16ピース
ありがとうございます。
「あまみちゃんが、この上にも行き止まりがあるちいいよったね。もっと上には何のあるとやか」
そう言っていたら、ウツテがセイの上を通り過ぎていった。
「ちょ。ウツテ、どこにいくとね? まだ聞きたいことあるとよ」
そう言ってウツテが開けたセイが生きていたときから変な音がする扉をしっかり閉めて、そのあとを追いかけていった。
すぐに岩の向こうに行こうとしていることはわかった。身体を大きく揺らし歩ているウツテは、いつもよりもっと遅かった。それでも、岩の頂上に上り、下るときにウツテは「セイくんの欠実をここで口に入れたんだぁ」と呟いていた。セイは「それで、花は?」そう聞きながら、階段を下りて行った。
ウツテは土の道を歩いて行った。しかし、途中で急に振り向いた。その身体はセイが生きていた家で話していた時よりもさらに震えていた。セイが動きを止めると、ウツテが下を見て声を出した。
「セイくん。花はぁ、いつも採っている枝の木の後ろの方にナゲたんだよぉ」
とても小さく、声が揺れていた。
「どこからナゲたとね? 見にいってみらんとわからんよ」
セイは早く花を見つけてみたくて、ナゲルの身体を反転させて前に向かせた。歩き出さないウツテの背中を押そうとした。
「セイくん。ちょ、ちょっと待ってよぉ」
「どうしたとね」
ウツテはまた振り向いた。まだ震えていた。
「ぼく、花をナゲた後に、あの大きな枝を採ってからぁ、この場所に来るとぉ、身体が固まってしまうんだぁ。だから行けないんだぁ。セイくんは木の奥にも行けるんでしょぉ。ぼく待ってるからぁ」
「どこからナゲたのかわからんから、ついてきてくれんやか?」
「セイくん。ぼくの話し聞いてたぁ? ぼくはぁ身体が固まってぇ、って何で押してるのぉ」
セイは、話しているウツテの身体を、もう1度反転させると背中を押し始めた。
「セイくん。あ、足がぁ。動かな」
「大丈夫よ。僕が支えとるから。懐かしか。トルトも初めて木々に向かおうとしたときは、足が固まっとった。その時も、僕がこうやって木の前まで押していったとよ」
「トルト……」
トルトが土の道に降りれないときに声をかけた時の顔を思い出してセイは微笑んでいた。
「ウツテ。花はあるやかね。なくてもいいとよ。僕は自分の花が土に還ったのか、まだあるのか知りたいだけやからね。それに、この森に僕の花が還ったのなら、嬉しいとよ」
声が出なかった。セイはウツテの背中を押しながら話をした。
「やっぱり、すまんやったね。ウツテは悲しかったとやろ。わかってもらえんって、悲しかもんね」
2人の足が止まった。そのまま、ウツテはもう目の前になった、木に向かって話を始めた。
「セイくん。ぼくねぇ、セイくんの欠実を口に入れてからぁ、他のクオカの人の欠実も採りたくなったんだぁ」
セイは「花は」と聞こうとしていたが、ウツテの話が気になり口を閉じた。
「どれも採ってはないよぉ。でもね、畑の近くにいたら採ってしまうかもしれないんだ。」
ウツテはセイのほうに身体を向けようとした。しかし、身体が上手く動かず足が絡まり木のほうに背中を向けて倒れてしまった。
「いてててぇ。ここで、身体が動かないんだよぉ。だから、「ナウト」をみんなで楽しむ代わりに、手伝ってもらえるように考えたんだ。この場所にも、畑にも近づかなくていいようにぃ。でも、クオカの長としての使命は守れなかったかなぁ。ナゲルさん、トルト、セイくん。任されたのにぃ、上手くやれなかったよぉ」
両手を使って顔を隠していたウツテの顔から小さな涙が流れた。
「あ。涙」
ウツテは目から流れているものに気づいた。驚き、何も言わず立ち上がった時に、セイはウツテから流れた涙が地面に落ちるのを見た。その涙が、地面の中に入り込んでいった。
すると、そこからあまみが出てきた。
「セイくん!ここがクオカ片と軸層を結ぶ場所よ。よくできたわねー。話は軸層でゆっくり聞くから、早く戻ってきてよ。でも、戻る前にすることがあったわよね。覚えてる? そう! クオカ片の欠実を持ってくること! まだ、持ってないみたいだから、もし持ってきたらこの地面から出てきて浮いている、綺麗な玉を触って「あまみちゃん」って大きな声で呼んでくれたらまた出てくるわよ。よろしくねー」
「あっ」
あまみは消えてしまった。そしてセイの前には地面から出てきて浮いている、ナウトで使っていた木の皮によく似た形をした「綺麗な玉」があった。
「セイくん。これはぁ、なんなのかなぁ」
