17ピース
ありがとうございます。
「綺麗かね。僕は今どうなっとるとやか」
セイの身体は自由に動かすことができていた。あまみに助けてほしいと叫んだら、綺麗な玉の中に吸い込まれた。玉の中に入ると、身体がどこかに向かって動き始めた。初めのうちは、上も下もわからないで身体がくるくる回転してしまい焦っていたが、今は胡坐をかいて座ることができている。座る前に、周りの景色がずっと同じなことに気づいて前や横に手足をばたつかせて進んでみたが、全く状況が変わらないので1度落ち着くことにした。
ウツテが最後にセイに渡したものはクオカの欠実だった。これが誰の物かはわからないが、セイは右手でしっかりとその欠実を握りしめていた。そして、目を閉じてクオカ片であったことを思い出しながら、あまみに聞きたいことを整理しつつ、セイはあまみが来てくれるのを待っていた。
「おかえり。上手くやったわね。まさか、こんなに早く戻ってくるとは思わなかったわ」
あまみの前に立ち、あたりを見回していた。自分の手や足が動くか確認していて、あまみに欠実を投げ渡した後も、あまみの方を向こうとはしなかった。
「まったく、この女は固すぎて、一緒にいると疲れるのよね。セイくんみたいに、素直に可愛くなれないのかしらね」
「あまみサン、なにか言ったか? 私、上手く結べてなかったか? それとも、持ってきた欠実がいけなかったか? 」
「いいえ。どちらもよーございます。じゃあ次の片をお願いしてもいいかしら?」
「わかった。 その前に2つ教えてもらってもいいか?」
「どうぞ」と口には出さないが、左の手のひらを上に向けて女の方に伸ばし、あまみが質問を促す。
「まず、私はあといくつの片を結ぶといいのだ? それと、私以外に片を結ぶ者がいるのか?」
出していた左手をそのまま左頬にあてて「この子は何でこんなことを知ろうと思いついたのかしら」と考えながら、前に立っている女を見た。少し長めの1つ結びにされた髪。その綺麗な金色の前髪は真っすぐに揃えられている。前髪のすぐ下にある、目は大きく開いてあまみの方をじっと見つめている。
「あなたが結んでくれた、うきょう片。それからあと、3つの片を結んでもらいたいと思ってるわ。もうひとつの質問は、すぐにあなたの目で見ることができると思うわ。ってそう言ったら答えわかっちゃうわね。ま、もうすぐあえるってことかしら」
そう言いながら、女の頭に右手を向けた。「ちょっと、あたしも忙しいのよね。じゃ、いってらっしゃい」とあまみが声を掛けるが、女は全く反応しないまま軸層から新しい片に飛ばされていった。
「はぁー。あの女は相変わらず無愛想ね。まぁ、上手くやってくれるのは確かだし気にしない気にしない。それよりセイくんが戻って来るのよ。早く行かなきゃー。どこから来てるかなー」
両手を前に出すと、たくさんの線が入り交じっている画面が見える。その中でハートマークが動いていた。ハートマークは画面の1番左の真ん中あたりから、左上にある部屋に向かって進んでいる。あまみの顔のマークは右下にあるため、とても離れているように見える。
「よし。ちゃんとクオカ片から、軸層に戻ってきてるみたいだわ。あたしも急がなくっちゃ」
あまみは両膝を曲げて、勢いよく伸ばすと、もの凄いスピードで軸層の中を移動していった。
大きな声が遠くから聞こえる。セイは目を開けて声の方を見ている。姿は見えないが、あまみが近くまで来ていることがわかった。立ちあがって背伸びをしている。すると、いつの間にか、セイの腰にあまみが抱きついていた。
「セイくんおかえり。心配してたよ。でも良かったわ。ちゃんと結べてるし、欠実も持って来てくれてるわね。ありがとうね」
抱きついたまま、セイを見上げているあまみを見て、セイもあまみを抱きしめる。
「僕、あまみちゃんに話したいことがたくさんあるんよ。だから、綺麗な玉に吸い込まれてずっと、会えるの待ってたとよ」
その言葉を聞いたあまみは、腰に回している腕の力が入らなくなってしまい、離れようとするが、セイが離してくれない。
「セイくん。ちょっと待って。もう離してくれないと、あたし、お話どころか、息できなくなっちゃうわ」
そう聞いたセイはパッと手を離した。顔を真っ赤にしているあまみは、胸に手を当てて呼吸を整えている。そうしながらも、2人はこの空間を移動していた。落ち着いたあまみがセイの手を握り進んでいる方に身体を向けた。
「セイくん、ちょっと早く移動するから、しっかり手を握ってて。もし心配ならあたしに後ろから抱きついてくれててもいいのよ?」
そう言ってすぐ、あまみの背中側から首に両手を回して「よろしくね」と微笑んでいるセイの声と同時に、もの凄い早さで2人は移動していった。あまみは「ゆっくり行ってたくさん幸せを感じたい。だけど、あたしの心と身体がもたないわ」と悔やみながら、セイの軸層を目指した。
あっという間に着いていた。セイはあまみから離れて戻ってきてすぐにマス箱の中にクオカ片から持って来た欠実を1番左側の下から2番目のウツテと書かれた場所に入れた。あまみは、入れた欠実を見て「うんうん」と満足そうに頷きながらセイから離れた。セイはすぐにあまみの近くに座った。
「あまみちゃん、クオカではねナウトっていうことをして楽しく片を支えていたとよ。そのナウトっていうのはね…………」
