72 悟空
【登場人物】
中臣鎌足(カマ様)
人間に転生した天魔の神『天狐』東国の獣神であり人間体でも魔物を圧倒できる身体能力を持つ。
額田姫王・鏡王女
中大兄皇子の元妻であり、神の歌「言霊」を使う宮廷歌人。
琵琶湖の龍王女の転生体である。
葛城皇子(中大兄皇子)
女性と見まごう白く美しい外観に凶悪で残酷な内面を持ち合わせる。
額田姫王や倭姫王の夫であり魔族を率いる魔王でもある。
チビコマチ(小野小町)
額田姫王に歌を学ぶため飛鳥時代に連れて来られた平安時代の少女。
巫女舞風の装束を身にまとい「言霊」を使う。
厳 (ゴン)
春日の森で「鬼神の塚」を守る片目の野守。
なぜかチビコマチのお供をしている
鈴鹿御前(倭姫王)
天照大神の依代であり第六天魔王の一人。
なぜか高位天魔を人間に転生させて飛鳥の都に集結させている。
ちゃっかり自分も皇女に転生した。だがまだ子供である。
小狐丸
黒い戦闘魔獣。
魔物を斬る『神刀』を鍛える刀工でもある。
お玉(玉藻)
百済王妃に化けた九本尻尾の妖狐の少女。
幻覚を操り、人間を魔物化させる能力を持つ。
とつじょ疾風の様な衝撃が王を襲い、バチッ!っと激しい火花とともに帯電した月牙鏟を弾き飛ばした。
「ぬっ!」
振り返ると、鉄棒を打ち込んで来たのは孫少年である。
「孫!貴様どういうつもりだ!裏切ったのか」
王はギラリと目を見開いた。
「違うな」
孫少年は棒をクルリと脇に回して構えた。
「なんだと!」
「オイラの名は悟空!斉天大聖孫悟空だ!」
「馬鹿が!」
王は吐き捨てるように叫ぶと、カラス羽の黒い扇子を振るい空中に無数の地獄の井戸を開けた。
上空から氷の剣が雨のように降って来る。
だが孫少年はあわてる素振りも見せず降り落ちる氷の刃を静かに棒で叩き砕いた。
「うっ…」
王はあせった。
孫少年が回避するであろうことを想定し、山の側面に地獄の井戸を二重三重に仕掛けて嬲るつもりだった。
だが、孫少年は一歩も動かず対応してしまったのだ。
「アンタのことだ、どうせ罠だったんだろ?分かってるぜ」
「バカな!貴様ごときに私の策が!」
「分かるさ、どんなに巧妙に策を練ってもアンタは他人をバカにしている。
だから負ける。
どんなに隠したつもりでも身業、口業、意業の悪は外に現れる。だから心が読めるんだ」
「……何を言っている…」
「正念に『空』を観ずれば、無益の苦は免れるべし、
我が心が『空』ならば全ての悪を打ち破る」
「ふざけるな…」王の顔がみるみる獣に変化していく。
耳は大きくうちわのように広がり、白く尖った毛むくじゃらの顔は下顎から二本の大きな牙が突き上がる。
その姿は白い猪にも似ている。
「人間を捨てて魔物に戻ったか。アンタらしいぜ。でもな…」
孫少年は棒をクルリと回して構える。
「俺のお師匠様はアンタより強い!」
孫少年は言うなり王に向かって走り出した。
そのころ山頂に向かう峠では魔神、深沙大王の出現によりカマタリたちは足止めを食らっていた。
「退がって待機していろ!」
カマタリは犬飼たちに命じる。
(有馬皇子が重症だ…)
まさか皇族から先に手傷を追うとは想定外のトラブルだ。
ふと小足媛の悲しげな顔が目に浮かぶ。
深沙大王は地面からゆっくりと棍棒を引き抜くと緑色の巨体をゆらして歩き出す。
カマタリは古代の紋様が刻まれた柄を握りしめ身を低く構える。
「たとえ雷が使えなくても、この剣なら天魔を切れるはずだ」
一気に走り出して正面から低く飛び込んだ。
猛烈な高速で深沙大王に迫るが腹の顔がいきなり口を開き「キャアアアア!」と凄まじい高音を発射した。
「しまった!」
カマタリは超音波の衝撃に弾き飛ばされ、て転がる。
そこに深沙大王の黄金の棍棒が振りおろされた。
カマタリは間一髪で黄金の棍棒を受け止めると、ズン!という地響きと共に背中が地面にめり込む。
「ぐうっ!」
凄まじい衝撃が全身に走り、緑色の翡翠の刀身が細かく軋んだ。
深沙大王の巨体がさらにカマタリの上にのしかかってくる。その重さに耐えるので精一杯だ。
ふと腹にある白い少女の顔と目が合った。
少女の顔はニヤリと笑って牙の生えた口を開ける。
「キャアアアア!」少女の口から高音の衝撃波が発射されるとカマタリは支持力を失って黄金の棍棒が目の前に迫る。
「しまった!」
その時、両側からビュッ!という風切り音と共に深沙大王の両腕が切り飛ばされた。
