35 恋火(こひ)
【登場人物】
小野タスク
なぜか魔王と呼ばれる地味で平凡で貧弱な高校生。
悪霊を斬る霊剣『韴霊剣』を目覚めさせる能力がある。
コマチ(小野小町)
平安時代の鬼退治師であり和歌の言霊を操り自由に時空間を変化させ、炎や水を操る能力を持つ少女。
・パンツを履くという概念が無い
猟師コマチ(チビ助)
鬼と戦う少女。蝦夷風の装束を身にまとい半弓と毒薬を使う。
・パンツを履くという概念が無い
柳生十兵衛 平 三厳 (ミツヨシさん)
なぜかタスクの家でお手伝いさんをしている剣豪。
鈴鹿御前の霊刀『小通連』に片目を食われた。
小野忠明(神子上典善)
修羅界で最強の一刀流の剣客。
剣の達人であるが、すぐ大人げなくムキになるので鬼より怖い。
死後、修羅道において天魔としての力を得たリアル魔人。
善鬼坊
生前、小野忠明に討ち取られた修験者。
死後、修羅道で小野忠明の元に修行に入る。
天魔の一人である。
餓鬼阿弥とテルテ
男女の熾燃餓鬼。鬼の身体能力を持ち、炎の属性魔術を使う魔界の武士
鈴鹿御前(立烏帽子)
第六天魔王の一人。リアル魔王
三振の霊剣を持つと言われる。
タカムラ(小野篁)
コマチの父。
地獄の高官であり自由に地獄と現世を行き来でき、強力な呪術を使う。
お供に降魔の化け猫(この子猫の子)を連れている。
川崎カヲル
年齢不詳の女性民族学者。
裏山の古墳を発掘するため移住して来てそのまま学校の司書になった変人。
・南軍流剣術の宗家である。
小野忠明の集団は空中に左右横縦上下に並ぶと、一斉に両腕を大きく翼のように広げ上げながら大上段に振りかぶる。
「げげっ!あれをやる気か!」
一人であの威力なら、全員で使ったらどんだけの威力になるんだ!
逃げるしかない!…いや空中ではもう逃げようが無いんじゃん!
どうやら罠にハマったのは俺の方らしい。
誰だよ!「あの技はただ真っ直ぐ突っ込んで来るだけだ」なんて言ったのは!
あわててオタオタしながら周囲を見回す。
ふと地上に居るコマチが手をかざしているのが目に入った。
「ん?何だ?……あ!」
(コマチは俺に何かを伝えようとしている)
コマチは両手を差し出して何かをつぶやいている。
(言霊か!)
あのポーズはたしかバリアを張る言霊…
「金翅鳥王剣!」
空中の小野忠明軍団が一斉に光ると金色の光が砲弾が横縦上下から飛び込んで来る。
とっさに両手を差し出して防ぐ。
『衣の関!』
目の前に靄のような壁が現れると、小野忠明軍団は布の様なバリアーにバーン!と弾き返された。
小野忠明たちは空中をバラバラと落ちて行く。
……え?
下を見ればコマチが笑いながらガッツポーズをしていた。
まさかコマチの言霊が俺にも使えるとは。
いや、だとしたら他の言霊も使えるんじゃないのか?
小野忠明軍団が再び集結しはじめるのが見えた。マズイ!今のうちになんとかしないと。
左手を向けてコマチの言霊を唱える。
『激つ瀬!』
激流がドーンと吹き出し、空中を大河のような水が流れ出す。
できた、ホントにできた!
水に巻かれて小野忠明軍団の二、三人が押し流される。
すごい威力だ。コマチの言霊の数倍の水量がある。これでもしコマチの『歌』を唱えたら、四鬼にも負けないんじゃないか!
振り返って地上を見る。
コマチが微笑んでいた。
サンキュー、助かった!
不思議だ。もう負ける気がしない。
俺にはコマチの力がある。
まだ数名が残っている。
よし、忠明先生には悪いけど、もっと技を試したい。
『音無し!』
周囲が薄暗くなる。
おそらく空間の断層に入ったので光が屈折しているのだろう。
これで姿が消えたのではないかな?
ジグザグに飛んで、先生の目をくらませてみる。
小野忠明先生は一瞬こちらを見失った様子だったが、すぐに俺の居場所を察知して追いかけて来た。
…やはりこの人に忍法は通じないか。
ならば、これはどうだ。
『走り火!』
西の印の脇構えから横薙ぎに炎回に切り払えば爆炎となって前方を薙ぎ払う。
スゲえ。
炎の言霊。
そうか、コマチの言霊に有無一剣の炎回の炎が加わったのか!
一面の炎の嵐に、さすがの小野忠明軍団も消え去り、ただ一人に戻っていた。
「小僧、ただでは済まさぬぞ」
小野忠明は全身が黒焦げになり、ギラギラと目玉が光っている。
(う…本気かよ…)
こんな試合稽古にムキになるなんて大人げ無い人だなあとは思うけど……あの人は『そういう人』だからな!
