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21ピース

ありがとうございます。

 セイから伸びた綺麗な右手が、大きな声を出しながら、腹ばいで近づいてくる小さな女の子の頬に触れた。女の子はその右手の指を掴みセイの座っている膝の近くまで上ろうと身体を動かしていた。その姿を、何も言わず見ている。背中に何か触れたと思って振り返ると、歩き始めたぐらいの小さな男の子がセイの背中に手を当てて動きを止めていた。その子の目を見て「素敵やね」と呟いた。その子は、とても綺麗に笑い、セイの前に来て、膝の上に座ろうとした。しかし、セイの膝を上ろうとする小さな女の子が見えると歩くのをやめて、セイの身体に小さな手で触れてバランスを取りながら、小さな女の子の顔を覗き込んでいた。

「お前もこの子が悲しかとがわかるとね?」

 セイが男の子に声を掛けると、さっき見せてくれた綺麗な笑顔をもう1度見せてくれた。

「そうやね。わかるって嬉しかもんね」

 女の子が、セイの膝によじ登って、上手く寝返りをうった。すると、小さな顔がセイの顔と真っ直ぐ向かい合った。2人は声を出さずに笑い、隣に居る男の子も同じように笑ってくれた。すると、いつのまにかセイの周りに小さな子どもたちが集まってきていた。セイは何も言わず、その子たちを見ている。少しずつ近づいてくる子どもたちが、ぶつかりそうになった。

「ここではみんなが一緒に生きてるの。私たちはこの部屋を生きる部屋って呼んでるですの」

 リベラと、他にもたくさんの大人が小さな子どもたちがぶつからないように手伝っていた。リベラはまだ、歩けない子どもを、顔を見ながらゆっくり抱き上げて、セイの近くに連れてきてくれていた。セイの前で、かわいい両手をだして笑う姿にセイは笑顔で頷いた。セイは座ったまま、子どもたちの顔を見ていたり、近づいてくる子どもの声を聞いたり、返事をしたりしていた。

「あら。セイ。うちのルイと仲良くなったのかい?」

 最初にセイの膝に寝転んだ女の子が、離れなかったので動けかないで待っていたセイの所にエスが近づいてきた。そして、そのルイという小さな女の子をヒョイと抱き上げて「助かったよ」と言ってリベラの所に行って何かを話している。そして、リベラと一緒に、エスとルイがセイの所に戻ってくる。

「ルイがセイのこと気に入ったみたい。ほら、この子ずっとセイの方に手を伸ばしてやがる」

 エスに抱かれているルイが必死に両手をセイに向けて伸ばしている。その姿に、リベラとエスは笑っていた。セイはその姿をじっと見ていた。

「この部屋はですね、ロシマの小さな子どもをみんなで一緒に見ているのですよ。もちろん、木で建物を造る家の子どもたちもです。このロシマでは建物を造る人と、子どもたちと一緒生活する人と、日の火を灯した後からは、別れて過ごしているのですよ」

 セイは、リベラに近づいて話しをもっと聞きたくなった。セイには隣にいたエスとルイに顔が見えなくなっていた。

「ここでは、0才から2才までの小さな子どもが30人、大人が男の人が10人、女の人が5人で一緒に過ごしているですの」

 周りをみると、扉の近くに居る大きな男2人を抜いて、男の人が10人と女の人が7人いた。

「女の人は7人よ?」

 セイの考える姿が可愛らしく、微笑みながらリベラがエスの方に手をむけた。

「エスさんは建物造りが終わってこの生きる部屋にきたのですの。それと、私はいつもここにいる訳ではないですの」

「そうなんやね。リベラはいつもは何をしよるとね?」

「はい。私はこの隣にある育ちの部屋に行ったり、そう1つ隣の培いの部屋に行ったりしているですの」

「育ち? 培い? それも、子どもの部屋ね?」

「そうです。育ちの部屋では3才から5才の子どもと、男の人が10人、女の人が4人で育っているですの。そして」

「子どもは、育ちの部屋では何人子どもがいるとね?」

「あら。忘れてたですの。育ちの部屋には45人の子どもが育っているですの。そして、培いの部屋にも45人の子どもがいるですの。そこには男の人が1人女の人が4人いるですの」

 セイは初めて聞く言葉や、その部屋のことを、もっと教えて欲しくてリベラの話しを聞き続けていた。

「育ちの部屋では、この生きる部屋で大きくなった子どもたちが、もっと大きくなるために生活しているですの。そして培いの部屋では、ロシマの生活を支えていく大人になるため、いろんなことを考える場となっているですの。セイちゃん、次の日の火を灯したら、培いの部屋に行ってみたらいいですの」

