふ)を取り出した。


「この者どもは我らにお任せを」

 カードから魔法陣が広がると二本シッポの猫が飛び出し、軍服を着た猫娘たちに変わる。

 猫娘たちは骸骨(ガイコツ)魔人に飛びかかる。

 小狐丸もまた上空から降下して瞬く間に数匹の骸骨を蹴散らし、骨がバラバラに砕け飛んだ。

 ゴンは骸骨(ガイコツ)魔人の攻撃をくぐり抜けて両手で膝を刈り倒す。

その背後から紀朝雄(きのともお)が首を切り飛ばした。


 骸骨(ガイコツ)魔人はたちまち全滅してしまった。


「オノレ…人間どもメ」

 (シャ)は呪いの言葉を吐き(すて)ると足元から砂を吹き出し、地の底へと消えた。


「逃げたか…おわっ?!」

カマタリはいきなり頭から水を浴びせられる。


 見上げると古代の白いミニスカ貫頭衣に赤い珊瑚の櫛を差した女性が居た。

イヒカ姫である。


「イヒカ姫さま!なぜここにっ?」

 思わずカマタリはミニスカを(のぞ)きこもうとして顔面を()られる。

 転がり回ったが少し見えたのでまぁいい。


「お前は中つ(おみ)のくせに、この(みね)常世(とこよ)の入り口なのを知らなかったのか」

 イヒカ姫は見下(みくだ)すような眼でカマタリを見下(みくだ)した。


「それはさっき聞きました」


「これは根之堅洲國(ねのかたすくに)の大河にある(みそぎ)の水だ、これで少しは動けるじゃろ、愚か者め」

 イヒカ姫はさらにジャバジャバと景気よくカマタリに水をぶっかける。

「ぶはっ!」


 乱暴に掛けてはいるが、あの復活の水である。効果は出たようだ。

「腹の傷が塞がった…?ぐあっつ」

 カマタリは立ち上がるが、激痛が走る。


「傷を(ふさ)いだだけじゃ。まだ痛みは残る」


「イヒカ姫さま、父上も…父上にもお願いします」カマタリは瀕死(ひんし)中臣御食子(なかとみのみけこ)を指差す。


「ダメじゃ。人間に使うとそのまま黄泉へ渡ってしまう、そういう水じゃ」


 そうか、根之堅洲國(ねのかたすくに)の大河の水。

あの川の先には黄泉国(よもつくに)が在ると聞く。

 神がその水で(みそぎ)をすれば死のケガレを黄泉国(よもつくに)の彼方へ流し送るが、人がやると生気を流し送ってしまうのか。


 御食子(みけこ)は血まみれの手で制する。

「ワシの事はよい、戦え!息子よ!…え…と」


「カマタリです」


「そうじゃ!カマタリよ」

 中臣御食子(なかとみのみけこ)はお約束のギャグをかますとガクっと倒れた。


「ち!父上!」


「まだ生きておる、さっさと行け」

 御食子(みけこ)はヒョイヒョイと手を振った。

意外と元気そうである。



 多武嶺(たむのみね)の山頂では白い獣神体と変わった(ワン)がカラス羽の黒扇を打ち振るっていた。

 黒扇を振るたびに幾百もの氷の剣が飛び出し地面に突き刺さり、尾根の岩肌を削る。


 悟空はクルリと宙返りして尾根から飛び降りると雲の上に乗った。

 「筋斗雲(きんとうん)

