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17 特訓!修羅の道

【登場人物】

 小野タスク

平凡な高校生。

悪霊を斬る霊剣『韴霊剣(ふつのみたまのつるぎ)』を目覚めさせる能力がある。

自宅の裏山が、なぜか地獄に繋がっている。


 コマチ(小野小町)

平安時代の鬼退治師であり和歌の言霊を操り自由に時空間を変化させ、炎や水を操る能力を持つ少女。

・パンツを履くという概念が無い


 猟師コマチ(チビ助)

鬼と戦う少女。蝦夷風の装束を身にまとい半弓と毒薬を使う。

・パンツを履くという概念が無い


 柳生十兵衛 平 三厳(ミツヨシさん)

山奥で修行中に、なぜか現代に召喚されてしまった剣豪で、タスクのお婆ちゃんの友達。

立烏帽子の霊刀『小通連(しょうとうれん)』に片目を食われた。


 立烏帽子(鈴鹿御前)

将軍塚にある地獄の門を開放する妖女。

魔王軍随一の女性剣士である。


 婆さん(奪衣婆)

三途の河原で出会った老婆。

コマチを超える言霊のパワーを持ち、御前の指示でタスクを地獄へと導く。


 小野忠明(神子上典善・次郎右衛門)

修羅の世界で最強の剣客。

というか鬼より怖い。


 善鬼坊

生前、小野忠明に討ち取られた修験者。

三途の川に居た妖怪婆さんに連れられ、修羅の世界で剣道の修行をする事になった。

師匠は小野忠明という剣豪爺さんだが、この人も小野小町の親戚なんだろうか?


小野忠明の屋敷は豪壮だった、

下男らしき爺さんや女中さんが居るが、この人たちも修羅なのか?

ふつうのおとなしい人に見えるが…


妖怪婆さんがつぶやく

「修羅道は強さが全てじゃ。強い者が居ればこの世界にも秩序が生まれる。そのために次郎右衛門(小野忠明)がここにとどまっている」


自分から修羅界に居るのか?

そりゃこれだけ強ければ修羅界でも全く問題無いよな。

というか、この人のおかげで平和なのかもしれない。


屋敷の庭先には小野忠明の白装束(しろしょうぞく)山伏(やまぶし)みたいな人がいた。長身で短髪の坊主頭で長い刀を差している。


「戻ったぞ、善鬼坊」小野忠明は山伏に声を掛けた。


「はは、またお楽しみでしたか。典善どの」

善鬼坊と呼ばれた山伏は笑いながらこちらに近づいて来た。


「ほう、これが将軍塚の小僧ですか、典善(てんぜん)どの」

山伏は軽く笑った。


何だ?この人も将軍塚の事や俺の事も知っているのか?

というか典善(てんぜん)って何?


「ふむ、コヤツに剣を仕込んでやれとお婆婆様のおおせじゃ」


この最強剣豪にコーチを依頼できるなんて、やっぱこの婆さん偉いのかな?


「構えろ、小僧」


小野忠明に命じられるままにカマ様の神器を構える。

「剣になれ!フツノミタマ!」

気合を入れるとカマ様の神器は半分開いて、また(カマ)の形になった。

ダメだ、俺一人では剣の形にならない。

山伏の善鬼坊は大笑いしている。クソっ。


「ふむ、戦うには充分だな」

小野忠明はあっさりと言う。


え?これでイイの?剣じゃなくてカマなんすけど?


「受けてみろ」

いきなり小野忠明は刀で斬りつけて来た。

ウギャっ!!

一瞬で何が起きたか見えなかった。

動きが異常に早い!

俺は真っ二つに斬られ…あれ?生きてる。


婆さんが呆れた顔で言う。

「斬られても死にはせん。お前は心法だけの存在じゃからな」

なるほど…って、それでも痛いしなんか怖い!


