9ピース
ありがとうございます。
「トルト。トルト」
アナが隣に居た。アナに目覚めさせられたのは初めてだったが「ありがとう」そう言って、起き上がった。
「ねぇ。トルトが眠っている間に考えてたら、凄いことわかっちゃった」
思い出したように、アナの顔を見た
「何をだ! 何がわかった! オレにも教えてくれ」
「ちょっと、なに焦ってるの? 離してよ。痛い。肩。痛いんですけど」
「あ。すまん」
無意識で掴んでいた肩を、急いで離して大きく息を吸って、落ち着いて聞き直した。
「何が、わかったんだ? 教えてくれないか」
いつもの話し方だったが、胸の中はドキドキしていた。知りたい。ということがこんなに嬉しいのは初めての経験だった。
「どうしたの? 何か変よ。 トルトにも考えてもらわないといけないことだし」
「おう。何なんだよ」
身体が前のめりになって、握った両手が肘から曲がって前に出ている。目は見開き、アナの言葉を待っている。
「セイのことなんだけどね」
頼む。早く教えてくれ。早く……
「枝を採りに行ってる時、どうしたらいいのかな?」
「はぁ?」
2人は岩の前に着いた。家を出るときはナゲルもサンもよく眠っていた。日の火の炎もしっかり炎えていた。そして、セイの家の裏の岩の向こうに行く。ナゲルから進むべき道は何度も聞いていたが、やはり不安だった。枝を採るは初めてだから。でもトルトには、もっと不安なことがあった。
「これから、枝を採りに行くにしても、新しい命を2つも家で育てるのよ。どちらかは家に居なきゃでしょ。」
「そう、だな」
「でも、セイを一人にしておけない。だから、新しい命が大きく育つまでは、ナゲルとセイが枝を採りに行く。どう? いい考えでしょ?」
「ちょっ。何言ってんだよ。片の長の大事な使命だ。そんなこと勝手に決めたらいけないだろ。ましてや、大切な枝を、岩の向こうに採りに行くんだ。セイには無理だ」
「大丈夫よ。みんな眠ってる。岩の向こうに行くのはトルトだけでいいでしょ。登ったわ、すぐに木々が並んでいて、真っ直ぐ進む。枝もいつも同じものを採るから、
すぐに戻って来れるってナゲルは言ってたし。枝の本数の確認は家を出るときに私としたら問題ないでしょ」
「で、でも」
「ナゲル。命を2つ育てていくのは大変って、サンも言ってたわ。お願い。私も不安なの。長の家の者としても……」
「……わかった。とりあえず、セイを連れて、枝を採ってくる。戻ってきたらもう1度話をしよう」
「わかったわ。気をつけてね。1本目よ」
「1本目だ」
セイと一緒に畑の前を通り過ぎる。まだ、ナゲルとサンの花は土に還っていないか。と思いながら花に近づくと小さな、美しい欠実が2つとも育っていた。
「あった。やっぱり、オレの勘違いだったか」
眠る前の、セイとの出来事は勘違いだった。良かった、と息を吐こうとした横から、小さな手がナゲルの欠実を採ってしまった。
「なっ」
両手が顔の横で開いた状態で、セイを見て驚き固まっている。そんなトルトを気にもせず家に向かって歩いて行ったセイ。
「ちょっと、待ってくれよ」
追いかけながら、セイの肩に手が置かれた。振り向いた小さな男の子になんと声を掛けていいのかわからなかった。それでも、何か言わなくてはと思い必死に言葉を探した。
「ほら……アナは、何て言ってた? お前がさ、欠実を触れるってこと」
「知らない」
そう答えると、また歩き出した。「さっきのアナが落ち着いていて、これからのことを考え、オレを説得した内容からすると、混乱していることはないな。まさか、本当は欠実を触れる理由や眠らない理由をセイから聞いたのか」考えながら、歩いて行くとセイの家の裏まで来ていた。
ナゲルとサンが教えてくれた岩は、すぐに見つけられた。これまでクオカの長たちが何度も上り下りを繰り返した結果、その岩には人1人が通れるくらいの細さの階段ができあがっていた。人為的に作られたのか、自然にできていったのか真実はわからないが、この大きな岩をよじ登らなくてすむ。歴代の長には感謝しなくてはならない。
「じゃ、オレは枝を採ってくる。お前はここで待っててくれ。というか、家がそこにあるんだから中で待っててもいいぞ。心配するな。初めてだがこの階段を上って、向こうにある木々の枝を折って戻ってくるだけだから。1人は恐いだろうがすぐ戻ってくるから」
そういって岩の階段に足をかけようとした。しかし、後ろから小さな力に引っ張られていた。
「すぐ戻ってくる。お前は家で待ってろ」
まだ3才の小さな子どもには、この場所に1人にされるのはやはり心細いだろう。しかし、枝を採りに行かなくてはならない。振り向きながら、セイの頭に優しく手をのせてしゃがみ込んだ。
「悪いな。でも、お前もこのクオカの長の家の者なんだ。枝が大切な物なのはわかってくれるだろ。オレもこの枝を採ってくることで、片の長として認めてもらえるんだ。次からお前を連れて、枝を採りに行くことはアナと話し合ってどうにかする。今だけだ。少し待っててくれ」
落ち着いた低い声で、わかってもらえるようゆっくりと声を掛けた。セイの頭から手を離し「よし」と言いながら振り向き、再び岩の階段に足を進めた。足の裏に岩の硬さがしっかり伝わってくる。上っている1段が高くなってきている気もしてきた。この階段を、今までの長たちが使って、日の火の炎を絶やさない為に枝を採って来た。長の家で生きた、重みを感じながら、岩の頂上までやってきた。そこに見えたのは、どこまでも続いているような美しい木々だった。その広大な景色がトルトの目を奪った。
「これが、ナゲルが言っていた岩の向こうか」
それから、階段は下りになっていた。頂上から地面にむかって進むにつれて、その美しい木々の大きさが身体に伝わってきていた。最後の階段を降りた所から、木々に向かって真っ直ぐ続いている道ができている。その周りは、小さな草が生え広がっていた。一面の緑の草の中に1本の土の道が続いている。
ここでまた長の歴史を感じ、心を躍らせていた。この光景を見れるのは、長の家の者だけという特別感に浸りながら、その足を進めた。
そして、最後の1段になった。「この道を行けば、あの美しい木々まで進める。そして、枝を採って戻るんだ。セイも待ってる。アナも。よし急ぐぞ」と駆け足でこの道を進もうと思いながら、背伸びをして息を整えた。でも足が前に進まなかった。このたくさんの木々の前に足が、身体が固まっていた。
「早く」
「何で待ってないんだよぉぉぉぉ」
次もよろしくおねがいします。




