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71 決戦!多武峰

【登場人物】

 中臣鎌足(カマ様)

人間に転生した天魔の神『天狐(あまつきつね)』東国の獣神であり人間体でも魔物を圧倒できる身体能力を持つ。


 額田姫王(ぬかたのひめみこ)・鏡王女

中大兄皇子の元妻であり、神の歌「言霊」を使う宮廷歌人。

琵琶湖の龍王女の転生体である。


 葛城皇子(中大兄皇子)

女性と見まごう白く美しい外観に凶悪で残酷な内面を持ち合わせる。

額田姫王や倭姫王の夫であり魔族を率いる魔王でもある。


 チビコマチ(小野小町)

額田姫王に歌を学ぶため飛鳥時代に連れて来られた平安時代の少女。

巫女舞風の装束を身にまとい「言霊」を使う。


 厳 (ゴン)

春日の森で「鬼神の塚」を守る片目の野守。

なぜかチビコマチのお供をしている


 鈴鹿御前(倭姫王)

天照大神の依代であり第六天魔王の一人。

なぜか高位天魔を人間に転生させて飛鳥の都に集結させている。

ちゃっかり自分も皇女に転生した。だがまだ子供である。


 小狐丸

黒い戦闘魔獣。

魔物を斬る『神刀』を鍛える刀工でもある。


 お玉(玉藻)

百済王妃に化けた九本尻尾の妖狐の少女。

幻覚を操り、人間を魔物化させる能力を持つ。

 カマタリたちの周囲を取り込む込むようにに数個の地獄の井戸が開く。

その真っ黒な闇の奥から長い手足の屍鬼(シキ)たちが現れた。

 カマタリが叫んだ。

「そいつらは幻人(げんじん)だ!手足が伸びて毒を吐く!距離を取れ!」


犬飼たちは一斉に退くが、佐伯子麻呂(さえきのこまろ)が一人「うおおおう!」と幻人(げんじん)たちに向かって突撃して行った。

 いや、あなたの仕事は有馬皇子の護衛でしょう!

 …と言う間に佐伯子麻呂(さえきのこまろ)は何も考えず幻人(げんじん)に斬り懸かると、幻人(げんじん)はグニャリと身体をゴムのようにしならせて口から緑の毒霧を吹き出した。


「ヤバい!」

   『衣の関っ!』

 カマタリの言霊が空気の壁を飛ばし幻人(げんじん)を吹き飛ばす。

  数匹の幻人(げんじん)が尾根から転がり落ち、ついでに佐伯子麻呂(さえきのこまろ)まで一緒に吹き飛んで杉の枝に引っかかってぶら下がってしまった。


「あちゃ〜スマン!」


 佐伯子麻呂(さえきのこまろ)は木の枝にぶら下がりながらキョトンとして左右を見回している。無事のようではある。


「固まるな!散開しろ!」

 紀朝雄(きのともお)が抜刀して走り出して残りの幻人をあっという間に斬り倒してしまった。

「この人、こんなに強かったのか!」

 犬飼たちも足を止めて呆然と見ているほどの強さだ。


「ふん」

 (ワン)が暗く微笑みながらカラス羽の扇子を振り、また地獄の井戸を開ける。

 今度は中から大猿のような魔獣が現れてきた。

 サトリである。


「な?何じゃあいつは?」


「コイツはどんな能力を持っているんだ?…と、お前は考えたな」

 サトリは血走った白い瞳を向けた。


「う!…まさか」


「まずい、こちらの考えが読めるのか…と考えたな」

サトリは黄ばんだ牙を()いて勝ち誇るかのようにニヤリと笑う。


 相手の思考を読んでいる。

だとしたら遠間から大量の弓矢で射かける手があるが、弓は犬飼たちの数張り持つのみである。


「弓の数が足りない……と考えたな」


 やはりこちらの作戦も筒抜けか…


「お前」

 サトリが有馬皇子を指差す。


「お前、女たちが連れて行かれた事を想像して欲情しておるな」


 若い有馬皇子はたちまち顔を赤面させ「うわあ!」と剣を振り回してサトリに斬り(かか)った。


「あ!皇子お待ちを!」

 カマタリはあわてて止めたがもう遅い。

サトリは有馬皇子の剣を難なくかわして首に喰らい付く。

 有馬皇子の悲鳴が上がった。


 稚犬養網田(わかいぬかいのあみた)がとっさに斬り付けるとサトリは有馬皇子を投げ捨ててヒラリと飛び退いた。


「しまった!これが狙いだったのか!」

 皇子は顔が青ざめ、首からドクドクと血を流している。

まずい!ショック症状が出始めている。

 引き返すべきか?