「たとえ修羅道でも痛みや苦しみは永遠に続くぞ。苦しみたくなければ斬られるな」


小野忠明は表情も変えずに容赦なくビシビシと切ってくる。

痛い!痛い!怖い!

白髪まじりの精悍な顔がマジで怖い。


「いや、死なない…というのは頭では理解しているけど、なんでこの人はこんなにすごく怖いんだ?」

これは逃げるにも逃げようが無い怖さだ。

この人が切付けると必ず斬られている。

逃げられないんだ。

これは精神がズタボロになる。


横から三途の川の婆さんが言う

「タスク、お前の心はまだ身体に執着しているから『心を斬られる』のじゃ。まず身体を捨て、心を捨てる。それができれば恐怖など無くなる」


そんな事できるワケ無いでしょ!


「うむ、オババ様の言う通りである」

小野忠明はうなずいた。


そうなの?


「では参るぞ」

小野忠明はまたヒュン!ヒュン!となにげなく刀を振って来る。

「ぎゃあ!ああああ!痛い!怖い!殺される!死ぬ!!」

肉体が無いのだから死ぬわけがない。

それは頭ではわかっているのだが痛いものは痛いし、怖いものは怖い。

一発一発が恐ろしく早くて気配が全く見えない。気づいたら斬られている。逃げられない。

ダメだ!とても敵わない!


「こりゃ!逃げるな!タスク!バカもの!」

婆さんは怒鳴り、山伏は大笑いしている。

んな事言ったってメチャ怖いんだよ!この人。


「まぁまぁ、拙僧(せっそう)が代わりましょうぞ、神子上(みこがみ)どの。これでは稽古になりもうさぬ」

山伏の善鬼坊が立ち上がった。


いや、この人も十分怖そうなんすけど。

というか修羅だし。


「これを使われよ!将軍どの」

善鬼坊は木刀をこちらに投げ渡して来た。


「あ、ありがとうございます」

…あれ?今この人、俺のこと将軍って言った?


「まっすぐに構えなされよ」

善鬼坊も同じ長さの木刀を構える。

こちらも正眼に構える。

なんかこの人もすごい迫力だ。

まるで木刀の剣先に吸い込まれ…

気づくとボチャーン!と池に落ちてしまっていた。


いつの間にか後ろに後ろにと後退していたらしい。

池を泳いで庭石にしがみ付き、ようやく陸に上がる。

善鬼坊は大笑いして、婆さんは頭を抱えていた。


「退がるな!前に出ろ!」

小野忠明は表情も変えずニラんでいる。


ンな事言われても…いや、以前に同じ事を言われたな。

ふとカヲルさんとの突き技のトレーニングを思い出した。


(…そうだ、ツキだ、攻めるのか!)


南軍流一打三手。

俺にはこれしか無い。

木刀の切っ先をズイッと前に出して構える。


小野忠明は「ほう」と言った。

山伏の善鬼坊も一瞬ハッとしたが、切っ先を構え直す。目がマジだ。この人もやっぱ修羅なんだ。


善鬼坊の切っ先がグッと沈んだ。

…しまった!

下段の構え!前回、テルテという女鬼が使っていた構えだ。

下段相手に南軍流一打三手は使えない。

どうやって対抗すれば良いのか分からない。

思わず後退(あとず)さる。


「コラ!退がるなタスク!」

婆さんが背後から無責任に怒る。

…んな事言われましても。


また無意識に後ろに退がってしまったようだ。

このままではまた池ポチャだ。

何とか踏ん張って攻め返さないと…どうする?どうする?


その時、背後から声が飛び、耳を貫いた。

「上段に振りかぶれ!刀で上から見下ろせ!」


「え?上段……そうか!」

木刀を思いっきり大上段に構え直すと、善鬼坊の動きが止まった。


わかった!


何か目が開かれた気がする。

下段からは下から突くか、振りかぶって打つしかない。

だが相手は『こちらの高さ』とも戦わないといけない。

上段が有利!


