18 夢かけめぐる
【登場人物】
小野タスク
平凡な高校生。
悪霊を斬る霊剣『韴霊剣』を目覚めさせる能力がある。
自宅の裏山が、なぜか地獄に繋がっている。
コマチ(小野小町)
平安時代の鬼退治師であり和歌の言霊を操り自由に時空間を変化させ、炎や水を操る能力を持つ少女。
・パンツを履くという概念が無い
猟師コマチ(チビ助)
鬼と戦う少女。蝦夷風の装束を身にまとい半弓と毒薬を使う。
・パンツを履くという概念が無い
柳生十兵衛 平 三厳
山奥で修行中に、なぜか現代に召喚されてしまった剣豪で、タスクのお婆ちゃんの友達。
立烏帽子の霊刀『小通連』に片目を食われた。
立烏帽子(鈴鹿御前)
将軍塚にある地獄の門を開放する妖女。
魔王軍随一の女性剣士である。
婆さん(奪衣婆)
三途の河原で出会った老婆。
コマチを超える言霊のパワーを持ち、御前の指示でタスクを地獄へと導く。
小野忠明(神子上典善・次郎右衛門)
一刀流の開祖の一人であり、修羅の世界で最強の剣客。
というか鬼より怖い。
善鬼坊
生前、小野忠明に討ち取られた修験者。
現在は小野忠明の弟子として剣の修行中
ずぶ濡れで咳込みながら池から這上がる。
さっきの上段構えのアドバイスはミツヨシさんだったのか、どうりで的確なはずだ。
ちょっと変人だけどこの人もそうとう強い。ちょっと変人だけど。
「善鬼坊どのに『仏捨刀』を使わせるとはなかなかやるではないか、タスクどの」
ミツヨシさんがホメてくれた。
仏捨刀という技なのか。たぶん必殺技なんだろう。
「でも負けちゃいました」
「なあに、勝てないまでも負けなければ良いのだぞ、タスクどの」
いや完全に負けてたでしょ。
「ひさしぶりだな十兵衛」小野忠明がミツヨシさんに声を掛けて来る。
「小野先生も善鬼坊どのもお元気そうで」
「おう、死んでおるけどな!」善鬼坊がふざけると三人は大笑いした。
あの魔人のような爺さんがニコニコ話すのを初めて見た。
というかミツヨシさんって剣豪小野忠明と知り合いだったのか!どうりで強いはずだ。
…しかしミツヨシさんはこの修羅の世界でも柳生十兵衛って呼ばれてるんだな。まぁ見た目は片目の剣豪っぽい感じだけど。
「ひょっとしてミツヨシさんも死んでいるんですか?」
「いや生きておるぞ。心法を使えば夢の世界の彼方まで心だけを飛ばす事ができるのだ」
「え?心だけを異世界に飛ばす?」
「さよう、心だけを自在に飛ばすのだ。おそらくワシがタスクどのの世界に召喚された理由は、この親父どのゆずりの能力のせいじゃろうな」
「うむ」小野忠明は遠くを見るように目を細めた。
「そうじゃのう、お父上の但馬どのも時折不思議な予言のような事を言われていた。
大坂の陣や、島原での戦など、まるで見て来たかの様に語っておったのう」
心を異世界まで飛ばす?
何だろう?イマイチ理解はできないけどミツヨシさんがタイムスリップして来たように、そのような不思議な術があるのかもしれない。
では夢の中で心を異世界へ飛ばすとはどの様な術なのであろうか?
その様子を柳生宗矩は兵法家伝書にこう書いている。
…人の心が物に移る早さとは、月の光が水面に写るほど早い。
月は、はるか高い天空にあるが、その光は一瞬で水に月の影を映す。
心もまた、瞬たきする間に大唐までも行ける。
トロトロと眠りに入る間に、夢は干里の外の古郷へも行くなり。
…つまり夢は時空を越えるのだ。
これが柳生新陰流の秘術『水月』である。
十兵衛の父である柳生但馬守宗矩は、春日大社の『ミトリヶ池』でこの水月の秘術を開眼したと語っている。
この『ミトリヶ池』こそ柳生十兵衛がタイムスリップして来た、あの鬼神が棲む池である。
小野忠明は珍しく表情を和らげる。
「ときに十兵衛、但馬どのは息災か?」
「親父どのですか、だいぶ老いましたが」
「そうか、あの世で次郎右衛門が待ちかねていると但馬どのに伝えておけ」
「ははは、修羅道はご勘弁をと言うでしょうな」善鬼坊が笑いながら言う。
三人はまた笑い出した。
あれ?ミツヨシさんは「平」さんで父親が「田島さん」なのか?
ひょっとしてミツヨシさんって田島さんちのお婿さんかな?