「さっきの女の子があまみちゃんって言って、僕がお手伝いしている人」
「なに言ってるのぉ? ぼくの顔から流れたこれだよぉ? 女の子なんて流れたら大変でしょぉ」
ウツテにはあまみが見えてなかったのか、自分の顔についている涙を手で触って、じっくり見ている。この「綺麗な玉」も見えてないのか、聞いてこなかった。セイは、言わないほうがいいと思い、ウツテの質問だけに答えた。
「それは涙っていうとよ。嬉しいときとか、悲しいときとかに、流れるってあまみちゃんが教えてくれたとよ。でも、僕も何なのかはちゃんとわからんとよね」
ウツテの顔を見た。その顔と触っていた手にすでに涙はなかった。
「さっきのがぁ、涙っていうんだねぇ。何だか不思議な感じだったよぉ」
そう言ってまだ顔を触っているウツテは、家で話していた引きつった顔でも、さっきまでの悲しそうな顔でもなくなっていた。
セイは、軸層とクオカを結ぶために涙が必要なことを思い出すことができたので、あまみの声を聞いて安心していた。それと同時にここに来た理由を思い出した。
「花! 僕の花は?」
自分の花を見つければ欠実が手に入る。そうすれば、あまみに欠実を持っていくことができるのだ。座っているウツテは、「そうだったねぇ」と言いながらゆっくり立ち上がった。
「この木からぁ、こうやってナゲたよぉ」
木の横に移動して、ナゲるような動きを見せた。その先に花があるというがこの場所からは、見えはしなかった。セイは森の奥を見て、ナゲルの動きから花の行方を予想して歩き始めた。
「セイくん、ぼく動けるようになってるよぉ」
セイは歩き始めていた。その後ろで、さっきまで固まって立つことも歩くこともできなかった身体が動くことに、ウツテは驚き手を伸ばしたり飛んだりして喜んでいた。セイにはその声が聞こえていたが振り返らず、木の横から奥に進んでいった。「セイくん、大丈夫なのぉ」と言いながらも、ウツテはその姿を追うことはできなかった。身体は動くが、1度経験しているあの感覚は忘れることができなかった。木の前に立ち、その奥をのぞき込んで、止まることなく進んでいくセイの後姿を見守っていた。
この森の中で枝を採っていたときに通っていた道とは全く違う道だったが、花を探すことしか考えていないセイは周りを見ながら、森の奥に進んでいった。大きさの違う木の間を少し進むと、そこにセイの花があった。
その花は、畑にあった時のように土に植えてあるわけではなく、確実にナゲられたとわかる形で、そこに落ちていた。花は咲いているが上を向いていない。セイの歩いてきた方からは花の中が見えないように倒れていた。両手でその花を拾い上げて欠実が実っているのか確認する。
「やっぱり、実ってなかよね」
その花を持って、来た道を戻ることにした。振り向いて歩くとすぐにウツテが見えた。セイが奥に入ってからも、ずっとのぞき込んでいたようで、姿が見えると大きな声を出して手を振っていた。
「花あったんだねぇ。よかったぁ」
ウツテは胸に手をあて深く息を吐いた。しかし、セイが近づいてきたら、持っている花に欠実が実っていないことに気づき、肩を落とした。
「欠実は実ってなかね。でも、花があるのかないのか、わかってよかったよ」
見つけた花を、顔の高さで見せながら、微笑んで声をかけてくれるセイに、ウツテは言葉が出なかった。自分が口にした欠実は、セイの花が実らせた最後の欠実になってしまったと思い、再び目から涙がこぼれそうになる。
「大丈夫よ。あまみちゃんに欠実は持ってこれんやったって言ったら何とかなるやろうけん」
静かな森の前で2人が立っている。ウツテは自分してしまったことを悲しんでいる。セイは、できることはやった、どうしようか、綺麗な玉を触って軸層に戻ったほうがいいのかと考えていた。
「おい! なにやってんだよ! 224本目の枝を採るのはオレなんだぜ」
綺麗な土の上を大きな身体のトクが歩いてきた。2人の静かな間を、全く気にしない声はいつになく大きく聞こえた。
セイはもっていた花を、トクが近づいてくる前に森のなかにナゲようとした。それに気づいたウツテはセイを止めようと動こうとしたが遅かった。セイが見つけた花は再び森の中に消えてしまった。
そうしていると、トクが枝を採るために木の近くまで来た。
「何だ。ちゃんとあるじゃないか。セイが戻ってきて、ウツテと一緒に枝を採ってるかと思ったぜ。ところで2人はなにやってんだ? もうみんな眠ってるぞ。さ、クオカに戻ろうぜ」