 セイは、話しを聞くだけで、ドキドキした。生活を支えることは、クオカでも考えていたが、このロシマでは小さな命を支え、その小さな命が大きくなって、また新しい命を支える。そして、木で建物を造り、生活を豊かにしていくことを、片のみんながやっていることを知ることが出来て嬉しくなった。セイは、クオカで役割を持って生活するみんなの楽しそうな姿が頭に浮かんだ。

「ウツテ。ここにも、役割を考えて片を支える方法があったよ」

「ウツテ? 誰ですの?」

「あっ。僕の生きたクオカの長のことよ」

「そうですの。私、というかこのロシマの人は誰も、他に片があるなんて知りませんでしたの。ロシマの話しもたくさんしますので、セイちゃんの片の話しも教えて欲しいですの」

 セイはリベラから、ロシマの話しをもっと聞きたかったし、育ちの部屋にも、培いの部屋にも早く行ってみたかった。しかし、リベラの知りたい気持ちもわかったので、クオカの話しをしようとした。

「おーい。もう片に帰ろうかの」

 と扉から大きな声がした。「では、続きは片についてですの」と言ってリベラは扉の方に向かった。周りをみると生きる部屋の中にはエスとルイしか居なくなっていた。

「セイ。片に戻ろうよ」

 扉からブリテが呼んでいるので、歩こうとした。エスに抱かれたルイがセイの顔をみて両手を伸ばしているのに気づきみていると「片に着くまで抱いててくれ」と言ってルイをセイに預けたエスはブリテの方に歩いて行った。セイの腕の中で笑うルイを見て、微笑みながら2人の後を追いかけていった。



 

ロシマに着いて、エスがセイに抱かれたルイを見ると

「スースー」と寝息を立てていることに驚いた。ルイを両手で抱き直すと「また、皮を剥ぎにきてもいいからな」と言って自分の家に帰っていった。

セイはグレトとブリテとリベラの4人で家の方に向かっていた。

「ロシマの日の火はどこにあるとね? そこで、話しができんやか?」

「いいですの。でも、1度家に寄ってもいいですの?」

 リベラが家の近くになると「ちょっと待ってて欲しいですの」と言って家に入っていった。セイはブリテに、次は何本目になるのか聞くと「つぎは、225本目だよ」と言って「先に日の火の所にいこうよ」とセイとグレトを連れて歩き出した。

 ロシマの日の火は美しく灯されていた。しかしクオカと違い、ここにはたくさんの木が日の火の奥の方に並べられていた。その木は、綺麗に皮が剥がれて、同じ大きさ、同じ形に整えられていた。

「凄かね。やっぱり、あの森で採った木は、日の火を灯す為にも使われるとやね」

「そうだよ。オレたちが倒した木を持って行って、その木を日の火を灯す為の木に整えることも、培いの部屋でやっているんだよ。ほら、見てみろよ」

 ブリテは奥にある、綺麗に整えられた木を1本持って来てくれた。その木の端の所に、木が削られて文字が記してあった。

「アーツって、誰かの名前ね?」

「そうだよ! ボクが造った日の火の木さ。1番綺麗だろ?」

「アーツ。ここにある整えられた木は、どれも綺麗ですの。この木が1番なんて事はないですの」

 3人が通ってきた道から、リベラともう1人真っ赤な髪を短めに揃えた女の子が歩いてきた。その子はセイを上から下まで見ながら近づいてきて、顎に手をあてながら「んー?」と声を出している。

「どうかしたとね?」

「あんた、女の人みたいな綺麗な顔してるし、身体も細めだな。ほんとに28才の大人かよ」

「ぷっ」

「こら、アーツ! セイちゃんの気にしていること言わないのですよ」

「ぷっ。セイちゃん気にしてるんだよ」

「がははははは」

 セイは4人を見て、顔をしかめた。セイのことを助けようとしているリベラも少し笑っているようにみえる。この人たちは良く笑うなと思いながら「楽しい」と思っていた。クオカでは、あまり話すことができなかったが、みんなが話している中で、何度も笑っている姿を見ていた。でも、今は自分も一緒に言葉を交わして笑うことが出来ている。家に1人で過ごしていたセイにとってこの感情はとても嬉しいものだった。

「ははははは」

 セイの身体を触りながら「細い腕だなー」と言って笑っているアーツを見ながらセイも笑っていた。この人たちは自分を認めてくれているから、一緒に笑えるんだ。そう思ってセイも大きな声で笑っていた。その笑い声を聞いたアーツはセイの顔を見て、手を離しセイから急に離れた。

