15ピース
ありがとうございます。
「それから、日の火に炎を灯した後は、枝を採りに行く人、みんなが眠っている時に欠実を見守る人、眠って欠実が実ったら、目覚めさせてもらって、全員の欠実ができたらみんなを起こす人の3つの役を決めるために「ナウト」をするようになったの」
セイは黙って話を聞いていた。イトの話が知らないことばっかりで、あまみから、わからないことを教えてもらっている時のように、周りの音がまったく聞こえなくなっていた。
「これからは、「ナウト」の説明ね。まず、ハナちゃんが言った3つの役割にわかれるの。これは地面に「ナ」と「ウ」と「ト」が書いてある葉を裏向きに置いて、表に返してかいてあった文字の役割をすることになるの。ナはナゲる。ウはウツ、トはトル。その3つが決まったらナウトが始まるわ。まずミロがやっているナゲるはあの手にある皮をウツ役割の人に向かってナゲるの。ウツ人はその皮を大きな枝に当ててウツのよ。そして、当たって飛んで行った皮をトル役割の人がすることはタロがやった、皮が地面に着く前に掴むことよ。ウツテがさっきから1ナウトとか言ってるのは、その役割の人が成功した数のことよ。ナゲる人はウツテが持っているカゴのなかに皮を入れたら1ナウト貰えるの。打つ人はナゲル人を超えて地面に皮が着いたら1ナウト貰える。トル人は皮がナゲる人より前で止まるか、地面に落ちるよりも先にトルことができたら1ナウトよ。ナゲル人が9回目までナゲて1番多く成功してナウトを取った人が、枝を採りに行けるの。2番目にナウトが多かった人は、欠実の見守りができるの。3番目の人は、みんなを起こす役割をするのよ。ちなみに、1度だけ3人が3ナウトになったときがあったわ。その時は10回目、11回目をして、1,2,3番目を決めていたわ。こんな感じね。どう?わかりにくかったかな?」
セイはイトの説明を受けて感動した。こんな楽しいことをウツテが考えたことと、クオカのみんなが自分の役割を求めて必死になっていることが嬉しかったのだ。
「でもね、このナウトが始まって、ウツテは使命がなくなったんだよね。いつもなにか考え込んでるっていうか……」「トクすごい!」
イトが声で言っていたことはハナの大きな声にかき消されてしまいセイには届かなかった。そして、ナウトを簡単に理解したセイは3人の姿を見て、ハナと一緒に大きく声を出していた。
静かにイトの横に座り「眠ってるわ」とアイが小さな赤ん坊をイトにゆっくりと渡した。小さな身体はイトの腕のなかで穏やかに眠っていた。隣のうるさい男と女の子の声は聞こえていないようだ。「ありがとう」イトがそういうと、アイは静かにコタとシズの所に歩いて行った。
「あなたは、どんな人になるのかしらね」
そして、立ち上がると倒れているアレを足で起こした。気が付いたあれに「先に戻ってるわ」と言って赤ん坊を見せると「お願いね」とアレが静かに返事をした。そして、アレは再びセイの横に座ろうと歩いて行った。
「セイさん。このナウトはウツテが作ったのですよ」
「うん。イトに聞いたよ」
セイはミロから投げられえた皮から目を離すことができなかった。
「それで、今ミロがナゲた物はセイさんが使っていた木のカゴを背負うために使っていた皮なんですわ」
「うん。イトに聞いたよ」
セイはトクが打った皮の行方が気になり身を乗りだしていた。
「このナウトで次の枝を採りに行く人がきまるのですわ」
「うん。イトに聞いたよ」
トクが打った皮がタロを大きく超えて転がった。
「ウツテは、もう長をするのが嫌になったのかと思います」
セイがこちらを向かないおかげで話ができていた。セイは転がった皮を見てハナと一緒に「おぉぉぉぉー」と叫んでいた。
「ウツテは、セイさんが居なくなったのを悲しんでいました。なんで、トルトの花は土に還ったのに、セイさんの花は土に還ってないんだって、せいさんはクオカ片の大切な人なんだって。そして、土に還らなった花を持って、岩の向こうに行ったのですよ。このナウトの枝を持ってきたのはその時でしたの。これも、イトに聞いてますわね」
トクが5ナウト成功して、枝を採りに行くことが決まり喜んでいた。タロは3ナウトでミロは1ナウトだった。3人は手と手を握り合って「次はボクが枝を採りにいくんですからね」などと言い合っていた。「いいナウトだったね」とハナが言ったことに頷いていたので、セイはアレが隣で言ってたことを頭の中で理解するのが遅れた。そして、急に振り向いてアレの両肩を握りしめていた。
「僕の欠実の花、土に還ってなかと? ど、どこにいったと?」
「あぁぁぁぁぁ」
セイの胸に崩れるように倒れてしまった。返事はなかった。ただの抜け殻だった。