止まることなくナウトの説明をしているセイの可愛い顔を見ている。「それで、ウツっていうのは……」クオカに着いて誰も見つけることができない時のセイの悲しそうな姿までは見ていたが、あの後、みんなに会えたことがとても嬉しかったのだろう。「凄かろ? これはウツテが考えたとよ。僕もやってみたかったなー」ナウトの話しが終わり「よかったわね。楽しかったみたいで」と答える。
「でもね、僕はここであまみちゃんに、たくさんわからないことを教えてもらってたとけど、それでもわからないことがたくさんあったとよ」
「そうね。もちろんセイくんはまだまだわからないことばっかりよ。クオカ片では、どんなわからないことがあったの?」
「岩の向こうには、片の長の者しか行けないと思っていたら、クオカ片の人はみんな行けること」
「それは、セイくんが行ってた時からわかってたでしょ?」
「僕はみんなと違うって思ってたから」
「みんなと違う、か。それで、他には?」
「僕の花がまだ土に還ってなかったとよ。それに、僕の後の新しい命も実ってなかったと」
「そのことは、みんな何か言ってたかしら?」
「みんなは、何も言ってなかった。でもウツテは、僕の花を畑から採って欠実を口に入れたんだって。僕の欠実の花は1回見つかったとけど、ちょっと色々あって、結局森にナゲてしまったとよ。どこかにあるとは思うとけどね」
あまみは、話しを聞きながら、少し微笑んでいた。しかし、セイは下を向いていて気づくことはなかった。
「そのウツテって人は、セイの欠実を口にしてどうなってたのかしら?」
「うん。他の欠実も口に入れたくなったっていってた。でも採ってないって自分で言ってたけどね」
「そうなのね。それならいいわね」
あまみの顔はまだ微笑んでいる。
「あまみちゃん、欠実の花も欠実も、クオカ片では触ってはいけないって伝えられていたとよ。でも、ウツテは触った。2人で話してるときに、少しいつものウツテと違う時もあったとけど、ウツテは大丈夫とよね?」
腕を組んで、首を傾げながら考えてくれているあまみ。
「私も見ていたわけじゃないから、ハッキリとはわからないわね。セイくんからみて、ウツテは大丈夫そうだったかしら?」
「うん。話しをしたら、いつものウツテに戻っていったし、涙を流して、あの綺麗な玉。そう!綺麗な玉の話しも聞きたいとよ」
話しながら、思い出したのか、セイが知りたいことが多すぎて落ち着かない。
「セイくん、ゆっくり話しができるから、1つずつ考えて行きましょうね」
可愛いセイにゆっくりとした口調で伝える。「そうやね」と言って大きく息を吸って落ち着くと話しをしようとしたが、止まってしまう。
「ウツテが涙を流した所までは聞いたわよ」
「そうやったね。えっと、ウツテが涙を流してくれて、それで、花の場所も教えてくれて、クオカの欠実を持ってなかったまま綺麗な玉を触ってたとけど、綺麗な玉に吸い込まれるギリギリで、小さな赤ん坊をウツテが連れてきてて、その時に、あのクオカの欠実をくれたとよ。渡されてすぐに綺麗な玉に吸い込まれてしまったとけどね」
マス箱の中に入れた欠実を指さして、話している。落ち着こうとしているのはわかるが、いつもよりも早口で離すセイ。話しを聞きながら、「ん?」という表情をした時もあったが、あまみは焦らないようゆっくりと話す。
「そうだったのね、ウツテが欠実をくれたのね。それはよかったわね」
あまみは「それと」と言って両手からあの綺麗な玉を出した。
「次はこれのことよね。これは、セイくんが行った新しい片とこの軸層を結ぶために、あたしの力で作っている「糸の光」(いとのこう)という物なの。使い方は見つけた時に教えたわよね。糸の光を触ると、身体が綺麗になったでしょ? あれはセイくんの身体が光る(ひかる)と言うの。そして、頭から足の先まで光ってあたしの名前を呼んでくれたら、さっきあたしとセイくんが抱き合ってた場所に入る事ができるの。あの場所は軸層と片を結んでいる糸になるの。ま、セイくんは使い方だけわかってたら大丈夫よ」
セイは糸の光に手を置いていた感覚を覚えていたので説明がしっかり頭に入った。
「1度手を離したとけど、それは大丈夫とね?」
「問題無いわ。何度でも置いたり離したりして大丈夫よ。どうせ、その片で生きてる人には糸の光も、セイくんが光ってるのも見えないからね」
なるほど、と思いながらあの時の暖かくなり、身体が光る感覚を思い出していた。
「他には、なかったかしら。クオカでわからなかったこと」
「そういえば、アレって女の子がいたんだけど、僕が間違えて抱きついてしまったり、話したりするだけで倒れちゃったとよ」
「その女には、2度と会わないよう、神の力を使うしかないわね」
「え? なんて?」
声が小さくて言葉を聞き取れなかったセイ。
「いいえ。その子が倒れたのは、たぶん気のせいよ。セイくんが気にすることはないわ」
「そうやか。今度会えたら、ちゃんと話しをしてみとくね」
「もう会うことは無いはずよ」
セイに聞こえない程小さな声で何か言ってから、後ろを向いてしまったあまみ。
「?」
セイは背中を向けたあまみの方に近づきそのまま覗き込む。あまみは両手を身体の前で合わせて何かぼそぼそと呟いていたがセイが近づいてきたことに気づくと、パッと手を後ろで組んで「何もしてないわよ? 大丈夫。セイくんはあたしが守るから」と走って離れていった。
セイは、あまみにまたわからないことをたくさん教えてもらうことができて良かったと思いながら、少し慣れてきた地面の無い軸層で、横になり目を閉じていた。
次もよろしくおねがいします。