「あんた、目から何か落ちてきてるぞ」

 セイは涙を流していた。手で頬を触ると確かに涙が流れていた。

「あまみちゃん。みんなと一緒に笑えるって嬉しいとやね」

 なぜか上を見上げてあまみに向かって呟いているセイの涙をさっきまで大きな声を出して笑っていた4人は静かに見ていた。セイはその涙を手で拭うと4人の方を向いた。

「セイちゃん。さっきのは何ですの?」

「目からなんか出てきたぞ?」

「目が落ちてきたのかと思ったよ」

「がははははは」

 3人は、涙を見て驚いている。1人はまた笑っていた。

「今のは涙。これは、僕の思いが高ぶった時に目から流れるとよ。」

 セイの話しを聞くときはしっかり耳を傾ける4人。

「4人と一緒に、このロシマで大きな声を出して笑うことが出来ていることが嬉しくて、僕の涙が流れたとよ。さっきの涙は、良い涙やったとよ」

「良い涙があるなら、悪い涙もあるですの?」

「あると思う。クオカのウツテは自分が任されたことが上手くできなかったって言って涙をながしていたとよ。ウツテはしっかりクオカを支えていたと思ったとけど、涙が流れたとよ。その涙を流した時のウツテはとっても悲しそうやった」

「そのウツテさんが流した涙は悲しい涙だったってことかよ」

「それは、わからんね。ウツテが涙を流した後に、何で涙が出たのか聞いてないとよね」

「そうかー。じゃあ、ボクも何か思いが高ぶったら涙は流れるのか?」

「流れる、と思う。まだ、僕とウツテの涙しか見たことないから、ちゃんとはわからんけど」

「わしも涙が流れるかの?」

「グレトが涙を流さんと、このロシマ片とほかの片を結べんとよ!」

「ははははは」「がははははは」

2人は顔を見合って笑っていたがアーツは何がおもしろいのかわからなかった。

「なにそれ? どーゆうこと?」

「えっと、リベラさんにも言ってなかったね。僕がここに来たのは片と片を結んで…………」


 簡単にしかできない説明をしてセイと4人は一緒に考えていた。

「グレトの思いが高ぶることですの……」

「グレトから涙かよ……」

「グレト! 涙流してみろよ!」

「がははははは」

 3人がグレトに涙を流させようと必死になっていた。グレトはその姿を見て、大きな口を開けて笑っている。

「いいとよ。グレトは手伝ってくれるって言ってくれた。それだけで僕は嬉しいとよ」

 セイはグレトに涙を流させようとは思っていなかった。ブリテに連れられてロシマに来た。クオカではない片に初めて来たセイは、あまみの手伝いをすることはわかっていたが、その為に何をしたらいいのかは、わからなかった。だからグレトに「何しにきた」と言われたときに「片と片を結びに来た」としか言えなかった。今まで聞いたこともない話しをする自分の言葉を、素直に聞き入れてくれて、自分の手伝いをしてくれると言ってくれたグレトに、セイは心から喜んでいた。だから、セイも何かグレトの手伝いが出来ないか、そう思っていた。

「がははははは」

 セイが考えている間も、3人はグレトに近づいて何か話しかけているようだがグレトは、笑い続けていた。その目は3人を大切にしている温もりを感じさせる目だった。「こんな、心の綺麗な人が長のロシマと、クオカも一緒に生活したら楽しいだろうな」セイは4人のやり取りを見ながら、微笑んだ。

「はぁー。やめだよ。グレトに涙は難しいんだよ」

「そうですの」

「はぁ、はぁ、はぁ」

 3人は諦めてグレトから離れた。

「そろそろ眠ろうかの。ところでセイ、お前はどうするんじゃ?」

「僕は……」

「眠るところないんだろ? 家に、簡単な寝床を用意してやるから眠るといいんだよ」

「あの僕……」

「そうですの。目覚めたら培いの部屋に一緒に行きますの」

「おっ。セイも培いの部屋に行くのか? あそこは楽しいぞー」

いつもの「がははははは」がくるかと思いグレトの方を見た。

「お前ら、家に行ってセイの寝床を準備したら先に眠っておくのじゃ。ちと、セイに話しがあるからの」

「なら、オレも残るよ」

「ボクもセイと話したいぞー」

「よい。帰るのじゃ」

 その声を聞いたリベラは2人の手を取って家の方に向かって歩き出した。「なんだよ」「はなせー」と叫ぶ声が次第に離れていき聞こえなくなっていった。

「セイ。何を隠しているのじゃ。わしにも言えないことかの?」

 いつもの声に戻っていた。セイをわかろうとしてくれるグレトの声だった。日の火を背に向けて立っているセイの隣に来て、ゆっくりと腰を下ろす。

「言えないことがあることが、凄いことじゃ」

 セイは、その言葉を理解した。言えないことをわかってくれる人に会えたのはあまみを抜くと5人目だった。気がついたとき、セイはグレトに、自分のことやクオカのことを話していた。


次もよろしくおねがいします。

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