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8ピース

ありがとうございます。

「私が先に眠るから、欠実見に行ってくれてたらいいでしょ。それは今までと同じなんだから」

「セイはどうすんだよ」

「背負っときなさいよ。眠るかもしれないでしょ」

「眠らないって言ってただろ」

「じゃあセイの家に1人で待たせておくの? まだ3才の子を? 信じらんない。大丈夫。なんとかする。なんて言って」

「わかった。わかった。アナの欠実が育ったら一緒に起こしに来る。それでいいだろ」

「はいはい。じゃよろしく」

そしてすぐに寝床に入った。静かに目を閉じて眠っている2人に「大丈夫。任しとけ」と念を置くって、家を出た。

畑の回りは静かだった。セイが生きてきた時から任されていたので、心配することはなかった。いつも通り、みんなの花と欠実を見守る。アナの欠実の花の横では、2人の花の中の欠実が少しずつ育っているのが目に見えてわかる。

「土に還る花の欠実も育つのか? まさか、枝を採りに行って戻ってきても、ナゲルたちは寝床にいたりしてな」

 セイを見ながら言ってみたが、反応はない。セイは畑にある欠実の1つずつに近づきじっくり見ている。トルトも隣に座って見てみるが、何が楽しいのか理解できないでいる。

「なぁ。そんなに欠実を見て楽しいか?」

 欠実を見ながら、少しずつ横に移動していくセイ。その後をつけて一緒に欠実とセイの観察を続ける。

「お前、眠らないって本当か?」

 セイの横移動に付き合いながら、全く音のしない3軒の家に目を向ける。みんながしっかり眠っている事を確認した。急にアナの欠実の前で動かなくなったセイは、ギリギリまで花の近くに顔を近づけていた。

「おい! 聞いてるのかよ。 っておい! 近すぎるよ。花に、欠実に触れたらどうすんだよ。」

 強めの声とは反対に、優しく背中に手を当てながら、花から少し距離を取るように促すトルト。その、暖かみのある手つきに、ビックリしたセイは大人しく後ろに下がった。そして、また横に動き始めた。

「で、眠らないのは本当かって聞いてるんだ」

 サンの欠実の横に座り込み、また身を乗り出して花の中を覗こうとしている。その目には美しく、ちょっと角張った感じの欠実が小さく育っている。

「だから、近いんだって。急に前に倒れたらどうするんだよ」

セイの頭にポンと手を置き、さっきよりもゆっくりとセイに伝える。セイは心地よい空気をしっかり受け入れ、横に移動する。

「だいたい、眠らない人がいるなんて聞いたことないぞ。そうだ、一緒にお前の家に行って、眠るまで部屋に居てやろうか? それなら、恐くないだろ」

 そう言ってセイの方を見ると、ナゲルの花の果実に手が伸びていた。目が煌めいていて、止まれるとは思えない身の乗り出しかただ。

「セイ! だめだ!」

 止めるではなく、引き離すように小さな身体を浮かせた。首の後ろを握り、力を入れて後ろに引いていた。

「あっ。セ、セイ」

少しだが宙に浮いて、2歩ほどの距離を後ろに移動していた。瞬時に我に返り、セイの近くに座ったが、焦りからか上手く言葉が出ずにいた。

「セイ。大丈夫か。すまん、急に見えたから。じゃなくて、触ろうとして。それで」

何も言わずトルトを見ていた。

「痛かったよな。すまん。ちょっと後ろに引っ張って欠実から離れさせるつもりだったんだよ。飛んでいくなんて考えなかったんだ」

 立ち上がり右手で地面についていた箇所の砂を落としている。

「怪我してないか。」

 頷きながらしっかりトルトの顔を見る。

「よかった。すまなかった。気をつける。でもな、お前も気をつけてくれよ。クオカの伝えなんだ、他の人の欠実や花には触れないってこと。触れたら、いけないの。わかってるだろ?」

