36 天狐(あまつキツネ)
【登場人物】
小野タスク
なぜか魔王と呼ばれる地味で平凡で貧弱な高校生。
悪霊を斬る霊剣『韴霊剣』を目覚めさせる能力がある。
コマチ(小野小町)
平安時代の鬼退治師であり和歌の言霊で自由に時空間を変化させ、炎や水を操る能力を持つ少女。
・パンツを履くという概念が無い
猟師コマチ(チビ助)
鬼と戦う少女。蝦夷風の装束を身にまとい半弓と毒薬を使う。
・パンツを履くという概念が無い
柳生十兵衛 平 三厳 (ミツヨシさん)
なぜかタスクの家でお手伝いさんをしている剣豪。
鈴鹿御前の霊刀『小通連』に片目を食われた。
餓鬼阿弥とテルテ
男女の熾燃餓鬼。鬼の身体能力を持ち、炎の属性魔術を使う魔界の武士
鈴鹿御前(立烏帽子)
第六天魔王の一人。リアル魔王
三振の霊剣を持つと言われる。
タカムラ(小野篁)
コマチの父。
地獄の高官であり自由に地獄と現世を行き来でき、強力な呪術を使う。
お供に降魔の化け猫(この子猫の子)を連れている。
川崎カヲル
年齢不詳の女性民族学者。
裏山の古墳「将軍塚」を発掘するため移住して来てそのまま学校の司書になった変人。
・南軍流剣術の宗家である。
闇の中。
地獄の井戸に入ると妖怪婆さんは手を離した。
「どうだ?一人で飛べるか」
白い翼を広げてみると身体はスイスイ自由に移動できる。
「うん、だいじょぶっぽそう」
「では畜生道を念じてみろ」
妖怪婆さんに言われるまま畜生界を思い出す。
畜生界で頭に浮かぶのは不気味な獣人間や、魔獣の鼠頭牛首、それにあのキツネ仮面の男。
どれも二度と会いたくない相手だなあ。
とりあえずどこでもいいや、風景だけ思い出そう、風景だけ、風景だけ…
風景だけを思い浮かべながら闇の中を飛ぶと、正面から光が広がって世界がパアッと開けてきた。
目の前に高山の山林が広がっ……
うぎゃ!正面にキツネ仮面の男が居た!
「出たっ!!」
あわてて飛び退くと、キツネ仮面の男はこちらに向かって深くお辞儀をした。
「お待ちしておりました、将軍様」
「へ?」
「カマ様がお待ちです」
「カマ様…」
キツネ仮面の男は金色の翼を広げてフワリと空に舞い上がった。
あれは小野忠明先生と同じ金色の翼。
俺と婆さんも空へ飛び上がる。
「あの〜」飛びながら婆さんに問いかける。
「何だ?」
「なんでみんな金色の翼なんですか」
「上位の天魔は黒や金色の翼だ、下級の木端天狗は獣霊に近いので鳥の様な翼だがな」
「へえ黒い翼の天狗も居るんだ。……でも、俺のコレは白いんだけど」
「お前のは『あのお方』と同じだからだ」
「え?あのお方って?!」
婆さんは「あっ!」と言ってプイと横を向いてしまった。
また何か隠してるな。
ウチのチビ助みたいな分かりやすいドジっぷりだ。
しかし飛べども飛べども山頂が見えない。
さらに上昇するとだんだん青空が薄黒くなって星が見えはじめてきた。
ん?まさか宇宙?!
山肌が途切れると山上の岩場の上、星空の中に立派な建物の一群が現れた。
神社というより宇治の平等院みたいなデカくて真っ白い建物が何軒も宇宙に広がっている。
これがカマ様の宮殿!
すごい!ホントに神様の世界みたいだ。
「これより御神域です。何があっても驚かれぬよう」キツネ仮面の男が言う。
ん?どういう意味だ?
門を入ると左右に大勢の天女のような姿をした文人や女官たちが並んでいた。いや、人間ではない。みんなキツネの顔をしている。
広大な神域に居たのは人間の姿をしたキツネたちだった。
「あれは…」
「天狐の眷属だ」婆さんが答える。
天狐
天に突然現れる大流星、つまり「天狗」の事である。
また星の動きを表す「辰狐」とも呼ばれ、星に関わる存在とも言われる。
動く星、それは天文の改変であり、天地の革命であり、災いでもある。
どうやらカマ様は天下を動かすかなり高位の霊らしい。
神殿に昇殿すると女官や神官らきし狐たちが並んで着座して出迎える。
そこからさらに奥にと続く。
「この奥が本殿だ」と婆さんが言う。
ここにカマ様が居るのか…
「こちらよりカマ様の御前です。頭をお下げください」
本殿には御簾がかけられて、その奥はキラキラと光っている。
あれがカマ様…
キツネ仮面の男は頭を下げながら膝を着いてソロソロと歩き出した。
婆さんも膝を着いて歩く。
何これ?