これが南軍流一打三手の極意だったのか!

誰だか知らないけどありがとう!


思いっきり大上段に構えたまま上から攻め、相手の出方を待つ。相打ちで打ち込んで、そのまま突く。ならば…


  相打ちで勝つ!


俺にはこれしかできない。


相手の山伏の人は少し気をゆるめて「ほう」と言ってニヤリと笑うと、刀を後ろに引き、脇構えに構え直すと刀を後ろでクルクル回し始めた。


ええっ?!何これ?

脇構えなんて見るのも初めてだし剣道部の練習でも見た事も無い。

だけど何でクルクル回すんだ?何か意味あるのか?


山伏はまたニヤリと笑う。こっちが素人だから遊んでるのか?

いや、そうは見えない。

何かを狙っている。


その時、また背後から声が聞こえた。

「考えるな!相手の眼を見ろ!拳を見ろ!見えたら打て!」


そ、そうか、相手の刀と構えに惑わされてしまっていたのか!

相手の拳を打つ!拳だけを打つ!

それしか無い!

俺は大上段のまま全身で踏み込んだ。


山伏がそれに応じて、剣道の抜き胴で脇腹を切り払おうとしたのが見えた。


(刀が見える。拳が見えた!今だ!)


俺は大上段から思いっきり斬りつけた。


意外な事に善鬼坊は下から刀で掬い上げる様にフワリと俺の右手首の内側に木刀の刃を当てて止めた。


「え?」

動けない!木刀で軽く支えられただけなのに!


  『地生(ちしょう)

善鬼坊は右手首に当てた刃をクルリと返すと、今度は左手首に刃を当て、グン!と押し流す。

いきなり反対方向へ押し流されたため、体勢が横にグラっと崩れた。

「あ?……」


そのまま横に投げ倒され、ドパーン!と水しぶきを上げてまた池へ飛び込んでしまう。


「なんだ?なんだ?」

いま刀で投げ飛ばされたのか?

そんな事ができるのか??

水中に沈みながら考えた。


一刀流の仏捨刀の一つ『地生(ちしょう)

脇構えに構え進み、

斬り下ろそうとする相手の腕を下から切り上げて止め、逆方向へ切り払う。


まさにこの善鬼坊が生前、神子上典善に両腕を切り飛ばされたその技である。


もちろんこの技は両手切りの技ではあるが達人なら投げ技としても使える。

幕末の英雄山岡鉄太郎は、浅利又七郎に剣道の試合を挑んだが、この『地生(ちしょう)』で右に左にと投げ倒されたと言われる。


地獄に来て今さら驚く事でも無いけど、あの山伏の人が使った技は純粋に剣道の技術に違い無い。

驚くべき知恵の結晶だ。

おそらく練習すれば誰でも使える技術のはずだ。

剣道にはまだ奥深く未知の技がある

ひょっとしたらいつか自分にも使える日が来るかもしれない。

などと池の中に沈みながら考えた。


いや、そろそろ上がらないと息が苦しいな。

やれやれ池ポチャも、もう二度目だ。

水面に浮かび上がって庭石にしがみ付く。

ゲホゲホと咳き込んでいた所を腕をつかまれて、地上に引き上げられた。


「なかなか良かったぞ!タスクどの」


「え?」


見上げれば和服姿の片目の大男が腕をつかんでいる。

引き上げてくれたのはミツヨシさんだった。


「あれ?ミツヨシさん?…なぜここに?」



〜17 「特訓!修羅の道」〜 完



(=φωφ=)あとがき。

 > 浅利又七郎

この技はたぶん中西派の使い方だと思いますが、まぁ小野忠明なら変え技なんて余裕で使えるでしょ。


 > 脇構え

いちおう剣道形にはありますが、たぶん昇段審査の時ぐらいしかやってないかと。

ちなみに、ある七段の先生は剣道の試合で脇構えを使ったら、八段の先生に注意されれたとか。

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