中臣御食子と紀朝雄が同時に左右から腕を切り飛ばしたのだ。
黄金の棍棒の圧力がゆるむ。
「今だ!」
カマタリは体をひねりざまに右手で深沙大王の腹に翡翠の剣を突き刺した。
白い少女の顔は表情を歪めて切っ先を避ける。
『雷!』
稲妻の紫光に包まれ、両腕を切り飛ばされた深沙大王の全身の肉が弾け紫の炎が走り回ると黒コゲの巨体が跳ね返る。
その瞬間、中臣御食子が深沙大王の首をスパン!と切り飛ばした。
魔人の頭が嶺から転がり落ちて行く。
「やった!」
カマタリが起き上がった瞬間、腹に重い衝撃が走る。
「……ゴブっ!」
カマタリは血を吐いてよろけた。
目の前にはあの深沙大王の腹に付いていた少女が黒コゲの肉体の中から白い腕を伸ばしてカマタリの腹を刺し貫いていたのだ。
見上げると中臣御食子の腹にもまた白い腕が突き刺さっていた。
「何が起きた……」
深沙大王の巨体が炭になってボロりと崩れ落ちると、その中から白い少女の裸体が現れた。
黒く長い髪、美しい瞳がギラリと光る。
だがその顔の半分は雷によって赤く焼かれていた。
「キサマ…コロス」
少女は赤い唇を開けて牙を剥いた。
多武嶺、天宮。
薄暗い石室の中で間人皇女が酒の浴槽から裸の額田姫王を引き出す。
彼女はアルコールと薬のダメージでグッタリとしている。
「しっかりして!」
間人皇女は頬を叩くが額田姫王の焦点は定まっていない。
間人皇女は額田姫王の顔を両手ではさむと、彼女の小さな口内に舌を差し込み毒を吸い出す。わ
額田姫王の裸体がビクンと反応し、小さな胸が深く呼吸を始め、朦朧とした瞳を向けて来た。
「皇后様……ご無事で…」
「私に毒は効かないわ!」
間人皇女は額田姫王の両脚を持ち上げて左右に広げると、薄赤い小さなつぼみが現れる。
その上へ跨がり自分の性器を重ね合わせた。
下で額田姫王の細い肢体がビクリと反応し「うっ…」と呻き声を上げる。
間人皇女はゆっくりと腰をこすり付けて動かしはじめた。
『母の乳汁』
焼け石に潰されて死んだ大己貴命を蘇らせるため、赤貝の女神キサガイ姫と、蛤の女神ウムギ姫の姉妹の女神が使ったと言われる蘇生魔法である。
生命を生み出せる女性が持つ力だ。
だんだん腰使いが早くなると額田姫王は身体をのけぞらせ「あああっ!」と快感に顔は紅潮し、悶えながら長い脚を裸体に絡めた。
タマモが呆気に取られて二人の行為を見ている。
「ウッ…」と間人皇女が腰を痙攣させると、二人の間から飛沫が飛び、額田姫王は叫びながら身を硬直(硬直)させて床に爪を立てた。
「どう?」
「とても良かったです…」
額田姫王は頬を赤らめ、しなだれる様に間人皇女に寄り添った。
「戦える?」
「もちろんですわ」
額田姫王はスッキリした顔で答えた
「貴女は龍の力が強すぎて人間体を破壊しかねなかったので、お兄様の言いつけで私が龍の力を奪っていたけど、今こそ貴女の力でみんなを救う時よ」
「承知しておりますわ、皇后陛下」
岩室の室の奥に祀られた草薙の剣が鈍く光りながらブブブブ…と振動し唸る。
「時間が無い…」
間人皇女はタマモに目を向ける。
「お前も戦いなさい」
「ワタイが?何で人間のために」
「破滅を食い止めるのです」
「は、破滅う!?」
「大地の龍神が蘇ろうとしています」
「うぇっ!龍神!何それ」
龍神と聞いて、さすがのタマモもビビる。
すると岩室の薄暗い屋根裏から采女たちが白い糸を伝わり降りてくる。
その顔は虫の魔人の姿に変化していった。
「邪魔するつもり?下っぱ怪人どもめ!この名探偵の私が退治してやるわ!」
額田姫王が全裸のまま怪人たちを指差し啖呵を切った。
タマモは呆れた目で額田姫王を見た。
そのころ仮宮の庭では華やかな儀式が進行していた。
大海皇子は遥かな山嶺を臨み見上げれば、多武嶺上空に黒雲が垂れ込め渦を巻き始めているのが見えた。
「始まったようだな…」
大海皇子はニヤリと笑った。
〜 72 悟空 〜完
【年表】
◼ 653年。第二次遣唐使。道昭とチカタ(定恵)入唐
◼ 654年孝徳天皇崩御(654年 - 10月)
◼ 655年 1月、寶皇女が即位(斉明天皇)
◼ 656年 斉明天皇、後飛鳥岡本宮へ遷る。
◼ 656年 後飛鳥岡本宮火災
(=φωφ=)あとがき。
いよいよ名探偵の額田姫王が事件の謎をズバリ解決ですね。いやもう事件ですら無いですが。
> 赤貝の女神とハマグリの女神
いったいどんな魔法を使ったんでしょうか?