そういいながら、「ほらほら」と強めに押され続けた。2人は岩を上って、セイの家の前まで来ていた。枝を採ったトクは日の火の近くに枝を置きに行くといって先に行ってしまった。ウツテはセイが家に入っていこうとしないからか、その場所で足を止めて「セイくん。どうするの?」もちろん自分がやったことがセイを困らせているのはわかっていたが、どうにかして力になりたい。そのためにセイがどうするかを聞きたかった。
「ウツテ。トクもミロもタロもみんながクオカを支えとるよ。これが、ウツテが考えた、クオカを支えるってことなんやね」
セイは歩いているトクの背中を見ていた。
「ウツテ。僕は、クオカのみんなが生きてることがわかっただけで嬉しかったとよ。花がないのも、欠実がないのもウツテはちゃんと教えてくれたやろ。それに、ウツテの困ったこと教えてくれて嬉しかったとよ」
そして、セイはウツテに聞きたかったことを1度も止まることなく聞き始めた。「ナウトはどうやって考えたとね」「それはぁ、セイくんの欠実を食べたときにぃ、ポンって浮かんだんだぁ」「ナウトを初めて、何か変わったね」「変わったことねぇ……」「僕のあとに命が実ったら頼んどくよ」「それは、任しててよぉ」…………。
セイは自分が満足したで、「もう眠らんね」といってウツテの背中をゆっくりと押した。そして、セイは岩のほうに振り向き歩こうとした。
「セイくん。224本目の炎を灯すまでぇ、クオカにいてくれるかなぁ」の 顔だけをウツテのほうに向けて微笑みながら頷き、セイは歩いた。その後ろ姿を目に焼き付けて、ウツテも自分の家に向かった。
セイは森の前にいた。そこには綺麗な玉が浮かんでいる。玉の上に手を置いてあまみの名前を読んだら軸層と結ぶことが出来ることはわかっているが、セイは初めて見るこの玉について知りたくて仕方なかった。左手を出して玉の上に置いてみた。しばらく置いていたら、左手から身体の中が暖かくなるように感じた。そのままにしていると、暖かくなった身体が玉と同じよう綺麗になってきていた。そのまま頭、胸、腹と暖かさと綺麗な玉のように身体が変わっていく。膝のところに来ようとしたところで、手を離した。すると、いつものセイの身体に戻ることができていた。
「不思議やな」
早くこの綺麗な玉のことを教えてもらいたくてあまみを呼ぼうと思ったが、セイはもう1度花を見つけることにした。あまみの手伝いをできれば上手くやってみたかったことと、花を、軸層にもっていけないかと考えたからだ。
自分でナゲた花なのですぐに見つかると思っていたが、そうはいかなかった。自分がナゲるときに居た場所から、手を動かしてみてどのあたりにナゲられたかを考えてそこに向かって歩いてみたが、全く見つからない。何度も繰り返してみたが、花を手にすることができなかった。欠実も、花も見つけれないなんて、軸層であまみに何て言ったいいのかなぁと思って綺麗な玉の方に歩いていた。
左手を玉に乗せると、さっきと同じように身体が暖かくなり頭が玉のように身体が綺麗になってきた。
「セイくん。よかったぁ。まだいたんだねぇ」
岩の頂上から急いで下りてきているがセイは手を離さずその姿を見ていた。もう、胸のあたりまで綺麗に変わってきた。
もう知りたいことは聞いてしまった。花は見つからなかった。あまみも早く軸層に戻ってきてほしいと言っていたし、この綺麗な玉のことを聞きたかった。
「セイくん、ぼくねぇ、みんなと一緒に支えていくよぉ。クオカ片をぉ。もちろん僕も支えてもらうよぉ。」
そう言って土の道を歩いてきている。何かを両腕で抱えていた。セイの腰のあたりまでが綺麗になり、暖かさが心地よく感じてきた。
「それでねぇ。見せてなかったと思ってぇ、つれてきたんだよぉ」
膝が暖かい、右手を伸ばして見てみると、色が混ざり合って指先まで綺麗に変わっていた。ウツテがセイの前についた。両手で抱きかかえていた赤ん坊を右手だけで抱き、閉じていた左手をセイの伸ばされていた右手の上で開いた。もう足先まで暖かい。ウツテが開いた手からセイの右の手のひらに置かれた物と、ウツテが抱いている赤ん坊を見て、焦ってしまったセイは叫んでいた。
「こんか時はどうしやんとね! あまみちゃん!」
「ちょっとだったけどぉ、セイくんを見れてよかったねぇ。トルトも喜んでるよぉ」
赤ん坊はウツテの顔を見て笑っていた。その顔からさっきまでセイが立っていた地面に、たくさんの涙がこぼれていた。
次もよろしくおねがいします。