「セイくん、ナウトも終わったからもう1度話をしようよぉ。聞きたいことはたくさんあるんだよぉ」
アレのことはまったく気にしていないのか、ウツテはセイだけを引っ張って階段に向かった。
ウツテの家の前にセイが立って待っていた。岩が見える。その奥の木々も見える。「あの向こうに行ってみたかね」と思っていた。これから、セイがあまみの手伝いをしていけば、あの向こうに行くことができると思うとドキドキした。
ウツテが家から出てきた。
「じゃぁ、行こうかぁ」
2人は岩のほうに向かって歩いて行った。セイは眠っているクオカの静かさに安心を感じていた。タロが畑にいて、欠実を見守っていた。2人が歩いてきていることに気づき手を挙げて合図を送ってくれた。
「ちゃんと育ってるんだよ。そういえばセイの欠実の花がないのは大丈夫だよか?」
セイの前を歩くウツテの肩に手を伸ばしていた。
「そうやった。ウツテ。僕の花をどうしたとね?」
セイが言葉を発したことに驚いていたタロだが、その必死さに声を出すことができずにいた。セイが伸ばした手をゆっくりと肩から降ろしながら振り向いていた。
「セイくん。落ち着いてよぉ」
「僕の欠実は土に還ってないってアレがいいよったよ。それで、ウツテが持って行ってって」
セイは焦っているがウツテは「うんうん」と首を振っていた。
「さぁ、行こうよぉ」
ウツテはタロに手を挙げ「よろしくねぇ」と言いながらまた歩き出した。セイは慌てて追いかけ、何度もウツテに花のことを聞きつづけているが、答えてくれない。すると、ウツテの足が止まった。
「セイくん。まずはぁ、ここに入ろうよぉ」
そこは、セイが生活していた場所だった。ウツテは扉を引いて家の中に入っていた。セイも後を追った。
「セイくん、聞きたいことがあるんだぁ」
セイはクオカに戻ってきて2回目の自分が生活していた部屋を、落ち着いて見回していた。
「セイくんはぁ、ここで何をしていたのぉ?」
「何って。何ね?」
「ぼくは、セイくんが眠らないことを聞いて不思議に思ったんだぁ。セイくんはみんなが眠っているときにぃ、何をしてるのかなぁってぇ」
「僕は、ここで……」
「それでねぇ、やってみたんだぁ」
「やってみたち、何をね?」
ウツテがセイの使っていた棚に手をのせてセイの方を振り向いた。いつものウツテには感じられない、その力強さにセイの身体が固まった。
「眠らないってことをぉ」
ウツテの顔は、不気味に微笑んでいた。もちろんセイの身体は固まったまま、ウツテの話を聞き続けた。
「トルトが土に還ってぇ、セイくんは居なくなったねぇ。ぼくはそれから枝を採りにいったり欠実を見守ってんだぁ。その合間にぃ、このセイくんの生きていた家の中をきれいにしていこうって思って何度もここにはいってたんだよぉ」
それでねl ウツテはセイに話しながら、家の中を隅々まで見回した。いつものウツテの落ち着いた動きではないことに気づいたセイは、固まった身体の中まで見透かされているように感じた。
「それでねぇ。わかったんだぁ。セイくんはここで何かしていたんだってぇ。ぼくが知らない何かをぉ。だからぁ、ぼくもここにいたらわかるかなぁって思ってぇ、みんなが眠ってぇ、欠実が実ったのを確認したらぁ、ここで考え事をしてみたんだぁ」
言葉が出なかった。しかし、ウツテが話すことを知りたくて、静かに話を聞き続けていた。
「このクオカを支えるって何なのかなぁ、とかぁ。クオカの長って何のためにいるのかなぁ、とかぁ。ナゲルは何でぇ、トルトじゃなくてぇ、セイにぼくの命を支えてくれって伝えたのかぁ、とかぁ。」
もうウツテはセイを見ていなかった。真っすぐ立って、顔を天井に向けて笑いそうになりながら話した。
「でもぉ、何もわからなかったよぉ。ここでぇ、たくさん考えたよぉ。そしたらねぇ、いつの間にかこの家をでて、岩のほうに向かってたんだぁ。岩の階段を上ってぇ、土の道を通ってぇ、枝を1本採って、日の火の前に歩いてたんだぁ。いつもはぁ、アレと一緒にみんなを目覚めさせてたんだよぉ。でもその時は、何にも考えれなかったんだぁ。それで、そのまま1人でみんなを目覚めさせてしまってたんだよぉ。ぼくは眠ってなかったぁ。眠らないでみんなを起こせたぁ。そう思ったらぁ、少し嬉しくなってねぇ。でも、畑にみんなで欠実を採るために集まったらぁ、なかったんだぁ。ぼくの欠実がぁ」
顔がこちらに向いた。口は引きつって笑っている。それでもセイは話を聞きたかった。
