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6ピース

ありがとうございます。

「カレ! 開けるぞ」

 扉を引き、家の中に入る。

「カレ。レオ。どこだ。皆待ってるぞ。さぁ。行こう。畑に。レイ、ノン、おいで」

 消えそうな声に答えはない。力なく、膝を落とし、手をつく。「出ておいで」何度も床に向かって繰り返している。

「1才の練習をしてただろ。指1つだけ出して。皆の前で、炎の横で、見せるって約束しただろ」

 床に吸い込まれる言葉は、静かに繰り返されていた。

 トルトは扉から、家の中に入り4人の生活の場所を見渡す。部屋の中は生活していた4人の持ち物が綺麗に整理してある。座り込んでいるナゲルを避けて、寝床に向かって近づく。もしかしたら、カレたちがまだ寝ているのではという希望を持って。

「ナゲル!ナゲル!は、早く!」

 力の入らない身体を起こそうとしている途中に聞こえた歓喜の声。頭より先に足がトルトの居る寝床に向かっていた。

 そこには、小さな種をお腹に宿した、ナゲルの両手に収まるくらいの男の子が居た。



 トルトがナゲルを追いかけた。

畑の回りは、騒ぎになっていた。今まで誰も考えもしなかった事が、片の人々を不安にさせていた。サンは何度も落ち着くよう声をかけていた。

 もちろんみんな、サンの話しをしっかり聴いていた。しかし、カレたちの花が無くなっていることに驚きを感じているのは確かだった。今まで生活していて欠実の花が土に還るのは35才の眠りについた時。そう思っていたからだ。

枝を炎やす前に、みんなで自分の欠実を採る。小さな赤ん坊の欠実は同じ家に住む者が手伝い、どうにかして、自分で口に入れるようになっていた。

欠実の花が土に還る時、新しい命が種と一緒に、その家に実ることもみんなが知っていること。その腹に宿った果実の種を、土に還った花の場所に植える。そして1本目の枝が炎を灯すことで、みんなが眠りについて起きたときには、新しい果実の花が育っている。このクオカの片はそうやって今まで生きてきた。

だから、今の畑を見て、驚いている。欠実が無いことすら1度もなかった。花が土に還ることは35才の眠りについてから。そう思っていた。村の長のナゲルがサンと一緒に、この畑を見守ってくれていることは、誰もが信じていたことであり、疑うような人は誰もいなかった。

「違う誰かの欠実を触ったんじゃないか?」

「まさか。そんなことは誰もやらないよ」

「でも、レイとイトはまだ幼い」

 この畑にある自分の花は、命と一緒に実っている。欠実は自分の命のために口に入れる。そして、他の欠実を触ることはなかった。これはクオカ片の、伝えであった。いつ誰が決めたなどはわからない。だが、そうやって生きてきたのだ。

「でも、4つの花が土に還ってる。カレとレオはそんな間違いしないだろ」

「そうだ」

また、みんなが騒がしくなった。レイの欠実をカレが採って、口に入れたのでは。ノンがレオの欠実を間違って採ってしまった。いろんな考えが行き交う。

「トルトがナゲルの所に、今の畑の状態を伝えに行っている。もちろん、私もこんなことは初めてだ。しかし、ナゲルがカレたちの家に向かっている。大丈夫だ。みんな、もう少し待とう。もうすぐこちらに戻ってくるはずだ」

 何とか自分を落ち着かせながら、大きな声でゆっくりとみんなに語りかける。

「なぜ、花が土に還ってしまったのか。今は理解できん。ナゲルが戻ったら、炎の前でみんなで話し合おう。今はカレやレオ、レイ、ノンが……」

 そう伝えていると、2人が戻ってきているのが見えた。サンは張っていた胸をそっとなで下ろし、2人のもとに駆けだした。

 ナゲルとトルトは同じ歩幅でゆっくりと歩いている。畑が見える少し前に、俯くトルトにナゲルは大きな手で背中を叩き「しっかりしろ。私たちは、長の家の者だ」そう言って気を張り直させた。「さっきまで……」そう言おうとしたが、ナゲルは新しい命を抱きかかえ、長としてのあり方を見せつけるような姿で歩いていた。トルトも背中を大きく反らし、正面をしっかり見据えた。