「膝行だ、早よ座らぬか」
あ!そういえばカヲルさんから柔術の手ほどきを受けた時に似たような歩き方をしたな。膝が痛いし、投げられて痛いし、手首を極められて痛かった記憶しか無いけど。
武道の動きも神社の作法に似てるんだな。
キツネ仮面や婆さんの動きをマネながらズリズリと膝行で歩く。意外と難しいな。
中座付近まで進んで止まり、キツネ仮面が何か挨拶を奏上すると、カマ様は横に居る古代の官女の格好をしたキツネの少女にボソボソと語りかけた。
キツネの女孺がこちらに向かって口を開く。
「ご苦労である」
ん?そんだけ?
キツネ仮面はまた何か奏上すると、またカマ様はキツネの少女にボソボソと語りかけると、またキツネの少女がこちらに語り出す。
「遠路よう参った。将軍よ」
うわあ、ずっとこの調子で会話するのかよ〜
まあ、とりあえず何かお礼をしないと。
「え、あ、どうもありがとうございます」
キツネ仮面が、こちらをジロっと見る。
「バカもの、言葉に気をつけぬか」
背後から婆さんが小声でブツブツと言う。
…んなこと言ったってなぁ、神様と会話するなんて初めてだし。
「はっはっはっは!いつも鈴鹿様と会話しているじゃねえかよ」
いきなり御簾の向こうから笑い声が聞こえた。
あ、そういえばしょっちゅう最高神とコーヒー飲みながら会話して……って、え?!
「めんどくせえから直接話そうぜ」
いきなり御簾をはね上げ、古代の朝服を着た若い男が出てきた。
こ、この人がカマ様?!
「そうだ、俺がカマだ。まぁお前にはカマタリと名乗る方が分かりやすいか」
…この人が中臣鎌足。イメージしてたのと全然違う!
「はは、まぁそう言うな、最初だけ神様らしくしててやっただろ!」
カマ様は気さくに笑った。
やはりカマ様も心が読めるのか…
カマ様は赤紫の服に金糸の刺繍がされた袍をまとい、ミニスカートのような褶を履き、さらにズボンを履いてる。
現代人から見れば妙な姿だが、飛鳥時代では高位の朝服である。
(ん?ひょっとして…コマチのミニスカって…)
「そうだ、あれは俺様がセレクトしてあの娘に与えた服だ、二十一世紀風でありつつ飛鳥風!なんかイカすだろ?」
(ぜったい趣味だな…)
カマ様はイヒっと笑った。
なんちゅう軽いノリの神様なのか。
いや、気さくな人でホッとした。
「カマ様!この様な下々(しもじも)の人間どもにお姿をお見せになってはなりませぬ!」
横でキツネの女孺がギャーギャー騒いでいる。
カマ様は笑顔でキツネ少女の頭をポンとなでる。
「俺はもともと天狐でな。鈴鹿の御前に召喚されて人間に転生してたんだ」
「御前に召喚された?」
「あ〜あのお方は全く人づかいが荒いからな、それでそいつと同じく都の鬼退治をしてたんだよ」
カマ様は婆さんの方を向いて言う。
婆さんも鬼退治をしていたのか、どうりでコマチと同じ術が使えるはずだ。
「カマ様は人間に転生していたんですか?」
カマ様はキツネの女孺に向かってニヤリと笑う
「おいお玉、見せてやれ」
お玉と呼ばれたキツネの女孺はムスっとしながらポン!と煙を発すると、小柄な少女の姿に変わった。
うわ!キツネってホントに人間に化けられるんだ。しかもけっこう…かわいい。
「やめとけ、喰われるぞ」カマ様は笑った。
「え?喰うって…」
「食べません!」
お玉はギャーギャー怒鳴っている。
「コイツも昔人間に転生していた事があるからな、小狐丸に聞いてるだろ」
横に居たキツネ仮面は頭を下げてかしこまった。
この人小狐丸って言うのか。
そういえばこのキツネ仮面は「カマ様は人間だ」って言っていたな。カマ様は一度中臣鎌足に転生しているからか。
と言う事はこの小狐丸って人も人間に転生していた事があるのかな?
小狐丸はチラッと緑色に光る眼でこちらを見た。
「カマ様、そろそろアレを」
「ん、そうだったな」
カマ様は懐から棒を取り出した。
「あ!」思わず声が出た。
カマ様の神器!
「お前の用件はコレだろ」カマ様は鎌をヒョイと回すとシャキッ!と剣にして見せた。
すごい!簡単に剣になった。
これが神器の『本歌』か!
「カマ様はこれで藤原千方と戦ったんですね!」
カマ様は少し悲しそうな顔で笑った。
「ん…いや、俺がチカタと戦うなんてありえねえさ、チカタは俺の息子だしな」
カマ様はクルクルっと剣を回して閉じた。
なるほど………え?
ええ!!藤原千方がカマ様の息子だって?!
〜35「天狐」〜 完
(=φωφ=)あとがき。
ケモケモ回ですね。
とは言っても人間を喰らう魔獣の神たちでもありますが。
> お玉
カマ様より年下で、神としてはまだ若い人間に化けられるキツネの神。
名前は玉藻さんと言います。そりゃ美少女のはずですね…
>小狐丸
お能の演目「小鍛冶」に出てくる「夢の刀」の名前が小狐丸ですねえ。
正確にはキツネ仮面の名前は「小狐」です。