「その時はぉ、驚いたよぉ。ぼくの欠実がないよぉ。ってねぇ。でもねぇ、そんなことみんなに知られたらダメだろうなぁって思って、採って口に入れたように見せかけたんだぁ。それでぇ、みんなが気づいてないか周りをみたけどぉ、誰も気づいてなかったから大丈夫だったんだぁ。その時ぃ、みんなが欠実を採ったのに、1つだけ欠実が残っている花を見つけたんだよぉ」
「それが僕の欠実の花やったとね?」
「そうなんだぁ。みんな、セイくんが居なくなったのは知っていたよぉ。でもぉ、何で花が土に還ってないかなんて考えてなったんだよぉ」
「でも、花を触ったりとか、欠実を採るのはダメだって、クオカの伝えにあったやろ?」
「それはセイくんが言ったらダメだよぉ。その首にぃ、ぶら下がってるのはぁ、このクオカの欠実だよねぇ。それを知ってたからかなぁ。ぼくねぇ。セイくんの欠実を口に入れたくなっちゃったんだぁ」
セイは、ウツテの気持ちはわからなかったが、話を続けるウツテは少しずつ声が大きくなってきたように感じた。ウツテは、ずっと口の周りを引きつりながら笑っている。
「だからぁ、73本目の枝を採りに行くときぃ、みんな眠ったのを欠実が育っているので確認してぇ、セイくんの花をねぇ……」
ウツテは歩きだした。セイはその場から動かないで、ウツテの近づく顔を見ていた。手が届く所まで来たウツテは細くて長い身体を前に倒しながら、セイの顔に触れるギリギリのところで止めて、また笑った。
「採っちゃったんだぁ」
倒れた身体は、元に戻っていったが、勢いがついていたのか背中が反るような姿勢になってしまっていた。ウツテはそのまま顔を天井に向けたまま話し続けていた。
「だってみんなはぁ、セイくんの欠実がなくなっていた時に驚くでしょぉ。そしたらぁ、欠実を見守っているぼくかぁ、アレが触ったんじゃないかって思うでしょぉ。でもぉ、アレがそんなことするなんて、みんな思うはずないよぉ。でもねぇ、ぼくはねぇ、セイくんが、トルトがいなくなって、何となくだけどぉ、みんなから長として認められてなかったんだよぉ。クオカの長にはなれないって言ってぇ、みんなを驚かせてたからねぇ。それにぃ、セイくんがいなくなったのもぉ、ぼくがクオカの長を任せようとしたからぁ、なんて思ってるかもしれないしぃ。……だから、セイくんの花が土に還れたんだぁ。そう思ってもらえるようにぃ、畑から花ごと採ったんだよぉ」
部屋の中で、ウツテの話が続く。もちろん、セイはその言葉をしっかり聞きながら、ウツテの動きも注意して見ていた。
「それで、欠実はどうしたとね? 花はどこにやったとね?」
自分の花がどこに行ったのか、欠実はどうなったのか知りたくて、顔の見えないウツテに聞いていた。セイの声が聞こえたからか、反られていた身体と顔がもとに戻った。
「採った花をどうしようかと思ってねぇ。みんなにぃ、見つからない所はどこかなぁって。それでぇ、岩の向こうの木の奥はって思ったんだぁ。その時はまだ、ぼくしか枝を採ってなかったからねぇ。そのまま持って行ったよ。73本目の枝を採り行くときに、セイくんの欠実が実った花を持って岩の向こうにねぇ。でもね、もう我慢ができなかったんだぁ。セイくんの欠実を早く早く口に入れたくてぇ。気づいたら、もう手には欠実があってぇ、岩の階段を下りるときには口の中に入ってたんだぁ。初めて、ぼくのじゃない欠実を口に入れたよぉ。こんなことしたことある人はクオカの中にいないんじゃないいかなぁ。」
「欠実は、ウツテが口にいれたとやね。なら花はどこにやったとね?」
欠実はウツテが口に入れたことはわかった。セイは残った花がどうなったのかもう1度聞き直した。
急にウツテの様子が変わった。手が肘から曲げられて、身体が震えていた。その小刻みに震える手を見ながら何かを我慢しているように見えた。
欠実はウツテが口に入れたことはわかった。セイは残った花がどうなったのかもう1度聞き直した。返事がなく、2人の話は止まっていた。すると急にウツテはセイに向かって歩いてきた。両手はまだ、震えていた。ふらふらと揺れながら、ゆっくりと歩いている。セイは、後ろに下がりながら「ウツテ?」と声をかけるが全く返事がない。
背中が、扉に触れた。これ以上後ろに行けないが身体は後ろに下がろうとしている。何も言葉を出さず、近づいてきているウツテ。また、2人は手を伸ばせば触れることができる所まで近づいてしまった。セイは両手を前に出して、ウツテが近づいてくることを止めようとした。しかし、ウツテの右手がセイの左胸に向かって静かに伸びている。震えていた右手が、なにかを握りしめると、ウツテの震えが止まった。「グチャ」「ばたっ」
セイはそのまま横になっていた。どこまでも続いていそうな空が続いていた。
次もよろしくおねがいします。