 犬飼たちが弓矢を放つがサトリはヒョイと難なく矢を避けてしまう。

その背後から紀朝雄(きのともお)が切り込んだ。

 だがサトリはピョンと飛び退き、剣は空を切った。

「む…」

 紀朝雄(きのともお)が気配を消すとカマタリですら探知できない。だがサトリはこちらの動きを全て読んでしまうのだ。

 さすがの紀朝雄(きのともお)も手が止まった。


「お前は今、なぜコイツはこちらの太刀筋が読めたのだ…と考えたな」

サトリは黄色い牙をむいて笑う。


「むう…」

 完全に心を読まれたのでは紀朝雄(きのともお)ですら戦う(すべ)が無い。


 たった一匹のサトリのために行くも留まるもできなくなってしまった。

恐るべき魔獣である。

 カマタリはチラリと中大兄皇子の方を見る。中大兄皇子は白い髪をなびかせ、さわやかに春風のような笑顔を向ける。

 その横では(ワン)が燃えるような冷たい目でカマタリをにらんだ。


「どうする…」

 小狐丸はまだ姿を現さない。おそらく(ワン)たちの出方を見ているのだろう。

 いや、それともまだ出る必要が無いと判断しているのか…しかし…


 その時である。


 ちはやぶる 神の御坂(みさか)に (ぬさ)(まつ)り (いは)(いのち)は 母父がため


 どこからとなく防人(さきもり)の歌とともに白い覆面(ふくめん)をして儀礼用の弓や(ほこ)を持った白装束の一団が山道を登って来るのが見えた。

 あれはこの多武峰(たむのみね)(まつ)中臣(なかつおみ)本家の神官たちだ。

 ん?…というか今の歌の声は中臣御食子(なかとみのみけこ)ではないか?!


 一団は足を止めず、こちらに向かってズンズンと近づいて来る。

「ちょっと待った!今はヤバい!」

 カマタリが止めるより早く中臣御食子(なかとみのみけこ)はスラリと長太刀を抜く。

 ギラリと太刀が光り、中臣御食子(なかとみのみけこ)はサトリに向かってトトトトと走り出していた。


「ち!父上!無茶だ」

 カマタリが叫んだ瞬間、中臣御食子(なかとみのみけこ)の太刀がひらめきサトリの首が斬り飛ばされる。


「あら?」


 御食子(みけこ)は太刀を(ぬぐ)う。

刀身には北斗七星が彫られていた。


「相手がこちらの動きを読むなら、あえて読ませて斬れば良いだけの事じゃ。

読んだ相手は必ず避ける。そこを斬れば良い」


 なんか御食子(みけこ)が達人みたいな事を言っている。

そんなことが簡単にできれば苦労はしない。


「さすが我が師、中臣御食子(なかとみのみけこ)どの。腕前は鈍っておられませぬな」

 紀朝雄(きのともお)が自慢げに手を止めて笑った。


「へっ?我が師?」


「鹿島では御食子(みけこ)どのは狐伝流と呼ばれた鹿島の太刀の剣豪ですからな」


「えええっ!初めて聞いた!」

 中臣御食子(なかとみのみけこ)がまさか伝説の剣士だったとは。

 というか紀朝雄(きのともお)が中臣の屋敷にチョイチョイ来ていた理由がわかった。御食子(みけこ)の剣術の弟子だったのか!


中皇命(なかつすめらみこと)をお助けするぞ!息子よ……え〜と…」

「カマタリです」

「そうじゃ、カマタリよ!」


 やはりいつもの御食子(みけこ)だった。

トボケた爺さんだと思ってはいたが、もともと武芸意外はあまり興味が無いのだろう。

 というか、そもそもこの人、神祇長官みたいな役職には向いてないんじゃないかな!