 畑の方から、サンが走ってくる。

「大丈夫だ。私が、必ずこの子を守る。もちろん、皆には、偽りなく全てを伝える。お前は堂々としていろ。私たちは受け入れなくてはいけない。いや、受け入れるしかない」

 そう言って歩き続ける。太く逞しい腕は、小さく震えている。その腕の中で、新しい命と種を持つ小さな赤ん坊は、変わらない表情でナゲルを見つめているようだった。


「カレたちは何処だ? 2人だけ戻ってきたのか? みんな待っている。早く集まって、花の事について話し合いをしなくてはと、言っていたのだ」

「そうか」と口を動かし、止まらず歩く2人。そして、サンに近づいていく。サンは腕の中に抱かれている赤ん坊に気づいた。

「待ってくれ。新しい命は実らないぞ。誰も35才の眠りについていない。その命は何だ。なぜ4人を連れてこないで、新しい命を抱いてきているんだ」

 進みながら、抱く赤ん坊を見せ、サンに微笑んだ。

「4人は居なかった。こいつがあの家の中に、新しい種を持って寝ていた。私にもわからない。でも、こいつは、この命と種は本物だ。クオカの新しい命だ」

 不安と混乱を隠そうとしている微笑みだった。しかし、それが偽りではないと思わせるには、確かな言葉だった。それでも、サンは理解できていない。抱かれた赤ん坊と2人の姿に、気圧されてしまう。気がつくと横に並んでいた。赤ん坊の目が、こちらを向いたような気がして、止まらず歩き続けている2人の後ろを歩いていた。

 畑に集まったみんなは、言葉が出なかった。歩いてきたのが3人だったこと。その内の2人の姿がクオカ片で、今まで感じることのなかった緊張を誘った。そして、その腕の中に、赤ん坊が抱きかかえられていることに気づく。さらに、その子の腹に新しい種が実っていることが見えてしまった。

 1本目の枝を採りに、サンと岩を超えに行くときには間違いなくあった、4人の花の前に立つ。回りにはしっかりと欠実のなっている花が育っている。

「なぜここだけ何も無い」ナゲルは口には出せなかった。わかっていたが、希望を捨て切れていなかった。強く目を閉じて上を見上げる。もう1度畑に目をやるが、変わることはなかった。

ただ、その場所にある土がどの花を育てている土よりも、力強く見えた。そのような気持ちで今まで土を見たことは無かったが、2人にはそう見えていた。

「皆、待たせてすまなかった。この畑を見て驚いただろう。私もこんな事は初めてだ。いや、クオカのこれまでにこんな事があっただろうか。なかっただろうな。この畑に花がないよう、4人は居なかった。そして、この赤ん坊が彼らの住んでいた家の寝床に横になっていた。新しい種も実っている。この種をこのクオカの畑で育てよう。これまで生きてきたが、このような信じられないことが起きるとは思いもしなかった。だが、この新しい命は、このクオカに実っている。この子は、私たちクオカの者だ」

 みんな、ゆっくりと頷いていた。わからないことが起こりすぎて声が出ない者もいた。状況を飲み込めない者もたくさんいた。しかし、この言葉に反対する者は誰もいなかった。

「種を、畑に」

そう言って、ナゲルが赤ん坊の種に触れようとした。

「待て! 欠実の種はその家の者しか触れない。そう伝えられているだろう。伝えに反すれば、カレたちのように……」

 サンがこれまで長の家で生きているからこそ、伝えを守らなければと思い、声が出ていた。その言葉を聞いた民も「そうだ」と小さく頷いていた。

「カレたちの家には、この赤ん坊しかいなかった。この子には、オレたちみたいな家の者は居ないんだよ」

 近くの人にやっと聞こえる程の声でトルトが呟いた。

 また、誰も声を出せなくなった。これまで考えていたこと、やってきたことが、全部当てはまらないから。わからない。それがみんなの心の中だった。

「私がこの赤ん坊を育てる」

沈黙の中、ナゲルの低く心地よい声がみんなの耳に届く。そして、赤ん坊の腹に実っている種を優しく取る。「今まで見てきた種もバラバラだったが、この種は何か違う」そう感じたが、この新しい種をしっかりと握りしめた。

「居ないのならば、なろう。私が、この片が、この子の家の者になろう」

その言葉は、これから、クオカがどうなっていくのかわからない片の人たちが、頷くしかできない言葉だった。



次もよろしくおねがいします。

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