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12ピース

ありがとうございます。

セイとあまみは、2人でたくさんのことを話した。セイは、わからないことを聞けることに夢中になっていた。自分が周りと違うと思っていたことを、あまみが「それでいいのよ」と言ってくれることが、嬉しくて今まで感じていたことを思い出しながら、答えを求めた。あまみは、質問される度に、セイが自分を必要としてくれると喜び、その答えを必死に説明し続けた。セイはあまみを信頼し、あまみはセイを溺愛していった。


「セイくん、そろそろ軸層と片を結ぶ旅に行ってみない? セイくんがここからいなくなるのは寂しいけで、あたしも早くバラバラになった破図を元に戻したいの。どうかしら」

 セイにわからない言葉があったので聞いてみたが「それはまた今度教えるわ」と言われセイの頭にあまみの綺麗な右手が乗せられた。

「そうそう、セイくんがあたしのお手伝いで片を行ったり来たりすることは言ってもいいけど誰もわからないだろうから、気をつけてね。そうね、違う片から、森を抜けてきたと言ったら大丈夫だと思うわ。駄目なときは誤魔化してしまうのよ。それじゃあ、片への初めて旅。いってらっしゃい」

 あまみの右手が少し暖かくなってきた。少し不安になり目を向けたが、にっこり笑われて「早く戻ってきてね」と言われているかと思ったら、もの凄いスピードで進む身体に驚き、目を閉じてしまっていた。


「上手くいったわね。セイくん大丈夫かしら。心配だわ……あたしも忙しいんだけど、初めてのお手伝いだし、ちょっと様子を見ててようかしらね」

 どこからか透明の大きな玉が出てきた。あまみが、小さな声で何か呟くと、そこに木々の中で横になっているセイの姿が映し出された。

「ここでたくさんの事を学んだセイくんなら大丈夫だと思うけど」

 それでも心配なあまみは、また、どこからかテーブルと大きめの椅子を出した。続けてテーブルの上に出した暖かいお茶を飲みながらセイの様子を見ることにした。



「……んっ」

 気がついたセイは暖かい草の上に横になっていた。久しぶりの地面に触れ、ここがあまみと一緒にいた軸層の中ではないことを認識した。うつ伏せになっていた身体に力を入れて起き上がり、周りを見渡した。そこはたくさんの木々が生えている森の中だった。大きな木の幹の上には綺麗な枝と葉が見えた。

「あまみちゃんは、片に飛ばすって言っとったけど、ここは森の中やな」

 仕方なく、歩き始めたセイは、クオカで、枝を集めていたときの事を思い出し懐かしく感じた。美しい森の中を自由に歩き続けることが、こんなに楽しいとは思わなかった。しばらく歩いて行くと、そこから先に、木がなくなってしまっていることがわかった。セイは少し速度を落としと、その場所に近づいて行く。そして木の向こうが何もない場所までたどり着いた。軸層のように色があるわけでもなく、向こうには、本当に何も無い。その何も無い方に手を伸ばしてみた。ゆっくりと少し、恐がりながら……「ピタ」と手が何かに触れて止まった。そこには何も見えないのに、それ以上手が前にいかなくなっていた。

「ここが、前は片と片が結ばっていた場所やね」

 その見えない壁のような所を、上も下も触ってみてこれ以上進めない事を確認したら、その見えない壁に背中をくっつけて、森の方を見た。

「ここを真っ直ぐ進んだら、新しい片がある。あまみちゃんが教えてくれたことは間違ってなか」

強く自分に言い聞かせ、再び森に向かって歩き出した。すると「チュンチュン」と懐かしい鳥の鳴き声が聞こえてきた。

「クオカの鳥と同じ鳴き声やね。ここにも、鳥が居るとやね」

 そう言いながら、しばらく歩いて行った。小さな鳥の鳴き声はどこからでも聞こえていた。きれいな木々の間を通りながらセイは「何かおかしい」と考えるようになっていた。しかし、そのわからないことがわからないまま歩いていくのも楽しかった。わからないことがわかったときの気持ちいい感覚を、あまみが教えてくれたからだ。そして、いつの間にかセイは走り出していた。わかったときの気持ち良さと、この森が自分の大切な物だと気づいたのだ。両手は、大きな幹に生える枝をちょこちょこ触っていた。セイは止まることなく、凄いスピードで走っていた。

「ここは、はぁはぁっ……。ここは、クオカやね!」

 大きな岩の前に立っていた。森と岩の間には、たくさんの草が生えている。草の間に森と岩を繋いでいる綺麗な土の道がある。何度もセイが通った道だった。そして振り返ると、トルトと2人で座って話しをした、あの木の前に立っていた。