仙術によって作られた空気の壁である。

空中に浮き、高速で飛び回れる。

 コマチの使う衣の関と同じものだが、悟空の能力ではケタ違いのスピードと高度が出る。

 氷の剣では追いつけないであろう。


 (ワン)は悟空が攻撃を避けたその隙に月牙鏟(げつがさん)を拾った。

「終わりだ小僧」


「アンタがそれを手にすのもお見通しさ」


 白い獅子の姿の(ワン)の顔がヒクりと歪んだ。

「この私の行動をキサマごときが見抜いていただと!」目を赤く光らせ月牙鏟(げつがさん)を振り上げる。


「心が乱れてるぜ」

 悟空は静か棒を立てて構える。


「ウソを言うな!私は冷静だ!」

 (ワン)月牙鏟(げつがさん)を天空に向けて振り上げる。

「精・気・神!」の三宝の(しゅ)を唱えると『天氣』の乱流が起こり雷鳴が轟き、稲妻が四方に落ちる。

「天雷!」


 悟空は棒を正面に立てる。

「…正念に『空』を観ずれば、無益の苦は(まぬが)れるべし」

 悟空の棒が天地に向けてグン!と伸びた。棒の先端は黒雲を貫き、下は地に突き刺さる。

 (ワン)の放った天雷の電光は悟空の鉄棒を走り抜けた。

先ほどカマタリのイカヅチを逃した避雷針(ひらいしん)と同じやり方だ。


「バカな!」


「あんたは自分の(さく)に負けたんだよ」

 悟空は腕を組み淡々(たんたん)と説く。


「おのれ…」



 その時、(ワン)の背後から歌が聴こえてきた。


 秋の野の み草刈り 葺き宿れりし

  宇治の宮処(みやこ)の 仮廬(かりほ)し思ほゆ

  『尾花刈り!』

 爆発音と共に岩屋が吹き飛び、中から全裸の額田姫王(ぬかたのひめみこ)が現れる。

「さあ覚悟しなさい高志才智(こしのさいち)っ!左大臣密室殺人事件の犯人として今度こそ逮捕よ!」

 額田姫王(ぬかたのひめみこ)は全裸のまま(ワン)を指差した。


「な…何やってんすか(かがみ)さん」

 カマタリは頭をかかえた。

ふと彼女の背後にある壊れた石室(いしむろ)の奥に鈍く金色に光る奇妙な形の剣が目に入る。

 草薙の剣はまるで脈動するかのように息づいて見えた。


「あれは…まるで生きている…」


 (ワン)(そば)から砂が吹き出すと、その中から自分の首を脇に抱えた全裸の(シャ)が現れる。


「お前ノ(さく)は失敗ダ、退却するゾ、天蓬元帥(てんほうげんすい)

切られた首がしゃべっている。


 (ワン)の顔が歪んだ。

「私の(さく)が失敗だと?私の(さく)が!」

 (ワン)月牙鏟(げつがさん)を空に向けて振りかざす。


 (シャ)が慌てて(ワン)に叫ぶ。

「待テ!天蓬元帥(てんほうげんすい)!キサマ我らまで巻き込むつもりカ!」


「私に失敗など無い!」

 (ワン)月牙鏟(げつがさん)を振りかぶると一気に天空を切り裂いた。

天空に渦巻く黒雲が左右に切り開かれ、薄黒い天空に赤い異空間が口を開いた。

 その奥に地獄の炎が(うごめ)いている。


 イヒカ姫が異変を察して空を見上げる。

「イザナミの雷…黄泉国(よもつくに)(ハラ)を開いたか」


黄泉国(よもつくに)…?」


「妻のイザナミは『黄泉神と語り合う』と言うと闇に消えたという。夫のイザナミが灯りを灯すと、闇の中にはイザナミは死霊の姿となっており全身は八雷神(やくさのいかづちのかみ)をまとっていたと言う」


「それって地獄…」


「イザナミはイザナギの子を皆殺しにする」

 イヒカ姫が天空をにらんだ。


「い…イカン!羊さん!」


「クハハ…この山ごとキサマらみんな焼き尽くしてやる!」


 (ワン)の赤い眼が狂気で見開かれたその時である。(ワン)の胸を背後から剣が(つらぬ)いた。


 その背後では剣を手にした中大兄皇子が少女のように小首を傾げて微笑んでいる。


「な…なんだと」

 振り返った(ワン)は口から血を吹き、(シシ)の姿から人間体に戻り、地に膝を着き崩れ落ちた。



 〜 73 天空の(ハラ) 〜完

  【年表】

◼ 653年。第二次遣唐使。道昭とチカタ(定恵)入唐

◼ 654年孝徳天皇崩御(654年 - 10月)

◼ 655年 1月、寶皇女が即位(斉明天皇)

◼ 656年 斉明天皇、後飛鳥岡本宮へ遷る。

◼ 656年 後飛鳥岡本宮火災


 (=φωφ=)あとがき。

59話で取り逃した真犯人を名探偵の額田姫王が崖に追い詰めました!作者もビックリです!


 >白いシシ

ライオンではなく羊さんでもなくワンちゃんでもなく、イノシシです。

(ワン)さんは猪八戒ですので。


 > 觔斗雲

孫悟空が師の須菩提から渡された雲で、一回りで十万里も飛ぶとか。

というか須菩提の弟子なら、わざわざ三蔵法師を天竺まで大般若経を取りに行かせなくてもと…

(須菩提は般若経の主人公)

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