 どうして? そう言いたそうにこちらを覗き込んでいる。

「なんで、じゃなくて。伝えられてるの。それで、触ったからクオカの片から居なくなってしまったって言ってる人も」

 あ。と思い口を閉じてセイに目を向けるが、まだ、どうして?の顔のままだった。少し安心して、すぐに違う駄目の理由を教えようと考えた。

「僕ね、欠実、触っても居なくならないよ」

「なぁ?」

 左手をトルトの前に向ける掌を開いた。その中に、小さな輝かしい石があった。

「ナゲルの、欠実」

「なぁぁぁぁ?」

 いつもの声とは全く違う甲高い声を出しながら後ろに下がっていく。

「お前、話しできたのか?」

 左手を出したまま頷くセイ。そして、ゆっくり近づいてくる。

「待っ、待ってくれよ。急に話したかと思ったら、欠実を触るだと。何いってんだ」

 近づくセイから離れようと下がり続ける。だが、畑を囲っている岩に足が掛かってしまい後ろを振り向く。

「な。本当かよ。無くなってる。」

 その足下にはナゲルと書かれた文字の後ろに花が咲いている。そして、その花の中にあったはずの小さな欠実が無くなっていた。「落ち着け。落ち着くんだトルト。こんなこと、ありえない。確かにセイは変わってる。でも、欠実を触ったり、ましてや採ったりしないだろ。よし」できるだけ、甘い声で、ゆっくりと聞いてみた。

「なぁ、セイ。その綺麗な石はどこにあったんだ?」

「これ、ナゲルの、欠実」

「……そうですか」

ゆっくりと、畑の方を向いて、ナゲルの花の前に座り、欠実が無くなっている花を優しく、なでるように触りながら話しを続けて。トルトは止めようとしたが、セイの横顔を見て、動けなくなっていた。

「話しできた。前から。でも、ナゲルが言った。クオカの人と、違うって」

「待ってくれよ。そんな今更、話しができるかの質問の答えが返ってきても」

「僕、何か違う。ナゲル言った」

「何かって、何だよ」

「ナゲル、何が違うか、わからないって」

 そう言って、セイは左手を力強く握りしめ、固まってしまった。2人に間には、トルトが感じたことのない空気が流れていた。そして、そこには見たことのないセイの姿があった。目尻から、頬を通り、顎の下に流れ、畑に何かが落ちた。

「セイ! それは……」

「ナゲル。居なくなる。イヤだ」

「何言ってんだ。新しい命と種が実るんだ。みんな楽しみにしている。イヤってなんだよ。それに、顎から落ちてるの、それ何だよ」

「トルトもわからんとやね」

「な?」




セイはいつの間にか、後ろを向いて顔を両手で覆い、すぐに振り向いた。そしてアナとみんなの欠実が育ってることを指さしで教えていた。顔がいつものセイに戻っていた。

 トルトの後ろを静かにセイが歩いていた。トルトの頭の中は、わからない事だらけだった。今まで生きてきただけでは、わからないことだらけで、セイに話しを聞くことができなかった。急いでなんかいなかったが、すぐに家に着いた。

「オレ、アナを起こしてくるから。ここで待ってろ」

聞こえるか聞こえないかの小さな声でそう言って、家に入ろうと扉に手を掛け振り向いた。その小さな身体は力なくただ立っているだけで、答えは返ってこない。

「おい、アナ。」

 小さく揺するとすぐに目を開けた。簡単に身支度をすませると、静かに眠っているナゲルとサンの頬に軽く触れた。

「セイは家の前に居るのよね? じゃ、行ってくるわ。よく眠るのよ」

軽く頷くトルトを全く見ることはなく、家を出て行った。

いつもなら、すぐに目を閉じて眠ってしまう。あんな不思議な事が次々に起こって、眠ることができるんだろうか。このまま眠っていいんだろうか。セイは本当に眠らないで大丈夫なのか。そんなことを考えていたら、眠っていた。


次もよろしくおねがいします。

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