「僕が何度も採った枝の道やった。僕の使命やった。間違えるはずがなか」

 そして、ドキドキしながら、土の道を歩きの階段を上っていった。岩の頂上まで行くとクオカの日の火の炎が見えた。

「みんな、居るんやろうな。まずは、ウツテの所に行かんと」

 自分が戻ってきたことで、クオカの人が驚くのはわかっていたが、あまみのお手伝いという新しい使命を持っていることもあってか、覚悟を決めて岩を下りていった。

 そこには、変わらないクオカの片があった。岩を下りてすぐの所にセイの家があった。「もしかしたら、新しい命が実って、住んでいるかも」と思うと扉を開けることはできなかった。そのまま進んで行くと、3軒の家が変わらず建っていた。そして、その真ん中にある畑の所に向かって足を進めた。セイは恐かった。自分の欠実の花が無くなっていて、このクオカ片から存在が消えてしまっていることを自分の目で見てしまうのが。しかし、セイは、あまみからたくさんの感情を認めてもらっていたことで、自分の気持ちを落ち着かせることができるようになっていた。そして、新しい使命のために自分がたくさんの感情を経験していくことが必要なこともわかっていた。セイは、この畑の欠実の花を見なくてはいけない。そう感じたのだ。ゆっくりと畑に近づく。綺麗な花が咲いていた。その中に欠実が無かったことには、すぐに気づいた。そして、周りの花が見えなくなるほど緊張しながら、セイの欠実の花があった場所に向かって歩いて行く。すぐにわかった。そこには何も植えてないと。

「そうよね。僕の新しい命はなかよね」

 期待していたわけではなかった。何となくわかっていたからだ。セイは土に還ってない。だから、新しい種は実らない。わかっていたが、悲しかった。しかし、今のセイにはあまみからお願いされた、使命がある。その使命が、セイを強くしていたことは確かだった。

「ウツテのところに、行ってみようかね」

 気持ちを落ち着かせるために、そう言葉にして、日の火の方に向かい歩き始めた。セイは、落ち着いたと自分に言い聞かせていたが、クオカ片にもう1度来られたことと、自分の欠実の花のことで頭がいっぱいだったのか、気づけなかった。このクオカの片について、森で聞いた鳥の鳴き声以外の声が聞こえてこないことを。

 そんなことは全く気にしていないセイは日の火を通り過ぎて「ウツテはしっかり片の長やってるんやね」と嬉しく思いながら、トルトが居た、ウツテの住む家に向かった。階段を上っている途中で振り返り、日の火と畑、そして、4軒の家を眺め「やっぱりクオカは落ち着く」と思って眺めていた。

「そういえば、みんな居らんね。眠っているなら、ウツテか誰かが畑にいたやろうしな……」

セイは岩の向こうから歩いてきて、クオカのみんなが何処にも居ないことに気づいた。セイが生活しているときは、みんなを起こすまでに、枝を採ってきたり、欠実を採っていたりと誰も居ないクオカを歩いていたことが多くあったからか、気にならなかったのだ。この時セイは自分が生活していた時の誰も居ないことと重ね合わせて考える事はできなかった。それでも、誰の声もしないことを不思議に思いながらウツテの所に向かった。

 ウツテの家の前に着いたが、ここでも声が聞こえることは無かった。

「ウツテたちにはウツテたちの生活があるからな……」

そう思うと、扉を叩いて、大声を出すことができなかった。トルトとセイが居なくなって、自分たちで日の火や枝、欠実を守っていくとなると、大変なことがセイにはよくわかる。さらに、トルトが土に還って新しい命が実っているならもっと大変な生活を送っているのだろう。そんなウツテの生活に迷惑をかけることはできない。仕方なく扉から離れるためその場で、振り向いたらすぐに足が前に進んだ。

 セイはここから、クオカを眺めることが好きだった。何度見ても綺麗なクオカだった。そして今は「あの木のむこう」には進めないけど、あまみと一緒に自分が片と片を結ぶことができたら「あの森のむこう」に行けるようになる。その使命を手伝うと決めたのだ。「ウツテには悪いけど眠っているなら起きてもらおう」そう思い、扉に向かって声を出した。