「しかし父上、間人皇女(はしひとのひめみこ)様はもう皇命(すめらみこと)ではありませんが」

「まだ譲位の儀式は終わっていないぞ」

「えっ………あ!そうか、母の寶皇女(たからひめ)にはまだ正式に皇位を譲っていない。

 ならば寶皇女(たからひめ)天皇にはなっていないし、間人皇女(はしひとのひめみこ)はまだ大王(おおきみ)のままなのか!」


「皇軍の大義は我らにある」


 紀朝雄(きのともお)が歌い出す。

「草も木も我が大君の国なれば、いづくか鬼の(すみか)なるべし。参りましょうカマどの!」


 カマタリもうなずく。

皇命(すめらみこと)をお救いする!行くぞ!」

 一団は「(オウ)」と叫ぶなり『天宮(あまつみや)』目指して走り出した。


「ふん」

 (ワン)は鼻で笑うとカラス羽の黒い団扇を振り上げる。


深沙大王(じんじゃだいおう)、召喚!」


 地面が光り地獄の井戸がポッカリと黒い穴を開くと、地の底から金色の棍棒を持った緑色の大柄な魔物が現れた。

 赤い髪が逆巻き、緑の巨体に人間のドクロを首に掛けている。腹に少女の顔が着いており、その顔がこちらを見てニヤリと笑った。

両膝には象の頭が付いていて、身体を蛇がはい回っていた。


「何だありゃ!」

「ば…化け物!」

 深沙大王(じんじゃだいおう)のおぞましい姿に舎人や犬飼いたちが一斉に逃げ始める。


 深沙大王(じんじゃだいおう)はもとは天帝ジャオの近衛大将だったと言われるが、武照(ジャオ)の怒りを買い、下界の砂漠に落とされ人喰いの悪鬼に(おち)たと言われる。


「コイツはヤバい敵だ…」


 カマタリは(ワン)を見る。

(ワン)はカラス羽の黒い団扇を口元にあててニヤリと笑っている。


 カマタリは天に向けスッと右手を伸ばす。

「フツノミタマ!」

 緑の光の輪とともに鎌が飛んで来てカマタリの手に収まると、シャキッと翡翠(ヒスイ)の剣に変わった。


「息子よ、その鎌は…」


(はは)剣太刀(ツルギタチ)です。悪鬼を斬り(はら)う事ができます」


 うむと、御食子(みけこ)がうなずいた。

「お前は(イカヅチ)は撃てるか?」


「え?(イカヅチ)をご存知で?!」


「浮気をするたび、お前の母によく撃たれたものだ」

 御食子(みけこ)は懐かしそうに眼を細めた。

「よく生きてましたね…」

 呆れたというか、じつに御食子(みけこ)らしいというか。


 カマタリが緑の剣を構える。

(イカヅチ)を撃つと同時に左右から斬りつけてください」


「うむ、参るぞ!」

「ハッ!」

 御食子(みけこ)紀朝雄(きのともお)が同時に左右に走り込む。


  『(イカヅチ)!』


  世界が一瞬、白い光で(おお)われ、緑の剣の切っ先から、紫光(しこう)とともに稲妻の束が発射される。


 深沙大王(じんじゃだいおう)はニヤリと笑うと黄金の棍棒を地面に突き立てた。

 (イカヅチ)紫光(しこう)が棍棒に吸収される。


 「何っ!」


 黄金の棍棒を避雷針に使ったようだ。

(ワン)はカラス羽の黒い団扇を口元に当ててクククと笑いを(かみ)しめた。


震往来厲(しんおうらいあやうし)億无喪有事(おくゆうじをうしなう)

ムダだよ中臣鎌足。その棒には魔法が仕込んである。天の雷光は全て地に(かえ)る。じつに自然の(ことわり)ではないかね」


※ 震往来厲(易教):雷が飛び回っていても慎重に判断すれば損害は少ない。


 ((イカヅチ)が封じられた!)

 カマタリたちの動きが止まる。


「本物の雷撃を見せてやるよ、中臣鎌足」

 (ワン)は最高の笑みを浮かべながら右手に金銀の飾りの付いたスコップ状の武器、月牙鏟(げつがさん)を取り出し、天に向けて振り上げる。

 天空は一気にドス黒く曇り、雷鳴が轟き始める。


 まずい!この地形であれを使われたら逃げ場が無い。全滅する!


「さらばだ中臣鎌足」


 中大兄皇子は空を見上げて目を輝かせた。


 薄暗い石室の部屋の奥、まるで天空の異変に反応するかのように草薙の剣が鈍い光を放ちながら唸り声を上げてカタカタと振動している。

薬湯に浸かった間人皇女(はしひとのひめみこ)が長いまつげを開き草薙の剣へ横目を向けた。


「止めなければ…」



 〜 71 決戦!多武峰 〜完


  【年表】

◼ 637年武照、太宗の後宮に入る

◼ ︎643年。山背大兄王死去

  中臣真人(藤原チカタ)誕生

◼ ︎645年。蘇我入鹿暗殺

◼ 653年。第二次遣唐使。道昭とチカタ(定恵)入唐

◼ 654年

 ・中大兄皇子 飛鳥に戻る

 ・孝徳天皇崩御(654年 - 10月)

◼ 655年 1月、寶皇女が即位(斉明天皇)



 (=φωφ=)あとがき。

さて、いよいよワンさんたちとの最終決戦ですね。


 > 深沙大王

わかりやすく言えば沙悟浄です。

こんな姿だったんですねえ。

ちなみに最強神である(ワン)さんは猪八戒です。どちらも将軍クラスの神ですね。


 >中臣御食子

トボケた爺さんかと思っていたら、じつは剣豪だったのですねえ。

作者も知りませんでした。

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