どうやらミツヨシさんと小野忠明は家族ぐるみの付き合いだったらしい。
「タスクよ、今日の稽古はここまでじゃ。現世の人が、長居する場所ではない」三途の川の婆さんが手を差し出す。
「え?」
ミツヨシさんもうなずく。
「お婆婆さまのおっしゃる通りだ。心が修羅道に囚われてはならぬぞタスクどの」
小野忠明も腕組みしてあいづちをうつ。
「さよう、修羅は無心からほど遠い。ましてや夢想剣からはなおさら」
「夢想剣?何それ?」
「今にわかるぞ、将軍どの」善鬼坊は笑いながら肩をバン!と叩いた。
あ、また将軍って呼ばれた。今にわかるってどういう意味だ?
身体がフワリと浮くと、いつの間にか闇の中に浮かんでいた。
「地獄の井戸か!」
一瞬で来てしまった。
やはりあの婆さんはすごい!
だがさっきまで手をつないでいた婆さんが居ない。
また無限の闇の中で迷子だ。
フッ…と背後から誰かに抱きかかえられた。
分厚い着物に細身の身体の感触。ほのかに香の香りがする。女性だろうか?
「この人はあの時の…」
フッと目が覚めた。
「あれ?」気づくとコマチと二人で、真っ暗な神社の社殿の中で寝ていた。
コマチもスッと起き上がる。
辺りはもう暗くなって月明かりが差している。不思議な気分だ。
そうか…御前の命令でコマチと二人で地獄の井戸に入って行ったんだっけ?
「なあ、二人で夢の世界に行ったんだよな?」
「そうだ」コマチはそっけなく答える。
「お前さ、手を離した後、どこに居たんだ?」
「…………」
コマチは外の闇を見ているばかりで答えなかった。
「三途の川で変な婆さんに連れられて修羅の世界で修行して来たよ。あの婆さんも妖怪なのかな?顔も怖かったし」
コマチはジッとこちらを見ていたが、プイと横を向くなり拝殿の扉を開けてさっさと出て行ってしまった。
「お〜い、コマチさん」
外に出ると闇の森が広がっていた。
コマチの姿は無かった。
俺は一人で真っ暗な古墳の崖を降り、我が家に着く。
「けっきょくカヲルさんは来なかった…なっ?!」
家に入ると中にはエプロンを着けたミツヨシさんとチビ助が居た。
「タスクどの!お帰りでござるか!」
ミツヨシさんが着物にエプロンを着けて料理をしている。
「いや何やってんすか?ミツヨシさん」
「どうじゃ?似合うでごさろう!」
「いや、そうじゃなくて〜」
「遅いぞタスク!」
チビ助は食卓で、おばあちゃんと一緒にテレビの時代劇を観ていた。
「何でお前まで居るんだよ!」
「無礼なヤツめ!さっきまで妾といっしょに寝ていたではないか!」チビ助はバン!とテーブルを叩く。
「え?!」
ガシャーン!!
母さんが驚いた顔で手に持った食器を床に落とした。
あ!誤解です!母さん。
「お内儀どの!家事は拙者にお任せあれ!」
ミツヨシさんはササっと割れた皿を片付ける。
「まあ助かるわ、十兵衛さん」
おばあちゃんはニコニコしている。
「ちゃんとメシの分だけ働くのだぞ!十兵衛」チビ助が偉そうに言う。
お前が言うな!
しかしこの二人を我が家に連れ込んだ犯人は、どうやらおばあちゃんの様だ。
そういえば、おばあちゃんは昔から犬やら猫やら狸やら、変なものを拾ってきては家で飼う人だったけど…
まさか小野小町とタイムスリップ侍まで拾って来たとはな。
「さささっ!ご主人どのも麦酒など」
ミツヨシさんはぬるいビールを父さんにすすめているが、親父もあきらに困惑…するよな!つか「むぎさけ」じゃなくてビールって読むんですよ!
「十兵衛!妾にも一杯くれ!」と、チビ助が茶碗を差し出す。
「コラ!子どもがビール飲むんじゃない!」
「何を言うかタスク!妾はもう1000歳であるぞ!」
「ウソつけ!」
「まあいい、メシを食うたれば、また今夜もいっしょに寝ようぞ、タスク」チビ助は勝手にメシを食いながらほざく。
「ハイハイ…と?」
つい、いつもの調子で返事をしてしまったが、両親たちはこちらを見て目を丸くしていた。
「だから誤解だって!!」
〜18 「夢かけめぐる」〜 完
(=φωφ=)あとがき。
> 親父は息災か
小野忠明は1569年〜1628年の人で
柳生宗矩は1571年〜1646年。
生まれはほぼ同じですが、宗矩公の方が長生きだったようです。
>『ミトリヶ池』で水月を開眼
これは宗冬兵法物語にも月の抄にも書かれています。柳生宗矩の独自の術ですね。
> 夢は干里の外の古郷へも行くなり
夢と剣術。じつはこの兵法家伝書の一節が、この物語のタイトルの由来であります。