「ウツテ! 起きてるね? セイやけど!」

 セイはクオカで生活していたときには出したことのない大きな声で扉を叩きながらウツテに呼びかけた。何度か繰り返したが、全く反応が無かった。セイは恐くなって扉から離れてしまった。欠実を採ってみんなを起こしに家に行っていたときは、扉を数回叩いたら必ず起きてくれていた。名前を呼んで、扉を叩かないと行けない時なんて、1度もなかった。セイは「ウツテ、何がどうなってるんだ」と思いながら扉を引いた。

 欠実を持って来ていた時に何度も開けた扉の場所から、部屋の中を見渡す。変わらない部屋の中には、誰もいなかった。

「……ウツテ?」

 声が出なくなっていた。しかし足は前に進んでいた。部屋の奥に居るかもしれない。まだ寝床かもしれない。何度も「ウツテ」「アレ」「イト」と声に出して部屋の中を探した。でも、居なかった。

 ウツテの家を出た。そして、畑に向かって走り出した。その近くにある家の扉に手を掛ける。

「トク!」「ミロ!」「タロ!」

 遠慮なんてできなかった。必死に走り家の扉を開け、中で生活していた人の名前を大きな声で叫ぶ。それを繰り返した。返事が無かった。家の中は変わっていなかった。でも誰も居ない。畑には欠実が採られている花が咲いている。日の火も美しく炎えている。ここは、クオカ片だ。でも、もしかして、クオカ片じゃないのか。頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。「どーなっとるとよ」頭を抱え座り込んだ。そこには綺麗な「ハナ」の花があった。

 立ちあがった。「ここは僕が生きたクオカだ。花が咲いてるなら、みんな生きてるんだ」そう言い聞かせ、まだ行っていない場所を見に行く事にした。セイは、走った。すぐに家についた。しかし、自分が生活したこの家の扉を開けることを、こんなに恐く感じるとは思っていなかった。手を扉にかけて、ゆっくりと引いていく。部屋の中を見ようとするが、恐くて目を瞑ってしまっていた。しかし、中を確認するしかない。声は聞こえなかったが、セイは目を開けてみた。


 もう、セイの家では無いかもしれないが、セイが使っていた机や棚がしっかり残っていた。あの深いイスはなかった。マス箱と一緒に軸層に送られていたのだろう。フラフラと部屋の中に入っていき、使い慣れた懐かしい道具に手を触れながら、枝を入れていたカゴが無いことに気づいた。しかし、そんなことを深く考える力なんて無く、その場に倒れ込んでしまった。

 クオカに、人が居なくなっている。何度も目を開けたときに見ていた天井が、とても遠く感じた。


 頭の中が整理できていない。落ち着こうとセイは今ここで転がっている理由を考えた。まず、セイはあまみに送り出されてここに来た。そして、森を抜けると、このクオカ片に着いた。そして、みんなの家に向かったが誰も居ない。だから、ショックで転がっている。

「なんか、どうすることもできんよね」

 あまみからは、長を見つけて、その長に涙を流してもらって、そこと軸層を結んだら、セイはその片の欠実を持って、軸層に帰る。

「片の長どころか、誰も居らんやんね」

 どうして良いか、わからなかった。自分が何もできないことと、このクオカで生きていた人が何処にも居ないことが、悲しくて起き上がろうと思えなかった。その目からはまた、涙が流れていた。

「これは、悲しくて、どうしようもできない自分が悔しくて流れる涙」

 新しい感情を自分で自分に説明していた。


 首に掛けられている、ナゲルの欠実を握り、天井に向かって手を伸ばした。その美しい欠実はセイの顔から流れる涙までしっかり映していた。

「ナゲル。クオカを支えるとか、僕にはできんやったよ」

 ナゲルの欠実は、セイの顔を映し続けていた。その顔は少しずつ、落ち着きを取り戻してきたのか、身体を起こし、開いている扉から外を見た。そのまま、ゆっくり立ち上がり日の火の炎の場所まで歩いた。

 セイは炎える日の火の近くに座った。この炎がいつも側にあったことを思い出していた。ナゲルとサンが土に還る眠りにつく日の時も、トルトと僕が土に還る眠りにつく日、最後の最後でウツテと、話ができたこと。「ウツテ。すまんやったね」そう言いながら、炎を見ていた。もう、セイは立ちあがる力も無くなっていた。


「あーセイくん。可愛いあたしのセイくんが……見てられないわ。こんなになるのなら、この軸層から送り出さないと良かったわ。しょうがないわね。あまり力を使いすぎるのは良くないんだけど。あたしのセイくんを助けるためだもの」

そう言って、イスから立ちあがり両手を合わせて「#$%&%$#$%&」何かブツブツ唱え始めた。


次もよろしくおねがいします。

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