たぶん次は本気で来る気だ。
再び小野忠明は両腕を大きく翼のように広げ上げながら大上段に振りかぶる。
金色の翼がさらに巨大に広がっていく。
金翅鳥王。
巨大な金色の翅 を持ち、竜をも喰らうと言われる鳥の王迦楼羅である。
その龍をも倒す巨大な翼がさらに大きく広がってキラキラと輝きながら空を覆っていく。
さすがの魔力だ、今度はガチめだ。
だけどもう逃げない。俺にはカヲルさんの技がある。ミツヨシさんの教えがある。
そしてコマチの心がある。
俺は南軍流中段ツキの構えを取る。
人の身も 恋にはかへつ 夏虫の
あらはに燃ゆと 見えぬばかりぞ
『恋火!』
白い翼が輝いて広がり全身が輝く炎に包まれた。
有無一剣が炎を帯びて白く輝き出した。
「ほう…」
善鬼坊と十兵衛は青空を二分する金と白の輝きの美しさに目を奪われた。天魔の神々同士の戦いとはこういうものか。
それはまた破壊の輝きでもある。
コマチはまばたきもせず大きな瞳を向け、拳を握りしめた。
「金翅鳥王剣!」
小野忠明が叫ぶと空一面が丸ごと金色の壁となって飛び込んで来る。
その呼吸を待っていた。
我が身を捨てて敵に打たせる。
相手の呼吸が頂点に達したその一瞬に、我が全力を叩き込む。
「新陰流 合撃」
十兵衛の教えである。
敵のエネルギーのピークが一点に集中すれば、そのピークを過ぎれば後は衰えるだけだ。
エネルギーのピークをわずかに外す!
小野忠明の全力の一撃をわずかに拍子を外し、その一瞬に我が全力を叩き込むのだ!
炎の突きが白い矢となって金色の翼の中心を貫いた。
白と金の光が交差したその瞬間。
空が爆発した。
時空の裂け目が開き、地獄の井戸の闇が口を開く。
光の爆風の衝撃波が修羅界の山河を震わせ、轟音がビリビリと響き渡る。
木々が薙ぎ倒され、山から岩が崩れ落ちた。
「む…」
善鬼坊と十兵衛は光の爆風を受けて顔を背ける。
コマチの白い巫女装束が風にはためく、
コマチは空を見上げ大きくうなずいて微笑む。だがその目からは涙がボロボロと流れ落ちていた。
風が止んで青空が静けさを取り戻すと、その中をヒラヒラと白い翼が落下していった。
地上にヨロヨロと舞い降りると、そのまま倒れるように地べたに寝転んだ。
もう天魔将軍の鎧は身体から消えていた。
(力が尽きると鎧が消えるのか)
まさか小野忠明先生に勝てるとは思っても無かった。信じられない。
…というか、ホントに勝ってしまったけど、それはそれで不吉な予感がする。
「タスクどの!」
ミツヨシさんと善鬼坊さんが来て引き起こしてくれた。
「お見事でござった。よう頑張られましたな」
「ミツヨシさんの教えのおかげですよ」
ミツヨシさんにすがりつくようにヨロヨロと立ち上がった。
「さすが将軍さまですな!」
善鬼坊さんがバーンと肩を叩く。痛いっす。
しかしようやく善鬼坊さんが言ってた将軍の意味が分かってきた。
小野忠明先生ほどの天魔を倒せるパワー。
これが天魔将軍の力なのか。
その時、屋敷森の薮からガサガサと音がした。
ギクっ!
恐る恐る振り向くと、薮を激しく掻き分けて全身焼け焦げてボロボロになった小野忠明が現れた。
「うわ!出たっ!」
というか目がマジなんすけど。
「小僧!…勝負は…これからじゃ!」
小野忠明は息を荒げ、目を血走らせてこちらをにらんでいる。
その鬼気迫る顔を見て俺は再び腰を抜かして地面にヘタリ込んだ。
あちゃ〜完全にスイッチ入っちゃってるよ〜。
ミツヨシさんは頭を抱えて、善鬼坊さんは大笑いしている。
笑い事じゃないっすよ!
負けず嫌いもここまで来ると恐怖だわ。
「何をしている!次郎右衛門!」
小野忠明がギクっと飛び上がった。
いきなり妖怪婆さんが現れた。
小野忠明は固まったまま動かない。
「早よ次の仕事に掛からぬかえ!」
「はっ!ははっ!」
小野忠明は深く最敬礼するなり飛び跳ねて屋敷の中へ走り戻って行った。
…スゲえ、あの魔人より強いのかよ、この婆さん。
というか『次の仕事』って何??
「ほれタスク、さっさと起きぬか」
婆さんが来たという事は、また御前さまの新しい命令だろうか?
「あれ?コマチは?」キョロキョロと周囲を見ますがコマチの姿が見えない。
「行くぞ」
婆さんは無視して俺を引きずる。
「どこへ行くんすか?」
「畜生道だ」
(畜生道…)あのキツネ仮面の男が頭をよぎった。
「カマ様がお会いしてくださるそうだ」
「カマ様…」
〜35「恋火」〜 完
(=φωφ=)あとがき。
今まで弱虫いくじなしだった主人公。
残念ながら無敵の天魔将軍となってしまいました。
そして、これでコマチさんの役目は終わってしまったのですが。
> 横縦上下
これも一刀流の伝書にあります。
まぁ、こういう意味では無いと思いますが。
> ムキになって大人げ無い小野忠明先生
この物語はフィクションです。




